宮田律の発言 (国際問題に関する調査会)
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○参考人(宮田律君) 今日は、イスラム諸国と国際資源問題ということで、イランそれからトルコ、それからこれはイスラムの国ではありませんけれどもイスラエルの、中央アジアあるいはコーカサス辺りの関与、そして最後に、全体としてこれからユーラシア情勢がどういうふうに推移していくかということを考えてみたいというふうに思っております。
最初に、イランの対カスピ海戦略ということですけれども、イランという国、これは一九七九年にイラン革命でイスラム共和国になった国です。イスラムに統治の正統性を求めているということですね。国内外にイスラムの政治を強く訴えているわけでありますけれども、ただ、中央アジアあるいはコーカサス諸国の場合はそれほどイスラムの復興が顕著ではない。むしろイランと中央アジア、コーカサス諸国の場合は、そうした宗教イデオロギーではなくて経済中心の実利外交を追求しているということです。
カスピ海沿岸諸国、これらの国々は鈍いイスラムの復興である。というのは、ソ連の支配、七十年間続きまして、九〇年代にイスラムの復興というものが、徐々にではありますけれども、しかし、そのスピードというのはそれほど速くはないということですね。どこも国の建前とすれば世俗的な性格の国が多いわけであります。その結果、イランのイスラム政治には余り関心がないということになります。そして、例えばウズベキスタンとかあるいはタジキスタンといった国々では、国内にイスラム過激派の活動を抱えておりますので、政治にそのイスラムの正統性を求めていくとそうしたイスラム勢力が活気付くということもありますので、なるべく世俗的な性格を政治には求めているというわけであります。
イランという国、これは周辺地域の安定を重視します。イランという国は、遠隔な国や地域については結構物騒なことを言います。例えばイスラエルの抹殺を唱えたり、あるいはボスニア紛争においてムスリムを支援するようなことを言ったりしますけれども、周辺諸国についてはイランの安全保障を考えて極めて現実的な外交を追求している。過激な傾向というのは周辺諸国の外交については余り見られないというわけです。
イランという国、これはタジキスタン、これ一九九七年六月にタジキスタンでは和平協定が成立して、九〇年から三年間続いていた紛争ですけれども、その紛争の調停を行ったりしております。
イラン、これはロシア、アルメニア、トルクメニスタンとの協調関係を考えている。
ロシアについては後でお話ししますけれども、アルメニアについては、やはり地理的に接しておりますので、経済関係を強化しているということですね。石油パイプラインも両国には通って、両国はパイプラインで結ばれております。イラン国内にはアルメニア人が居住しておりまして、イラン経済に大きな影響力を及ぼしているわけですね。ですから、イランとしてもそうした国内アルメニア人の動静を無視することができなくて、アルメニアとの協力関係を結んでおります。
そして、対するアルメニアですけれども、これはアゼルバイジャンとはナゴルノ・カラバフ紛争という紛争を戦っておりました。その結果、アゼルバイジャンとバランスを取る上で、アルメニアという国はイランとの友好関係を図らなきゃいけない。
それから、アルメニアという国、これはトルコと大変仲が悪いですね。一九一五年に、これは第一次世界大戦中のことでありますけれども、オスマン帝国、つまりトルコ国内にいたアルメニア人、アルメニア側の主張によれば二百万人が殺されたと言われております。当時、オスマン帝国、つまりトルコ国内には三百万人のアルメニア人がいたというふうに考えられておりますけれども、そのうちの二百万人が殺されたというふうにアルメニア側は主張しております。それ以来、アルメニアはトルコに対して民族的な憎悪というのを持ち続けている。現在でも、アルメニアの過激派はトルコ人に対するテロを追求したりしております。
アルメニアという国、そうしたトルコとアゼルバイジャンに挟まれている国ですので、勢い南の隣国であるイランとの友好関係が必要であるということになります。それから、ナショナリズムへの警戒、これはトルコ系のナショナリズムが中央アジアあるいはコーカサスでもって台頭する事態をアルメニアはやはり好ましく思っていない。そうしたトルコ・ナショナリズムに対する手段として、やはりイランとの友好関係が必要である。
それから、対NATO対策でありますけれども、トルコという国、これはNATOのメンバー国家であります。それから、NATOにはグルジア辺りも参加したい意向である。そうしたNATOとバランスを取る上で、やはりイランという国がアルメニアにとっては必要ということがあります。
