石井修平の発言 (法務委員会)
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○参考人(石井修平君) 本日は、意見表明の機会をいただきまして、魚住委員長始め当委員会の委員の皆様に御礼を申し上げます。
報道被害につきましてはいろいろ厳しい御批判、御指摘を受けておりますけれども、その重みを十分受け止めつつ意見の陳述を行いたいと存じます。
では、座って失礼をさせていただきます。
私は、本日、民放連の報道問題研究部会の部会長という立場で意見を述べさせていただいております。この報道問題研究部会といいますのは、表現の自由、報道の自由にかかわる様々な問題について機動的に対応するために民放連の報道委員会に設置されているものでございます。在京テレビ局五局の報道局次長クラスをメンバーといたしております。
本日は、人権擁護法案の中の報道にかかわる部分について意見を申し述べます。この法案のほかの問題点、名古屋刑務所におきます事件を引き合いに出すまでもなく、人権委員会の独立性や実効性等についての議論があることはよく承知しておりますけれども、本日は、民放連を代表する立場で報道にかかわる部分について意見を申し上げます。
まず第一は、人権救済システムの必要性は理解をしておるということでございます。我々は、この人権擁護法案と、もう一つ個人情報保護法案については、知る権利を抑圧するという観点、おそれから異議を申し立てているわけでございますが、この法案の趣旨については十分理解をしております。
日本には、人権を侵され、虐げられている人がまだ大勢いることは事実でございます。先住民族のアイヌ、在日韓国・朝鮮人、被差別部落出身者、あるいはHIV感染者、あるいは体が不自由であるということだけで差別を受けているといったような実態があることも十分承知をしております。また、児童養護施設、刑務所、入管施設の中での虐待の問題も明らかになっております。
しかしながら、こういった問題が迅速かつ簡便に救済されるという仕組みが現在の日本にないことも事実でございます。したがって、時間や費用などの点で難しい面のある司法による救済に加え、こうした人々の迅速な救済を図るための新たなシステムができるのであれば、これは歓迎すべきことであるということでございます。
次に、取材、報道による人権侵害と報道機関の自主的な取組についてでございます。
今申し上げたことを基本にこの法案について考える前に、まず我々が日々行っている報道活動が結果として個人の名誉、プライバシーを侵害、また取材活動の過程で取材対象者の平穏な生活を乱すというケースがあることは事実でございます。本日御出席の岡村先生を始め、報道被害に遭われた方からの御批判は謙虚に受け止めたいというふうに痛切に感じております。
しかしながら、これらの問題については、報道機関は自ら襟を正し、問題の発生を予防し、また起きてしまった場合には自主的に解決をすると。そして、やむを得ない場合には裁判を通して問題の解決を図るということが原則と考えております。
自主的取組に関しましては、民放連とNHKは、BRO、放送と人権等権利に関する委員会機構を一九九七年に設置をいたしました。そして、放送による権利侵害の救済を行っており、集団的過熱取材、いわゆるメディアスクラムにつきましても去年の十二月に対応策を打ち出して、新聞界とも手を携えまして問題の発生を予防し、発生してしまった場合には速やかに解決するという取組を行っております。
BROにつきましては、お手元に年次報告書や今年度上半期における活動状況を紹介する資料を配付させていただきました。十八ページだと思います。その資料をごらんに是非なっていただきたいんですけれども、お手元の資料、八ページにもありますように、新聞協会と民放連は昨年十二月に相次いで見解を発表し、今年一月から本格的にメディアスクラムについての対応も行っております。
民放連が調査したところでは、今年一月から六月にかけて六つの対応事例がございました。資料の十三ページに例示してございます。取材対象者からの要請を受けたり、現場に集まった記者の判断の中で代表取材を行ったり、慎重な取材を申し合わせたりしております。これまで特に問題の多かった通夜や葬儀の際の取材につきましても、例えば三島市の女子短大生殺人事件におきましては葬儀の場の取材を代表取材として混乱を回避いたしました。
また、最近では、北朝鮮拉致被害者の帰国に際しまして、無用の混乱を避けるために、北朝鮮による拉致被害者家族連絡会と北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会からの要請を受けまして、民放連と新聞協会で節度ある取材を行うことを申し合わせております。これは資料の十五、十六ページに記載されております。これを受けまして、東京では例えば在京社会部長会、新潟と福井ではそれぞれの報道責任者会議が中心となって、被害者の自宅周辺の取材を代表取材にする、あるいは自宅から離れたところに取材ポイントを置くということで、被害者の方の日常生活をできる限り乱さないようにしながら取材に当たっております。
被害者や家族の方の気持ちや意見を知り、その上で政府の姿勢や方針を考えるという、国民の関心にこたえることと被害者の方の平穏な生活をできるだけ乱さないという双方の課題にこたえる取材が、あるいは報道ができていると考えております。
こうした取組のほかにも様々な取組を行っております。各社における報道ガイドラインの整備充実、民放連における記者研修会の開催、この場では報道被害者の方、本日お見えの岡村先生にも二回にわたり報道被害に遭われた経験を語っていただいておりますし、桶川ストーカー事件の被害者の猪野さんにも出席をしていただいております。こういった研修会を開催して記者の意識を高める教育を行っております。
