坂本修の発言 (労働・社会政策委員会)
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○参考人(坂本修君) 参考人として大事な時間を与えられたことを本当に感謝する次第です。
私は一九五九年に弁護士になり、以来一貫して四十一年間労働者の解雇事件などの裁判に携わってきました。今も携わっております。そうした経験に基づいて、当委員会で審議されております二つの法案について意見を述べます。
完全失業者が三百五十万人に迫り、失業率が五%になろうとし、男性のリストラ性自殺が急速にふえています。私は、四十一年間経験したことのないリストラ合理化のあらしのもとで、朝日新聞が企業の生体解剖のメスだと報じた会社分割を認める以上、労働者を保護する特別の立法がどうしても必要であると深く考えます。この点については政府もまた認めるところであり、労働契約承継法はそのためのものだと言われております。
問題は、どのような法律が必要であり、そしてこの二法案がそのようなものとして有効なものであるかどうかということが審議されるべきだと思います。
労働契約承継法は、労働者を、会社分割の場合に対象を限定しております。現在盛んに行われておる営業譲渡などを使っての分社化などが外されております。これは同法案のそもそもの構造的な弱点であります。この点については、EUのいわゆる既得権指令と同じように、会社主体の再編の場合を広く対象としております労働者保護法の方が必要であり、かつ有効な法律だと私は考えます。
また、実はこの問題でほとんど議論されていませんけれども、短期雇用労働者、契約社員、派遣社員、パートなどの人たちがこの会社の分割に当たってどういう処遇をされるのか、大きな問題があります。
私は、そういうことを含めて、本当は本来の解雇規制法が必要だと考えるものであります。しかし、そのことをここで長く言っている時間がありませんので、会社分割にかかわって労働者の保護をどうするのかという問題に絞って以下申し上げます。
労働者保護のために第一に必要なことは、移籍に当たっての労働者の同意権または異議権を認めるということだと思います。労働者承継法にはこれがございません。
労働者保護法は、私たちは同意権と考えていますが、同意権ではありませんけれども、異議権を認め、異議申し立てによる労働契約は動かない、つまり前の会社に残ることを決め、異議申し立てに対する解雇など一切の不利益処遇を禁じております。実質上の同意権と言っていいと思います。
一方、労働契約承継法の方は、民法六百二十五条の労働者の同意なしに他会社への雇用の移籍は認めないという規定を排除しております。こうなりますと、実際には不採算部門を新設分割してそこに労働者を集中的に移籍させる場合、あるいは逆に優良部門を新設会社の方に分割ないし吸収分割して前の会社を泥船あるいは空船にして沈没させてしまう場合などなど、労働者の目に見えるような被害があり、また、労働条件などでも、例えば通勤の問題などで大きな問題が起きるというのがわかっていても労働者は同意なき移籍を強制されることになります。これでは非常に困ったことになるんだというふうに思います。
民法六百二十五条、明治以来のこの法律は、冷たい集中豪雨のような今のリストラに辛うじて労働者を守る役割をしていました。労働者保護のための法律だといいながら、このままの労働契約承継法では辛うじて身にまとっていたマントまで引きはがすような立法になってしまうのではないか。やはり同意権ないし異議権をきっちりと認めるべきだというふうに思うわけであります。
第二の問題として必要なことは、分割を理由とする解雇の原則禁止を明記することであります。
承継法は、主たる業務に従事する労働者を動かす場合に、残して連れていかないという場合には異議の申し立て権があって、その場合には契約が承継されるなどを規定しております。その限りでの一定の保護はあるわけです。
しかし、実際の問題としましては、これについて、例えば事前に社内配転をしておいて、切る労働者は別の部門に移しておくとか、さまざまな法の潜脱ということが十分に考えられます。これは勘ぐりではないか、杞憂ではないかとおっしゃられるならば、時間がありませんけれども、私たちは何十という現実に分社化などを通じてそういう処遇をされた裁判や紛争を抱えているのでありまして、それは私が指摘したのは現実の危険です。
一般に資本主義社会においてそういうことがしょっちゅう起きるんだということについては私の杞憂でないということについて、もう一つの例を挙げます。
それは、EU、ヨーロッパ連合は既に一九七七年に、以上のようなことが頻発するという事態を前にして、企業主体の変更を理由とする解雇を禁止するという明確な条項をつくっております。やはり外国でも私が言ったようなことが起きるからこういう法律がつくられているんです。
では、一九七七年、ヨーロッパにおいてこういう法律が必要であったけれども、今日の日本において必要はないのでしょうか。一々例を挙げるまでもなく、自殺者まで相次いでいるような今の過酷な合理化、人減らしは、こういう規定が今の日本においてこそ一九七七年のヨーロッパ以上に必要だということを証明しているものだと私は考えます。
しばしば企業の機動的再編成とかメガコンペティションとかグローバルスタンダードとかと言われ、政府の答弁にもそれに類する答弁がございます。この答弁の致命的な弱点、率直に言うと偽りは、外国はそういうことをやっていると言うけれども、全部労働者保護の法律をつくって規制しているではないか。グローバルスタンダードと言うなら、なぜそのことがグローバルスタンダードにこの国ではならないのか。そちらの方のスタンダードは外しておいて、会社はどういうふうに動かしてもいいというのは明らかに立法として間違っているということであります。