次に、イランをめぐる地経学、ジオエコノミックスというわけですけれども、イランとコーカサスと中央アジア、コーカサスと中央アジアの国々というのは陸に閉ざされた国ですので、イランという国がやはり交通上必要になってくる。イランという国はインド洋とカスピ海に接している国家であります。両洋国家、二つの大洋に接しているわけですね。ですから、そのコーカサスあるいは中央アジアという国々が海洋との交流を考える上でイランという国がどうしても必要である。イランのパイプライン、既存のパイプラインを使えば、中央アジアあるいはコーカサスの国々の資源を輸出することもできるということですね。
イランという国は、先ほども言いましたけれども、カスピ海地域と湾岸を結ぶ地理的な利点を持っていて、それゆえに、トルクメニスタンなど中央アジア諸国は、イランという国をどうしても重視せざるを得ないというわけであります。
それから、ロシアとの協調関係でありますけれども、ロシアはイランに対する武器輸出国としては最大の国であります。つまり、ロシアがイランに一番兵器を売っている国であります。イランという国、これはアメリカの封じ込めを受けておりますので、アメリカから当然武器を買うことができない。それから、ヨーロッパからもなかなか買いにくい状態にあります。そのためにロシアの兵器というものが必要にならざるを得ない。それから、ロシアはやはりイランに武器を売ることによって外貨を獲得する。それから、ロシアはイランの原発建設、原子力発電所の建設に協力しております。それも、やはりロシアにとっては外貨を稼ぐ手段になるというわけですね。
それから、イランとロシアの協調関係というのは、アメリカのイランに対する封じ込めに対抗する上で必要であるということであります。
アメリカは最近も悪の枢軸と言ってイランを封じ込めることを考えておりますけれども、それは一つには、イランという国がイスラエルの抹殺を唱える、イスラエルの解体を唱える。これはイランの一つの宗教イデオロギーでありまして、イスラエルという国がイスラムの聖地であるエルサレムを占領している、そのためにイランという国、これはイスラムに強く訴える国でありますので、そのイスラエル国家の解体、あるいはそのイスラエルの抹殺を唱える。そのイランが核エネルギーを開発していることは、イスラエルにとっては脅威と感じられております。そのためにイスラエルは、アメリカ国内のユダヤ系社会、ユダヤ系ロビーを使ってアメリカ政府あるいは議会に働き掛けて、イランに対する厳格な措置を取るようにアメリカ政府に促しているというわけであります。
最近の悪の枢軸発言、これは急に出てきたわけですけれども、アメリカのアフガニスタン攻撃については比較的、アメリカ、イラン、割と友好的なムードが生まれたにもかかわらず、アメリカはまたイランの封じ込めを考えるようになった。というのは、最近イランからパレスチナへの武器の密輸というのが発覚したということも一つの理由かなというふうに考えております。
それから、アフガン、アフガニスタンのタリバン勢力あるいはパキスタンとの競合と対立。
アフガニスタン、もうタリバンは崩壊したと言われておりますけれども、タリバンというイスラム原理主義勢力は、これはイスラムの中でスンニ派という宗派を信仰している勢力であります。それから、パキスタンも同様でありまして、パキスタンのイスラム原理主義の最も主要なものにデオバンド派という、これは十九世紀にインドで生まれたイスラムの宗派があります。この宗派が現在パキスタンで台頭している。この宗派を信仰するイスラム組織、イスラム聖職者協会といっておりますけれども、そうしたイスラム聖職者協会が力を持つようになっております。タリバンも同じデオバンド派のイデオロギーを持っていたわけです。このデオバンド派でありますけれども、イランが信仰するシーア派を異端視していたということですね。そうした宗教的な理由もあってイランとアフガニスタンのタリバンとは仲が非常に悪かったというわけです。
イランは現在、アフガニスタンについてどういうことを考えているかというと、やはりイランと同じシーア派の信仰を持っているハザラ人が新たな政権の中で何らかの権力あるいは資源を分配されるように働き掛けていくんじゃないかなという気がしております。もしかすると、イランは、アメリカに封じ込めを受けた結果、アメリカの意向の下に作られた暫定行政機構に揺さぶりを掛けることがこれからあるかもしれません。
アメリカの対イラン封じ込め戦略変化の可能性ということですけれども、やはりアメリカの対中東政策において最も優先されているのは国内のユダヤ社会の、何といいますか、意向であるという気がします。国内の、アメリカのユダヤ系ロビー、これはイスラエルの利益を擁護する政策をアメリカ政府に取らせているわけです。そうした国内のユダヤ社会の動向を考えますと、アメリカの対イラン政策はなかなか変化しないんじゃないかなという気がしています。
ブッシュ政権が成立する前には、見通しとして彼は、ブッシュさんにしろチェイニーさんにしろ石油産業出身であるということで、もしかすると、アメリカの石油産業の意向を酌み取って対イランについては少し軟化の傾向が現れるんじゃないかなという見通しもありましたけれども、なかなか軟化しないですね。イランに対しては厳格な政策を取り続けているわけで、そうしたブッシュ政権成立後のイランに対する姿勢を見ていますと、なかなか変化しないんじゃないかなという気がしております。
