篠崎次男の発言 (国民福祉委員会)
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○参考人(篠崎次男君) 篠崎です。
私は、健康保険法等の一部を改正する法律案に反対する立場から意見を述べたいと思います。
今回の改正案は、かなり高額な負担を高齢患者に上積みしようとしております。それとの関連で、もう一度医療とは何かということをまず考えたいわけですけれども、一九八〇年代以降の医療の見直しについて、厚生省は絶えず疾病自己責任ということを強調して改革を積み上げてきていると思います。
私は、生活課題のうち、衣食住はある意味で個々のやりくりの対象になりますから自己責任ということが言われてもやむを得ないのかなと思いますが、医療というものについては、担当した医師が必要と認めた医療をきちんと保障されなければならない。その場合に、患者、住民の経済状況その他は考慮されることなく保障されないと命が全うできないという側面を持っていると思います。つまり、医療要求というのは自己責任を超えたところで発生するものだというふうに理解をしております。であるからこそ、今よりもはるかに日本が貧しかった以前より医療に対する公的責任が尊重され、社会保障としていろいろな給付が保障されてきたのではないかと思います。
また、医療を担当する医療機関の側でも、多くの矛盾を抱えた診療報酬に不満を持ちつつも、医療の公的保障ということを守るということを優先させてさまざまな医療を守る努力を医師の側でも積み上げてきているように思います。いま一度、今回の医療保険の見直しについて、これまでの努力とこの原則について思いをいたさなければいけないようにまず思っております。
では、高齢者の生活実態に照らして、今度の医療保険の改革なるものがどういう影響を与えるのだろうかということを、幾つかの事例を通して考えてみたいと思います。
十一月十四日のこの委員会で、政府委員の答弁によりますと、今次見直しで自己負担増が一千四百六十億円となり、一人当たり平均月当たり八百三十円程度と説明されております。これは受診しなかった高齢者の数も含めてのことだと思いますので、実際に受診した高齢者の負担というのはこの額をはるかに超えるものになるように思います。
ところで、一九八三年の老人医療費の無料制度が廃止されて以降、今日まで六回にわたる改革が行われてきております。厚生省が改革と言う場合に、患者、住民にとっては必ず負担増が起こるということであります。したがって、今回の医療保険の見直しが、津島厚生大臣は再三強調しますが、抜本改正の第一弾なんだというふうに強調されております。そうすると、この先どのくらい高額の負担が高齢者に押しつけられてくるのか、極めて大きな不安を抱かざるを得ません。
もう少し具体的にこの負担に耐えられないということについて申し述べたいと思いますが、総務庁は単身世帯収支調査というものを最近出し始めております。平成十一年版によりますと、六十歳以上の保健医療費のうち、保健医療サービス費、つまり医科診療代、お医者さんにかかったときの一部負担が中心になろうかと思いますが、月三千百四十五円で、前年対比の伸び率が一七・六%という高額になっております。ですから、最近の負担増というのはかなり重い比率で高齢者に上積みされているというふうに言えるのではないかと思います。
しかも、政府は低所得者には一定の配慮をしていると言われておりますけれども、外来に対する配慮はありません。それから、入院にしても上限が一万五千円になる、これに該当する人は七十歳以上のたかだか〇・七%にしかならない、そういう点では低所得者への配慮とはごく微々たるものと言わざるを得ません。
そういう大幅な負担増と高齢世帯の家計との関係を見ていきますと、先ほど挙げました総務庁の収支調査によりますと、無職の単身高齢者の世帯収入は月額で十二万七千九百九十四円になっております。そして、支出がそれを二万四千六百五十五円上回っております。ですから、貯金を取り崩すか、こういう生活を多くの単身高齢世帯が強いられているわけです。それから、老夫婦だけの高齢夫婦無職世帯、年金生活者、これの月収が二十五万五千四百三円というふうに平均でなっております。この世帯も月々支出が一万四千四十三円上回っております。
ところで、平成十二年版の厚生白書によりますと、高齢者の個人の所得が、無収入が一一・八%、それから年収八十万未満で二七・一%、八十万から百六十万の人々で二一・一%、つまり年収にして百六十万以下の人が全体の六割を占めております。月収二十万を超えても生活ができずに赤字になっているという状況の中で、これ以上の負担増というのは高齢者にとっては耐えがたいものになるのではないか、こんなふうに思います。
