中里実の発言 (財政金融委員会)
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○参考人(中里実君) 委員長の方から着席のままということでございますので、着席のまま失礼させていただきます。御紹介いただきました東京大学の法学部の中里でございます。
昭和二十六年に、その前のシャウプ勧告を受けまして、東京大学と京都大学に租税法の講座が開かれまして、それ以来もう五十年ちょっとたったわけですけれども、この五十年ちょっとの間に日本の租税制度、非常に大きな変革の時期を迎えているということでございます。しかし、その基本を成すところの公平といった観念については、これは揺るぎもしない、揺るがせてはいけないというところがあるのだろうと思います。そういう視点から、今日は、連結納税制度につきまして幾つかの点を理屈の上から申し上げさせていただきたいと思います。
最初に、連結納税制度の理屈の上での簡単な位置付けの話、それから二つ目に、この連結納税制度だけ取り上げて税制改革を語るわけにはいきませんから、連結納税制度とほかの制度との関係、それから、連結納税制度が導入されることによって生ずる様々な実務的な問題点、この三つに分けて申し上げさせていただきたいというふうに思います。
最初の位置付けの点でございますけれども、法人税の課税所得の計算というのは、法人格ごとに、課税年度ごとにという、この法人格の区切りと課税年度の区切り、二つの区切りによって課税所得を計算するというふうになっております。したがって、親会社が黒字百、子会社が赤字百であっても、基本的には、この場合には、黒字の方からは税金は取るけれども赤字の方はほっておかれる。あるいは、去年黒字、今年赤字であっても、本来の姿からいえば、それは黒字のときには税金取るけれども、赤字のときはそのままということになるわけです。
ただし、これでは余りにも、企業というのは設立されてから清算されるまでずっと続くものでございますので、今のような法人格による区切りや課税年度による区切りを余り徹底的に追求しますと様々な不都合が生じてくる。そこで、法人格による区切りを多少緩めてグループ全体として見てあげようというのが連結納税制度でございますし、また、課税年度の区切りが余り厳格ですと欠損金が取り残されたままになってしまって黒赤の変動の激しい企業等は不利になりますから、この間をならすために欠損金の繰戻しあるいは繰越しの制度があるわけでございます。
このうちの連結納税制度とそれから欠損金の利用、繰越しの制度とは、ですから、一見違うように見えて非常に密接な関連を持っておりますので、他方だけを独立させて議論するというわけには必ずしもいかないところがございます。
連結納税制度については、諸外国の例を見ますと、アメリカあるいは一九八〇年代の終わりのころに作られましたフランスの連結納税制度等の厳密な本来の意味での連結納税制度と、ドイツやイギリスにおけるような欠損金の振替利用を認めるような比較的柔軟なといいますか、本格的でない連結納税制度と二通りあるわけですが、日本ではこのうち本格的な連結納税制度の方を採用するという方向が打ち出されて、これまでの議論がなされてきたということでございます。
私は、個人的には欠損金の振替制度の方がフレキシビリティーが高くて運用も簡単ではないかと思っていたのですけれども、せっかく導入するのであれば本格的という気持ち、これも分からないではありませんので、このこと自体は正しい方向だったのではないかというふうに思いますが、同時に、本格的な連結納税制度を入れたおかげで、法人税法が異常な分量、異常と言ってはなんですが、大変な分量になってしまいまして、これから授業をどうやってやっていこうかとか、途方に暮れているところがございます。これは、教える方にとってみればたまらない話ですし、教わる方にとっても非常にシビアなところで、今後、税理士試験で法人税法を専攻する方がいなくなるのではないか、これが試験範囲に入りますとですね、そんな話さえつぶやかれているわけです。
以上が位置付けの問題で、欠損金の利用と密接な関係があるという点を申し上げましたけれども、経済的効果でございますが、法人格による人為的な区切り、あるいは課税年度による人為的な区切りというのを余り極端に追求しますと、所得のないところに課税してしまうということが起こる。それは欠損金が取り残されてしまうということで、所得のないところへ課税が行われるということが起こってしまうわけですから、その意味では、連結納税制度というのは言わば当然というところがございます。そのことによって赤字がどこかに取り残されてしまってそのまま終わってしまうということを防ぐということですから、非常に中立性、課税の中立性の観点からいって望ましい制度であるということは、これは言えるのではないかと思います。
