大沢真理の発言 (国民福祉委員会)
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○参考人(大沢真理君) 本日は、このような場で意見を申し述べる機会をちょうだいいたしまして、大変ありがたく存じております。
本日の参考人には、児童手当問題についての専門家中の専門家でいらっしゃる大塩さんもいらっしゃいますことですから、私は本改正案の趣旨でございます少子化対策を総合的に図るというのはどういうことかということを、国際比較の観点から意見を申し上げたいと存じております。
そこで、お手元にレジュメと若干の図表がございますが、まず日本の勤労者の家計の特徴を国際比較から浮き彫りにしてみたいと存じます。
この特徴は、簡単に申しますと、家計収入の総収入に対する世帯主勤め先収入の比率が高いこと、その反面で世帯主の配偶者の収入の比率が低いというところにまず特徴がございます。つまり、簡単に言えば、夫の勤務先収入の比率が高く、妻の収入が家計に占める割合が低いわけでございます。
そしてその次に、社会保障給付の比率が家計収入に占める比率が低くなってございます。これは、図1に日本と韓国及びドイツのブルーカラー、ドイツのホワイトカラーという比較がございますけれども、日本の勤労者家計に占める社会保障給付の割合は六十代、特に後半になりますとふえるんですけれども、いわゆる現役世代にとっては社会保障の給付というのがほとんど家計に貢献をしていないという構造になってございます。他方で、韓国や台湾のような東アジアの国に比べますと、日本の勤労者家計の特徴は贈与や仕送りの比率が低いところにございます。要するに、世帯主の会社に対する家計の依存度が大変高くなっておりまして、このことを私は時として家父長制的な企業中心社会のあり方だというふうに言っているわけでございます。
ところで、ドイツの現役世代にとって実収入に占める社会保障給付の比率が高い原因を探りますと、これは一つには児童手当、これが最大要因でございます。二番目の要因は雇用促進給付、一種の失業給付でございますけれども、これがあるおかげで現役にとっても、そしてブルーカラーの人にとってはなおさら実収入に占める社会保障給付の比率が高い。したがいまして、現役のときから社会保障制度のありがたみを実感できるという社会保障システムになっているわけでございます。
続いて、児童支援パッケージと言われるものの国際比較を申し上げたいと思います。
児童支援パッケージ、チャイルド・ベネフィット・パッケージとは、今、京極先生のお話にもございましたけれども、いわゆる子育て支援あるいは子供が育つことを支援する政策としては、以下の少なくとも数点のものをあわせて考えなければいけない。すなわち、現金給付である児童手当、それから扶養家族に関して税を軽減する所得税制、住宅費を軽減させる給付、それから保健医療費を軽減させる給付やサービス、そして最後に保育・教育費を軽減させる給付やサービスでございます。
子供のいない家族の総所得に対して子供がいる家族が受け取っている児童支援パッケージが占める比率を見ますと、図2に示されますように、これはケース一が男性平均賃金の半分程度の所得しかない低所得者、ケース二はちょうど平均、それからケース三は平均所得の一・五倍を得ている比較的高所得者のケースでございますが、この三つの所得階層についてCBPの実質価値というのを見ますと、日本は、実は日本の数値の中には企業が支給する家族手当の扶養児童分が含まれておりますけれども、これを含めてもギリシャ、ポルトガル、スペインなどと並んで大変低くなっているわけでございます。
一般に、この棒グラフの数値の高い国、CBPが高い国というのは所得制限のない児童手当を持っております。それから、税制がCBPに占める比重は比較的高所得者で大きくなっていること、これはただいまの京極参考人のお話の中にもあったとおりでございます。
それから、日本の特徴は住宅費が格段に重く、図2というのは住宅費控除前の状態でございますから、日本の児童支援パッケージは辛うじてプラスの値になっておりますけれども、住宅費を控除いたしますとパッケージはマイナスになってしまいます。これは、日本の社会保障制度の中に住宅費を軽減する給付がないことによっております。それから、日本の低所得者にとっては住宅費の重さ、比較的高所得者にとっては住宅費と教育費が重いために、いずれも住宅費控除後のCBPはマイナスになってしまう。つまり、そのような意味では国は少しも子育てを支援していないということになります。
