神田秀樹の発言 (法務委員会)
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○参考人(神田秀樹君) 東京大学の神田と申します。どうぞよろしくお願い申し上げます。
大変恐縮でございますが、着席してお話をさせていただきたいと思います。
本日は、本委員会におきまして意見を述べさせていただく機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
早速、私の意見を述べさせていただきます。
今回の二つの法案、すなわち衆法第二六号というのでしょうか、商法等の一部を改正する等の法律案と、そのいわゆる整備法であります衆法第二七号の法律案、いずれにつきましても、私はその内容は妥当なものと考えております。したがいまして、二つの法案の速やかな成立を望みます。
今回の二つの法案の内容は多岐に及んでいますので、そのすべてについてここで深く私の意見を申し述べることは残念ながらできません。そこで、以下では、私がポイントと考えます点につきまして、私の意見を述べさせていただきます。
衆法第二六号であります商法等の一部を改正する等の法律案でありますが、これは大別して二つの柱から成っております。第一の柱は、いわゆる金庫株の解禁という内容であります。第二の柱は、いわゆる株式の単位についての改正を中心とする内容であります。
お手元に一枚紙のレジュメを配付させていただきましたので、その項目に沿ってお話をさせていただきます。
まず、第一の柱であります金庫株の解禁でありますが、これは法律上の言葉で申しますと、自己株式の取得及び保有の制限の見直しということになります。
自己株式の取得及び保有についての現在の商法の規制は大変に複雑であります。それは、考え方としましては、自己株式の取得を原則禁止とし、一定の場合に一定の条件のもとで例外を認めるという考え方に立った上で、平成六年の商法改正以降、平成九年のストックオプション制度を導入した商法改正、さらには平成九年に制定され、その後改正もされてきておりますが、株式の消却の手続に関する商法の特例に関する法律、以下、株式消却特例法と呼ばせていただきます。こういった法律なども加わりまして、例外的に自己株式を取得できる場合についての規定が極めて複雑に整備されてきた結果であります。
平成六年改正以降、例外的に自己株式の取得が認められる場合につきましては、六つの面で規制が設けられてきました。そこに書かせていただきましたように、第一に取得の目的の規制、第二に取得の手続の規制、第三に取得の方法の規制、第四に取得の財源の規制、第五に取得の数量の規制が設けられています。そして、第六に、取得した自己株式については保有期間の制限があります。なお、消却目的で取得する場合には数量の制限はないなどの例外も設けられてきました。
今回の法案ですが、こういった複雑な規制を整理して、商法の観点から一貫した考え方に立った上で、今申しましたうちで第一の取得の目的の規制と第五の取得の数量の規制、それから第六の取得した自己株式の保有期間の制限、これを撤廃するものであります。すなわち、自己株式の取得は、取得の手続、取得の方法、取得の財源という三つの規制のみで統一的に行うこととするわけであります。他方、取得して保有する自己株式の処分につきましては、原則として新株発行の手続によるものとすることを提案しています。
従来、自己株式の取得を原則として事前に予防的に禁止することとしてきた趣旨は、おおむね四つの政策的理由からであると言われてきました。すなわち、第一に会社資本の充実・維持を害するおそれがあること、第二に株主平等原則を害するおそれがあること、第三に会社支配の公正を害するおそれがあること、第四に不公正な取引が行われるおそれがあることであります。
しかしながら、これらの理由は、現行商法のような強い事前の規制を正当化するものではありません。第一の会社資本の充実・維持を害するおそれは財源の規制で対処できますし、第二の株主平等原則を害するおそれは手続と方法の規制で対処できます。第三の会社支配の公正を害するおそれ、これにつきましても手続と方法の規制で対処できます。第四の不公正な取引が行われるおそれについてでありますが、これにつきましても商法としては手続と方法の規制で対処でき、また不公正な取引は特に公開会社の場合に問題になるわけでありますが、それに対しては証券取引法の規制の整備で対応できるわけであります。
会社が発行済み株式が多過ぎると判断するような場合には、その自己株式の取得を行うということは経済合理性のあることであります。弊害のおそれということだけで一律に事前にこれを禁止することは、今日の企業を取り巻く環境の変化を背景といたしますと行き過ぎであります。株式市場の活性化という観点からも、会社のファイナンスにつきましては、財源、手続、方法の規制という必要な規制を施した上であれば、自己株式を取得するかどうかといった判断も会社の判断にゆだねるということが妥当な政策的な判断であると言うべきであります。
