葉梨信行の発言 (憲法調査会)
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○葉梨委員 自由民主党の葉梨信行であります。
自由民主党の発言時間の枠内で二枠分、十分間で発言をさせていただきます。
ただいま四小委員長から各小委員会における調査の経過及び概要について御報告がございましたが、私ども衆議院の憲法調査会では、これまで、日本国憲法の制定経緯、戦後の主な違憲判決、二十一世紀の日本のあるべき姿と調査を進めてまいりまして、この国会からいよいよ小委員会による個別論点の調査に入ったわけであります。
私は、基本的人権、国際社会、地方自治と三つの小委員を兼ねておりますが、政治機構の小委員会にも毎回出席し傍聴しておりますので、自分なりに全体を総括して、一言感想を申し述べたいと思います。
まず、端的に申し上げまして、四つの小委員会いずれにおきましても、憲法の各条章について突っ込んだ御意見を聞くことができ、また、自由討議では小委員間の意見の応酬などもあり、大変に実りの多い調査のできた会期であったと思っております。
その中でも特に印象に残りましたのは、基本的人権小委員会において、権利と義務に関して御意見を述べられました伊藤哲夫参考人の御発言であります。伊藤先生は、国家に対するさまざまな義務規定を設けている中華人民共和国憲法に言及しながら、憲法にさまざまな義務規定を置く必要はない、ただ一点、国防の義務を規定すれば足りると断言されました。
伊藤先生の言われるこの国防の義務は、いわゆる兵役の義務とは区別されるもので、その趣旨は、公に対する最大の義務は、国家の存立が危うくなったときに、国民としてそれを守ること、すなわち、みずからの国をみずから守ることは民主主義国家の最大の国民連帯の精神である、それが端的にこの国防の義務にあらわれている、そういった趣旨であったかと存じます。いずれにいたしましても、大変示唆的なお話であったと承りました。
政治機構小委員会での議論では、八木秀次先生の明治憲法に関するお話が印象に残っております。八木先生は、今日、明治憲法は甚だ評価が低いものとなっているが、その政治体制は民主的な立憲君主制であり、明治憲法から今なお学ぶものは多いこと、また、憲法論議は国柄に関する論議でなければならず、明治憲法は、海外各国の成法という普遍的な価値とともに、建国の体、すなわち国柄という我が国の特殊性を融合させたものであることを述べられましたが、これらの御発言には深く感銘を受けました。
これまで、国会の場で明治憲法を議論すること自体が反動的と指摘される雰囲気すらあったように思いますが、各会派から特段の御反対もなく、何のタブーもなくこのような議論ができるようになったことは、この憲法調査会の堅実な調査のたまものであるかと存じます。
また、この政治機構小委員会では、首相公選制や両院のあり方に関する議論もなされました。首相公選制につきましては、私自身は、昨年の海外調査におけるイスラエルの首相公選制の調査などにかんがみて、その導入には否定的で、導入論者の説く首相あるいは政治家のリーダーシップの強化は、現在の議院内閣制のシステムの中で発揮すべき事柄だと考えております。
要するに、首相選挙においてあらわれた民意と議会選挙においてあらわれた民意との間にギャップが生じた場合どうするのか。イスラエルでは、小党分立を招来し、結局は、政党の野合による政権運営によって、民意から離れた政治が行われることとなったわけであります。イスラエルでは、次回から、首相は、前に戻りまして、議会で選出されることとなっていると聞いております。
もちろん、現在の議院内閣制の運用については、内閣と与党の関係をどうするか、政党の規律というものをどう考えるかなど、検討すべき課題は多いと思いますが、この国会での政治機構小委員会での議論でも、東大の高橋和之先生の言われる国民内閣制的運用など、いろいろ示唆的な発言があったように思われます。
なお、その際には、立法府の優位性と三権分立の関係といった根本的問題にも検討が及ぶことになりましょう。
ところで、首相のリーダーシップの強化の根底にある政権の安定といったことを考えた場合、ある程度の任期を首相に保障するような制度的仕組みを講ずることが重要かと存じます。すぐに成果を出さないと、与党内からも首相の足を引っ張るような動きが出てくる政治風土と申しますか議院内閣制の運用がなされておりますと、首相サイドとしても、目に見える成果を性急に出そうとする余り、落ちついた政権運営、政策展開ができない状況になってしまいます。現在の小泉内閣を見ておりますと、若干そのような感じがいたしております。
