林崎良英の発言 (憲法調査会)
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○林崎参考人 おはようございます。理化学研究所から参りました林崎と申します。よろしくお願いします。
まず、本日私が、お手元に配付いたしました資料を用意しました。ダブルクリップでとめてあります。二つになっていまして、先にある方がきょう使わせていただく資料でございます。後半の方は、最近の我々の研究活動についてのまとめみたいなもので書きましたので、御参考にと思ってつけさせてもらいました。主に前半の方の資料を使わせていただきたいと思います。
まず、二十一世紀の日本のあるべき姿ということで、我々、特に私個人的には、ゲノム科学というライフサイエンスの領域で働いております。このライフサイエンスで、最近、我々の生活にまで影響を及ぼすような非常に大きな革新がありました。それについて説明をさせていただきまして、それで、今後こういう領域をどのように伸ばしていったらいいかということについて述べたいと思います。
先日、二月の八日それから十二日ですかに、ライフサイエンスにおける、ゲノム科学における記念すべき二つの喜ばしい事件といいますか、アドバンスがありました。
一つは、ヒトゲノムの暗号解読のドラフトといいますか、ほぼ九十数%解読が完了したというような学術論文でございまして、そういうものが発表された。これは国際的な協力体制、ヒトゲノムコンソーシアムと言いますが、そういう体制によってなし遂げられました。
もう一つは、マウスなんですが、完全長cDNA、これは我々のグループがやった仕事ですが、理化学研究所のゲノム科学総合研究センターと、それが組織する国際コンソーシアムがあります。FANTOMコンソーシアムというコンソーシアムがあります。このコンソーシアムが、後で説明しますが、完全長cDNAというのは遺伝子そのものというふうに考えていただいたらいいんですが、そういうものを幾つか収集したという記事でございます。
これらのゲノム科学の成果は、他のすべての科学、産業などの基盤になります。それで、国際社会における日本の発言力と競争力がこの領域のアチーブメントによって影響を受けます。自然に、それは我々にとって無関心であるわけにいきません。
この発言力と競争力ということですが、競争力は、ゲノム科学をベースとしたライフサイエンスの産業とか科学の競争力そのものを言いますが、その力と、それから国際社会において競争する国際ルールを決めるための発言力のためには、国際競争社会の決定力を持つということで、国際的な貢献をしなければいけない。これは非常に相反する二つのことでございますが、こういう力の対比ということでこの領域の国の力が決まってきます。
昨年、ヒトゲノムの配列が人類共通の財産であるということを、アメリカのクリントン大統領とイギリスのブレア首相が宣言を出しました。この宣言は、そういうものを共有の財産にするというルールを決めたということは、やはり国際発言力がその二国にあったということですが、私個人的には、できれば日本の首相も入ってほしかったわけでございますけれども、そういう力をやはりつけなければいかぬ。
今、ゲノム科学とかそれをベースとしたライフサイエンスが革命の時期を迎えておりますので、そういう観点から物事を見ておりますけれども、一般に見まして、日本は二十一世紀には、国民生活を質的に非常に高水準に保ったり、それから高学歴の教育、そういうものを生かす生活をするためには、より付加価値の高い仕事、産業、そういう領域を与え続けなければならないというふうに私は考えます。そのためには、ライフサイエンスは高付加価値型産業をつくる膨大な未開拓領域を持っています。ですから、私どもは、こういう領域に日本としまして前向きに取り組んで、ぜひこれを科学と産業に生かしていきたいと思います。
私の個人的な領域ですが、私はもともと病院で医者をやっておりましたので、そういうモチベーションでゲノム科学の領域に入ってきましたので、ゲノム科学と医学の領域の応用が、将来の日本にあるべき姿といいますか、そういうものを、私なりに個人的に私見を持っております。そういうものを述べさせていただこうと思います。
では、最初の資料でございますが、実を言いますと、ライフサイエンスの話を一般に私どもがやりますと、非常に難しいと言われます。それはなぜかというと、一番最初にいろいろな用語が出てきます。それがなかなか入ってくるのが難しいようです。
