井村裕夫の発言 (文教・科学委員会)

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○参考人(井村裕夫君) 井村でございます。おはようございます。
 私は、科学技術会議の議員を務めておりまして、その職責上、科学技術会議の生命倫理委員会の委員長も務めております。したがって、本日は主としてその立場からお話を申し上げたいと思いますが、一部私個人の意見も含めることをお許しいただきたいと思います。
 この法案で使われているクローン技術という言葉ですが、これはある程度特定した言葉であります。クローンといいますのは、一般的には遺伝子が共通である個体あるいは細胞を指す言葉であります。したがって、クローン技術はかなり広い範囲のものでありますけれども、ここでは体細胞の核を移植して、そして個体をつくる技術のみをクローン技術というふうに書いております。これはわかりやすくするためであります。
 御承知のように、我々の体を構成する細胞は大きく分けて二種類ありまして、体細胞と生殖細胞であります。体細胞は二組のゲノムを持っております。二つのセットのゲノムを持っております。それに対して生殖細胞はワンセットであります。したがって、卵子と精子が受精をいたしますと、そこで二セットになって個体ができるわけであります。ここで問題にしておりますのは、その体細胞の核を卵子に移入して個体をつくる、それをクローン技術というふうに呼んでおります。
 このクローンは、哺乳動物ではできないと長い間考えられてまいりました。ところが、御承知のように、一九九七年にイギリスでクローン羊ドリーが生まれまして、続いてマウス、それから牛等幾つかの哺乳動物でクローン技術が成功いたしました。したがって、ヒトでもつくれることがほぼ確実になってまいりました。そこで、デンバー・サミットにおいてクローン人間産生の禁止を採択いたしまして、それを受けて当時の橋本総理のイニシアチブで科学技術会議の中に生命倫理委員会が発足したわけであります。
 したがって、生命倫理委員会が最初に取り上げた課題はクローンの問題であります。それ以後、ES細胞とかゲノムとか幾つかの問題を議論しておりますけれども、本日はそのうちでクローン技術の問題について、法案を政府が提出いたしましたので、それについて少し述べたいと思います。
 クローン技術の現状を申し上げますと、動物への応用はいろいろな面で有用でありますので非常に進んでおります。したがって、ここはどの国も規制をしておりませんし、我が国も規制すべきではないというふうに考えております。
 しかし、クローン人間をつくるということは倫理的に非常に大きな問題があります。しかも、これは比較的簡単につくれるのではないかということも考えられますので、速やかにクローン技術をヒトに適用することを禁止することが国として必要である、それが日本がクローン人間に反対をしているということの意思表示にもなります。また、世論調査におきましても、圧倒的に多くの人が反対をしているところであります。
 禁止の理由は、先ほど位田参考人がお話しになりましたように、ほぼ同じでありまして、まず、これは無性生殖であって、遺伝子がその提供者、その細胞を提供した人と同じであるということであります。それから、人間の尊厳を侵害するというふうに考えられます。現在、地球上には約六十億の人間がいるわけですが、恐らく一人一人遺伝子は違っていると思います。それが人間の個性であります。それを人為的につくるということは問題があります。もちろん、一卵性双生児の場合には自然にできたクローンでありまして、これは遺伝子が同じでありますが、それを除きますと、遺伝子が多様であるということが人間あるいは生物の特徴であって、それは守るべきであるということであります。それから、社会秩序の混乱を避けるべきである。そういうところから速やかに禁止すべきであるという結論に到達いたしました。
 禁止の方法としては、罰則を伴う法律をつくるという方法とガイドラインで規制をするという方法があります。国によってその方法が違っておりまして、例えばアメリカなどではガイドラインを議論しているというところであります。
 私は、少し個人の見解を申し上げますと、法律による規制は少ない方がいいと思っております。それは、科学者にはできるだけ自主性を与えて科学の進歩を促すべきであるということが一つございます。それから、これからの科学者は自己責任を持って社会に対していく必要があると考えております。すなわち、みずから情報を公開し、社会の中で社会とともに生きる道を構築していく必要があると思います。最近、科学者と社会の間には一種の契約関係があるという考え方が出ておりますが、そういった契約関係を今後強めていくためにはやはり科学者の自主性が重要であります。法律で規制をすることはそれを損なうおそれがあるというふうに思われます。
 それから第二に、科学の進歩は非常に速やかであります。実は、生命倫理委員会でこの問題を討議し始めた当初は、まだES細胞の問題は全く出ておりませんでした。したがってクローンだけを議論していたんですが、途中からES細胞が出てまいりました。今後どのような新しい技術があらわれてくるか予測することは全く困難であります。したがって、ヒト胚全体を広く法律で規制しているドイツ、フランス等におきましては、特にフランスでは現在法律の改正の動きが出てきているところであります。
 そういった状況下で、私は、どうしても人間の尊厳を守るために行ってはいけない技術のみを法律で規制し、その他はガイドラインによって規制をしていくのが妥当ではないかというふうに考えました。ガイドラインでは二重の審査がなされます。一つはIRBといいまして、それぞれの大学、研究所の持つ倫理委員会であります。その倫理委員会を通った後で、文部科学省に恐らく設置されるであろう委員会が審査を行います。問題があれば現場検証もすることができるというふうに考えているわけです。こうしたガイドラインによって規制をしていくということはもちろん必要でありますが、それによって多くの弊害が除き得るのではないかというふうに考えております。
 生命倫理には二つの大きな要素があると私は考えております。一つは医学の進歩を図るということでありまして、それは患者さんにはかり知れないほどの大きな利益をもたらします。しかし、同時に人間の尊厳を守っていくということも重要であります。人間の尊厳というのは理性を持った人間として失ってはならないものであると考えておりますが、それを守ることも同時に必要でありまして、その両方に配慮しながら法律なりガイドラインなりによって規制をしていくというのが生命倫理における一つの重要な方向であろうというふうに考えております。
 どうぞよろしく御審議のほどをお願いいたします。

発言情報

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発言者: 井村裕夫

speaker_id: 540

日付: 2000-11-24

院: 参議院

会議名: 文教・科学委員会