倉沢康一郎の発言 (国土交通委員会)
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○倉沢参考人 武蔵工業大学の倉沢と申します。
本委員会で意見を申し述べる機会を得ましたことをまことに光栄に存じます。
私が会長を務めております自動車損害賠償責任保険審議会では、昨年六月、自賠責保険制度に関しまして、今回の法案にも盛り込まれている政府再保険の廃止や保険金支払いの適正化のための措置の必要性などを盛り込んだ答申を行っております。本日は、この答申の内容も踏まえつつ、今回の自賠責制度の改革について意見を申し述べさせていただきます。
まず、自賠責制度に関する基本認識についてでございますけれども、我が国における交通事故の状況を見ますと、急速なモータリゼーションの進展などを背景に、交通事故件数、死傷者ともに昭和四十年代半ばまで急激に増加いたしました。政府による交通安全対策の実施等により、昭和五十年代前半に事故件数などは一時減少しましたが、それ以降再び増加に転じ、近年一貫して増加傾向にあります。こうした状況を踏まえますと、交通事故被害者の救済の必要性というものはますます高まっていると考えております。
自動車損害賠償責任保険は、昭和三十年の自動車損害賠償保障法の施行からスタートいたしまして、交通事故の被害者に対する損害賠償の保障と健全な自動車運送の発展ということを保障する制度といたしまして、殊に被害者の救済に大きな役割を果たしてきております。
この制度は、制度成立のときから他国に比しても非常にすぐれた制度であると言われておりまして、この基本的な立法の趣旨、精神というものは今も妥当性を持っておりますが、この半世紀の間に自動車交通をめぐる社会経済情勢の変化ということがございますので、これを時代に合わせて、その目的を一層実現すべき時期に来ておると思っております。
具体的な制度の内容についてですけれども、まず、我が国の独自の制度として、強制加入の自動車損害賠償責任保険と任意の自動車保険という二本立て制度になっております。自賠責保険は加入が義務づけられて、そして、契約内容が自賠法という法律で画一的に法定されており、すべての車種、契約者に同一の担保内容となっておりまして、その支払いは、迅速な被害者救済が図られるよう定型、定額的な支払い基準により行われております。また、保険料水準も、保険会社に利潤を認めないノーロス・ノープロフィット原則が法律に定められておりまして、低い水準に抑えられてきております。
この強制加入保険というものは、法律上の定型化された内容によって、自動車の人身事故の被害者、つまり保険契約関係でいえば第三者に当たりますけれども、その被害者の方の基本補償を確保するという役割を果たし得るものと思います。
一方、任意保険では、契約者が担保内容や各種サービスを任意に選択することが可能となっており、このように、それぞれ異なった性格を有する自賠責保険と任意保険が今後も相互に補完し合って機能していくことが適当だと考えております。
この任意保険の部分で、自動車を運行する者が、自分が負うかもしれない法的な賠償責任負担というリスクに対する自助的なライフプランというものを保険会社の競争の中から選べるということになろうかと思います。
次に、保険給付水準についてでございますけれども、自賠責保険の保険金限度額は、従来、任意保険の普及状況等を踏まえつつ、加害者が任意保険に未加入の場合でも基本補償を確保するという観点から改定されてきております。
現行、死亡三千万、傷害百二十万という水準ですけれども、この保険金限度額については、これによって相当程度の賠償金額がカバーされており、基本補償としての自賠責保険の性格を踏まえれば、基本的に適当な水準であると思っております。つまり、先ほど申しました二本立て制度におけるメリットを加入者が利用する接点としては妥当な額であると思っております。
それから、政府再保険制度の廃止についてでございますけれども、政府再保険制度は、昭和三十年という敗戦後間もない立法当時、保険金の支払いに関する危険の一部を国が負担するということが適切であるという点が第一点で、それからさらに、被害者保護の観点から保険金の支払いを国が審査することが適切、殊に、強制加入の自賠責保険の果たす機能という、全く新しい制度でございますので、そのチェックのシステムとして国が審査することが適切という理由から、この制度の創設当時から実施されてまいりました。
しかしながら、近年、保険会社の担保力が向上してきていること、それから保険金支払いの適正化については、本来それは別の問題であって、政府再保険以外の形によっても実施が可能であればこれに代替し得ると考えられることなどから、政府再保険自体は、私は現状において廃止しても問題ないというふうに考えておりますし、昨年六月の答申にもその旨を盛り込んでおります。
次に、保険金支払いの適正化についてですけれども、年間百万件を超える自賠責保険の支払いは総じて適切に行われているというふうに認識しておりますけれども、もちろん、一部に保険金支払いに関するトラブルが生じているのも事実であります。
このため、政府再保険の廃止について自賠責審議会において議論を行った際にも、保険金支払いの適正化をいかに図るかが議論になりました。被害者の方々も、保険金支払いの適正化を図るためには、信頼の置ける公正な第三者が保険金の支払いに関する紛争処理に当たる仕組みを整備する必要があるというお考えを述べておられます。また、死亡事案や重度後遺障害事案など、一定のものについては引き続き国がチェックを行うべきであると考えております。
それから、自賠責保険の運用益についてでございますけれども、現在国において再保険の運用益を活用して被害者救済対策や交通事故防止対策が実施されており、交通事故の状況が深刻化する中、これら被害者救済対策などの事業の重要性は一層高まってきておると考えられます。
他方、自賠責保険は、保険制度でございますので、国と保険会社に残る運用益を財源として、本来取るべき保険料水準よりも低い赤字保険料率が設定されて、自動車ユーザーの保険料負担の軽減が図られております。
この再保険の廃止に当たっては、その時点で国に残っている運用益について、これまでも充ててきた自動車ユーザーによる保険料負担の軽減と被害者救済などの対策の実施の双方にバランスよく配分することが必要と考えられます。
今回の政府法案では、運用益の二十分の九を被害者救済等の対策に、残る二十分の十一をユーザーによる保険料負担の軽減に充てることとしており、これはバランスのとれた配分であろうと考えます。二つの目的に割り振って、しかもこの運用益が保険契約者の払い込んだ保険料の果実であるという点を加味すると、これはバランスのとれた配分であろうと考えます。
最後に二つだけ申し上げます。
今回の法案は、自賠責審議会の場でも、多くの関係者が長年真剣な議論を重ねて、必要な調整を行ってきた結果を反映させていただいておりまして、高く評価しております。
この法案の成立の暁には、以上申し上げた観点から、適切な運用が行われることを期待いたします。
どうもありがとうございました。(拍手)