佐藤一男の発言 (経済産業委員会)

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○参考人(佐藤一男君) 着席のままで失礼いたします。佐藤でございます。
 まず、今回の法律改正の契機になりましたのは、これはもう御存じのとおり、東京電力の自主点検記録の不正などでございました。
 自主点検の記録を改ざんしたり抹消したりするというのは、実はその後の保守管理の作業を著しく困難にしてしまう可能性がございますので、技術的にもどうも私、一介の技術屋としてはこれちょっと理解し難い行為なのでありますが、法令上は、これは必ず国に報告しなければならないとかなんとかというようなものでは必ずしもなかったというふうに理解しております。もっとも、その後判明したもので明白に法令違反というものもございましたけれども、当初発見されたものはそういうものではなかったのであります。
 しかしながら、こういうものを公表もしない、むしろ隠ぺいしあるいは抹消してしまうというようなことは、ジェー・シー・オー事故でその重要性が強調されたセーフティーカルチュア、安全文化というものにもとる行為であると申し上げてよろしいと思うんです。
 このセーフティーカルチュアというものを提唱したのはIAEAのINSAGというグループなのでありますが、そのグループが作った解説文書には、まず組織のトップは安全の問題に組織がどう取り組むかという基本的なスタンスを明らかにしなきゃならぬ、そこではいろいろな要件があるんですが、その要件の一つとして、安全に関することは組織は進んでオープンにするという態度が必要だと、そういうことがうたわれているわけであります。
 そういう目で見ますと、今回のそういう不祥事というものはセーフティーカルチュアの欠如と、それから技術倫理というものの退廃が形となって現れたものだというふうに私などは理解するわけでございます。
 しかし一方、国のこういう様々な、今回は法令違反というものでは最初は必ずしもなかったんですが、技術基準などは、これはいったん制定されますとその後の技術の進歩を反映して適時的確に改定をしていくというようなのは、これは必要だということはだれしもそう言うんですが、実際問題としてはかなり難しいのであります。中には、もう時代後れになっちゃったというようなものもないとは申せません。これでもって規制される方の立場に立ちますと、これは何とも納得しないまま、お上が言うから仕方がないということで表面だけで取り繕っておけというような、そういう風潮が生まれかねないのであります。それがいいとはもちろん申しませんが、生まれかねないということも事実でございます。
 したがって、今回の法改正等も踏まえまして、国の基準等の絶えざる見直し、最新の技術的知見を十分に取り入れたものにしていく努力というものが必要でございまして、これには民間の規格、民間の基準というのを適切に上手に使っていくと、国が、そういうことも必要なことかと思います。現に、例えばアメリカでよく言われますASMEのコードでございますとかその他、これはみんな実は民間規格でございます。
 さて、原子力の施設にはその安全を確保するために様々な構築物、系統、機器等が設置されておりまして、その中には国の法律、技術基準ないしは審査指針などで明白にこれは設けなければならないというふうに決められているものもございますし、そうではなくて、直接的な要求はないけれども、設計者ないしは事業者の判断、裁量でもって付けた方がいいだろうということで付けてあるものもございます。また、そういう設備については、例えば定期検査等によりまして国が直接検査に関与するものもあるし、事業者の言うならば自主的な活動に任されているものもございます。
 実は、これはアメリカの例なんですが、アメリカの原子力規制委員会、NRCと申しますが、このNRCが、今申しましたように規制当局としてこういうものを付けなきゃならぬと義務付けているもの以外に事業者が付けたもの、その事業者の判断で付けたものをのけて、これでどのぐらい安全が確保されるかということを解析した論文がございます。それで見ますと、例えば炉心が重大な損傷を受ける頻度あるいは大量の放射性物質が環境に放出される頻度ないしはその周辺の公衆に対する影響等が数倍から物によっては数十倍も跳ね上がるという、そういう論文が出ております。このことからも分かりますように、実はそういう施設の安全というものを確保するに当たっての事業者の活動というのがいかに重要かということであります。当然、この活動の中には自主的な検査等も含まれるわけでございます。
 こういうことから、今回の法改正では、私ども承っておりますところでは、事業者がこれまで言うならば自主的に行ってきた検査等の一部につきまして、全部ではたしかないと思いますが、一部につきまして、これを定期的に実施し、記録を保存し等々のことを義務付けるというような趣旨のことが入っているということが、私そのように理解しておりますが、これは現在当面の措置としては適切なものだろうと私は考えております。
