深尾光洋の発言 (財政金融委員会)

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○参考人(深尾光洋君) 本日はお呼びいただきまして、ありがとうございました。
 今日は、二つの資料、「デフレ下の金融再生について」という三枚紙の資料と、図表集、財政金融委員会説明資料と、この両方を使って説明させていただきたいと思います。
 まず、金融再生プログラムの評価ですけれども、竹中大臣による金融再生プログラムは方向としては正しい方向にあると。不良債権の引き当て強化、それから銀行の自己資本からの繰延税金資産の排除、銀行への公的資金の注入は、銀行の健全化に必要な措置だと考えております。
 しかし、仮にこの再生プログラムを完全に実施したとしても、金融再生はできないと判断しております。これは、現在のようなデフレの下では、貸出し先企業の業況悪化が激しく、仮に不良債権を一時的に全部ゼロにしたとしても、また新たに不良債権が発生してしまうということにあります。
 公的資本で健全化をしたとしても、銀行に資本を注入して公的資本で健全化したとしても、不良債権償却の純利益計上を義務付ければ、不良債権をしっかり償却して利益を上げろというふうに強制すれば、銀行の場合は、将来の貸倒れリスク、貸倒れ損失に見合った金利を設定せざるを得ない。そうなりますと、平均金利で、現在一・八%前後のところにありますが、一%は金利を上げる必要がある。
 大企業向けに金利を上げることは実際上不可能でございます。大企業は資本市場に逃げられるわけですが、こうなりますと、中堅・中小企業向けの貸出し金利を一・五、二%といった幅で引き上げないといけない。そうなりますと、現在のようなデフレで売上げが減っていく中では、中堅・中小企業は耐え切れません。こういったことを考えますと、デフレを止めないことには金融再生はできないというふうに私は考えております。
 資料を一枚めくっていただきますと、アメリカの大恐慌のときと日本の物価の動向の比較の図がございます。上の緩やかに右下がりになっている線が日本の物価でございまして、日本の物価は上の目盛りにありますように九四年がピークでして、現状、もうピーク比八%前後下がったところにあります。アメリカのデフレの方ははるかに厳しいものがありましたが、当時は農産物価格が六割以上低下しておりまして、この物価下落の半分は農産物の下落。そうしますと、残った部分の非農産物の下落のペース、幅ということから考えましても、日本のデフレというのは相当厳しいということが言えます。
 一枚めくっていただきますと、前年比でGDPデフレーターを書いてございます。下の点線でございます。これを見て分かりますように、九五年以降ずっとデフレが続いております。現状、前年比一・八%ということで、いまだにデフレが続いているという状況であります。
 では、デフレはなぜこんなに続くのかというわけですけれども、デフレの原因について、どんなマクロ経済学の教科書を見ていただいても分かりますけれども、基本的には需給ギャップがデフレを決めるということであります。デフレギャップがありますと、インフレ率は徐々に低下していってゼロになります。さらにゼロからマイナスになって徐々にデフレが加速していきます。これに対して、インフレギャップがあればデフレ率は徐々に小さくなってゼロに達し、インフレギャップが続けば徐々に物価が上がっていくということになります。
 現在のように需給ギャップが非常に大きくて、大体私は七%前後、三十五兆円前後のデフレギャップがあると考えておりますが、この程度のデフレギャップがありますと、デフレ率は悪化しこそすれ改善する見通しは全くありません。
 現在、日銀政策委員会あるいは経済財政諮問会議、IMF、OECD、その他いろんな研究機関が日本経済の見通しを出しております。その見通しを見ますと、必ずデフレ率は小さくなって、プラスになっていくという見通しを出しております。この根拠は私は全くないと考えております。これは、個別に私も全部議論しておりますが、IMF、OECDのエコノミストが日本に来るときに私もよく会いますけれども、詰め寄って本当にこれは根拠がありますかと言うと、根拠は全くないわけです。あるいは経済財政諮問会議についても、私も友人もおりますので直接話を聞いても、あれは竹中大臣がフリーハンドで書いたんじゃないですかと言っても答えられない状態にあります。
 つまり、要は希望的観測にすぎない。その希望的観測にのっとって経済政策をしているので、いつまでたってもデフレが止まらない、こういう状況にあります。私は、基本的に危機感が足りないということでありまして、危機感が本当に目の前に現れない限り何もしないというところに大きな問題があると考えております。
 次に、不良債権の正常化についてお話ししたいと思います。
 政府は不良債権処理をデフレ対策の柱に掲げてきましたけれども、この根底には、日本経済のデフレの要因が不良債権にあり、その処理を促進して銀行を再生すれば不況脱却が可能になるという考え方があると思います。私は、これは間違っていると考えます。因果関係は、もちろん不良債権処理が遅れているので、ゾンビ企業と言われておりますが、赤字を出し続けても、安値で売って営業を継続する企業があるからデフレが悪化するという面はもちろんありますが、より大きな因果関係は、不況でデフレが悪化しているから企業がどんどん悪化していく、そのためにゾンビ企業が増えてしまって更にデフレが悪化する、こちらの方向にあるというふうに考えております。
 このために、銀行の収益を見てみますと、図表の三枚目をごらんください。これは全国銀行協会が発表している収益の数字を分かりやすく直しただけでございます。一番上の資金運用差益というのは、銀行全部、これは全国銀行の受取利息と受取配当から支払金利を除いたもの、これが十兆弱、二〇〇一年度で九・八兆円です。その他差益といいますのは、それ以外の収益全部から株と不動産の損益を除いたもの、つまり株式、不動産の損益以外のすべての収益が三・一兆円。これが手数料収入や為替、債券、ボンドのディーリング益などになります。合計で十三兆円ぐらいの収益力があるわけですが、これに対して経費の方は、ピーク九七年の八兆円から、現在七兆円まで、リストラで一兆円ぐらい下がっております。この差額を見ますと、大体粗利益が六兆円、まあ五、六兆円、これが業務純益に当たりまして、これで償却しなきゃいかぬわけです。