第三に、労働者及び労働組合に対して十分な事前情報を開示することです。
同意権を認める立場ではもちろんですが、一定の限定された異議権を認める立場であっても、情報がなければ同意権も異議権も十分に労働者は行使できません。労働者の生活と権利を守ることを本来の責務とする労働組合もまた、こういう事前情報を得なければその権利を行使することができません。憲法が保障しております団結権、団体交渉権、その主体である労働組合が、自分の組合員さらには職場の労働者がどういうふうに今移籍されようとしているかについて情報を与えられないなどという立法は考えられないのです。
この法律には、労働協約を結んでいる労働組合には事前情報を伝えるとなっています。これは重要なことです。しかし、なぜ労働協約を結んでいる労働組合に限定をするのでしょうか。何の合理性もないと私は考えます。労働組合はみずからの労働協約を守るためにのみ存在するのでありません。みずからの組合員及び組合に入っていない未組織の労働者を含めて、その人たちが人間らしく生き、働く権利を守る、これが憲法の保障し、労働組合法の保障している労働組合の本来の権利です。その組合に対してなぜ情報をこれだけ開示するのを嫌がるのか、なぜそのことがこの条文にないのか、私はこの法案の絶対に改めるべき問題だというふうに思っています。
その次の、保障しなければならない誠実な事前協議の問題です。
この法律の審議の中で二つの修正がされ、会社分割法の附則の方で労働者と事前協議することが義務づけられました。同じく労働契約承継法についても、分割会社は当該分割に当たり雇用する労働者の理解と協力を得るように努力するものとすることという努力義務が記載されました。よりましな修正だとは思っております。しかし、これでは私が言ったような同意権や異議権にかえるには余りにも力が弱いと思っています。しかし、力が弱いという批判をするだけで済まそうとは思っていません。力は弱いと思いますが、この協議を本当に一歩でも二歩でも実効のあるようなものにするために当院での審議を強く望むものであります。
そのためには、先ほど申し上げました労働者及び組合に対する事前の情報開示というのが極めて重要であります。その次には、協議をやはり誠実に尽くすためには、協議期間の問題その他について実効のある協議にするためにいろんなことを考えなければいけません。
例えば、日産村山の今回のリストラは約三千人の労働者を動かします。三千人の労働者に事前協議を本当にまじめにやろうと思うならば、相当の時間と手間暇をかけてやらなければなりません。事前協議は通知ではありません。そうだとすれば、この協議を尽くすために法的にどういう手段をとるかということをきっちりさせるべきであります。
ちなみに、この事前協議については労働組合の事前協議権が明示されておりません。先ほど申し上げました労働組合の本来の職責、責務、そして権利から照らして、労働者との事前協議と同時に、労働組合に対する事前協議権を明示すべきです。これにつきまして、それはそもそも団交権があるんだということで逃げようとしても、それは実際に現場で苦しんできた私たちは到底納得できません。
このような会社の組織変更に絡む問題に事前に労働組合が協議を申し入れた場合に、ほとんどの場合、それは経営権の問題であり人事権の問題であるということで団交は拒否されるのです。その団交拒否に対して不当労働行為として労働委員会に提訴しても、裁判所に提訴しても、およそ間に合わないのです。時間的には絶対間に合わない。しかも、その命令には強制権がありません。そうである以上、法律をもってリストラ、合理化の道具に使われかねないこの会社分割に当たって、労働組合に明確に団交権を保障するというのは最低限必要なことだというふうにかたく思うものであります。
最後に、政府は、先ほど申しましたように、各国でも分割法制があるということを強調しています。しかし、それならばなぜ私が言いましたように既得権指令的なきっちりした労働者保護の法律をつくらないのでしょうか。それは余りにも片手落ちではないでしょうか。メガコンペティションを闘うというのならば、まさにグローバルスタンダードで競争したらいいと思います。この点につきましては、私の言っていることは日本共産党の提案した労働者保護法には全部書かれていると思いますし、衆議院段階で上程されておりました民主党の法案も同じ中身だったと思います。連合も全労連も全労協も、すべて私は同じような考えを述べておられるんだというふうに思います。
それだけではありません。最後に一点だけつけ加えておきます。それは、EUの日本政府代表部で一九九五年から九八年に一等書記官として在任し活動されました濱口桂一郎さんという方が、あるシンポジウムで最近次のように語っております。
EU諸国はやはり雇用を大事にするという方向を努力しているんだ。それに対して日本の流れは全くすべて逆転しておる。これを、ビッグバンを断行することなんだ、それ以外に道はないという風潮がある。しかし、それは一方的に労働者ばかりが被害をこうむることであって、世界の流れに反する。
つい数年前までヨーロッパの日本政府代表部におられた一等書記官の方がそう言っておられるのです。労働者のナショナルセンターが求めていること、二つの政党が求めたこと、そして実は一等書記官が求めていることを私は述べているのです。
四十一年間の弁護士生活を通じ、そして今たくさんのリストラ、合理化で苦しんでいる人たちの事件を担当している弁護士として、当院において今私が言ったことをぜひ参考にされ、一歩でも二歩でも事態の改善に役に立つように努力をしていただきたい。良識の府とされる参議院が五千四百万の労働者とその家族のために責務を果たされることを心から望んでやみません。