島聡の発言 (憲法調査会)
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○島委員 基本的人権の保障に関する調査小委員会における調査の経過及びその概要について御報告申し上げます。
本小委員会は、計五回の会議を開きました。それぞれの回につきまして、参考人をお呼びしてまいりました。
二月十四日、第一回は、成城大学法学部教授棟居快行君から、新時代の人権保障について、三月十四日、第二回は、成蹊大学教授安念潤司君から、外国人の人権について、四月十一日、第三回の会議では、広島大学法学部長阪本昌成君から、新しい人権について、五月二十三日、第四回では、日本政策研究センター所長伊藤哲夫君から、基本的人権の保障について、さらに、七月四日の第五回の会議では、日本労働組合総連合会事務局長草野忠義君から、労働基本権と雇用対策について、それぞれ御意見を聴取いたしました。
各回の会議における参考人の意見陳述の詳細につきましては、小委員会議録を参照いただくこととしまして、概要のみ簡潔に申し上げます。
棟居君からは、
現行憲法の特徴と限界について、
西欧的・古典的自由主義理念に二十世紀的な社会権規定を接合しており、両者の体系的な統合に成功していない、
経済的自由に関し、行政主導の積極規制を判例や学説も容認してきたため、本来の理想である自由主義経済体制が現実化しなかった、
精神的自由が公民の権利としてとらえられておらず、民主主義との関係は希薄になった、
人権保障に関しては、国家対国民という内向きの保障のみとなっている、
私人間関係における人権保障が不十分である等の意見が述べられました。
そして、現行憲法の課題としまして、国家が積極的に自由を保障する国家による自由の必要性、旧来の人権の分類の枠を越えた複合的な人権の理念の必要性、人権の国際的保障と国内的保障の連携の必要性、憲法による国家、市民社会、個人の三面的関係の保障の必要性等について意見が述べられました。
安念君からは、
判例、学説は、外国人は憲法上の権利を享有するが、それは外国人在留制度の枠内で与えられたものにすぎないとしているが、外国人には入国や在留の権利がない以上、憲法上の権利を享有しないと解するのが妥当であるとの意見が述べられました。
そして、外国人を法律によって日本人と同等に扱うことは可能であること、国籍は法律によって定められるので、日本人の地位でさえも憲法上はあやふやであることから、外国人にも日本人と同じ権利をできるだけ認めるべきだとの意見が述べられました。
また、憲法を改正して外国人の地位を明記すべきではないかということに対しましては、抽象的な規定にならざるを得ず、その具体的内容は裁判官が判断することになる、法律によりこれを定めることにしますと判断は国会が行うことになるわけでありますから、試験に合格した裁判官の判断よりも、有権者の代表である国会議員の判断に任せた方がいい、そういう考えであるという話が述べられました。
阪本君からは、
近代立憲主義において確立した公的領域を支配する公法と私的領域を支配する私法との峻別を維持した上で、私的領域における問題の解決は私法にゆだねられるべきである、
人権は、公的領域における国家に対する不作為請求権または妨害排除請求権を意味する自由権を中核として理解すべきであるとの認識のもとに、プライバシー権、自己決定権等のような、一般に新しい人権として挙げられている法益は、私権または私法上の法処理により保護することができるので、あえて基本的人権とする必要性が低いとの意見が述べられました。
そして、新しい人権を憲法典に組み入れる場合の留意点として、
私的自治等にゆだね得る論点について国家が介入し、あえて憲法的に解決を図るとすれば、人権のインフレ化、統治の過剰、社会の国家化等を招くおそれがある、
それゆえ、私権または私法上の法処理によって法益保護を図るべきであり、そのような私法上の法処理ができない場合には、法律の制定による解決を第一順位とすべきである、
新しい人権を憲法上の権利として認定するには、その権利が高優先性を持ち、その外延と内包が明確であり、相手方の憲法上の自由を不当に制限しない等の要件を満たす必要がある等の指摘がなされました。
伊藤君からは、
基本的人権とは、人が人であることに基づいて生まれながら当然に有する前国家的な自然権であって、日本国憲法もそれを前提としているとの通説的見解に対する批判がなされた上で、権利とは、共同体の歴史、文化、伝統の中で徐々に生成されたものであり、その背景には共同体独自の法の精神が存在すると解すべきであって、自然権論から脱却する必要があるとの意見が述べられました。
そして、平和で秩序ある国家があって初めて権利が保障されるのであるから、公共の福祉の解釈に当たっては、国家及び公共の利益や道徳の明確な位置づけが必要であるとの意見が述べられました。
さらに、みずからの国をみずから守ることが民主主義の基本原則であることから、国防の義務を憲法に明記し、また、家族を保護するために家族の尊重に関する規定を憲法に明記すべきであるとの意見が述べられました。
草野君からは、
憲法二十八条は団結権、団体交渉権及び争議権を保障しているにもかかわらず、公務員の争議行為が法律で禁止されていることは問題であり、これに取り組んでこなかった政府の姿勢は今や国際的にも批判されているとの意見が述べられました。
また、憲法二十七条一項は、政府に、
一、国民が完全就業できる体制をつくること、
二、失業者に就業の機会を与えること、
三、失業者に生活資金を給付することを義務づけていると解釈できることから、政府はこれらの趣旨を踏まえた雇用対策をとるべきであるとの意見が述べられました。
その他、職場での男女の不平等、過労死、セクシュアルハラスメントなどを防止するための法整備の必要性等について意見が述べられるとともに、雇用平等、職業能力開発等の新しい労働権等についても検討が必要であり、憲法調査会において、労働権及び社会権について十分審議を深めるよう求める旨の意見が述べられました。
このような参考人の意見を踏まえまして、質疑及び委員間の自由討議が活発に行われました。
そこで表明された意見を小委員長として総括するとしますと、日本国憲法の基本的人権の保障に関する規定は、諸外国と比べても、質、量ともに極めて豊富な、先駆的な意義を有するものであるとする指摘があることは認めます。しかし、その一方、科学技術、経済等の著しい発達、国際化の急速な発展等を背景にしまして、国家、社会の枠組みが激しく変化している現代であります。国家、社会を構成する人々の基本的人権の保障のあり方も、従来の観点のみからだけではなく、多角的に検討する必要がある旨の指摘が非常に多く見られた、私はそう思っております。
例えば、知る権利であるとか環境権であるとかプライバシー権であるとか、そういうような議論が多くなされました。
今後は、この基本的人権、憲法には人権と統治の二部の章がございますけれども、できるだけ、今度は人権の各条文にわたって一つずつ精査して、その中に、例えば環境権が入っているとか、知る権利が入っているという議論もありましたけれども、各条文をきちんと精査して、本当にそれが入っているかどうかということもきちんと議論していく段階に入っていると思います。
二十一世紀における人権保障のあり方についてはさらに議論を深めていって、本当にこの日本国憲法、もちろんすばらしい憲法でありますが、時代に適合する形で徐々に議論をし尽くしていくべき、そしてまた、改正も十分考える時期にあるのではないかということを小委員間の議論の中で感じた次第でございます。
以上です。