 その次の行、償却する額。これは不良債権の損失を全部足したものでございまして、売却損、引き当て、それから償却、全部含みます。この数字と粗利益を比べていただきますと、業務損益(F)というところですが、九三年度以降ずっとマイナスが続いております。つまり、この八年間、一年たりとも本当の利益を上げたことはないと。時々利益を出しているように見せておりますが、株や不動産の益出しによるものであります。
 このために、銀行部門の再生は無理であって、このデフレが続く限りは不良債権損失はこの程度、過去三年平均七兆とか八兆とかいう金額が出てくる可能性が極めて高い。
 そうしますと、業務利益を上げる以外にないわけですが、一つはリストラでありまして、これまでもやってきておりますが、これを強化というのがあります。ただし、不良債権処理というのは非常に人手が掛かります。正常債権だけであればほっておけば利益が上がるわけですが、不良債権の償却には相当の人手が掛かります。また、コンピューターシステムも、この前のみずほの事件で明らかなように、投資が不足しております。
 こうなりますと、銀行が利益を上げるためには、リストラもありますが、貸出し金利を上げざるを得ない。私は、貸出し金利を一%ぐらい上げて、現在貸出し額が五百兆ありますので、あと四、五兆円、まあ五兆円ぐらいの新たな利益を出してこれを償却していけば銀行は利益が出せますので、銀行株も上がって自ら増資ができるという正常な状況に持っていくことが可能です。
 ところが、貸出し金利を上げる場合に、大企業から取れるわけがありませんので、中堅・中小企業向けの貸出し金利を上げざるを得ない。そうなると、このデフレではもたないということになります。私は、デフレを脱却しなければ金融再生は不可能だと考えております。
 では、どうしたらデフレから出られるかというわけでございますが、最後の三ページになります。
 現在のようなデフレギャップ、三十五兆円というデフレギャップがありますと、このデフレギャップを埋めるために仮に公共投資をやろうとしますと、ケインズ乗数は大体一・四から一・五ぐらいでございます。そうしますと、二十兆を超す公共投資を新たに追加して、その水準を何年か続けるというぐらいのことが必要です。これはとてももたないと思います。
 では、減税でやるということになりますと、減税の乗数効果は大体一ぐらいでございます。減税しても直接使われるのはその六割かそこらでございまして、それが波及効果を生んでもせいぜい一ぐらい。そうしますと、三十五兆円のギャップを埋めようと思いますと三十五兆円の減税、所得税と法人税全廃しても足りないぐらいということになります。これはとてもできない。現在の状況で仮にGDP比一%の五兆円程度の先行減税をやっても焼け石に水だというふうに考えております。
 こうなると、何ができるかですけれども、やはり尋常でない政策を取らざるを得ない。現在は、私は既にバブル、マイナスのバブルだと考えております。
 これはどういうことかといいますと、不動産や株式を売って預金や現金、国債に換えるという動きが続いております。預金や現金、国債に移すという背景は、政府の保証があるからということで安心しているわけです。ところが、政府の信用力はといいますと、税収がどんどん減っておりまして、今年もう相当の歳入欠陥が見込まれております。こうなりますと、本来信用がどんどん減っているものに人々はどんどん金を移している。これは維持不可能でございますのでバブルだということになります。
 この現金、預金、国債に資金をシフトするというバブルをつぶす方法としては、二つの考え方があり得ます。
 一つは、インフレターゲットを設定して日本銀行が大量に上場投資信託、ETF、TOPIX連動のETFを大量に買い入れる、あるいはREITを大量に買い入れる、これが一つのやり方でございます。もう一つは、これをやってもデフレが止まらない場合は、バブルの対象に課税するということが考えられます。つまり、政府が保証しているすべての金融資産、現金、預金、国債、地方債といったものに対して、デフレ率プラスアルファでデフレが続く限り課税を行うと宣言することです。現状であれば二%程度の課税を行うことが考えられます。これだけ課税をしますと、課税対象は預金、郵貯、簡保、全部込みですので一千兆を超えますので、二%課税しても二十兆近いお金が入ります。これだけあれば不良債権処理や雇用対策にも使える。
 これをやりますと、効果としては課税対象外に資金がシフトします。株、社債、貸出し等にシフトが起きます。銀行も日銀当座預金にお金を置いておくだけでは損になりますので、これは二%税金が掛かりますので、貸出しをして損を避けようとします。企業間信用も、代金を現金で受け取ってしまうと税金が掛かりますから、受け取らなくていいよ、後払いでいいよということになって企業間信用も拡張します。また、不動産投資も、預金を置いておくよりは不動産を買う、あるいは耐久消費財を買うといった形で強力な景気刺激効果があります。もっとも、問題点としては、二%政府保証の金融資産に課税をするということは、ムーディーズからパーシャルデフォルト、部分デフォルトではないかと言われるかもしれませんが、それはやむを得ないと考えております。
 いずれにしましても、デフレを放置したままでは、公的資金の銀行への注入というのは、公的資本と呼ぶべきではなく補助金の注入と言うべきであって、毎年三、四兆、銀行にお金を上げ続ければやっていけますが、それは銀行部門を国有化することと同じだと考えております。
 以上です。

発言情報

speech_id: 115514370X00420021114_007

発言者: 深尾光洋

speaker_id: 13304

日付: 2002-11-14

院: 参議院

会議名: 財政金融委員会