それでも、ここでそれを詳しくひもとくということはなかなかできませんが、基本的なところだけは少なくとも先にお話しさせていただかないと後がちょっと続いていきませんので、申しわけございませんが、最初の資料の一番最後の三枚カラーで書いてきました、これを用いて、ゲノムとは何か、それからcDNAとは何か、それからたんぱく質とは何かということについて説明させていただきます。それと、ヒトゲノムシークエンスとはどういうものであるかとか、完全長cDNAとはどういうものであるかということについて話をさせてもらいます。
まず、これは予備知識なんですけれども、ヒトの子の顔が親に似る、その遺伝情報は、DNAという物質によって親から子に伝えられます。もともとそれはどこに入っているかといいますと、三つあるうちの一番目の資料なんですが、人体はもともと細胞が六十兆個ぐらいから成っています。非常に数が多いです。ほとんどの生命活動は、たんぱく質という物質によって担われています。たんぱく質というのは、二十種のユニットのアミノ酸がずっと縦につながったものです。そのつながり方によっていろいろな生命活動がなされます。そのつながり方が、親から子に伝える遺伝暗号で伝えられているわけでございます。
そのつながり方というのは、今度は親から子に伝えるDNAはどこにあるかということですが、人体は六十兆の細胞から成るといいますが、細胞の中に核という構造体がありまして、そこの中に、学校で習う染色体という構造体があります。その染色体の中にDNAが入っているわけです。そのDNAがA、G、C、Tという四つの文字で書かれておりまして、これが約三十億並んでいる状況がヒトの親から子に伝わる遺伝情報でございます。この並びがほとんど解明されたということが今回の発表であります。
その次に、では、これがどうしてたんぱく質になるかということですが、この三十億の並びの中から、何万個かの部分から、一たんDNAのA、G、C、Tという文字がRNAに書き写されます。RNAも四つの文字から成っています。この四つの文字から成るA、G、C、Tの三つずつの枠が、おのおの最終的にたんぱく質の二十種のアミノ酸に置きかえられていきます。
次のページを見てください。
ゲノムプロジェクトというのは、もともと染色体の中にあるゲノムDNAの配列をずっとA、G、C、Tの四種の文字を調べるところでありますが、それが一たんRNAになりまして、そのRNAがそのままたんぱく質になるのではありません、これは真ん中に要らない部分がありまして、この部分が抜き飛ばされます。これはイントロンという、これも非常に難しい言葉で申しわけございません、抜き飛ばされます。それで、成熟したRNAという物質になります。
この成熟したRNAという物質が最終的にたんぱく質になるのですが、このRNAの配列がそのまま、生理活性物質であるたんぱく質になります。非常に重要なところです。ですから、これを解読するプロジェクトがcDNAプロジェクトといいます。cDNAというのは、RNAに相補的なDNAを合成していくこと、相補的、コンプリメンタリー、そのcでございます。cDNAといいます。
ですから、ゲノムプロジェクトは、核の中にある染色体の親から子に伝わるDNAそのものの配列、それからcDNAというのは、たんぱく質になる部分の配列だ、遺伝子そのものだというふうに解釈してください。
その昔、一九九〇年の初めごろ、アメリカはこのたんぱく質となる部分の情報が産業につながるというふうに考えまして、物すごい勢いでヒトのcDNAをどんどんとって、大工場をつくって解析していきました。
ただ、そのころ日本はなかなかそういう活動に手つかずの状況でございまして、そういう意味では先を越された感があったのですが、そこでどういうことを考えるかといいますと、こういうcDNAを合成するときに、たんぱく質全長の長さをカバーするだけの完全な形、完全長といいますが、この完全長のcDNAを合成する能力が世の中にございませんでした。そこで、アメリカは、断片でいいから断片のcDNAをどんどん塩基配列を決めていこうというふうな戦略をとったわけです。
一方、日本なんですけれども、その次の最後の三というところ、カラーの紙でございます。完全長cDNAをとっていく戦略に切りかえました。なぜかというと、断片のcDNAというのは、ばらばらですので、最終的にたんぱく質ができないとか、非常に全体の構造がわかりにくいということがあります。一方、我々は、この完全長cDNAというのをどんどんとる技術を開発してやってきた。そういうことで、今回の新聞をにぎわしました二つのニュースが出てきたわけでございます。
時間がありませんので非常にざっとおさらいをして、わからないところだらけで本当に申しわけございません。ただ、こういうような世の中の活動があったということをちょっと心の中にとめておいていただければよろしいかと思います。