憲法の問題であるのか運用の問題であるのか、議院内閣制のもとにおける安定した政権運営を担保するような憲法上の仕組みを講ずることも、課題の一つかと存じます。
また、両院制のあるべき姿についてもさまざまな議論がなされました。私は、より的確な民意反映の観点から、衆議院と参議院の機能分担を明確にするべきこと、そして、その前提として、衆参の議員の選出方法に違いを持たせるよう工夫すべきであると考えます。参考人及び委員の御発言を伺っても、この点については大方の御賛同をいただけるものと確信いたしております。
地方自治小委員会では、市町村合併や地方財政問題など多岐にわたる議論がなされました。
参考人のお一人としてお呼びしました鳥取県の片山善博知事は、私が自治大臣を務めていたときの秘書官だった方でありますが、その活躍ぶりには改めて感心させられました。二期八年全力投球すれば、アイデアとかエネルギーは枯渇するのではないか、アメリカの大統領が三選禁止されているのは一つの英知であるという多選禁止論や、地方議会との間でも根回しをしないで、よい意味での緊張感を持って政策論議をしている様子など、一つのあるべき地方自治の姿だと感じました。
ただ、この片山知事のほか、三重県の北川正恭知事からも、現場の経験を踏まえた御発言を伺ったわけでありますが、それらを通じて感じておりますのは、個々の自治体においてそれぞれ創意工夫を凝らしながら、より一層地方分権を推進していく必要性を痛感すると同時に、他方、都市部、農村部、あるいは過密過疎など、国土全体の均衡ある発展といったこととのバランスをどのようにとるのかといった問題もあるということであります。
また、道州制の議論もなされましたが、これについてはまだまだ議論は緒についたばかりであり、今後は具体論を詰める必要があると思っております。
すなわち、これまでの道州制論議はどちらかというと中央政府の側からの議論、すなわち国の権限の受け皿としての道州だったように思いますが、地方自治小委員会での議論では、それとは違った、下からの道州制といいますか、都道府県では対応できない広域的な仕事を、道州をつくって下から上に持ち上げていこうという都道府県連合的なものが出てまいりました。このように、具体的なイメージを明確にして議論をしていく必要があるかと存じます。
国際社会小委員会では、平和主義と安全保障の問題、国際協力の問題などが集中的に議論されましたが、日本のみの安全だけではなく、国際協力の観点から、世界の安全、地域の安全、人間一人一人の安全に対してどのような貢献ができるのかという視点が重要であることを痛感いたしました。それこそが、憲法前文に規定する「自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」、そして「自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務である」とする国際協調主義の精神だと信ずるからであります。
国際社会小委員会では、参考人質疑だけではなく、小委員間で意見の応酬もなされましたが、平和憲法があるから我が国の安全は保障されるという、ひとりよがりの平和主義から脱却することが極めて重要な課題であると思います。
ところで、この国際社会小委員会での議論を伺っておりましても、戦争の放棄という憲法九条第一項が定める平和主義の理念自体に反対する会派、論者は全くないわけであります。おのずと議論の的は、理想主義的な軍備の全面的放棄を定める九条二項にあること、この点までは議論が煮詰まってきていると言ってよいでしょう。
そうなりますと、一、全くの非暴力抵抗主義でいくのか、二、万が一の場合に国民の生命財産を守るための必要最小限度の自衛力を保持することを憲法上明記しておくべきなのか、三、そのためには、二項を書き直すか、二項を削除でいいのか、それとも三項を追加する形で確認するのが適切なのかといった、わかりやすい議論になっていくことが必要ではないかと思います。
いずれにいたしましても、より真摯なかつ具体的な議論をしてまいりたいと思っております。
以上、四つの小委員会での議論に即して簡単に感想を申し述べましたが、今後とも、各会派それぞれの立場を超え、二十一世紀の日本国、そこで活躍する日本国民のための憲法論議という大きな目標を見据えて、同じ土俵の上に立って、着実に、何のタブーもなく、自由濶達な議論が繰り広げられるよう、中山会長初め委員各位とともに努めてまいることを申し上げ、私の意見表明とさせていただきます。終わります。