隅野隆徳の発言 (憲法調査会公聴会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○公述人(隅野隆徳君) 隅野と申します。憲法学を研究している者としまして、その立場から意見を述べさせていただきます。
 国会は、主権者である国民の直接の代表機関として、その在り方について理論上も実務上も様々な問題が検討されてきました。
 例えば、それを事項として列挙しますと、国民代表制と選挙制、国権の最高機関性、立法機関としての位置、議院内閣制として内閣との関係、特に当初は解散権の問題、また今日では内閣権限の強化による国会の審議権の形骸化の問題、あるいはまた国政調査権の在り方の問題。また、司法、裁判所との関係では、違憲とされた法令への国会の対応、特に問題になりましたのが刑法の尊属殺規定の問題です。また、弾劾裁判所の在り方の問題等々があります。
 そのうちで、二院制に関し、参議院の位置と役割を国民との関係を中心にして考察したいと思います。
 国会の在り方の中で、参議院改革問題は日本国憲法の施行以来いろいろな形で取り上げられてきました。今、その五十数年の歴史を概観することも一定の意味があるのではないかと考えます。日本国憲法の制定過程で、GHQ案の一院制案を国会議員の公選制を条件に衆議院、参議院の二院制になった経緯がありますが、それも今日でも参考になります。
 また、一九五〇年代から六〇年代には、当時の改憲論とも結び付きまして、参議院議員の選出方法として間接選挙制案や推薦制案も登場しました。しかし、現在では公選制による国民代表機関として参議院は定着していると言えます。また、一九七一年以降、参議院での与野党伯仲の時期に、参議院の運営面の改革として参議院の独自性確保のためということで、議長、副議長の党籍離脱、参議院から国務大臣等を出さないように自粛すること、あるいは党議拘束の緩和等の提唱がされ、また具体化がされました。
 一九八〇年に衆参同時選挙があり、自民党が圧勝した下で、一九八二年に参議院の全国区制が廃止され、比例代表制の拘束名簿式が導入されて政党本位の選挙になったということは、参議院にとっての大きな転機と言えると思います。
 一九八〇年代後半以降、連立政権の登場とともに参議院と衆議院との関係が特に問題となり、その中でも、一九九八年七月の参議院通常選挙で自民党が言わば大敗をしたことを契機に、衆議院、参議院各院の党派構成において与野党間に言わばねじれ現象が生じました。それが国会運営の上で衆議院、参議院両院における絶対多数議席の確保を専ら追求するような形で連立政権が形成されるということにもなって、社会的にも問題にされています。
 この間、なお、一九八六年に参議院に独自に設置された調査会が長期的、総合的観点から一定の成果を上げ、また常任委員会の再編成の取組など、参議院自体での改革の進展が注目されます。
 これらの歴史的経験を踏まえ、また将来を展望して、以下、次の三点につき言及したいと思います。
 第一に、憲法四十三条一項に基づき参議院が全国民の代表機関であるという性格は尊重され、また発展されるべきことが指摘できます。
 二院制における第二院の在り方としては、世界的に見ても、一つには貴族院型、例として明治憲法の例、第二に連邦型、例としてアメリカ、第三に民主的な第二院型、例としてフランスの第三及び第四共和制、この三つに大別されます。日本の参議院がその第三の型に属することは周知のとおりです。
 そして、第二院の存在理由としては、歴史的に、貴族院型から連邦型若しくは第二院型へ移行したことに伴い、以下の二点が指摘されます。
 第一に、下院での性急な行為や、場合によっては過誤の是正、回避という任務、第二に、民意を確実に反映させるということが指摘されます。参考までに指摘すれば、歴史的にも長い経験を持つイギリスの貴族院も、現在、世襲貴族議員の権限制限と公選制への移行過程にあることが注目されます。
 日本国憲法において、内閣総理大臣の指名で衆議院が優越すること、また衆議院にのみ内閣の不信任権があること、他方、参議院には解散がなく、議員は六年の長期の任期を持ち、そして三年ごとに定期的選挙によって民意が表明され、そのことは、他方で衆議院の解散及び総選挙が言わば政治的な性格を強く持って行われることと相まって、参議院独自の重要な役割をしていると言えます。総体として、日本国憲法の二院制は妥当な基本制度になっていると言えると思います。
 しかし、現憲法の運用上の制度においては多くの問題点があると言えます。例えば、つい最近のことでは、二〇〇〇年に参議院比例区選挙の拘束名簿式を非拘束式に変更したことが、国民としてみれば十分審議されないで強行された嫌いを指摘せざるを得ません。
