相野谷安孝の発言 (厚生労働委員会)

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○参考人(相野谷安孝君) 中央社保協で事務局次長をしております相野谷と申します。
 本日は、貴重な国会の審議時間に意見の陳述をさせていただく機会をいただきまして、本当にありがとうございます。
 私ども、社会保障推進協議会、略称社保協というふうに申しますが、社会保障の充実拡大を願って運動を進めている協議会でございます。
 全国段階では、全労連、全建総連などの労働組合、また全国商工団体連合会や全国保険医団体連合会など四十の団体が加盟しておりまして、一九五七年にかつての総評の肝いりで結成をされまして、以来四十五年間運動を続けてまいりました。現在では、四十七都道府県すべてに県の組織ができておりまして、各市町村単位の地域社保協も広がっているところでございます。
 私たちが運動として願う社会保障の充実は、健康で安心して暮らし続けることができる制度の拡充だというふうに思っておりますが、残念ながらこの間、社会保障費用の抑制を目的とする諸制度の後退が続いておりまして、こうした状況にはそのたびに危惧を表明し、反対の声を上げてきたところであります。
 こうした立場から、今回の健康増進法案にも重大な関心を持っております。健康増進法案が高齢者の完全定率一割あるいは二割負担、あるいは健康保険本人の三割負担など同時に審議されております健康保険法等の一部改正案とセットで提出されているというところに問題があるのかなと思っております。
 先日も、この本委員会で田浦先生が、負担増によって受診の機会を抑えることになり、医学的には必ずしもいいことではないという意見を述べていらっしゃいました。私もこの先生の御意見に賛成でありまして、健保の改定案によって負担増が生まれますと、国民の受診が抑制され、正に健康を破壊するということにつながりかねないんではないかというふうに考えております。そういう法案と同時に健康増進というふうに名付けられた法案が審議されているというところに若干の危惧を感じるわけであります。
 そもそも、健康で長生きしたいというのは、これは人類の共通の願いだというふうに思いますし、政府統計でも、健康は最大の関心事となっております。国民各個人は、その自助努力を強調するまでもなく、自ら健康であるための努力を最大限に行っていると言ってもいいんではないかというふうに思うんですが、この間の相次ぐ社会保障制度の後退の中で、民間生命保険会社であるとか損保会社が提供しているがん保険あるいは入院・通院保険といった商品がこの数年間契約件数を大幅に伸ばしています。また、今回の法案とも関係しますが、サプリメント商品などもかなり普及が広がっているという実態があるというふうに思いますが、こういう点を見ても、国民はかなり防衛的な自助努力をしっかり行っているというのが現在の実態ではないかというふうに思っています。
 そもそも、国民の健康増進を阻害する因子としましては、職場や労働の実態、今、甲田先生もおっしゃられたような背景があるというふうに思いますし、生活全般の背景の問題、それから社会的なストレス、環境、そしていざというときの備えなども考慮されなければならないのではないかなというふうに思っています。社会的なストレスを生まないためにも、やっぱり安心ということをどれだけ国民が享受できるかということが大きな要因になるのではないかというふうに考えておりますが、この点で、もうごらんになったかと思いますけれども、最近興味ある調査がありまして、六月二十五日の日本経済新聞の世論調査ですが、今現在と将来への不安というのを表明する方が、不安だという方で半数を超える五二%ありました。少しは不安だという方を加えますと何と九〇%という高率が日経新聞の世論調査で出ておりました。国民の多数が不安社会の中にいるという数字ではないかと私は推察いたしました。
 こうした国民の不安の解消に政策的努力をいただくということが一番大事な課題ではないかというふうに思いますし、そうした安心を回復するための環境を作る国の政策努力を是非求めたいということですし、健康増進法というものを創設するのであれば、この安心回復の環境整備を目的とする、そういう是非法案の中身にしていただけたらというふうに思っております。
 こうした視点から今回の法案を見てみますと、まず、どうも個人の自助努力ということのみが強調されている法案のように見受けられます。今述べたような安心を得る環境整備への国の責務が後退をさせられているという点を危惧せざるを得ません。