他方、現在の商法は、自己株式の取得が例外的な場合に限られるということを前提といたしまして、取得して保有する自己株式について保有期間を規制する一方で、処分する手続については特に規定を設けておりません。しかし、一方で保有期間を規制する必要はなく、必要に応じてその利用、すなわち保有する自己株式の処分を認めた方が、例えば株式を消却してその後にまた新株を発行するといったことをするよりも事務的な負担が少ないなどのメリットがあります。したがいまして、そのようないわゆる金庫株を認める、すなわち自己株式をいわば金庫に入れておいて出し入れ自由とする。そうする一方で、むしろアメリカにおける取り扱いのように、会計上は保有する自己株式の資産性を否定するということが妥当であります。
そして、他方におきまして、自己株式の処分につきましては、その経済実態は新株発行と同様の面がありますため、既存株主の保護等の見地から、原則として新株発行と同様の手続にすべきであります。
今回の法案は、以上申し上げましたことのすべてを実現しようとするものでありまして、商法の見地から申しますと、繰り返しになりますが、自己株式の取得を、取得の手続、取得の方法、取得の財源という三つの規制で横断的、統一的に取り扱うこととするという極めて妥当な内容のものであります。その結果、株式消却特例法は廃止するということになります。
なお、二点つけ加えさせていただきたいと思います。
第一に、自己株式の取得の財源の規制でありますが、これは資本維持、すなわち会社債権者保護の見地から、原則として配当可能利益からの取得ということになります。しかし、法定準備金を取り崩すことによってそれを財源とする方法も認めることとしております。より一般に法定準備金の減少というこれまで商法が認めてこなかった手続を今回認めようとしております。この点につきましては、現在の商法が資本の減少ということは認めながら、法定準備金の減少ということについて何ら規定を置いてこなかったことの方がバランスを欠いており問題でありまして、今回の法案が、法定準備金の減少について、その限度を資本の四分の一までとするという制限を設けるとともに、現在の商法の資本の減少の手続と同じ会社債権者保護の手続を要求した上でこれを認めようと提案していることは、妥当な改正案であると私は考えます。
第二に、証券取引法の方の手当てでありますが、これは特にインサイダー取引規制と相場操縦規制の強化が求められます。これらにつきましては衆法第二七号の整備法案の方で必要な手当てがなされております。
インサイダー取引規制につきましては、既に平成六年の商法改正で自己株式取得規制が緩和された際に手当ての枠組みが用意されておりまして、今回はその枠組みに必要な追加を施しております。相場操縦規制の方でありますが、これは今回きちんとした規制の導入が予定されております。これは、具体的には整備法案の十一条による証券取引法百六十二条の二という新しい条文の新設であります。
以上が金庫株の解禁に関する部分でありますが、次に、株式の単位の改正を中心とする部分について、私の意見を申し述べさせていただきます。
現在の商法は、昭和五十六年の改正によりまして、株式の単位といいますか、株式の大きさといいますか、こういうものについてこれを五万円とするというぐあいに一律に法が規制しております。これはなぜそうかといいますと、昭和五十六年改正当時、一律に法でこれを強制しないと対応できないという事情があったからだと言われています。しかし、今日では環境は変化いたしました。法で一律に単位を規制する必要がなくなったばかりか、そのような一律の規制があると、株価が高騰したベンチャー企業などが株式分割を行うことができないという不都合までが現実の問題として出てまいりました。
そこで、今回の法案は、株式の単位を一律に法で規制してきたことをやめにいたしまして、そのかわりに、議決権との関係では個々の会社が原則として自由に単位を決められることにしようとするものであります。株式の単位を廃止いたしますので、単位株制度もその存在意義を失い、終結すべきことになります。かわりに、単元株制度と法案では呼んでいますけれども、議決権との関係で個々の会社が自由に定款で単位を設定、単元ですが、設定できる制度を提案しております。いずれも妥当な内容であると私は考えます。
そのほかにも、関連して重要な改正が幾つか含まれております。
例えば、第一に、額面株式制度の廃止ということがあります。額面株式の額面というものは、今日では商法の観点から申しますと意味を有しておりません。したがいまして、今回の改正は妥当なものであると考えます。