 しかし、それ以上に参議院選挙区選挙において議員定数が過度に不均衡であるということが多く指摘されます。また、その点で最高裁判決も幾つか出ておりますが、参議院の選挙区選挙での言わば地域代表的性格を人口比例原則に対して強調する側面もあるということが問題として指摘できます。そのことに国会自身が依拠するとすれば、それは一層また問題であると言うことができます。
 問題は、何よりも国民の意思の議席への公正な反映のための選挙制度を追求するということが大事であると思います。そして、その点で、十八歳選挙権を日本では認めておりませんが、これは今日の世界的な趨勢から見ると大変立ち後れているということで重大な問題と言えましょう。また、女性の国会議員が日本では諸国に比べると少ないということが指摘できます。もしそのような選挙制度があるとすれば、あるいはそういう役割を果たしているとすれば、それは大きな問題であると言うことができると思います。
 また、衆議院、参議院の議員選挙に共通して、国民の選挙運動の自由に対して大幅な法的規制があるということが言えますし、この点での改善が早急に求められていると言えます。
 例えば、戸別訪問の禁止とか文書図画活動の大幅な規制と言うことができます。とりわけ戸別訪問というのは、今日では欧米諸国では普通のことであって、日本の歴史で見ると、明治憲法下、一九二五年に普通選挙制が導入され、同時に治安維持法が導入されたときにこの戸別訪問禁止が導入されたというもので、それが今日に引き続いているということは大きな問題です。
 それらに見られることとして、国民を言わば愚民視するということが指摘されます。国民を、やはり主権者として自覚を持たせるような制度を選挙制なりあるいは公職選挙法の上で保障していくということが何よりも重要ではないかと思います。
 次に、第二に、国会における慎重な審議の保障によって国民の知る権利と国民の政治的判断への貢献が国会においては特に必要であり、しかもその点で特に参議院の役割が重要であると言えます。衆議院が、内閣形成の主導権を持つだけに、言わば政治の論理、数の論理に左右されるということはある面でやむを得ないとしましても、参議院は政権形成から一定の距離を置くということは重要な意味があります。
 したがって、憲法学界でも指摘されてきましたように、例えば参議院は国務大臣等を送らないということとか、あるいはまた長期的視野に立った政策立案と行政・内閣監視をすること、そして少数勢力や少数意見の審議を尊重し保障していくということ、そして国民への情報公開、国民世論との交流の開拓によって参議院の独自性を追求するということが重要ではないかと考えます。
 その過程で、参議院の言わば政党化を否定したり若しくは消極的にとらえる意見があります。しかし、それは今日では非現実的であると言えるのではないかと思います。議会政治が政党政治となることは必然的であると言うことができますし、問題はむしろ政党政治の内容と質のいかんにあると言うことができます。
 とりわけ、今日では国民における無党派層が増加しているという状況に対して、政党の体質を改善し民主化していくこと、また政党が選挙政策への対応の積極的な姿勢を追求していくことが一層求められていると言えると思います。
 第三に、衆議院、参議院間の与野党議席数の言わばねじれ現象問題との関係で、日本国憲法五十九条二項による参議院の言わば厚い壁が問題になっています。
 参議院で法案を否決した場合、法律案再審議の要件として衆議院で三分の二を必要とするという規定は、それは憲法学としてとらえてみると、衆議院の過度の優越を抑え、国会における慎重審議と国民の意思の公正な反映を保障するものと言えます。その点で、現憲法は、参議院の役割を衆議院に対し単純に劣った位置、劣位に置いているとは言えません。
 そのことに関し、衆議院と参議院の関係を権限上明確に役割分担させ、場合によっては両者を拮抗関係に置くことを主張する考えもあります。それは、改憲論などにおいても今日見られるところです。例えば、内閣総理大臣の指名権を衆議院に限定するとか、あるいは条約承認権を参議院に特定させるなどの考え方です。しかし、日本国憲法の規定するところでは、衆議院の基本的優位の下で参議院が衆議院の是正もしくは補充の任務を果たすという構図が設定され、それをいかに運用、展開していくかが重要であると考えます。
 国民の直接選挙によって構成される衆議院と参議院は、国民の言わば流動的で多角的な意見ないしは利益を衆参ともに相互に補完、協力して具体化させ、総体的な国民意思として形成、実現する任務を負っていると言えます。その点で憲法学説上は若干の意見の差はあることは明らかですが、しかし基本的な認識、把握では共通していると言えます。
 以上で終わります。

発言情報

speech_id: 115414187X00120020220_002

発言者: 隅野隆徳

speaker_id: 25055

日付: 2002-02-20

院: 参議院

会議名: 憲法調査会公聴会