小幡純子の発言 (地方行政・警察委員会)

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○参考人(小幡純子君) 上智大学の小幡でございます。
 本日、警察法の一部を改正する法律案について意見を申し述べる機会を与えられ、大変光栄に存じております。
 私の専門は行政法という法律の一分野でございます。行政法というのはさまざまな行政機関の作用及び組織に関する法律というのを対象としておりますが、警察法並びに警察に関する法というのも行政法各論の一つとして位置づけられております。数ある行政機関の中でも警察という一種独特の機関を対象としているのがこの警察法でございます。
 一種独特と申しましたが、警察というのは私たち国民にとって最も身近な存在でございまして、街角で道順を聞くところから始まって、国民の生命、身体を守るための直接的権力手段を持っているという意味では最も頼りがいのある存在とも言えましょうが、逆にその権力が適切に発動されないとたちどころに国民の信頼を失うという側面を持ってございます。したがって、警察は常に国民にとって信頼できる存在であることが強く要請されると思われます。
 今般の法律改正案のきっかけがさまざまな警察の不祥事であったことは大変残念なことでございますが、だからこそ法律を時宜を得て適切に改正することによって、国民の警察に対する信頼を取り戻す必要性というのは極めて高いのではないかと思われます。
 さて、今回の法律改正案の検討に入ってまいりたいと思います。
 実は、警察法というのは従前のものから既に国民の信頼保護のための特徴ある法制度を内包しておりました。それが公安委員会制度でございます。
 公安委員会というのは、戦後直ちに制定されました旧警察法におきまして、警察の民主的管理と政治的中立性の確保を図るために特に設けられた制度でございます。昭和二十九年の現行警察法制定によって今の公安委員会制度となっております。警察というのは強力な執行権力を持つ専門家集団ですから、そこでの運営が独善的なものにならないように、つまり国民から離れてしまうことのないように、民衆の代表である公安委員会が警察組織を管理するというシステムが特に必要と考えられたわけでございます。警察という非常に堅固な官僚組織の上に、警察の専門家でないいわば素人の良識人から成る公安委員会という合議体を置いて、それによって国民のための警察を担保していこうという特徴ある制度がつくられたものと理解してよろしいかと存じます。
 私は、今回の一連の不祥事をきっかけとしてではございますが、国民が警察との関係での公安委員会というものの存在を明確に認識されまして、その委員にどういう人がなっているのかとか、どういう仕事をしているのかということを興味を持って知るようになるとすれば、それはそれでプラスの面として今後につなげていくべきではないかと思っております。
 今回の法改正のメーンのねらいは、結局のところ、警察行政の不正を十分にチェックするシステムというのをいかに構築するかということに尽きるのではないかと存じますが、このような共通の認識のもとで各党が提案なさった法案の中でさまざまな手段が示されております。
 政府案は、公安委員会の管理機能を充実するため、公安委員会が監察についての具体的、個別的な指示を警察に対して行うことができるということを明確にしまして、さらに、その指示が履行されているかどうかを点検するシステムというものまで設けようとするものでございます。また、公安委員会に対して、国民が警察の職務執行についていろいろ苦情を持っております場合に、その苦情を申し出ることができるということとしまして、公安委員会はこれを誠実に処理する義務を負うばかりではなくて、処理結果を回答する義務というのを課すというものでございます。
 さらに、警察署協議会の設置も提案されております。地域ごとの住民の声を警察署に反映させようとするシステムでございまして、国民、住民のための警察というのを身近なところから実現するための施策として非常に、十分評価できるものと言ってよかろうかと存じます。
 この警察署協議会については特段異論もないところではないかと思いますので、最も大きな論点となっております公安委員会の活性化策あるいは別組織による監察組織の導入が妥当かどうかという問題について、以下、私の考えを申し述べさせていただきたいと思います。