以上のことを前提に、人権擁護法案の全体的な問題点を是非考えていただきたいと思います。
人権擁護法案についてですけれども、まず申し上げたいことは、差別、虐待と並んで、報道による人権侵害が特別救済の対象となっている異様さについてでございます。先週の法務委員会における法務省の答弁では、この法案は同和問題の解決という国内的な流れを受けたもので、国連規約人権委員会の見解を直接に受けたものではないが、この勧告を踏まえた内容になっているとのことでした。
そこで、国連の規約人権委員会の見解の内容を確認してみました。日本の問題点として挙げられているのは次のようなものです。例えば、在日韓国・朝鮮人に対する差別、アイヌに対する差別、同和問題、出入国管理手続中に収容されている者に対する暴力、セクシュアルハラスメント、起訴前勾留の長期化、弁護士の接見交通権の制限、代用監獄制度、自白の強要に対する懸念、刑務所内での不当な取扱い等でございます。その多くが公権力、つまり公の権力による人権侵害の事例であります。もちろん、報道による人権侵害に関する記述は一言もございません。
ところが、人権擁護法案を見ますと、国又は地方公共団体職員による虐待が特別救済の対象となっているだけで、国連から指摘をされた広範囲な人権侵害の救済については私人間の問題と同列に扱われています。逆に、報道については特別に条項が設けられております。極めてバランスを欠いており、正直に、率直に申し上げて怒りを感ぜざるを得ません。
次に、法案の具体的な問題点についてでございます。
法務省のホームページには人権擁護法案におけるQアンドAというのが掲載されております。この中で、我々報道機関の懸念について、ほぼ網羅的に法務省側が反論されておりますので、その幾つかに再反論を試みたいと思います。
法務省は、報道被害に関する救済の対象を、特に弱い立場にあり、泣き寝入りせざるを得ないことの多い犯罪被害者等に対する報道による著しいプライバシー侵害と過剰で生活の平穏を著しく害する取材の二つに限定したと主張されています。確かに、法案の上では、文言の上では、「私生活に関する事実をみだりに報道し、その者の名誉又は生活の平穏を著しく害する」とか、電話やファクスを「継続的に又は反復して行い、その者の生活の平穏を著しく害すること」などと、様々な形容詞を付け、対象となる行為が限定されているようにも見えますが、著しい、あるいは過剰、みだりといった極めてあいまいな概念でこの問題を取り扱うことの不当性を我々は是非指摘したいと思います。
森山法務大臣は、四月二十四日の参議院本会議で、その後も法務省側の答弁はこの基調で行われているわけですけれども、民主党の福山議員の質問に答え、電話やファクシミリをどの程度繰り返せば過剰な取材になるのかと、個別事案の判断となるのかという質問したことに関して、森山法務大臣は、個別事案の判断となるということで、結局のところ人権委員会の判断による部分がかなり多いことを認めております。
また、少年被疑者や性犯罪の被害者の実名を挙げる、それを露骨に表現するといった、基本的にはごく普通のメディアであればあり得ない事例、極めて極端な事例を挙げて報道被害の実例としていることについても納得いきません。
その人権委員会も、委員が中央に五人しかおらず、事務局の裁量によるところが大きくなることは十分予想されます。
また、法務省は、政治家や官僚の疑惑に関する取材が制限されるのではないかという批判に対し、犯罪の疑惑を追及されている政治家や官僚に対する報道取材が特別救済の対象になることはないと。一方、政治家や官僚の家族に対する報道取材は特別救済の対象となるが、家族を事件関係者として取材する場合は対象とはならないという説明をされていますが、これは机上の空論と言わざるを得ません。
疑惑の政治家の取材は容易なものではありません。その家族が事件に関係しているのかしていないのか、そのことがあらかじめ分かっているのではなく、丹念な取材を通して関与が明らかになるというケースもございます。事件関係者としての取材なのか、単なる家族への取材なのか、そういう区別をあらかじめ付けることはできません。取材の実態を全く理解していないと言わざるを得ません。人権委員会の事務局の職員が取材の可否の判断に深くかかわる結果にもなりかねません。これは全く容認できないことであります。
外務省と鈴木宗男被告の関係を挙げるまでもなく、官僚の方は政治家からの圧力に弱いところがございます。圧力が加わらないという保証はございません。我々報道機関というのは、これまで人権擁護については極めて重要なテーマとして取り組んでおります。この姿勢を、これまでずっと取り組んでいながらこのような法律の対象にされることについては全く納得がいきません。
以上申し述べましたように、非常に多くの問題があり、報道に携わるあらゆる人間が反対をしております。
最後に、是非、皆様におかれましては、私の意見でメディアの意見を聞いたということではなくて、更に幅広い報道機関の声を聞いていただきたいというふうに思います。民放連は、原点に戻って一から出直すべきだと、それは公権力が表現の自由、報道の自由を侵す危険性を取り除くことから始まると声明を出しております。この点を是非受け止めていただきたいと思います。
最後に、報道被害で御迷惑を掛けた方々に改めておわびを申し上げるとともに、その防止につきましては、新聞協会とも協力し、全力を挙げる所存、決意でございます。
もう後戻りはあり得ません。どうか我々の主張にも御理解をいただきたいと存じます。
本日は意見陳述の機会を与えていただき、ありがとうございました。