岡本雅美の発言 (農林水産委員会)
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○参考人(岡本雅美君) ただいま御紹介にあずかりました日本大学に現在在籍しております岡本でございます。
冒頭、恐縮でございますが、私事なのですが、後の説明の関係上、私の経歴、専門について一言述べさせていただきたいと思います。
私は、農業工学科と俗に申しますけれども、土地改良あるいは農業農村基盤整備あるいは農業農村整備といったような事業名で皆さんよく御案内のことと思います。農業土木事業あるいは土地改良事業あるいは農業農村整備事業と呼ばれる事業にかかわります。
この中身を言いますと、要するに、農業の主要な生産基盤である農地にかかわる一切の土木的な事業を行う分野でございます。そのために、農業土木という世界にない日本だけの名前を使っておるわけでございますが、具体的には、まず農地を開発、今日も出てまいります諫早のような干拓事業、あるいは陸地の開墾事業、続きまして、さらにでき上がった農地を更にレベルアップするための圃場整備事業とかあるいはかんがい排水、水利事業を行います。水利事業に至りましては、中山間にダムを造ることから堰を造ることまで、大変な土木事業を伴うことをやっております。そのほかに防災といったような、大体そんな事業分野を土木的手法で行う、そのような学科を卒業いたしまして、以来、所属としてこの分野での仕事を続けてまいりました。
私個人は、特に計画部門、ただ、計画と申しますと、河川の水利ということになりますと、これは多部門にわたりますので、私自身は多面、多部門の水資源開発とか、例えば極端なことを言うと、国際河川の水利調整といったようなことも専門にしてまいりました。そういうことで、余り物理的な個々の具体的な事業のいわゆる土木屋らしい設計施工といった面についてはいささか不案内な点がございます。
ただ、計画を行い、またでき上がった後の維持管理あるいは利用といったところを専門にいたしておりますので、また常々この有明海の再生にかかわるような議論を聞いたときに、土木を素養としております私から見ると、少し技術的に申し上げておいて理解しておいていただいた方がいいんではないかという点が幾つかありましたので、今日はそこを中心に申し上げてみたいと思います。
まず、有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律案ということで、衆参両院でこのような法案が議論され、また設置を目指しておられることについては、私はこのこと自身を意義あるものと評価しております。
その理由は、個々の、例えば水質汚濁であれば水質汚濁防止法とか下水道法とか個々の法はございますけれども、特別に有明海及び八代海という地域を限定したそういうような特別措置法を設立することの意義ということでございますけれども、これが有明再生特措法の場合は大いにあるだろうと考えます。
それはどういうことかというと、まず緊急性がございます。御存じのように、諫早干拓を中心にして現在国の行う公共土木事業は、あるいは港湾の事業等々が既に終わり、あるいは現在進行中でございまして、また地元の促進要望あるいは中止要望等、社会的な大変なイシューとなっております。また、行政としての対応も迫られるというふうな緊急な社会的、行政的な背景があろうと思います。
また、地域を区切るという意味では、差し上げた二枚目を見ていただきたいんですが、このように有明海というのは非常に湾口の狭い、八代もそうですけれども、閉鎖水域になっております。ですから、余り他との影響なく、ここだけで単品で扱えると。また、そのことが非常に有効性を持つという特徴を持っておりますし、したがって、直接の対象としませんけれども、後の汚濁負荷の総量規制というようなことになりますと沿岸への規制が及ぶわけですけれども、その場合にも、流入河川の流域も海域とともに一体的に、つまり汚濁源を特定しやすい、また環境劣化域というものも特定しやすい、特定できると。これは一般的な、例えば仮に太平洋に接した沿岸で特別立法をやるということは大変難しいのに比べて、特別な特措法で対応するにふさわしい川でございます。
また、今回、総合調査ということを標榜されておりますけれども、現在まで、私どもから見ると、大変単項目的といいますか、余り総合的でない調査というものがあって、環境問題あるいはこのような社会的な影響の大きいものについては、そういう単純な調査では駄目で、それを総合的、有機的なアセスというのをやらなきゃいけないわけですが、そういうものをやるための根拠法としても大変有効であろうと。
また、情報公開も強くうたわれておりまして、これは住民あるいは日本国民に対するアカウンタビリティーという点と、また多面的検討が当然情報公開には伴うわけですけれども、これは文殊の知恵ということで大いに期待できるだろうと。後ほどいろんな議論が出ると思いますけれども、例えばシミュレーション結果にしましても、専門家によって大いに議論が変わります。そのようなことは、やはり文殊の知恵で情報公開の前提の下で多面的な検討をやる、そのようなことのステージを作るという意味でこの特措法は大変有効であろうと。
汚濁負荷の総量削減措置が修正案の方に入っておりますけれども、これは行政政策の理念、原則としては私は評価いたします。してはと申し上げるのは、この点若干の疑義がというか懸念があるからでございます。後ほど申し上げます。
釈迦に説法でございますが、この有明海は、だれもが言うことですけれども、閉鎖性、孤立しておりまして、外海から独立しております。また、干満の差が非常に特大であると。言い方によって五メートルとか十メートル、何とでも言えるわけですけれども、とにかくこのような干満差を持った海湾は日本にはございません。ですから、東京に三番瀬のようなわずかな干潟がありましても、有明海ほどの干潟を持った湾はございませんが、これは大きな干満差のせいでございます。
