辻清二の発言 (憲法調査会公聴会)
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○公述人(辻清二君) 今紹介いただきました、私、全国生活と健康を守る会連合会の辻と申します。
まず最初に、この意見陳述の機会を与えていただいた皆さんに心よりお礼を申し上げます。
私の意見陳述は、配付いただいた、「国民の命と医療を受ける権利を守るため、国民健康保険制度の改善を」とのレジュメに沿い、資料も引用しながらお話しさせていただきます。
まず最初に、今国保はなぜ滞納者が増えるのかについてです。
国民健康保険制度は、国民だれもがお金の心配なく医療を受けることができる国民皆保険の基幹的な制度として発足をしました。この間の国保をめぐる特徴は、不況などによるリストラと失業や企業倒産、高齢化の進行などにより国保に加入する世帯が急増しており、ますます国保の果たす役割が大きくなっているというふうに思います。
全国商工団体連合会の調査によると、中小業者は経営難や病気を苦にした自殺が六割を占め、六割以上の業者が健康診断で異常と指摘されています。中には、企業側が経費節減のために政府管掌の健康保険をやめて従業員に国保の加入を勧めるところさえあります。
さて、この十年間で国民健康保険税・料を滞納する世帯が百五十三万世帯も増え、平成十三年度では三百九十万世帯にも達しています。三百九十万世帯というのは、国保の加入世帯の二割近い、一八%にもなります。こうした滞納は、借金をしてまで払わざるを得ない人がいるように、個々の国保加入者の努力を超えて納め切れない国保税・料の実態によるものです。
その第一は、健康保険などと比べて国保税・料の負担率が高いことがあります。負担率とは加入世帯の年間所得に対する負担率のことです。九八年度の厚生労働省の資料を基に計算をすると、負担率は、健康保険組合で平均四・二%、政府管掌の健康保険で六・二%、国民健康保険で八・六%となり、国保は健康保険組合の二倍以上の負担率になります。
第二に、国保の加入者の大半は低所得者であり、低所得者ほど滞納世帯が多いことです。徳島市の統計によると、滞納世帯の七三%が年間所得が百万以下になっています。
第三に、厚生労働大臣が定めた生活保護基準以下でも極めて高額の国保税・料が掛かってくることです。福岡県春日市で私たちの組織が試算したところ、五人家族のある世帯では、年間所得が生活保護基準の六二%にも満たないのに、国保税が年間三十万円以上になっています。
次に、大きな第二の問題は資格証明書発行の問題点についてです。
御承知のとおり、二〇〇〇年四月より国民健康保険法が改定され、国保税・料を一年以上滞納した世帯に対して資格証明書の発行が原則義務化されました。資格証明書を発行された世帯は、いったん窓口で医療費の十割を支払った上で、後日、市区町村など保険者に七割の保険給付分を請求することになります。平成十三年度で資格証明書が発行された世帯は全国で十一万世帯となっています。
その問題点の第一は、患者の受診抑制を引き起こし、医者に掛かれない事態が広がっていることです。全国保険医団体連合会の試算によると、平成十二年度で資格証明書の発行世帯が一番多い福岡県では、資格証明書が交付された被保険者の受診率は一般の被保険者の百三十七分の一にもなっています。
第二に、受診抑制が進み、札幌市などで手後れで死亡する事件まで起きています。
札幌市では、一万世帯を超える世帯に資格証明書が発行され、発行件数は全国平均の七倍以上になっています。そうした中で、昨年十一月、資格証明書が交付された豊平区の男性が救急搬送先の病院で二時間後に死亡する事件が起きました。その直後、札幌市の北区でも同様の悲劇が起き、ある男性が腹痛で耐え切れず、受診したときには既に胃がんが末期まで進行し、入院二か月後の今年二月初めに死亡をしました。
二人の死亡した男性は、不況などの被害で国保税・料を滞納し、医者に掛かるまで命を削って必死に働き続けざるを得ませんでした。豊平区の男性の奥さん、お姉さんは、何で死ぬときしか病院に掛からなかったのと変わり果てた弟をしかり、絶句したとのことです。北区の男性の奥さんは、資格証明書で保険証がないために、実は今朝、病院の玄関先でも受診しようかどうか足が止まりましたと話しておられます。命を守るべき国保が命を奪うものになっています。
次に、短期保険証の問題についてです。
正規の保険証は市区町村で一年や二年の有効期限を決めて発行しています。二〇〇〇年四月より国民健康保険法施行規則が改定され、保険税・料の滞納を理由に、正規の保険証の有効期限よりも短い短期保険証を市町村が発行できるようになりました。全国的には加入者全体の三%を超える六十九万世帯に発行されています。短期保険証の有効期限は、市区町村が三か月とか六か月などの期限を定めています。
この問題点は、滞納せざるを得ないそれぞれの世帯の実情も考慮されずに、国保税・料の滞納額に応じて保険証の期限が決められ、強引な保険税・料の取立てがされていることです。また、期限が切れた場合は資格証明書を発行する自治体があるなど、資格証明書の発行とつながっていることです。
例えば、福岡県北九州市では一か月の短期保険証を発行しています。ある左官の仕事をしておられる方は、毎月一万円ずつ国保料を支払い、四年以上にわたって一か月の短期保険証となっています。この方は、短期保険証の期限が毎月切れることから、急に具合が悪くなったときは我慢して病院に行かないこともあるようです。
もう一つの問題点は、短期保険証に赤枠や赤い字でマル短の表示をしている自治体があることです。
私たちの調査では、この間、大阪市や新潟市、青森市などで、人権上問題があるとこの表示をやめました。しかし、今でも福島市や熊本県水俣市、福岡県頴田町、愛知県蟹江町などで、まだこうした表示のある短期保険証が発行されています。この表示は一目で滞納者と分かり、プライバシー保護に反する人権侵害に当たるものです。子供たちが修学旅行などに短期証を持参した場合、いじめの原因にもなりかねず、子供たちも含めて差別を作り出すものです。
最後に、憲法に照らして、私は国保行政を改善することを求めるものです。
第一に、短期保険証の赤枠、マル短の表示を即刻中止すべきです。大阪府は昨年三月に、平成十三年度からはこのような取扱いは不要であるとして、赤枠、マル短の表示をしないように各市町村に通知をしています。厚生労働省が全国的な実態も調べ、こうした表示をなくすよう必要な措置を取るべきだと考えます。
第二に、憲法十三条や十四条に反する資格証明書や短期保険証の発行は中止すべきです。国保税・料を払いたくても払えない人が医療を受けられないということがあってはなりません。
憲法十三条は、「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」と定め、第十四条は、「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と定めています。
国保税・料を納め切れずに滞納したことを理由に、生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利が侵害されてはなりません。一部の人に期限を切った短期保険証は国民の中に差別を持ち込むもので、法の下に、法の下の平等に反するものです。
第三に、憲法二十五条に基づき、国の責任で、払いたいと願っている国保加入者の願いにこたえて国民健康保険税・料を是正することです。
二十五条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と定めています。
国連人権規約A規約の第十二条は、あらゆる人は達成可能な最高水準の心身の健康を享有する権利を持つことを認めることを世界各国に求めています。
滞納者が増大した大きな原因は、国が一九八四年に医療費の国庫負担を四五%から三八・五%に引き下げたことにあります。
二十五条の規定により、生活保護費や健康保険の傷病手当などは税金は掛かりません。また、所得税や住民税の課税最低限があります。国は健康で文化的な最低限度の生活に食い込む国保税・料を是正し、値下げの措置を取るべきであり、以上の点を申し上げて、私の意見陳述を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。