この活動がなぜ我々の生活に影響していくのか、非常に重要です。また文字で書いたところに戻っていただきたいのですが、2のところです。「加速と統合に向かうゲノム科学をベースとしたライフサイエンスの変貌」というところが、六ページ中二ページのところにあります。
このゲノム科学というのは非常に重要でございまして、ライフサイエンスのすべての基盤になります。これはなぜ重要か。ちょっと考えただけでいろいろな応用の分野があります。例えば創薬、医療、人の体質を判定したり、新しい種類の薬をつくることができるようになります。それから、新しい種の、例えば食料とかいうものができますし、また、環境に優しい産業、生物をつくることもできます。
こういう非常に領域の広い基盤であるゲノム科学、すなわち遺伝子の取り合い、遺伝子の取り合いという言い方でちょっとざっくばらんに申し上げたのですが、こういうことで国際的な競争がありました。
これは、まさにそれまでは生物の中では起きなかった現象であります。なぜならば、世界を見ていただいてもわかりますが、全部でどれだけあるかがわからなかったというときには、結構皆さんは自分の領域だけ守っていろいろやっているのですが、例えば国の領土でも、大航海時代があらわれて、地球上全体が有限の土地しかないということになると、領土争いが起きます。それと同じように、有限の個数の遺伝子しかないと思われますと、やはりそれをとりに行こうというのが、特許的に押さえようというのが普通の考え方であります。自然な考え方です。そこでそういう戦いが始まったわけです。
次に、こういうような動きが出てきたということで、ライフサイエンスに非常に新たな局面が出てきました。これは、産業的にも新たな局面が出てきました。それが2の2のところでございますが、読みますと、「ゲノム科学をベースとした新しいライフサイエンスがもつ側面」ですが、それは、生物学をやるには生物学、医学をやるには医学だけやっていればいいというものではなくなってきたわけです。
例えば、いろいろな分野が統合して手を結ばないと、その分野を推進することができません。これは学際的統合といいます。現に我々の研究室でも、私は医者ですし、物理をやっている人間もいますし、化学をやっている人間もいます、計算機科学をやっている人間もいます、みんなが集まってやります。
また、産業上、統合現象というのが生じます。これはなぜかというと、そういう非常に広い分野をカバーしなければならないところに、試薬とか機械とかいうようなものを売っている企業が情報を得るようになり、最後には例えば製薬産業に変身するというような、産業界がより大きな領域をとらなければいけないということで、アメリカなどは非常に大きな大企業の合併が生じるようになりました。これは、産業の領域の統合だけでなしに、企業自身が大きく変貌していくというふうに、この巨大な情報と巨大なゲノム資源を有効に活用するために企業自体が大きくなってきたわけです。科学的にも、ゲノムセンターができ、一点集中型のそういう学問の遂行体系ができました。
よく日本で、先ほども、乗りおくれたんではないかというような話がありますが、ある意味でイエスですし、ある意味でそうでもない部分もあります。例えば、今言いましたような、大企業がより大きくなって統合していく、それでゲノム科学全体をカバーしていくような戦略というのは、現在のところ日本ではまだ見られません。また、最終的に、後でまた申しますが、社会経済構造、こういう領土争いをしたのは主にアメリカのベンチャーです。日本でそういうベンチャーが育成されるような社会構造があったかというと、かなりこれは厳しいものがあります。税法上の問題とかいろいろ厳しい問題があります。そういう意味で、非常に日本が不利になったという面がございます。
あともう一つは人材であります。人材に関して、教育システムがこれもまた問題であるということで、次に三の「教育行政」のところにちょっと移らせていただきたいと思います。
この新しいライフサイエンスとか新しいこういう産業を乗り切っていくためには、従来の教育システムでは出てこない人材が必要になってきます。これは非常に重要なポイントです。例えば、そこに「ポリシーを持ったデザイナーとリーダー」と一番最初に言っていますが、やはりこういう戦略をつくっていこうと思いますと、ある一貫したポリシーを持って戦略全体を進めていかなきゃいけない。非常に正しいところに着眼してやっていく、決断する人間が必要である。まずそれが最初に必要です。