 本法案は、第一章の総則、第一条から六条で法制定の趣旨や目的などが書かれていますが、第二条で「生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない。」と「国民の責務」というものを強調しています。そしてその次に、第三条で「国及び地方公共団体の責務」というふうになっていて、私はこれは順番が逆ではないかなというふうに思います。また、後ろに置かれております「国及び地方公共団体の責務」の内容なんですが、知識の普及、情報の収集、人材の養成など、極めて限定的なものにされておりまして、国や自治体の社会保障に対する公的な責任が欠如しているという内容ではないかというふうに思います。
 述べるまでもないんですが、憲法二十五条は、「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」としています。ここに言う公衆衛生とは、日本公衆衛生協会の「衛生行政大要」によりますと、疾病の早期診断と治療のための医療と看護サービスの組織化、及び地域社会のすべての人に健康保持のための適切な健康水準を保障する社会制度であると規定されておりまして、こうした公衆衛生の向上のためには、国、地方公共団体などの公の責任において必要な条件、つまり、人、予算、組織、制度などを整える必要があるというふうにされております。この健康増進法の三条を見る限りでは、こうした公の責任を十分に果たし得ないのではないかという点を危惧をいたしております。
 第二に、こうして公の責任は後退させながら、国民には自助努力で健康に努めよというふうに責任を押し付けているんではないかと思います。
 これはWHO憲章前文の、到達し得る最高水準の健康を享受することは、経済的又は社会的条件によらず、万民の有する基本的権利の一つであるというふうに前文では規定しておりますが、こうした健康観、あるいは健康権と言ってもいいと思いますけれども、こうした視点からも脱落するものではないかというふうに思います。
 第三に、健康増進法の内容が生活習慣病の予防に重点を置かれているという点にも問題を感じ得ません。
 法案は、法令としては多分初めてだと思いますが、生活習慣病という呼称をある意味では何の定義もなしに用いています。病気は自己の責任、原因において起きるという一面的な疾病観に基づいて、疾病の自己責任を押し付けているという感がぬぐえません。
 元々、生活習慣病は成人病あるいは慢性疾患というふうに呼ばれていましたが、この生活習慣病という呼称が登場するようになったのは九〇年代になってからです。九六年十二月の公衆衛生審議会の意見具申を受けて九七年版の厚生白書に初めて登場したというのがこの生活習慣病の名前だったというふうに思います。また、今年四月に行われました診療報酬改定では、診療報酬の項目として初めて生活習慣病の名前が登場するに至っております。こちらも何の定義のないまま採用されています。
 今から十五年前の一九八七年に、当時の厚生省国民医療総合対策本部が中間報告を発表していますが、この中で、自らの健康は自分で守る、自分の病気は最終的には自分で治すというセルフケアの観点を重視する方向で今後改革を行っていく必要があるというふうにされておりまして、この文脈からいきますと、生活習慣病の呼称を使うことは、自らの生活態度が悪いからなった病気、だから自己責任で自分で治しなさいというような意図に結び付くのではないかというふうに思います。私の解釈違いであったらお許しいただきたいというふうに思います。
 また、先ほどの公衆衛生審議会の意見具申の中でも、こうした生活習慣病という概念を導入するに当たっては、ただし書がありまして、「但し、疾病の発症には、「生活習慣要因」のみならず「遺伝要因」、「外部環境要因」など個人の責任に帰することのできない複数の要因が関与している」と、そうしたことから「「病気になったのは個人の責任」といった疾患や患者に対する差別や偏見が生まれるおそれがあるという点に配慮する必要がある。」と指摘しております。本法案にはこうした配慮がないというふうに考えられます。
 また、国民の健康問題で、単に個人を対象に生活習慣の自己管理を迫る方法では、圧倒的多数の国民の健康問題が放置されるおそれがあり、全体として国民の健康水準が低下するおそれがあるのではないかというふうに思います。
 四番目に、第九条で「健康診査の実施等に関する指針」という項目が定められておりますが、この中では「厚生労働大臣は、」「健康増進事業実施者に対する健康診査の実施等に関する指針を定めるもの」とされておって、この指針が諸法律、健康保険法や学校保健法、母子保健法、労働安全衛生法、老人保健法等々の諸法律に基づいて行われる保健事業全般がこの厚生労働大臣の定める指針と調和の取れたものでなければならないとしております。
 このままで考えますと、保健予防事業の国による一元的な管理や、あるいは前段で危惧をいたしました公的責任の後退、自己責任の押し付け、自己負担の拡大といったような、すべての保健事業にこういう事態が及ぶおそれを禁じ得ません。
 次に、現在、国民生活がもう既に健康を破壊されているという実態を少しですが御紹介をさせていただきたいというふうに思います。