それから、トルコのカスピ海地域への介入でありますけれども、トルコ中心の中央アジアとコーカサスの再編を、これはアメリカが考えたわけですね。アメリカは、なるべく中央アジアあるいはコーカサスにイランの影響力が浸透しないことを考えたわけです。そのために、トルコをリーダーとして中央アジアあるいはコーカサスの国々を再編するということをアメリカは考えた。
対するトルコでありますけれども、これは、冷戦の終えんによってNATOの軍事的な価値が低下したことによって、トルコの重要性を再び西側諸国に訴えるために、アメリカの意向を酌み取って対中央アジアあるいはコーカサス政策を積極的に行ったということがあります。
それから、トルコという国、これは国内資源消費の伸びと資源を介した結び付きというものも中央アジア諸国との間ではあるというわけですね。トルコという国、これは一九七〇年代に比べますと人口が現在では倍増しております。そうした国内の人口増加に見合うエネルギーがトルコには必要であるということですね。トルコは今、主に石油はロシアあるいはイランから買っております。しかし、政治的な理由でもってロシアとそれからイランとは余り関係が良好ではない。そのために石油の購入先を多角化しなきゃいけないということがあります。トルコ、エネルギー的にも中央アジアあるいはコーカサスのカスピ海沿岸諸国が重要になっているというわけですね。
それから、資源送出ルートとしての可能性と経済関係の重視という問題でありますけれども、これも、アメリカはイランを排除したいためにアゼルバイジャンのバクーからグルジアのスプサを通って、それからトルコの地中海岸にありますジェイハンに至るパイプラインを考えている。それから、バクー、それからトビリシ、それからジェイハンというルートもあります。それは経済的にコストが掛かるパイプラインですよね。それから、コーカサスの地域的な不安定。アゼルバイジャンとアルメニアは紛争をやっておりますし、それからグルジアもそれほど安定した国とは言えない。さらに、トルコの南東部、ジェイハンがあるトルコの南東部ではクルド人の反政府勢力の活動があります。経済的にもコストが掛かる、それから政治的な不安定要因もある、そうしたルートをあえてアメリカは選んだということですね。それは、やはりイランを排除したいというアメリカの意向があるからであります。
ただ、二〇〇〇年にカザフスタンのカシャガンというところで大きな油田が見付かりますと、アメリカの、バクー、それからグルジア、それからトルコに至るパイプラインのルートというのも、どうも見直しが始まっているんじゃないかなという気がしております。カシャガンで大きな油田が見付かったことによって、カザフスタンからロシアに抜けるルートの重要性が高まっているということですね。
それに対してアメリカでありますけれども、カザフスタンから今度はカスピ海の海底を通ってバクーに至って、それからグルジア、ジェイハンに至るパイプラインのルートを検討するようになっております。
そうした資源送出ルートですけれども、どれほどその実現性があるのかということですけれども、これは後で畑中参考人の方からもお話があるかもしれません。やはり、石油価格の今後の推移にも影響される話じゃないかなという気がしております。
それからトルコでありますけれども、民族的なつながりがあるアゼルバイジャンとそれからイスラエルとの関係強化を図っているということですね。トルコ、アラブ諸国とは余り仲が良くない。特にシリアとは政治的なあつれきがあります。そのためにアゼルバイジャン、イスラエルとの関係強化を図っているということです。
ただ、イスラエルとはこれ民族的にもそれほど仲が悪いということはありません。むしろ、トルコとイスラエルのユダヤ人というのは比較的仲がいい民族であります。これはオスマン帝国時代も、トルコ人とユダヤ人というのはオスマン帝国下でよく共存していたという歴史的な経緯もあります。
トルコ国内に行ってイスラムに対する考えを求めますと、否定的なことを言う意見あるいは考えというのは余りないですね。トルコ国内では現在パン・トルコ主義が高まっている、あるいはイスラム神秘主義の活動が次第に活発になっているということがあります。
トルコという国、これは一九二三年に共和国になったわけですけれども、そのトルコの二つの目標というのは、ヨーロッパの仲間入りをすること、これは入欧とそれから世俗化、脱イスラムというのがトルコの二本の柱であったわけですね。そのためにトルコという国はEUに参加することを目指しているわけでありますけれども、EUの側で、やはりトルコというのはイスラム教国であって、どうもEUが共有する価値観とは違うというわけで、トルコの参加には難色を示しております。トルコのEUへの参加には難色を示している。