それからもう一つは、学際領域の研究者が必要です。例えば、日本ではバイオインフォーマティストというんですが、情報処理の技術を持っているだけではだめで、生物学もわかっていなきゃいけないし、医学もわかっていなきゃいけない。でないと、大規模な情報の山の中から、薬になるところとかそういう正しいデータを掘り起こしていくことはできない。ですから、学際的な研究者とか技術者が必要になってきます。
それからもう一つは、さらにも増して、これが産業につながるためには、ビジネス教育を受けた優秀な科学者が必要になってきます。これは、自然科学の学部を専門のコースとする人たちが、ただ現在のコースを卒業しただけでは全然だめで、卒業してこういう領域に入ってくると、特許法とか特許の実践とか企業化論とか、もう本当に見たことのないような、これは全然違う領域でございます。それで、両方がわかっていないとやはりこういう領域を戦っていけない。
それからもう一つは、知的所有権の問題がございますが、これを戦い抜くためには、やはり戦略的な観点を持った弁理士がいないといかぬ。こういうような人材を育てるためには、特許法を勉強して弁理士資格を取っただけでは全然不十分で、例えば医者のバックグラウンドを持っているとか、分子生物学のバックグラウンドを持っているとかいうような人がそういう弁理士になってもいいかなというふうに私は考えます。
五番目に、それで実際特許を取ったとしても、それから実際の産業を起こしていく上でかなりのバリアがあります。こういう業界を、これは私の造語なんですが、業を起こす産業として起業産業と呼んでいるんですが、この起業産業家、これはベンチャーキャピタルからスタートして、それだけじゃありません、もうずっと最終的に会社の経営に至るまで、こういうようなところの人材がやはり日本では不足しています。
それから、あともう一つは、こういうライフサイエンスが、ゲノム科学が出現してきましてから、高度な技術者とか特殊な技師が非常に必要になってきます。こういうものが、やはり人材が足りません。
まして足りないのが精神教育です。アメリカはよくアメリカンドリームとかいいますが、どうしてジャパニーズドリームとは言われないのかとよく思うんですが、やはりこのライフサイエンスの中で成功する人物が必要になってくる。非常に成功するところですね。この中では、新しい分野を本当に切り開くという人材は物すごくよく働きますし、ハングリーな若者が多いです。そういうのを育てるといいますか、時にはそういう人たちは社会の構造の中にちょっと溶け込めないようなところもあるかもしれませんけれども、そういうような方を、非常によく働く、ハングリー精神のある人材を次のクオンタムジャンプを起こすための人材とする、養成するというような風土が必要じゃないかと思います。
それから、もう一つなんですが、例えば国研とか大学とかそれから特殊法人とか、そういうところの研究でこういう領域をやるためには、やはりどうしてもトップダウン的に予算が決まっていくようなケースもあります。プロジェクトも決まっていきます。ですから、基本的にこういう価値の自己における評価基準を持つ行政官、事務官なんかは必要になってくるというのがもちろんそうです。
私、ちょっと、ぱっとこういうことを聞くと思うのは、例えばジョン・F・ケネディ、彼は偉大な発明をしたという話を聞きました。それは、ノーベル賞をとったメセルソンという科学者がいますが、その現役の科学者を即自分の補佐官にしてしまったということで、即決できるような状況を彼らはつくった、これはJFKが初めてだそうです。
それ以外にも、こういうような人々を養成できる教官、教師自体が現在非常に少ないです、いません。こういうような人材はアメリカには非常に豊富です。また、こういうカリキュラムとか学校、こういうようなものをどんどんつくっていくということも重要なことですが、残念ながら日本にはこういうことを意識した教育システムがありません。本当にこういう学校は、例えば地方大学とか、各県に一校ずつ、かつての医学部のようにあってもいいんじゃないかと僕は思っています。そのような人材を確保した、要するに、こういう問題というのは、行き着くところは人にあり、人材にありというふうに私は考えております。
さて、次の話題に行かせてもらいますが、最近もう一つ注目しなければいけないところがあります。それは、いかにこの領域、非常にハイテクと呼ばれる領域ですが、この領域はすべて特許によってその企業活動が守られます。その特許というのは、このゲノム科学とか新しいウエーブのライフサイエンスが起きてから、全然異なったタイプの特許が出てきています。