 まず、従来の公安委員会とは別に、警察監察委員あるいは警察監視委員会のような別の監察組織を設けるべきかどうかという論点、いわゆる外部監察の必要性という論点についてでございます。
 確かに、今ある組織が十分働いていないならば、直ちに別の組織を設けようという方法も一つの選択肢ではあると思いますが、私は、まずは今ある公安委員会という組織、制度を何らかの方法で活性化するというのが一番にとるべき手段ではないかと思っております。
 と申しますのは、通常言われます内部監査、外部監査、あるいはここでは内部監察、外部監察というふうに申し上げた方がよろしいかと思いますが、それぞれ一長一短ございまして、組織とか業務をよく知る者の方が内部に効果的なメスを入れることができるという内部監察のよい面というのも否定できないわけです。警察刷新会議の提言でも、警察の組織や業務に精通している者が当たらなければ結局は実効性のある監察となり得ないのではないかという指摘がなされております。
 さらに、そもそも警察及び公安委員会という制度は、通常言われる内部監察の欠点を補い得る仕組みを持っております。
 内部監察というのは組織内部に独立的な機関を設けて監察させるわけですが、その機関は、自分では人事等の強力な管理権限は有していないのが通常でございます。それに対して公安委員会の場合には、警察という官僚組織の上に第三者機関として置かれておりまして、その第三者機関が警察という官僚組織に対して人事上の権限も含めて非常に強力な管理権限を持つというそもそもの仕組みを持ってございますので、通常言われている内部監察の欠点と言われているものはそのままの形では妥当しないのではないかと思われます。
 したがいまして、このような特徴ある既存の仕組みの中で公安委員会の民主的監督を十二分に生かしていくという方向が、結局のところ、警察組織としての自浄能力を高めることにつながるのではないかと考えております。
 続きまして、公安委員会自身の活性化の方法といたしまして、公安委員会独自の事務局を設けるべきではないかという議論もあろうかと存じます。
 実は、この問題はなかなか難しいところでございまして、私自身も自前の事務局があった方がよいのではないかと思ったこともございました。ただ、よくよくいろいろな面を考えますと、公安委員会が本来持っている性格及びその警察に対する地位というものを考慮いたしまして、必ずしも自前の事務局を持つことが本当の活性化につながるとは断じがたいところもあるのではないかと現在は思っております。
 以下、その理由を述べたいと思います。
 まず、公安委員会自身が警察の専門家ではない素人集団でございますが、そこにまた素人の事務局を設けるということになります。したがって、警察に対する切り込みが単に迂遠なものになるだけではないかという、そういう状況が生ずるという懸念がございます。そもそも警察行政に素人である事務局が公安委員会を十分に補佐できるかということは疑問の点もございますし、逆に、警察と公安委員会との間の距離が離れ過ぎて適切な管理というのができなくなるのではないかという懸念、あるいは警察と公安委員会との間にもう一つ組織が入ることになりますので、公安委員会が直接警察から報告を受け、直接迅速な対応をとるということもやりにくくなるなど、非効率という問題も生ずる可能性がございます。
 先ほどの前田教授の御意見にもございましたが、昨今の行政改革の中でも警察官の増員は必要なのではないかということではないかと存じますが、さらにこのような事務局に属する人員を新たに増員するということになってしまうという、その点の問題点もあるかと存じます。
 なお、重要な点といたしまして、公安委員会というのはもともと警察に対して人事コントロールを及ぼす権限、すなわち警察本部長等地方警察官の懲戒、罷免の勧告権という人事上の権限を持っております。したがって、このような人事上の権限、担保手段がございますので、公安委員会としては、自前の事務局を持たなくても公安委員会を補佐する警察のスタッフを自分の意のままに機能させるということが本来できるはずでございます。このような観点からは、今後は、公安委員会を補佐するという警察のスタッフの体制をさらに充実したものにするということはぜひとも必要であろうと考えられます。
