奥川貴弥の発言 (労働・社会政策委員会)

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○参考人(奥川貴弥君) 本日は、こういう機会を設けていただきまして、まことにありがとうございました。
 労働契約承継法について二、三意見を述べさせていただきます。
 今回のこの法律は、労働者を保護するというふうに第一条に書いてあるにもかかわらず、実質的に労働者を保護する規定が何ら規定されていないということに問題があると思います。
 そのことがどういう点で問題になるかといいますと、私は大きく分けて二つの問題が発生すると考えています。一つは、企業の再編の前後に予想されるリストラ解雇、整理解雇の問題、それから主として企業の再編後に行われる労働条件の切り下げを伴う不利益変更の問題、この二つの問題が恐らくこれから発生してくるであろうというふうに考えています。
 まず、リストラの問題について意見を述べたいと思います。
 今回の労働契約承継法は、いわば企業の部分的包括承継とそれから民法六百二十五条の労働者の同意の問題を実にテクニック的に解決したものであります。しかしながら、その法律が実際に企業の再編の中で使われるときに必ず行われるであろう整理解雇については何ら触れられておりません。
 皆さんのお手元にあると思われます参議院労働・社会政策委員会調査室が作成された参考資料の四十九ページに、会社分割を用いた金融機関の再編成の例が挙げられております。
 銀行が仮に三つが再編成される場合に、各銀行の中で、将来どのくらいの人員が必要でどのくらいが不要になるかということは当然話し合われるものだと思います。各銀行で、例えばA銀行は千人、B銀行は二千人、C銀行は三千人不要というふうにそれぞれ計画を立てて、再編の前にそれをリストラ解雇していく、もしくは整理していくということは当然行われるであろうし、話し合いの内容になってくると思われます。
 一般的に今までの合併だとか営業譲渡の例を見ても、多くの場合に整理解雇、リストラ解雇を伴っている例が普通であります。したがって、今度の企業の分割においても当然それは予測されることだと言わねばなりません。
 また、このような一般的な場合だけでなく、さらに、採算部門と不採算部門を分けて、不採算部門だけに好ましくない労働者もしくは整理予定の労働者を集約して、それで解雇をする、そういうようなことも絶対ないとは言い切れない。特に建設業界、ゼネコン等では、採算部門と不採算部門を二つに分けて、不採算部門を将来的には清算していくというような方法の一つの法律的な解決策としてこの法律が利用される可能性は十分あるものというふうに考えています。
 もちろん私はあらゆる整理解雇、リストラ解雇がいけないと言っているわけではありません。もちろん必要な場合もあると思います。しかし、安易に企業の再編成に伴うリストラを認めることは、多くの社会的不安、社会的コストを必ず招くものです。つまり、リストラ解雇によって家庭や社会の安定が非常に損なわれる、家庭の崩壊も起こり得る、またそういうことによって多くの労働者がうつ病になったり自殺をするというようなことすら発生しております。
 もちろん、国も失業が好ましいというふうには決して考えていないはずです。したがって、新たな雇用を創出するというようなことを再三明言しておりますし、今度の与党の共通公約の中にも五十万人の雇用を創出するというようなことが言われております。
 しかし、企業の再編成を進めていく中で、リストラ解雇を放置する以上、有効な失業者の減少を図ることはできないというふうに考えています。新たな雇用を創出するよりも、現在の会社の中ででき得る限り雇用の安定を図って労働者を雇用させる、雇用を維持していくということの方がはるかにコストも方法としても簡便であることは明らかだと思います。
 そういう観点から、民主党が企業の分割に伴っての労働者の解雇を禁止したことは一つの見識であろうかというふうに考えております。
 衆議院の法務委員会で政府は、この分割法案によって特に解雇が行われることはないだろうと、つまり判例によっていわゆる整理解雇の法理、四つの要件を必要とする整理解雇の法理が確立しているので心配はないというような答弁をされております。
 しかしながら、整理解雇の四要件、人員整理の必要性、解雇回避努力義務、整理解雇基準の合理性、解雇手続の妥当性、この四つの要件を満たさなければ整理解雇は適法ではない、違法であるという判例の法理について、最近、東京地方裁判所を初めとする幾つかの裁判例の中でこの考え方が揺らいでおります。
 つまり、最高裁判所の解雇権乱用の法理をもとにしたこの整理解雇の四要件に関する判例法理が一部否定されつつある。具体的に言いますと、従来、整理解雇の四つの要件については解雇権乱用の法理が基準になっておりますが、もともとの発端になっておりますが、前提になっておりますが、企業側に解雇をする理由の主張と立証を実務裁判上は課しておりました。適切な釈明をする等によって課しておりました。しかしながら、最近の裁判例の中には、会社側は理由を述べることなく解雇の意思表示ができると。労働者の方において解雇の理由を主張して、かつ証明しなければならないというような判例があらわれてきております。また、整理解雇の四要件についても、一部その要件を不要とする判例も出ております。つまり、政府答弁で言う整理解雇の四つの基準というものは今後必ず維持されるものとは限らないわけであります。
 こういう点から見ても、企業の再編成が多くのリストラを伴う以上、この際、労働者の雇用の安定を図るためにぜひとも整理解雇の基準を、民主党案のように禁止するのが一番好ましいかもわかりませんが、少なくとも最高裁判所の判例、それから今までの高裁判例などを集約した解雇法理に関する立法化、つまり労働者保護に関する裁判の後退化を防ぐための立法化をぜひとも私は必要とするというふうに考えております。
 それからもう一点は、主として企業の再編成後に行われるであろう労働条件の切り下げの問題についてであります。
 今までの裁判例を見ておりますと、多くの会社で、企業が合併、営業譲渡などによって幾つかの会社が一つになったような場合に、個々の会社の労働条件の食い違いを斉一化するために、労働条件の統一化を図るために労働条件の切り下げが行われております。これは裁判例を見ても明らかです。
 この労働条件の切り下げ、つまり、主として就業規則の変更によって、賃金だとか退職金だとか定年、それらの労働条件を悪い会社の水準に引き下げるということがしばしば見受けられます。今回の企業の分割によってもそういうことが恐らく発生するであろう。いい基準の方に、例えば三つの銀行のうちの一番いい銀行の労働条件にほかの銀行の労働条件を切り上げるというふうなことはまず行われないであろう。恐らく切り下げの方向でやられるであろう。この点については、最高裁判所が大曲市農協事件などでかなり厳格な法律要件を示しております。
 したがって、この点についてもぜひとも判例が後退化することのないように、この際、ぜひとも労働者保護法の中にこれらのことを組み入れて立法化していただきたいというふうに考えています。
 最後に、主として僕が言いたい、まとめ的なことを言いたいんですが、日本の労働者は今まで働き過ぎと言われるぐらいに働いてきました。労働時間も名目上は短縮化されているかもわかりませんが、実質はサービス残業等によって労働時間も決して短くはなっていません。また、働き過ぎによる自殺だとかうつ病などもいろいろ報告されております。
 企業の再編成、これがグローバルな企業の競争力をつけるために必要であるとしても、そのために今まで企業のために一生懸命働いた労働者を切り捨てたり、労働条件を切り下げることが当然のごとく許されるということには決してならないということだと思います。そのことが、もしそれを安易に行えば、それは、結局はいろんな意味で高い社会的コストを伴うことになり、日本全体を疲弊させるのではないかというふうに私は考えています。
 以上であります。どうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 奥川貴弥

speaker_id: 13573

日付: 2000-05-23

院: 参議院

会議名: 労働・社会政策委員会