富田俊基の発言 (行政監視委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(富田俊基君) 御指名をいただきました野村総合研究所の富田俊基と申します。
財政投融資対象機関の点検と題しまして意見を申し述べさせていただきます。お手元の資料も御参照ください。
アダム・スミスが「神の見えざる手」と名づけ、またハイエクが「遠隔通信システム」と呼んだように、市場、マーケットは、それが存在する限り、効率的な資源配分をもたらします。中でも、金融資本市場は時間を超えて現在と将来との間で効率的な資源配分を決定する中核的な市場であります。
しかし、金融資本市場においても市場が不完全であったり、市場が存在しない場合があります。例えば、貸し出しに際して審査の費用が巨額にかかり、借り手が効率的な市場へのアクセスを制約されることがあるからです。また、企業が事業を行おうとしても、完成するまでに長い期間を要し、民間企業には負い切れないリスクが発生する場合や、インフラ事業のように利益が社会に広く拡散し、企業がコストを回収できない場合もあります。
このように、民間では供給できない、あるいは供給できたとしてもそれが過小となる分野が存在します。こうした市場の失敗を是正して社会的目標を実現するために、政府が高い信用力を利用して低い金利で長期資金を調達し、財投機関を通じて政策的に資源配分を行う、これが財投です。つまり、財投とは長期金融の手法を用いて社会的目標を実現するための政策的手段であります。このため、財投に類似した仕組みは、我が国だけではなく、欧米にも存在するのです。
一ページの表にごらんいただきますように、欧米主要国の財投の主な対象分野は住宅、中小企業、社会資本整備などであります。フランスは住宅に、またイギリスでは起債統制が行われているので地方自治体向けの融資に特化しております。アメリカとドイツでは、我が国と同様に、財投の対象は広範囲にわたっております。
このように財投が存在する理由は市場の失敗にあります。しかし、それを是正しようとする政治も失敗する可能性があります。社会目標の実現を重視する余り、政府による介入が過大となり、経済効率が犠牲になるという政府の失敗、政治の失敗が生じ得るのであります。
こうした政治の失敗の背景には三つの要因があると考えられます。
第一は、市場にわからないことについて政治が確実にわかるという保証がないことであります。神の見えざる手が導くことができないことについて、政府が完全な情報を持っているという保証はありません。
第二は、政策を実施する財投機関に親方日の丸と言われる非効率が発生する懸念であります。民間企業がROEなどの指標によって管理されるべきであるのに対しまして、財投機関は政治が目標を与えます。この目標は民間企業に比べ多様で複雑であります。このため、特殊法人は廃止につながるような極端な非効率も、また民営化につながるような徹底的な効率の追求も避けようとします。このため、そこそこの効率性を維持することになってしまいかねません。
第三は、政治のありようにかかわる問題であります。財投機関が利用できるとほぼ十年国債の金利で長期間にわたって融資を受けることができます。国債の金利がベースであるので民間金利に比べて長期低利であります。個人や企業は政治家を利用して財投資金の配分をふやそうとします。また、政治家も財投機関を利用して特定のグループに利益を誘導することで得票をふやそうとするでありましょう。このため、財投による長期低利資金の供給が過大に傾き、民業を圧迫するという問題も指摘されております。
以上、三つの理由から政府の介入も過剰となり、市場経済を攪乱する可能性があります。そこで二〇〇一年度に財政投融資改革が行われるものと理解しております。
我が国の財投は、入り口の郵貯、公的年金と出口の政府系金融機関、公団、事業団などの財投機関とを中間の資金運用部がつなぐ仕組みをとってきました。この仕組みのもとでは入り口に資金が集まると出口の財投機関が肥大化し、非効率な財投機関も生き残ってしまうという政治の失敗が生じるのではないかと指摘されてきました。
そこで、今回の改革で入り口と出口を分断し、古い財投を解体することが決まりました。
二ページをごらんください。
二〇〇一年四月から郵貯と公的年金は中間の資金運用部への預託を廃止し、それぞれの省が市場で資金を運用することになります。民間金融機関であればこうした自主運用は当然のことでありますが、引き続き官のまま、しかも縦割りで市場運用することになります。しかし、市場運用にはリスクがつきものです。もし運用に失敗すればだれが責任をとるのか。損失は国民の負担となってはね返ってこざるを得ないのです。
郵貯、年金の自主運用が始まると財投機関は文字どおりの兵糧攻めに遭うことになります。今回の改革では、個々の財投機関は民間企業のようにみずからの力で財投機関債を発行して市場から資金を調達することが求められています。市場の評価にさらすことによって財投機関に運営効率化へのインセンティブが働くことが期待されているようです。