それは、例えばゲノムの遺伝暗号をそのまま特許に取ろうとする動きが、初期のころ日本もありますが、アメリカにあります。それが特許になるかどうかということで今大問題になっておりますが、そういうものとか、それから、たんぱく質の構造、この構造というのは、さっき言いましたアミノ酸の配列だけでなしに、三次元の形、こういう形をしているからそういうたんぱく質が機能を持っているんだというようなことでございますが、そういう三次元構造の座標の特許、そういうようなものが特許として認められるのかというのが問題視されました。
こういうDNAの配列の特許がなぜ問題視されるかというと、これをばっと取られてしまいますと、そこから後の創薬とか、全部その中にひっかかってくるわけですね。それで大問題になりました。
また、特許としての質の違いはどこにあったかといいますと、昔から、特許というのは、例えば物質特許といいますと、新しい化学物質をつくって、それの新規性と有用性と進歩性を認めるというようなところに特許の話があったんです。それで、物質に対して特許を与えるというようなところが特許の基本的な考え方です。当然、用途特許とか方法論特許とかありますが、物質ということが基調になっています。ただ、ゲノムの価値というのは、物質というより、DNAに書き込まれている情報そのものが非常に重要な価値なわけです。ちょっと従来のものとは違った質になってきたわけですね。
そこで、アメリカの方は当然、先ほど言いましたように、歴史的にcDNAをたくさん見るとかゲノムをたくさん見るとかいうようなことが先行しておりましたので、こういうような特許をベンチャーを中心として取りまくったわけです。私たちは、結局、その後特許庁会議があり、いろいろありまして、DNAの配列とかたんぱくの三次元構造だけでは特許を認めない、ほぼそういう方向で行っています。それは、新規性と有用性と進歩性、三つの特許を満たす条件のうちの有用性が、遺伝子の機能を見ないと、有用性が解かれなければならない、そうでなければ特許として成立しないというふうになったおかげで、日本としてはそれで一つ安心をしたという形になります。というのは、こういう特許出願を先行したのはアメリカが中心だったからです。
ところが、最近ちょっと私が問題視していますのは、このDNAの配列とかいうことの機能をコンピューターで予測する、それで機能をつけ加えて有用性として特許を認めるというような形がだんだん出てきています。このコンピューター予測というのは、予測は予測でございまして、現実かどうかわからないのでございますが、そういうようなものをベースとして有用性を認めて特許を認めていくということになってきますと、これは従来の特許論争がまた巻き起こるんじゃないかというふうに、現在けんけんごうごうと議論されているところだと思います。非常に重要なポイントです。
その次、五番目ですが、技術ということについて言います。
日本だけでなしに、世界のすべての技術が、こういうゲノムもしくはライフサイエンスの将来のポストゲノムの産業とかを支配します。一般に、科学は技術が到達すべき水準を規定します。また、技術は科学が到達できる水準を規定します。お互いに科学と技術は車の両輪でございますが、技術はやはり科学を引っ張っていく上で極めて重要です。DNA解析技術、たんぱく解析技術、このような技術の基本特許が、これまた残念ながらアメリカから出願されているケースが多いわけです。やはりここは、我が国としても非常に力点を置いて頑張らにゃならぬというふうに考えるところでございます。一番重要な点は、研究者のアイデアとか着眼点は重要でございますが、こういう非常に重要な技術が一つ出ますと、分野そのものが、新しい分野が開ける。科学分野もそうですし、産業市場も新しい分野が開けます。ですから、この技術ということについては、非常に重要に力点を置かなきゃいかぬというふうに思います。
また、最近、アメリカは、実例としまして、二週間ぐらい前ですか、重点的技術のセンターをつくるというふうな記事が出ていました。これはやはり、重点的センター化を一部図らねばならないんではないかというふうに私は考えております。
さて、こういう一連の話をしまして、次世代の科学行政が、じゃ、こういうバックグラウンドにどういうふうにしたらいいかということについてなんです。
六番目の話題ですが、ここ最近、ライフサイエンスに対して日本の国の中でも、世界は当然なんですが、非常に大きな投資がなされています。この投資は、成功したのかどうなのか、そういう結果が出るまで結構時間がかかるということで、皆さんの生活が即変わるような産業がすぐ起きるかというと、そう早くは起きないんですが、ただ、私が考えまするに、国としてライフサイエンスの投資を行うことは断じて正しい選択であるというふうに思います。
