田中浩一郎の発言 (安全保障委員会)
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○田中参考人 おはようございます。田中でございます。
私は、問題意識として、アフガニスタンが現状でどうなっているのかということからお話をさせていただきたいと思います。
なぜかと申しますと、アフガニスタンの問題が、国際社会による同国への介入及び我が国のテロ対策特措法制定を通じた同国への関与のきっかけとなっていることから、この一年を経てアフガニスタンの事態がどのように変化しているかを振り返るというのは非常に必要である、そして、例えばイラク情勢にどのような対応をするのかということを想定した場合にも、その下地となり得るということから、これを取り扱う次第でございます。
「きのう」と比べました場合、アフガニスタンはどうなっているのか、まずその変化から見てみましょう。一言で言って、よくなったところもあれば相変わらずというところもあります。
第一点目ですが、ターリバン政権は崩壊しました。それから、アルカーイダの訓練基地、これは各地に点在していたわけですけれども、これも破壊されております。アフガン人から見れば、忌み嫌っていた外国人による支配というものは終わったわけでありまして、その点でアフガニスタンは解放されたわけです。これは進歩であります。
それに伴いまして、多数の難民が帰還しております。将来への期待値も非常に高いわけですので、難民の帰還も予想外に進んでおります。既に百七十九万人の難民がこれまでに帰還したと言っております。
それにあわせまして、国内では学校が再開されております。国際的な支援もありまして、各地で積極的に教育に取り組む姿が見受けられます。とりわけ女子児童の就学が復活したことは大きな差であります。カブールの街角を歩いていて、街角に学童が列をなして歩いているというのは、非常に時代が変わったことを感じさせる出来事であります。
十月のことでありますが、新しいお札を導入しました。これは通貨の安定、それから新札への切りかえを図って、同時にデノミも行うという効果が期待されております。これまで各地で異なる通貨を用いていた戦乱の時代から新しいアフガニスタンに脱皮する、そういう象徴的な出来事でもあります。
内戦の方は、ひところの状態に比べれば小康の状態にあります。実は、この一年の間に大規模な戦闘が起きていないということ、これはある部分では奇跡に近いと思います。それだけこの国では戦闘はそれまで日常茶飯事だったということです。
これらはすべていい方向の変化であるというふうに言えるんですけれども、やはり悪い状態への回帰、あるいは、悪いままでの状態が依然として継続している事象もございます。
一つは、貧困と飢えであります。天候状態による影響もありますけれども、アフガニスタンは依然として多大な人道支援を必要としています。残念ながら、ことしもそれは変わりませんでした。それゆえに国際的な支援も、労力はどうしても人道支援の方に振り向けられがちになり、復興支援に取りかかるタイミングもおくれてしまいました。
次に、麻薬の問題です。ターリバン政権の末期に、一時的に生産が厳しく禁止されましたが、ことしは改めて最大の生産国に躍り出たと思われます。麻薬による資金の発生にとどまらず、無法状態の維持を好都合と認める人たちがこの分野では活躍するだけに、ここに変化がないことは、今後を考えるとゆゆしき事態であります。
抑圧的と考えられたターリバンですけれども、彼らが去って、各地はどうなったのでしょうか。実は、ターリバンが出現する前夜のような、軍閥による群雄割拠の状態が再び出現してしまいました。この種の指導者たちは、依然として武力を通じて国を支配し、互いに小規模な衝突を繰り広げるばかりでなく、その支配地域の住民を抑圧し続けている事例をたくさん出しております。地域によっては、ターリバン時代と同じくらいにイスラム法に基づいた抑圧的な制約を課す司令官が存在しております。
それでは、現状が今どうなっているのかを分析してみたいと思います。
簡単に言えることは、未完であること、アンフィニッシュドビジネスは、何も軍事作戦ではないということであります。
内戦からの再建をかけて今アフガニスタンは前進しているはずでございますが、二十三年間も続いた戦乱や無政府状態から一夜にして国家再建が果たされるわけではありません。しかしながら、再生への出だしから道を誤った場合、そして、それに気づかずに前進し、その誤った軌道を修正する機会も設けられなかったとしたら、最終的にどこへ行き着くのか。恐らく正しい目的地にたどり着くことは不可能に近いことだと思われます。そうした危険性があることを常に念頭に置きながらアフガニスタンにかかわっていかなければならないのではないかと思います。
実際に昨年秋、ターリバン政権が崩壊した際のときのことを考えずに、コアリションフォーシズ、米軍を中心とする多国籍軍は軍事攻撃を進めていったことがあります。これはある部分国際社会の大きな過ちでありました。ターリバン政権が崩壊して慌ててボン会議を開催しましたけれども、軍事力を背景にカブールを手中におさめた軍閥とそれ以外の在外アフガン人の発言権の差は歴然としておりました。必然的に北部同盟という軍閥に偏った政権ができてしまい、手が血で汚れている彼らは、また同時に民族的にも偏りがあるがゆえに、各派からはその反発が強く出たわけであります。