ただ、日本のただいまの財政状況を見ますと、これはもうどう考えても、国債の格付のことはともかくといたしましても、非常に深刻な事態でございますので、このような時期に税収の減少に結び付くような制度をそう大ぶろしきで入れるわけにもいかないという財政上の考慮というのも、これも別に財政当局に悪気があるとかそういう問題ではありませんで、当然のことだろうということになります。中立性の観点からは連結納税制度をなるたけ広く取り入れた方がよろしいんでしょうけれども、今の財政状況を考えると必ずしもそう簡単にはいかないという、非常に複雑なというか、解決の困難な対立の軸の中で連結納税制度をどういう範囲でどの程度ということが決まってくるということです。
そこで、二年間二%の付加税というものが導入されたんだろうと思います。このこと自体は、急激な制度の変更を緩和するというようなところもありますし、それから他方で、例えば老人マル優の廃止云々というようなこともありますから、大企業等だけが結果的に税収減になるとすれば、たとえそれが理屈上一〇〇%正しくてもというような気持ちの問題、気持ちと言ってはなんですが、政策と言い換えましょうか、政策の問題がございますので、正面からこれはけしからぬ、付加税けしからぬと言うことは理論上は可能ですけれども、しかし今の財政状況その他を考えますと、これはこれで仕方がないというところがございますので、理論的にはこれは何とも言えない、先生方がお決めになる事項だというふうに考えます。
他の制度との関係について少し述べさせていただきますと、先ほど申しましたとおり、区切り、法人格による区切り、あるいは課税年度による区切りという点から見ますと、連結納税制度とそれから欠損金の繰戻し、繰越しの制度というのは非常に密接な関係をしているということでございますので、この点は無視することができないと。
それからもう一つは、企業組織再編税制との関係が密接でございまして、企業グループを一体として見るという視点がございますので、連結の場合でも企業組織再編の場合でも、単体の企業のみに着目しないというところがございますから、両者は密接な関係にあるわけです。
意外に我々が無視しがちなのが、これは外形標準課税との関係でございまして、連結というのは、赤字の利用が、企業グループの中での赤字の利用というのが比較的緩やかに認められるということだと思いますが、外形標準課税は赤字法人に対する課税というのを内在させておりますので、企業グループ全体として見ますと、連結の効果が一部分外形標準によって打ち消されるというところはある場合もあります。
しかし、逆に考えますと、グループ全体が非常に黒字体質のところは、外形標準と連結が相乗効果を持って競争力を増すというところもございますので、両者は関係するんですが、それは企業グループ全体が黒字体質なのか赤字体質なのかによって影響が違ってくるというところがございます。
赤字体質のところは、外形標準課税が連結の効果を多少打ち消すところがあるということ、これは否めない事実だろうと思いますが、黒字体質のところは、逆にこれによって競争力が増すということで、今の日本の経済状態を考えますと、競争力、国際的な競争力というのは重要ですから、その点は無視できないということだと思います。
最後に、執行の点でございますけれども、個別法人を念頭に置きました制度が従来どおりございますので、これと連結との間でいろいろなフリクションが起こるということはあり得るわけです。
地方税は個別の企業を前提とした制度を作っておりますので、連結の適用から除外するために様々な苦労を総務省等がなさっているというふうに聞いておりますし、また消費税の調査というのは個別的な企業を念頭に置いて行うものですから、連結納税制度導入以降、国税庁が消費税の調査等で多少の困難な局面に遭遇するということも考えられます。
それから、更正処分をどう打つかとか、租税滞納処分、税金を払わない企業に対する租税滞納処分等の関係で、処分というのは特定の法人格に対してなすものですから、様々な難しい法律問題が起こってくるということも無視できないということでしょう。
いずれにいたしましても、我々だれでも知っていることですけれども、打ち出の小づちとか魔法のつえというのがございません。にっちもさっちもいかない財政状況の中で、企業にも頑張っていただきたい、しかも国も一定の税収は確保したいという、解けない問題を解こうとしているわけでございますから、一面的にこれはいいとか悪いとかというのを言い切れないところに今の問題があるのじゃないかというふうに思います。
以上でございます。