特に、介護保険論議の中でも問題になりましたけれども、月額一万五千円以下の年金しか支給されていない高齢者が六十五歳以上の二〇%になります。三万円以下ですと三〇%を超えると言われております。こういう中で、国民健康保険料、介護保険料、医療費の一部負担、そして介護利用時の一部負担と、負担増が積み上げられてきております。高齢者の多数はかなり重い負担に不安を感じているというふうに思います。
この負担増が高齢者を苦しめているのではないかという実例を、私は介護保険が証明しているように思います。
例えば、百六の保険者の調査というのが、これは四月から六月までの結果が出ておりますけれども、サービス支給限度額に対する利用割合は、平均で四三・二%、要支援者は五四・二%ですが、介護度一度から五度まで、しかも四度、五度と重くなるにつれて利用率が減ってきております。この利用率が五割に届かないという大きな理由に、一部負担を支払うことができない、こういう苦しい高齢世帯の家計事情があるものと思っております。
最近、ケアマネジャーからいろいろな報告が各地でなされるようになってきておりますけれども、私は五千円しか一部負担が払えないから五千円で賄えるサービスだけで結構ですと、あるいは一万円の負担で我慢しますと、こういう事例がたくさん出ているということが報告されております。
〔委員長退席、理事亀谷博昭君着席〕
再度申し上げますが、今次見直しで医療費負担増というのは高齢者に過酷過ぎるのではないかと思います。特に、冒頭申し上げました、個人の懐に関係なく必要な医療がきちんと提供されるという、こういうこれまでの医療保障の原則から見ても、今次見直し案というのは容認できるものではないと思います。
医療の薄い高齢者の入所施設で、冬になると風邪の集団流行が話題になります。結果として肺炎で死亡する高齢者が多数出るという不幸が社会問題化しておりますけれども、これからは在宅でもこのようなことが起こりかねない、そういう危惧の念を私は抱かざるを得ません。今次の高齢患者の負担増という制度の見直しは、やはり撤回されなければならないように思います。
次いで、今次見直しについての気がかりな点について、二点ほど申し上げたいと思います。
先ほどからも話題になっておりますけれども、七十歳以上の高齢患者の場合に、受診した医療機関によって一部負担が異なるという制度が持ち込まれてきております。なぜこのような複雑な制度にする必要があるのかという点については十分説明がなされていないように思います。
他方で行われている医療法の見直しを積み上げながら、医療機関の機能別類型化が進められております。それに呼応した形で社会保険の見直しが今後どのように進められるのか。恐らく、機能別に社会保険医療が限定されてくるのではないか、こういう危惧を抱いております。かかる医療機関によって一部負担が違うということが今回初めて持ち出されたということの背景には、このようなことがあるように思います。津島厚生大臣が再三強調するように、抜本改正の第一弾だと言われる理由はこの辺にもあるのではないかと思います。この関連性についてきちんと説明し、国会で国民にその内容がわかりやすい形で解明されるように審議を尽くすべきだと思います。もし関連性がないのなら、患者の受診を複雑にする見直し案は撤回すべきだろう、こういうふうに思います。
それから、もう一点だけ申し上げますと、高額療養費制度の見直しについてですが、今回は上位所得者と言われる被保険者が五万九千円程度の負担増になる、それから一般の患者では三千四百円程度の負担増だと、これも十一月十四日の政府委員の説明の中にあることですけれども、上位所得者にこれだけ大幅な差をつけた負担増というのをどうして持ち込んでくるのか、この辺についてもよく理由がわかりません。
一番私として危惧する点は、このように一定の収入のある人に対する負担増を何回か積み上げていくと、これらの被保険者は社会保険の加入を嫌うようになるんではないかと危惧いたします。近い将来、高額所得者の社会保険離れを促進する、そのための措置のように思えてなりません。
別のところで進められております医療保険者の権限強化の問題や、あるいは年金論議の一部にあるように、基礎年金以外は民間移管という議論も台頭してきております。こういう議論と今回の見直しには共通点があるように思えてなりません。これらについても、社会保険の根幹にかかわる問題でありますから、慎重に審議がなされるように強くお願いしたいと思います。もしそういう意図がないのであれば、このような大幅な格差をつける見直し案についても撤回すべきだろう、このように思っております。
最後になりますが、国民の政府への要求は、一貫して第一位が保健、医療の充実で、第二位が景気対策です。ここまで不況が大きく取り上げられて大きな問題になっているにもかかわらず、不況だからこそ国民は医療と福祉にやっぱり最重点の要望を政府にお願いしているわけであります。こういう国民の切実な願いに耳を傾けて、今次改正案は撤回すべきだ、このように私は考えております。
以上で意見の陳述を終わります。