しかしながら、第二段階に招集されるはずである大民族会議でこうした偏りは是正されるものと期待されておりました。ところが、この段階では、各地の代表者選出における不透明さ、アメリカによる議事運営への介入、軍閥による脅迫や買収が横行し、代議員によって大統領に選出されたカルザイ氏の正統性にも傷がついてしまいました。何よりも、大統領選出を通じて軍閥やイスラム原理主義者に借りをつくってしまったその状態、このもとではカルザイ氏は大統領としての指導力を発揮することは非常に難しくなったわけです。
時間が限られておりますので先に飛ばさせていただきますが、要は、カルザイ氏は非常に脆弱な政権基盤の上で今日も政権を運営することを余儀なくされております。彼はカブールの市長でしかないという極端な表現もあります。非常に失礼な表現かもしれませんが、かなり実態をあらわしております。その立場すら、実は実力者でありますファヒーム国防大臣の前には非常に象徴的なものとなってしまいます。地方の軍閥の多くが政権への帰属を繰り返し表明しておりますけれども、それは従属を意味しているのではありません。カルザイ氏は幾つかの人事を行っておりますけれども、それに従った地方の司令官や官吏は非常に少数であります。その実力、限界を早くから見限られていると言っても差し支えないかと思います。
そして、軍閥に借りがある、それが大統領にとっての大きな弱みでありますけれども、それは何も大統領だけではありません。アフガニスタンにおける深刻な問題はやはり治安にあります。ところが、その治安を乱す要因となるのは何もターリバンやアルカーイダの残党ばかりではなく、地方の軍閥であります。そして、その対テロ戦争を遂行するために、あるいは遂行しやすくするために、アメリカはこのカルザイ政権に従わない軍閥に対しても武器支援を行ってきております。こうした矛盾、これを将来的にどうやって正していくのか、その点があいまいになっております。
こうなってくると、国際社会のアフガニスタンの再生という課題は非常に行方がわからない状態であります。ただ、一つだけ忘れてはならないのは、和平プロセスが果たしてうまくいっているのかということも常に念頭に置いて動いていかなければいけないということであります。
その和平プロセスを支えるために、復興支援、これは東京の国際会議においてことし一月に表明されたことでありますけれども、それが考えられております。現状では、既に今年度に予定されておりました十八億ドル、さらにその後積み重ねられて十九・四億ドルに膨らみました国際的な支援の約七割に当たります十三・一億ドルが拠出されたと言っております。その中で、我が国は既に今年度に予定されていた二・五億ドルを超える二・八二億ドルを拠出し、ある部分では優等生として立場を築いております。
ところが、こうした支援に対して、アフガン側の受けとめ方は異なっております。円グラフで説明いたしますけれども、外側の円は、これまでに集められた、あるいはアフガン側に拠出されたお金がアフガン側でどのような形で使われたのかということをアフガン人の目から見た図であります。
彼らに言わせますと、当時約九億ドルと言われていた拠出金額のうち約八割方は人道支援や間接費、人件費などで消えてしまって、真水の部分、復興支援というものは二割でしかないということ。そして、さらに内側の円ですけれども、そうしたお金もほとんどは国際機関を経由して拠出され、直接アフガン側が使えるようなお金というのは一割ちょっとでしかないという不満でありました。このように、暫定政権にとって、これまでの支援は必ずしも想定した規模や内容ではなかったということ、不満が募るものだったということであります。
アフガニスタンとイラク、そして我が国の関与を考えていくとどのように見えてくるのかということを最後に申し上げます。
今、盛んに、レジームチェンジという言葉がはやっております。ある部分、これはアフガニスタンが先鞭をつけたことなのではないかと思います。それだけ大事業、国際社会が支援をする新体制の設立という大事業でありますが、果たしてこれはうまくいっているのか。アフガニスタンにおいては、まだまだこういう問題が山積していることを今申し上げたばかりであります。
ただ、気になりますのは、イラクに対する攻撃の必要性をアメリカ政府あるいは議会でいろいろ語る際に、常にアフガニスタンの成功例というものを引き合いに出してきました。実際にはアフガニスタンでは決して成功しているとは言えない状況にあるにもかかわらず、これを出してきた理由、それはなぜかといえば、やはりコアリションビルディング、同盟国をいかにして説得するか、そしてアメリカ国内の世論をいかに対イラク戦に向けて高揚させるかという政策的な意図が見え隠れしております。
ここへ来て、そのアメリカも、やはりアフガニスタンの国家再生がうまくいっていないということを若干認めるようなトーンに変わってまいりました。これまで否定的でありました軍隊による積極的な国づくりへの支援と関与を始めたわけであります。それだけ事態が逼迫しているということを認めたわけであります。また、米大統領の特使でありますが、今後は軍閥への武器支援は行わないと明言しております。これらが守られることを期待するのは、やはりアフガン国民そのものであると思われます。
最後になります。
国際社会の一員として、大量破壊兵器の脅威に立ち向かう責任というものはあると思います。必要であれば、我が国としてもそれを憲法などが定める範囲の中で果たさなければいけないと思います。しかしながら、そこで関与するにしても、当該国や地域において立場が異なる第三国からの示唆や誘導によって、我が国の国益が損なわれることがないようにしなければいけません。それはイラク問題に関しても同じであるはずであります。
私がアフガニスタンの経験で忘れることができないのは、時にはほかの事情によって実情が覆い隠されてしまうようなことがあるということであります。
御清聴ありがとうございました。(拍手)