 ただ、これから、後でもまた申し上げますが、国が直接関与する範囲はどこまでなのか、事業者が責任を負う範囲は本当にどこまでなのか、それが技術的に見て最も合理的な線引きはどういうものなのかということはかなり抜本的にこれから検討していく必要があるんじゃないか。今回のこの法改正はその方向に向かった第一歩であるというふうに私は考えております。
 我が国の原子炉を始めといたします原子力施設の許認可の制度というのは、これはもう先生方も御案内のとおりでございますが、一つの特徴として、例えば設置許可というものには期限がないんです。無期限でございます。その代わり、建前としては厳重な基準を設けて、その基準を満足しなくなったらもう取りやめだという、そういうものなんですね。アメリカなんかでは、これは許可には期限がございます。
 ところで、我が国の現在の技術基準というようなものは、実は施設を造りますときの工事計画の認可でございますとか使用前検査などというのを頭に入れた基準でございまして、言うなれば相手は新品でございます。施設を運転していって時間がたってくると、もう必然的に様々な変化、いわゆる経年変化が生じます。そういうものが生ずるというようなものは現在の基準を幾ら読んでも浮かび上がってこないんです。そういう点をきちんと取り入れた本当の意味での維持基準というもの、これは何も使用を始めたそういう設備の合否の判定基準を甘くするなどというようなものではございません。これはもうあくまで工学的な、言うならば常識に基づいた合理的に正しいようなものでなければならないわけでございます。
 このような維持基準が現在まで事実上我が国に存在しなかった。というのは、これはどうも運転開始後にこういう検査といったようなものがどういう意義があるんだということについての認識が、規制当局も、あるいは事業者の方も、さらには学界の方もその認識が不十分だったのではないかというふうに私は考えます。この点につきましては、私もその一端に加わってきた者といたしまして深く反省しているところでございます。
 今回の法改正が実現いたしますと、事業者が行う検査等につきまして、その所見に基づいて健全性の評価というのをすることになっているわけでございます。その評価の手法や判断基準等については、当面は民間規格等も活用するという方針だというふうに承っておりますが、国が早急にこれを整備するということはもちろん必要なことでございまして、今となってはいささか遅きに失した感はございますけれども、その方向で努力するというのは誠に適切な方策であろうと考えます。
 なお、これらにつきましては、外国でも相当な経験等を有しているところがございますので、そういう知識や経験に学んでいくということも大切なことかと存じます。
 ただ、将来にわたりましては、こういう運転開始してずっと時間がたってくるような場合にどういうことをどういうふうにやっていかなければならないのか、何がどれだけ重要なのかということをきちんと明確にしていく必要がございます。それを技術基準、維持基準等に十分に反映させる、国の役割、事業者の責任等を論理的にきちんと明確にしていくということが是非必要なことかと思います。このためには、実はリスク情報というものに基づいた様々な考察が極めて有効であり、また必要なことでございます。
 実は、平成十一年度版の原子力安全白書におきましては、リスク評価の概念に基づく安全確保を目指すという基本的な政策がちゃんと書かれているところでございます。その方向に向かって是非合理的な検査の方法等が策定されていくべきだというふうに私は考えます。
 さらに、こういうものをやっていくについては、例えば検査をするにしても、それを判断するにいたしましても、専門的な知識というものは必要であり、経験も必要でございます。そういう関連する核技術分野につきまして十分な知識と経験とを持った専門家の集団というものを、国も事業者もこれは育成し、維持していく必要がございます。私が見ますところ、現在の国の制度というのは、こういう専門家集団を自分の組織の中に育てるというのはそれほど簡単なことでないように見えます。そういう意味から、今度、原子力安全基盤機構といったような、そういう言わば専門家集団の組織というものを有効に活用していくということも大変有益なことではないかというふうに考えます。
 どうもありがとうございました。

発言情報

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発言者: 佐藤一男

speaker_id: 34997

日付: 2002-12-05

院: 参議院

会議名: 経済産業委員会