 長崎県にある診療所ですが、昨年秋に治療を中断されている方に、二千人にアンケートを取りました。三百人の方から回答がありまして、内容は、具合は良くないが病院、診療所に行かず我慢しているという方が二五%、四人に一人でした。売薬で済ませているという方が一〇%ありました。三人に一人が状態が良くないのに通院を我慢しているという実態が浮かび上がっております。
 また、全国の医療現場からは、とてもやるせないという患者さんの実態が多く寄せられています。吐血や下血があって今すぐ入院が必要なのに、医療費が心配だから入院できませんという患者さんがいたとか、自分の手術のことより手術代が心配で夜も眠れないという入院患者さんの話、あるいは外来でも、会社に病気を知られたくない、だから自費で診療をしていくというサラリーマンがいたなど、長引く不況とリストラ、合理化の下でこうした事例が多発しております。
 もう一点、これに関連をして、私ども中央社保協は、去る六月二十六日から二十八日に掛けて福岡市と北九州市の国民健康保険の実態について調査を行いました。この調査は、現在、御承知のとおり、一昨年の国民健康保険法の改正によりまして全国的に資格証明書及び短期保険証の発行が増えています。私ども社保協の調査では、百万世帯を超える方々が資格証明書あるいは短期保険証を渡されているという実態でありまして、国保加入世帯のおよそ五%が正規の保険証を持っていないという実態があります。また、広範に保険証の未交付だとか未加入といったような実態も報告されておりまして、既に守るべき日本の皆保険制度が空洞化しているのではないかと危惧をいたしております。
 そうした点から、この資格証明書がかなり出ております福岡市、北九州市の調査を行ったわけなんですが、この調査の中で、経営していた設備会社が倒産、前年の収入に応じて決まる国保料が四十数万円にもなり、失業中でこの保険料を払えず無保険になってしまった、国保に入っているが保険証がもらえない、パートの仕事も辞めてくれと言われ、もう本当に仕事がなくなった、具合が悪いが病院にも行けない、もう死ぬしかないなどの具体的な方々の声を聞くことができました。生命保険を解約したり、あるいはサラ金やカードローンで国保の保険料を払っているというような方もいらっしゃいました。等々、既に国民の生活というか、国民の健康状態はかなり今の社会状況の中で悪化しているのではないかというふうに思います。
 先ほど甲田先生も中高年の健康状態はノーだというふうにおっしゃいましたが、ここに対する施策が求められるところですし、この点で、健康増進法の第十条が、これまで栄養改善法にあった栄養摂取と経済負担の関係を明らかにするという国民栄養調査の目的から経済負担の部分を削除しているという点も重大な問題だろうというふうに思っています。
 以上のような諸点から、私はこの健康増進法案には反対をさせていただきたいというふうに思います。増進法を創設するのであれば、更に審議を深めていただき、真に国民の健康増進にとって実りある法律内容となるよう大幅な修正を求めるものであります。
 最後に、本法案と併せて審議されている重要法案である健康保険法等の一部改正案について、予定される大幅な国民負担増は国民の受診を妨げることになると、これはもう明らかだと思います。これこそ国民の健康増進に寄与しないばかりか、国民の健康破壊につながる改定と言わなければならないんではないかというふうに思います。
 私たち社保協にも、このような法案が通ったら生きていかれなくなる、年寄りは死ねと言っているようなものだなどの悲鳴が寄せられております。改悪に反対をする、この法案をやめてくれという署名は医師会の五百万、歯科医師会の四百万と合わせて二千六百万筆に達しております。寄せられた声の一部は既に冊子として皆さんのところにお届けしておりますが、是非こうした声に耳を傾けていただいて、この法案を廃案としていただくよう切に併せてお願いをしたいというふうに思います。
 また、宮路厚生労働副大臣の問題がこの間大きくマスコミで取り上げられております。こうした状態で誕生した医師などによって医療費の押し上げにも影響を与える要因ではないかというふうに思いますし、マスコミの報道以来、こうして生まれた先生には掛かりたくないねというような声も出ております。医療の信頼性や当該大学の威信にもかかわるような問題でありますので、この点については国民の一人として、一人の要望として、この問題の是非徹底解明を図り、こうした要因のなくなる対策を立てられることを希望するものであります。
 以上をもちまして私の意見とさせていただきます。ありがとうございました。

発言情報

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発言者: 相野谷安孝

speaker_id: 34889

日付: 2002-07-16

院: 参議院

会議名: 厚生労働委員会