トルコがEUに参加すれば、ほかにもトルコ人の労働者が大量にヨーロッパ諸国に流入するということにもなりかねないわけで、そうした入欧を果たせない、ヨーロッパのメンバーになることを果たせないトルコにはジレンマがあって、その結果、トルコ国内では民族主義というものが台頭しております。トルコ民族主義が台頭した結果、トルコの外交の重点が中央アジアあるいはコーカサスに移る傾向もあると言えると思います。
国内民族主義の極右政党、これは現在その政党の代表がトルコの首相を務めているわけですけれども、そうした極右政党の台頭というのが今後のトルコ外交に影響を及ぼすかもしれないという気がしております。
それから、イスラエルの戦略目標でありますけれども、イスラエルは最初、中央アジア諸国が独立したときに、中央アジア諸国のユダヤ人たちがイスラエルに移住することを円滑にするということを考えたわけであります。ソ連邦が解体して以降、旧ソ連からイスラエルに移住していったユダヤ人、そのうちの三〇%ぐらいが中央アジアからの移住であったと見られております。
それからイスラエルでありますけれども、中央アジアに関しては、カザフスタンの核がイスラエルと敵対する国々に拡散することを恐れたということがあります。特に、イラン、イラクに対してカザフスタンの核技術あるいは核物質が入っていくことを恐れたわけであります。そのためにイスラエルはカザフスタンに接近をしているということですね。先ほどもちょっと言いましたけれども、イスラエルとアゼルバイジャン、トルコという協力関係というのが現れてきつつあるということですね。
カスピ海諸国でありますけれども、イスラエルとの接近を図っているということもあります。特に、昔中央アジア諸国に住んでいたユダヤ人たちを介しての経済的な交流が進んでいるということがあります。トルクメニスタンのニヤゾフ大統領の奥さんはユダヤ人という説もありますけれども、結構トルクメニスタン辺りにはイスラエルの資本が入っているということらしいであります。
それから、イスラム主義台頭への警戒とカスピ海資源の重要性というわけですけれども、やはり中央アジア諸国あるいはコーカサスにおいてイスラム過激派が台頭して反イスラエルを唱えるような事態はイスラエルにとって都合が良くないということですよね。イスラム過激派、オサマ・ビンラーデンのようなイスラム過激派が中央アジアあるいはコーカサスで台頭して反イスラエル・テロなどを行う事態はやはりイスラエルにとっても避けたい事態である。それからやはり、カスピ海資源というのはイスラエルの資源購入先を多角化させる上で重要じゃないかなという気がしております。イスラエルという国、トルコを介してカスピ海の資源を買おうとしているということですね。
中東政治の変化とカスピ海地域ということですけれども、イラン国内政治の変化によるヨーロッパ諸国の経済進出、イランで九七年にはハタミ大統領が誕生しますと、イランとヨーロッパ諸国との経済交流が活発になったということですね。対イラン封じ込めに加担しているのはアメリカですね、アメリカの対イラン封じ込めに加担しているのはどこの国もないような、今はそういう状態になっております。イギリスですらイランとの経済交流に前向きになっているような、そういう状態ですよね。
それから、アフガン和平の行方、アフガンで和平が定着してアフガン社会が安定すれば、トルクメニスタンからアフガン南部を通ってパキスタンに至るパイプラインももしかすると現実化するかもしれません。その結果、イランの地理的な重要性というのが低下する可能性も十分考えられます。
それから、中東和平の進展とカスピ海地域、中東和平がなかなか進展しなければトルコとイスラエルあるいはアゼルバイジャンとの協力関係が強まる可能性があるんじゃないかなという気がしております。
それから、アメリカの対中東・カスピ海政策の変化の可能性でありますけれども、これはなかなか、さっきも言いましたけれども、変化しないんじゃないかなという気がしています。アメリカがもし経済的な面を重視すれば、イランとの関係改善にもっと前向きになっていいと思うんですけれども、本来ならばそれがアメリカの国益にもかなうと思うんですが、やはりイスラエルの安全保障を考慮しますと、イランとイラクに対して封じ込め政策を追求せざるを得ないということにどうもなりがちですよね。
カスピ海地域の政治的方向性と経済的可能性に影響を及ぼす中東政治ということですけれども、イランはこれからもカスピ海地域に対して現実的な政策を追求していくであろうという気がしております。それと、対する中央アジア、コーカサス諸国も同様ですよね。
ただ、イランと良好な関係を結べないのはアゼルバイジャンという国。アゼルバイジャンとイランという国はなかなか良好な関係を結べない。それは、アゼルバイジャンのバックにやっぱりアメリカという国があって、アメリカはアゼルバイジャンの資源開発においてイランの影響力が浸透してほしくないというわけで、アゼルバイジャンとイランとはなかなか良好な関係を結べないということがあります。
大体そんなところであります。