しかし、市場は財投機関の効率性を評価できるでしょうか。国営だから債務超過であっても倒産することはない、財務内容が悪いほど民営化されることはないと考える投資家もいるかもしれません。他方、これだけ国債が累増しているのだから財投機関への補助金が削減されたり民営化されたり、あるいは廃止されるかもしれないと予想する投資家もいるでしょう。
このように、財投機関はステータスがあいまいでありますので、財務内容がいかにディスクローズされたところで民間企業の社債のように財務内容に応じて投資家の信用評価が一定の期待値に落ちつくことはありません。市場は、財投機関の行う政策だけではなく、効率性も評価できない、つまり市場は財投機関を点検できないのです。
こうしたあいまいな財投機関債が市場の評価を得るためには二つの方法があります。
第一は、財投機関の発行する債券に政府保証をつけることです。しかし、政府保証をつけると幾ら非効率な機関であっても国民の負担で存在が保証されることになり、改革は進みません。政府保証債の発行は徹底して抑制するべきであります。
市場の混乱を避けるための第二の方法は、財投機関というあいまいなステータスから隔離された債券、つまり財投事業に裏打ちされた資産担保証券、ABSを発行することです。これをつくり出して高い格付を取得するためには、個々の財投事業について契約の明確化、事業の標準化、キャッシュフローの確実性などが不可欠となります。したがって、ABS、資産担保証券を発行する過程で財投機関の運営効率化が促進されることになります。
しかし、資産担保証券によっては十分な資金調達が困難であったり、政策遂行が困難なほど高い金利を市場から求められる場合には、その事業が政治の決定で必要とされる限り、資金を安定的に供給するという責務が政府に生じます。このため、各財投機関が必要とする資金を国の信用で一括して調達する財投債が発行されねばなりません。
市場から見ると財投債は国債と同じです。ただし、国債の担保が将来の税収であるのに対して、財投債は財投機関の貸付金の回収や料金収入を担保としております。そこで、財投機関を点検し、財投債の償還確実性を精査し、償還確実性を高める手法が必要です。それが政策コスト分析であります。
財投は金融的手法を用いる政策手段です。予算とは異なって長期の融資です。返済には長期間を要します。このため、財投計画の策定に当たっては、確実に返済されるかどうか、返済までにどれほどの国民負担が発生するのかを推計し、判断の材料にする必要があります。これが政策コスト分析と呼ばれるものです。
資料の三ページにごらんのように、政策コスト分析は財投機関が融資や事業を行うことによって将来にわたって発生する補助金などのすべての国民負担を現時点で推計し明らかにする仕組みであります。
具体的には、個別財投機関の各プロジェクトごとに将来の受取利子や料金収入などのキャッシュインフローと借入金利子の支払いなどのキャッシュアウトフローを推計し、毎年の差額を国債利子で割り引いて現在価値を求めるのであります。融資機関の場合には、将来のデフォルトや返済遅延、そして繰り上げ償還などが推計されねばなりません。また、事業実施機関の場合は、将来の施設利用を見通し、そして料金収入が推計されます。
政策コスト分析の導入によって、当座は税負担が発生しないので財投を拡大してもよいという財政錯覚を取り除き、政治の失敗を抑制し、財投機関の効率化、スリム化に役立ちます。
四ページにごらんいただきますように、昨年、五つの財投機関の政策コストが発表されました。この分析結果が財投計画に反映されねばなりません。さらに、この分析をすべての財投機関、さらには政府が保証を行っているすべての政府事業に導入する必要があります。また、経済環境の変化とともに政策コストも変動いたしますので政策コスト分析を毎年繰り返し行うことが必要です。
資料の五ページにありますように、アメリカでは一九九〇年に連邦信用計画の改革、日本でいいます財投の改革を行い、九二年から政策コスト分析を導入しております。一九九九年末二千三百四十億ドルの直接融資の政策コストは五百億ドル、融資保証残高九千七百六十億ドルの政策コストは二百九十億ドルと推計されております。この政策コスト分析を毎年積み重ねていく過程で、アメリカでは奨学金の直接融資制度に比べて国民負担が大きい融資保証を縮小し、学生金融公庫、サリーメイと呼ばれておりますけれども、その民営化を九六年に決定いたしました。
我が国も政策コスト分析を武器に財投機関を不断に精査し、非効率な財投機関や民業を圧迫する財投機関があればそれを政治の決定で切り離していくことが必要であります。単に財投機関債を発行して、これだけで財投改革をやろうというのは政治のなすべきことを市場にゆだねようという倒錯した発想と言わねばなりません。私は、政策コスト分析が財投機関の点検、そして財投改革の中心になるべきものと考えております。そして、政策コスト分析を軸として政策評価法の活用、外部監査の導入、情報公開の促進など財投機関に多面的な規律づけが必要と考えます。
御清聴ありがとうございました。