各論で、事細かいところで、もしくは局地的、近未来的にはいろいろ方針が揺れたりすることもあるかもしれませんが、この領域は、爆発的な科学的産業的市場をもたらします。それはもう確定的です。ですから、こういうところに投資をするということは断じて正しいというふうに私は考えております。
その基本となる、力を入れるポイントなんですけれども、二つございます。ちょっとここには細かくは書きませんでしたが、一つは、生体内にあります主要構成分子、特にゲノムそれから遺伝子、遺伝子というのはcDNAですね、それからたんぱくを大まかに解明して、そのほとんどを網羅的、横断的に収集する、まずそういう基盤をつくるというようなアプローチがあります。これはまさにゲノム科学なんですが、こういうやり方というのは、現在のところ非常に大きな勝利をおさめております。
こういう網羅的に実行するというやり方、その次のターゲットは何かといいますと、今度は、その三つの構成成分が一体おのおのどのように関連し合っているかということを見つける。これは遺伝子のネットワークですけれども、こういう領域がその次のターゲットになります。これは明らかにそうだというふうに判断されます。
それはなぜ重要かといいますと、例えば、薬が何か効くという観点を見ますと、薬の作用点は必ずたんぱく質であります。遺伝子の産物です。ですから、その遺伝子のどの産物に対する薬をつくればいいかというターゲットを絞り込むためには、自分たちが開発したい薬の効かせたい症状とか病態、それに関与するたんぱく質がどれであるかということを明らかにして、そのネットワークを調べて、それのターゲットを決定してから薬の開発をする、ブロッカーの開発をするというようなことがその次のターゲットとなります。
当然、そういうふうな領域というのは新技術が必要でございます。先ほども言いましたように、技術開発の力点というのが重要になってきます。それが六番目に言うことでございます。
最後に、これは、私は本日どの程度お話ししていいかちょっと決めかねましたので、ここで決めて話をしようと思ったのが、倫理の問題でございます。
ゲノム科学もしくは自然科学、それは、遺伝情報を解読して、体の中にどのような主要構成成分があるか、その主要構成成分全体を眺めまして、そのおかげでどのようなメカニズムである病気になるとか、それから、例えばがん一つをとってみましても、がんという非常に重大な病気は、まずがんになるそもそもの遺伝的な体質というのがやはりあります。例えばそういうようなものを判定したり、判定するというのは、個人の利益につながるような使われ方をしないといけないんですが、予防医学的に使ったり、それから、一たんそういう病気が発症したときに、その予後を判定するためにそういうゲノムの情報を利用して個人個人の診断をするということが非常に重要になってきます。
一般的に、医学を考えますと、こういう個人の利益のために診断をする、情報を得るということは非常に重要なことでございますが、一たんこれが間違った方向にいきますと、やはり個人のプライバシーを侵す大問題になります。
例えば、実際起きている事象、これは日本じゃありません、アメリカなんかで起きている事象でございますけれども、遺伝病の診断をしますと、お父さんが発症するとかいうようなことがありますと、その子供を非常に正確に、的確に、その本人の発症等を予測、言い当てることができるようなケースがございます。一たんそれが、例えば保険がそのリスクを回避するためにそういうような情報を得ようということになってきたりしますと、非常にこれまた大問題が生じます。
そういった意味から、こういう科学を進めるということは非常に重要なことで、ぜひ人類がやらなくちゃいけない、それからまた、人類の福祉とか我々の国民生活の質的な向上のためにぜひやらなければいけないことであるということは間違いないんですけれども、それの使用法、そういうところをやはりきっちりと考えてやっていかなければならないということだと思います。
今ちょうど、ヒトゲノムのドラフトシークエンスが出て、完全長cDNAのシークエンスが出たというような岐路に現時点において我々は立っている。これは今現に、新しいライフサイエンスの産業をつくる、もしくはライフサイエンスの学問を追求するという新しい戦いがもう既に始まっています。こういう時期に来て、まさに、これらの後にどのような科学とか行政、産業が求められるかということをもう一度見直して、皆さんで考える時期が来たのだというふうに考えております。
ちょっと早いですが、中山先生初め憲法調査会の先生方に、本日お話をさせていただく機会を与えてくださいまして、非常に深く感謝します。ありがとうございました。(拍手)