第二に、単元株制度を導入することとの関係もありまして、現在の商法が発行済み株式総数としているもののうち支配に着目すべきものは端的に議決権と規定することにしています。ちょっと抽象的でわかりにくいんですが、具体的に申しますと、例えば親会社、子会社の定義というものが例として挙げられます。現在の商法では、発行済み株式総数の過半数の保有ということを基準として親会社、子会社を定義しております。今回の改正案では、議決権の過半数が基準ということになります。これも妥当な改正であると考えます。
第三に、多少系統が違いますが、新株発行の際に市場価格のある株式を公正な発行価額で発行するときは、発行価額そのものではなく、これにかえて発行価額の決定の方法を取締役会決議で定めてこれを公告すればよいことにしています。法案による改正後の商法二百八十条ノ二第五項という規定でございます。これは、従来から実務上ネックになっておりました公募増資手続をスムーズに行えるようにするための改正でありまして、極めて妥当な改正であります。
以上、今回の二つの法案につきまして、ポイントと私が考えます点についての意見を述べさせていただきました。最初に申し述べましたように、私は二つの法案の内容はいずれも妥当なものと考えておりまして、その速やかな成立を望みます。
なお、私は、今回の改正ではまだ物足りないと考えている点が若干ございますので、それらの点について最後に簡単に申し述べさせていただきます。今後の検討課題としていただけましたらまことに幸いでございます。三点ございます。
第一点は、子会社による親会社株式の取得の規制であります。
これは、今回の法案では変更ありません。すなわち、現行商法どおり原則禁止のままということになります。その理由は、うまく財源規制がつくれない等の点にあるものと推察いたします。しかしながら、これは自己株式の取得が原則自由になることと比較いたしますと余りに厳しい結果となるわけでありまして、バランスが悪いということがあります。また、実際にも、子会社を利用した株式と株式の交換による企業買収など、子会社が親会社株式を取得する合理的なニーズがある場合が多々存在いたします。したがいまして、将来的には、何とか知恵を出していただいて、子会社による親会社株式の取得についても自己株式の取得と同じ程度までは事前規制の緩和を御検討いただきたいと思います。
第二点は、公開会社が自己株式を取得する方法の規制についてであります。
今回の法案は、相対での取得、すなわち特定の株主からの自己株式の取得を認めることにしていますが、他の株主にも売却の機会を与えることとしています。これは、非公開会社の場合についての現在の商法の規定に倣って株主平等原則を確保しようとする趣旨であると推察いたします。それはそれで筋は通っているわけでありますけれども、しかしながら他の株主に売却の機会を与えるのではいわゆる持ち合い株式を消すことができません。これは、株式持ち合いの解消を進め、株式市場を活性化することを妨げることになります。
公開会社の株式の場合には市場価格があるわけでありますから、市場価格での自己株式の取得であれば他の株主に売却の機会を与えなくてもよいことにすべきであると私は考えております。他の株主に売却の機会を与えるというような規制はどこの国にもありません。また、新株発行の場合には、市場価格であれば特定の第三者に発行することが認められていることとのバランスからいいましても、市場価格での自己株式の取得であれば他の株主に売却の機会を与えなくてもよいこととすべきではないかと私は考えます。
第三点は、今申し上げました第二点と関係いたしますが、株式市場の活性化という観点から申しますと、アメリカで最近よく利用されております自社株プットオプションというものが日本でも利用可能にすべきであると私は考えております。自社株プットオプションといいますのは、一定期間経過後のオプション行使期間に、ある会社、例えばA会社といたしますが、そのA社の株をそのA社に売るという権利であります。A社の経営者は、自社の株価が割安に放置されていると考えれば、時価より高いプット行使価格を設定したオプションを投資家に販売し、対価を得ることができます。株価が行使価格を超えて上昇すればオプションは行使されませんので、会社はいわばもうかることになるわけです。このA会社の株主にとりましては保有株のヘッジ手段にもなります。すなわち、プットオプションの行使価格が株価の下支えになるわけであります。
このような自社株プットオプションも、オプションが行使された際には会社は相対で自己株式を取得することになります。したがいまして、先ほど述べましたように、他の株主に売却の機会を与えていたのではこのような自社株プットオプションは使うことができません。したがいまして、将来的には、こういった点につきましてもぜひ前向きの御検討をお願いいたしたいと思います。
以上で、私の意見の陳述を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。