続きまして図3でございます。
手厚い児童支援パッケージがあったからといって子供を産むのかどうかということについてしばしば疑問が呈されておりますけれども、これを瞬間風速としての出生率ではなく八二年から九二年といった間の出生率の変化を見ますと、明らかに児童支援パッケージの低い国で出生率が低下した。出生率の変化の割合がマイナスになっているのは、八二年に比べて九二年の出生率が低くなった国をあらわしております。このようなことが一般的に言えるわけでございます。
しかし、児童支援パッケージ、子育てといいますか少子化対策を総合的に図るというときには児童支援パッケージを見るだけではまだ足りないというのが私の理解でございまして、図は一つしかお示ししてございませんけれども、これはよく知られた事実として、二十五歳から三十四歳の女性の労働力率が高い国では出生率も高いという相関がございます。
御承知のように、日本の年齢階層別女性の労働力率は二十五歳から三十四歳でがたっと落ち込み、ローマ字のMの字を描くいわゆるM字型になっているわけでございます。先進国と言われる国の中では、女性の労働力率といえどもM字型になっている国はほかにはございません。日本ではこの年齢階層の女性の労働力率が低いわけですが、そのような日本で出生率も低いということはほかの国にも相関関係として見出されることでございます。
それから、女性の社会的地位、これはジェンダー開発指数というようなインデックスが国連開発計画によってつくられておりますけれども、平均寿命ですとか就学率それから一人当たり国民所得といった数値を男女の格差でもって減点したものがジェンダー開発指数でございます。これが高い国では出生率も高い。日本は、男女込みの人間開発指数では世界で四位、五位といった高いランクにございますけれども、ジェンダー開発指数というように男女格差を割り引いてしまいますと低くなるわけでございますが、ここにもこのような相関がございます。
それから、図4は、これは日本経済研究センターの所長でいらっしゃる香西泰さんの最近の御研究の結果なんですけれども、ある程度開発が進んだ国では男女賃金格差が小さいほど出生率が高いという状態を示しております。エジプト、トルコ、スリランカ、中国等々といった国では男女賃金格差は大きいけれども出生率も高い。しかし、図の右下の方に示されております国、これはある程度開発が進んだ国というふうにここでは表現いたしましたけれども、ここでは明らかに右上がりの相関が見られるわけでございます。あわせまして、男女賃金格差が小さい国では夫の家事協力度も高いということが知られているわけでございます。
以上の事実から政策的なインプリケーションを引き出すとすればどういうことであろうか。つまり、ここでは少子化対策を総合的に、これは児童手当法改正案の趣旨でもございますけれども、総合的に図るということの重要性を余すところなく示していると考えます。総合的に少子化対策を図る上で、児童支援パッケージというのはその指標となるものと考えます。児童支援パッケージの実質価値を高めたければ所得制限のない児童手当を採用していくことが重要であるというのも、以上の国際比較の事実は示しております。
それから同時に、税制を通じる児童支援パッケージは低所得者にとっては有効性が小さいということも示しております。所得階層で区切ってどの所得階層の子育てを支援すべきかということに関しては、これはもう価値判断の問題ではございますけれども、他方で、今の日本で大変景気の回復がおくれている中では、このような現金給付はより消費性向の高い低所得者に対してターゲットが合わされることが必要ではなかろうかと考える次第です。
そして最後に、男女賃金格差の縮小といったものをきちんと政策目標に掲げて推進される男女共同参画政策こそが最善の少子化対策になるということを申し上げまして、私の意見を終わらせていただきたいと存じます。
どうもありがとうございました。