干潟は決して干満差だけではできません。つまり、干潟を生産する土砂灰とわざわざ書いたんですけれども、普通は泥と言った方がいいんですが、この泥の根源は両岸からの火山から流れてまいります火山灰でございます。火山灰が非常に細かい。そういうことでございまして、それが豪雨地帯である、台風銀座の地帯でございますので大変な土砂の流出量がある。そういうことが延々つながりまして、そこにありますような古典的な干拓も発達したし、洪水の被害も大変多かったと。そして、干潟の上にだんだんと我々が、人類が開発してまいりましたところは常時排水不良の地区になると。
そこで、簡単に干拓のことでございますけれども、干拓は、三枚目の一番最後の図面を見ていただきます。これは色分けしてございまして、もう三百年以上前から有明海はこのように干拓してまいりました。この場合、干拓といいましても、これは言うなれば干潟がだんだんだんだん土砂がたまってきて次第に水面上に現れる、それを我々が、御先祖様が水田に開田されていったというように理解されていただきたい。しかも、これは大きく分けてございますけれども、実際にはこれはもう本当にうろこ状にちびちびと開発した結果が現在こうなっておりまして、このようなものは単式干拓と言っておったわけですが、実は戦後、大変な技術革新が起こりまして干拓の事業は変わりました。
このことをもう一つ申し上げておきたいんですが、それはオランダから輸入されましたオランダのアイゼル海、デルタプランが典型でございます。日本では八郎潟、児島湾、諫早湾、諫早干拓が典型でございますが、複式干拓と申しまして、三枚目の図面を見ていただければ分かりますように、前面に潮受けの堤防を、そして内部に干拓堤防、第二線堤防を造るという二段の複式の堤防を造るというやつでございます。
これはどういう意味があるかというと、真ん中に調整池というのがございます。ここは内陸から参ります淡水、河川水でだんだんだんだん真水になってまいりますので、これが真水に完全に入れ替わったときには水源として使えると。つまり、干拓地を造るだけではなくて水源も同時に造成するという二つの機能を持った、これがオランダ起源で日本でも戦後大いに活発化した事業でございます。このことを行うためには大変な土木工事量がありますが、そのことは、そこにありますように工事の大規模化による環境影響度は大きくなっております。ですから、従前の三百年以上前から行われていた干拓に比べて技術的に異質の干拓であるということを御承知おきいただきたい。
またさらに、諫早干拓特有の、日本の、あるいは恐らく海外にもないたった一つの特性は、調整池の水位を下げておいて洪水対策にも使おうという防災効果を持った干拓事業でございます。もちろん、潮受け堤が高潮に対する防災効果を持つことは当然でございますが、それ以外に内陸の洪水対策を兼ねるといったことは、恐らく全世界唯一の干拓事業でございまして、このことが大いに記憶されるべきことであろうと。
この干拓事業はそのほかに付加価値的な特性を持っておりますが、それについては時間の関係で省かせていただきまして、この問題を取り扱うときに一つだけお考えいただきたいのは、有明海、特に諫早干拓も含めた議論では、他の地区に見られない特徴、つまり二千八百億円の総事業費を想定した、もう恐らくは九〇%ぐらいの予算執行ができていると思うんですが、さらに物理的には潮受け堤防そして中央干拓地の干陸といったものが済んでおると。そして、調整池もマイナス一メートルのコントロールをして実際の防災効果を、施設でいえば供用開始、つまり効果をもう既に発現させちゃったということです。
つまり、現在既にかなりの施設ができ、実際の効用を発揮しておる。それに対して、一方でいろんな形の被害といいますか、悪影響を指摘した場合に、その間のどちらを取るにしても、どちらに進むにしても、現在既にこれだけのものができており、そして効用を発揮しているということを無視してはこの議論が進められないという点で、簡単に、例えば潮受け堤防を全部つぶしてしまえば元の干潟ができるだろうといったような議論は、真ん中に、じゃ今あるものの処置、今発揮されている効用をどう処置するかということを考えなくては、実際の政治的あるいは行政的な議論にならないだろうということでございます。
総合調査についてのコメントでございますけれども、そのようなことで、開門度合いにしましても、期間何年間でやるとか、あるいは洪水シーズンといえどもやるんだとか、あるいは時間帯をどうする、淡水湖の水位をマイナス一メートルでコントロールしないでもう外海とつなげてやってしまおうといったようなことは調査条件として重要でございますが、その際に今申し上げたようなことを勘案する必要があると。どう勘案すべきかについては多々議論があろうと思いますが、そのことについて強調しておきたいと思います。
また、私どもの経験からいたしますと、総合調査は、特定因子と環境変化との因果関係というのは総合調査でも簡明には特定し難いだろうと思います。なかなか、自然界が相手でございますので、原因と結果というのを単純につなげないという懸念が私はあると思っております。したがって、原因調査はもちろんこれは当然やらなきゃいけないことですけれども、もう防止対策というのは効果が自明なものが多々ございます。
比喩は飛ぶようですけれども、現在、例えばがんはいまだに発生のメカニズムは分かっておりませんが、がんの治療法というものは、ある場合にはいろいろ確立しております。そのような意味で、効果が自明の対策こそ一方で急がれるべきであると。ですから、ただ原因調査ということにこの特措法を特化してほしくないということでございます。
それから、総量規制についてなんですが、これは理念として単に濃度規制では駄目で総量の負荷の削減が必要であると。これはこのとおりでございますが、実際問題としまして、例えば水質汚濁防止法あるいは土地改良法の中にもこれにかかわるような条文がございますけれども、実際問題として総量規制というのは、実際に効果を発するためには個々の汚濁源に排水規制を掛けていかなきゃいけませんけれども、その特定あるいはその排水規制を行う行政的な手段、またその効果を担保する手段等々がなかなか実現難しい面がございまして、この点で、総量規制を理念としてうたうことに私はもうもろ手を挙げて賛成でございますが、実施技術という点で技術者として若干の不安を残しております。
以上でございます。