 さらに、今回の改正案で制度化することとされております苦情処理システムというのは、実はこの点に関しても非常に大きな役割を果たすのではないかと思っております。私は、以前から国民が公安委員会に苦情を申し出るという明確なシステムが必要ではないかと考えておりました。警察に不満があるのであれば、それのお目付役である第三者機関である公安委員会に苦情を訴えればよいのであって、それこそが民衆の代表、民主的監督機関としての公安委員会が受けとめるべき最も重要な機能ではないかと思われます。
 ところで、その国民からの苦情申し出が公安委員会に対してなされるとすれば、公安委員会としては当然何らかの回答をしなければならない。今度の改正案によれば、回答義務が必要とされます。そうしますと、自前の事務局がたとえないとしても、警察に取り込まれてしまうのではないかという疑念は非常に生じにくい状態、つまり、みずからに対する苦情申し出に対してみずから何らかの処理をしなければいけないことになりますので、その限りでは自前の事務局が必ずしも必要という懸念もなくなるのではないか。苦情に応じてしかるべき監察を警察に具体的、個別的に指示するという迅速な処理がむしろ必要で、それが可能になってくるのではないかと考えられるところでございます。
 なお、今回の政府案において、公安委員会の監察に関する具体的、個別的指示を明示するということが、もともとの規定にも公安委員会の「管理」という言葉がございましたので、それとどういう関係にあるかという点についても若干触れておきたいと存じます。
 公安委員会の行う管理というのはもともと、警察行政の大綱方針を定めまして、これによって事前事後の監督を行うということを意味しております。公安委員会というものの性格上は、捜査活動や警備実施自体などの個別の事務執行を直接自分が行うということはそもそも不適当と考えられておりました。したがって、監察に関しても、そのような個別事務の監察について具体的な指示を行い得るかどうかというのは疑義がございまして、その結果、警察の監察が不十分であることについて公安委員会が十分な監督の役割を果たすことができなかったのではないかという、そういう問題が生じてまいりました。
 そこで今回、監察について、公安委員会が具体的、個別的指示ができるということが新たに明文化されるということがやはり必要という状況になったのではないかと思われます。
 従来の「管理」でも読めるはずであるから法改正の必要がないのではないかという議論もあるかもしれませんが、あえて明文化することによりまして従来の運用をただすとともに、公安委員会の監督機能の中でも特に監察に関する指示というものを取り出して具体的指示権を認めるということは、公安委員会が今後より積極的に監察についてしっかり監督するようにということを促す、そして結果的に公安委員会の民主的監督機能を強化することにつながる重要な意味を持つものではないかと思われます。
 以上のように、私は、公安委員会の本来の民主的監督機能を十分発揮させるために必要となる法改正を行うべきと考えますので、基本的には公安委員会の監察の指示権を強化し、苦情処理システムを設けるという政府案でよろしいのではないかと思っております。
 なお、ただこの問題は、最終的には政策論レベルの問題もございまして、必ずしも法律論で勝負がつくというものではございません。ですから、例えばもっと組織自体を増強したり別の組織をつくったりという政策もとり得ないものではございませんが、ただ、公安委員会というものの本来の趣旨に立ち返って、より実働的な働きを今後期待していくという方向で必要不可欠な改正でよいのではないかという趣旨でございます。
 むしろ、この機会に、国民の方々に公安委員会の働きを十分知っていただくよう広報活動を行いまして、国民ともども、民衆の代表である公安委員会の活性化に向かっていくというのが望ましい姿かと存じます。
 いずれにしましても、警察の信頼回復のための法改正の必要性というのは疑いのないところでございますので、本委員会で十分審議が行われ、国民のための警察というものの実現に向けて適切な改革がなされますことを願いまして、私の本日の意見陳述を終わらせていただきます。

発言情報

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発言者: 小幡純子

speaker_id: 21553

日付: 2000-11-14

院: 参議院

会議名: 地方行政・警察委員会