春名直章の発言 (憲法調査会)
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○春名委員 日本共産党の春名直章でございます。
憲法調査会が発足して一年半が過ぎました。この間、二十一世紀の日本のあるべき姿をテーマにした参考人質疑と、仙台市と神戸市での地方公聴会が開催されました。その中で何が明らかになり、何を今後の本調査会の調査に生かすべきか、このことを中心に発言したいと思います。
改めて申し上げますが、本調査会は、日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行うことを目的としたものです。改憲のための調査機関ではありません。にもかかわらず、これまでの議論では、論憲だけに終わるのではなく、憲法改正の素案づくりまでこの調査会でやるべきなどの発言が繰り返し行われ、参考人への質疑もこうした立場で行っておられる同僚委員もいらっしゃいます。
しかし、この間の仙台市と神戸市の二回の地方公聴会で感じたことは、地方公聴会に出てこられた意見陳述人や傍聴者の多くの方々が、憲法をどう変えたらいいかではなくて、憲法の理念を現実の社会にどう生かしていくのか、このことを各人が模索し、苦労しながら実践されているということではなかったでしょうか。つまり、改憲志向と地方、国民の側の憲法意識には大きな乖離があるということが明らかになったと思います。
例えば、議論の焦点とされている憲法第九条についても、本調査会では少なくない委員の方々が九条の明文改憲を主張し、また、今日では、小泉総理も集団的自衛権の行使についての研究を提起しておられます。
しかし、仙台公聴会では、九条は今後ますます輝きを増してくる性質のものとの志村憲助東北大学名誉教授の意見。九条というのは教師の夢とロマンを語っていく、あすの日本の若者を育てるにはとても大切な条文という濱田武人弘前学院聖愛高校教諭の意見。それから、日本国憲法が一番すぐれているのは九条。基本的人権、自由、民主主義、社会権、生存権が見事に一体的なユニットをなして構成されているところが日本国憲法のすぐれたところとの小田中聰樹東北大学名誉教授の意見など、九条への思いとその先駆的な内容についてこもごも語られました。
さらに、神戸公聴会では、貝原俊民兵庫県知事の平和の技術の開発による国際貢献、浦部法穂神戸大学副学長の国家の安全保障から人間の安全保障への転換など、憲法の恒久平和主義に根差した積極的な提案がなされたのであります。
ことし五月二日付、朝日新聞世論調査でも、七四%の国民が憲法第九条は変えない方がよいと明確に答えております。本調査会での議論と国民意識との間に大きなギャップがあることを指摘せざるを得ません。
首相公選制についても、本調査会でたびたび論点の一つに取り上げられてまいりました。
仙台公聴会では、手島典男仙台経済同友会代表幹事が、議院内閣制においても立派な首相は選ばれる、憲法を変えてまで公選制に踏み切る必要があるのか疑問と述べられました。神戸公聴会でも、三人の自治体首長が、分権というものがはっきりしていないということでは公選制について少し早過ぎるのではないかと述べるなど、いずれも、首相公選制を論点に憲法論議を行うよりも、憲法理念に沿った地方分権の充実など、もっとやるべきことがあるはずという趣旨の意見が述べられたのであります。
国民の権利についても、本調査会では、知る権利、環境権などの新しい人権を加えることを改憲の論点の一つとして取り上げられることがあります。地方公聴会では、憲法にうたわなくても情報公開が不可能でないことは既に実証されているとの鹿野文永鹿島台町長の発言など、憲法の豊かな人権規定の中にこれら新しい人権も内包されているということが語られてまいりました。
むしろ、本調査会が今日注目しなければならないのは、去る五月の十一日、国の強制隔離政策は憲法違反と断罪したハンセン病の熊本判決であります。この判決は、強制隔離政策は、住居移転の自由を包括的に制限し、奴隷的拘束などの禁止を定めた憲法十八条よりも広い意味での人身の自由や、さらにはより広く憲法十三条に根拠を持つ人格権そのものに対する侵害であると判示しているのであります。そして、こうした人権侵害の隔離政策の継続を許してきた国会の立法不作為責任をも厳しく問うたのであります。
先日、国会は全会一致で謝罪決議を行いました。その国会に設置された憲法調査会として、今、日本国憲法のもとでの人権状況を調査することが何よりも強く求められていると考えます。生存権、労働基本権、財産権、教育権などの基本的人権がどうなっているのか、どういう状況に置かれているのか、憲法の視点からの現行の法制度あるいは運用の実態などを徹底して洗い直すことが本調査会に課せられた使命であります。
このことは神戸での地方公聴会でも多くの意見陳述者から提起されたことでもあります。神戸では、憲法二十五条の生存権規定からも、さらに十三条の個人の尊重という憲法の基底的な原理からも、当然要請されていた被災者に対する公的支援が実現されてこなかったことの問題が語られました。神戸で公聴会を開催したことが意義あるものになるためにも、公的支援の実現を阻害している要因についてぜひ本調査会で明らかにすべきだと思います。
長引く不況とリストラ、最悪の失業、連続する社会保障制度の改悪など、私たちは憲法の生存権を踏みにじるものだと批判してまいりました。国民の生きる権利そして国の責務は、憲法二十五条に照らしてどういう状況にあるのか、これが今調査の対象だと思います。読売新聞、四月五日付世論調査では、生存権が守られていないと実感している国民が、二十三年前の同調査の二四%から三六%へと急増しており、守られているの一六%を大きく上回ったことを報道しております。生存権を初めとした国民の権利の実態調査を本調査会で本格的に行うべきだと私は思います。
今、本調査会に関心を寄せている国民からは、本調査会がまるで憲法改正のために調査を行っているかのようなその様子に憂慮する意見が出され、地方公聴会開催に当たっても、国民の意見を十分聞く機会もない公聴会は形式的で、改憲のための道筋をつけるために開催しているのではないかとする厳しい批判の意見が少なくなく寄せられております。
そして、憲法調査会は、本来憲法改正を目的とする機関ではなく、憲法調査というのであれば、憲法の基本である平和主義、基本的人権の保障、民主主義などが現実の社会で実現されているのか否か、現実の社会では憲法の理念が十分に生かされていない実態やその原因を調査すべきであるとの意見も寄せられております。
中山会長も日ごろから、憲法は国民のためにあると述べておられます。今こそこうした国民の意見に真摯に耳を傾け、国民の目線に立って調査会の調査のあり方や内容を見直していくことが必要であると強く痛感をするものであります。
このことを主張いたしまして、私の発言といたします。ありがとうございました。