古川景一の発言 (法務委員会)

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○参考人(古川景一君) 私は、今回の法案には労働者保護の観点から見たときに少なくない問題があると考えております。この点について、以下、参考人として意見を述べさせていただきます。
 まず第一点として、今回の法律が会社更生だけを目的とするのではなくて、会社を安楽死させることを実現させるための法改正であるという点を指摘したいと思います。
 今回の会社更生法案では、第一条で定める法律の目的が大きく変化いたします。現行法では、「窮境にあるが再建の見込のある株式会社」という規定になっておるわけですけれども、今回の改正法案では、「再建の見込のある」という言葉が削られます。それで、「窮境にある株式会社」とだけになります。また、改正法案の第一条では、「当該株式会社の事業の維持更生」という言葉があるわけですが、「当該株式会社の」という言葉が加えられます。
 このため、今回の法改正によって再建の見込みのない会社も会社更生法の手続を利用できるようになります。また、事業を他の会社に売却して、事業は残るけれども会社は残らないということも可能になるわけであります。これは、企業の安楽死と突然死ともいうべき事象に対応するためでございます。
 企業が経営困難となってその再建の見込みがない場合には、突然死する場合と安楽死する場合があります。
 経営困難に陥っている会社がいきなり破産の申立てをいたしますと、これは企業の突然死でありまして、業務は直ちに全面的に停止し、それから従業員もほぼ全員が即日解雇される、そして取引先への打撃や社会的な影響も大きなものがあります。このような突然死を避けるために、つまり激変を緩和するために取られるのが安楽死であります。
 それで、今回の法改正は、正に会社の安楽死のために使えるようにするというのが大きなねらいの一つであります。そのために様々な規定の整備がされます。
 第一に、入口の段階で更生手続の開始要件を緩和して更生の見込みについての裁判官による経営審査を不要といたします。すなわち、更生の見込みのない会社でも更生手続の開始決定を得られるようにするということになります。
 それから第二に、安楽死するまでの延命期間の運転資金を金融機関が安心して貸せるようにし、それから、電力等の安定供給を受けられるようにするために再建支援融資と電気料金等の保護を図るようにいたします。
 それから第三に、会社の事業の全部又は重要な一部を他の会社に売却するための営業譲渡手続を設けるということになっております。
 このことを前提にして、第二点として、会社の安楽死の場合における労働債権の問題を指摘したいと思うわけであります。
 まず、債権の回収する力の強さという点について見たいと思います。
 企業が倒産した場合における債権の回収力の強さについては、大ざっぱに言って三段階があります。第一の順位は、抵当権や譲渡担保などの強い担保権を有する債権です。それから、第二順位は、一般先取特権という余り強くはない担保権を有する債権であり、その典型が労働債権です。第三順位が担保権を有しない一般債権です。これは、当然のことながら、第一順位と第二順位の債権への弁済がなされた後に残っている資産があれば配当を受けるという地位であります。
 この企業が安楽死させられる場面では、第二順位の労働債権が最も脅かされることになります。なぜならば、第一順位の抵当権などを有する債権、すなわち銀行の融資等については既に特定の物件を担保として押さえておりますから、安楽死をしたからといって影響を受けるものではありません。そればかりか、安楽死すれば、更生計画で債権カットを強いられることもなく担保権は実行できますから回収額が増える可能性さえあります。
 これに対して安楽死の過程では、企業は残存する体力、すなわち売り掛け債権や受取手形、在庫などを使い果たしていくわけであります。このため、もしも仮に会社更生の申立てではなく破産の申立てがされていれば、退職金などの労働債権への優先弁済をするための原資として残るはずであった会社の一般財産が減少して労働債権への弁済が困難となります。そればかりでなく、今回の法改正では、安楽死をした時点での企業の残存資産は、安楽死までの期間の運転資金として金融機関から受けた融資の返済に充てられることになります。このため、労働債権や一般債権への弁済原資はますます減少することになります。
 第三点として、倒産法制における労働者の位置付けを述べたいと思います。
 まず一番目として、権利行使の機会を保証すること、その必要性であります。
 そもそも、倒産法制の適用場面では、清算するにせよ再建するにせよ、企業経営者、株主、金融機関、仕入先、販売先、労働者などの関係者は相互に激しい対立関係になります。だれかが得をした分だけ必ずだれかが損をするという関係になります。である以上、その利害関係の反する当事者を手続に参加させて自らの権利を保全する機会を付与するのでなければ倒産手続が公正に運用される保証はどこにもありません。手続から排除された者が割りを食って保護を受けることができないのは、ある意味で自明のことだからであります。
 そして、第二に指摘したいのは、そのような状況の下では、退職の自由を行使して労働者が逃げるしか方法がないということであります。
 現在の法律では、労働者保護、労働者の手続参加が極めて不十分です。このために、安楽死の目的で会社更生の手続が行われているのではないかとの危惧や不安が発生した場合に労働者が取る唯一の自己防衛の手段は、退職の自由を行使して早い者勝ちで退職金を受け取るということになります。これまでにも、企業の経営危機の際にそのような事態は繰り返し起きております。このために、本来なら再建できるはずの企業まで人材が流出して再建できなくなるということさえ起きているわけであります。すなわち、会社更生法は、労働者保護と労働者の手続参加の機会を付与することが不十分であることに起因して会社更生が失敗に至る可能性を自ら高めていると言うことができるわけであります。
 では、第三番目として、本来どのような姿であるべきかという点を指摘したいと思います。
 本年十一月に静岡大学の川口助教授が季刊労働法の二百一号に発表された「フランスにおける企業倒産と労働者保護」という論文は、倒産法制における労働者保護の在り方に関して大変示唆に富んでおります。
 すなわち、フランスにおいては倒産手続を担う主体が四者おります。その第一は受命裁判官、第二は裁判所が選任した管理人、それから第三が裁判所選任の清算人又は債権者代表、そして第四として労働者代表がおります。
 この第四の主体である労働者代表は、再建の手続でも清算手続でも、いかなる小企業の場合でも選出することが義務付けられています。労働者代表は、各種手続について情報の提供を受け、諮問を受け、意見聴取の機会を付与されるだけでなく、裁判所の行う手続開始決定や営業譲渡許可、再建計画認可などに対する異議申立て権や上訴権までも有しております。再建や清算のいずれであっても労働者の解雇については商事裁判所の許可が必要であり、労働者代表はこの決定に対する上訴権も有しております。
 これらのフランスの制度というのは、一面において労働者保護ですが、同時に再建や清算手続への労働者の協力を取り付けて再建や清算の手続を円滑に進める、それによって倒産処理の関係者全体の利益を図るものと言うことができます。
 まとめとして、労働者保護の在り方を四番目に指摘したいと思います。
 第一点としては、まず私的整理を禁止することであります。
 日本では、倒産事件の八割が私的整理であり、法的整理は二割程度であります。経営危機でも自転車操業を続けて、倒れたときには何も資産がなく、労働債権が踏み倒されるといった例が続出しております。フランスのように、私的整理を禁止して、会社が窮境にあったときには法的整理の手続開始の申立てを義務付ける、そしてさらに、社会保険料を一回でも滞納すれば社会保険基金が手続開始の申立てをするというようなシステムにすれば、残存している体力に即して早い段階で再建をすることも可能になり、また労働者保護に資することが可能であります。
 それから、第二点として、労働者代表の手続参加が必要であります。
 企業という有機体において労働者は不可欠の構成要素です。この不可欠の構成要素を粗末にして企業の再建や清算がスムーズに進むわけはありません。今回の会社更生法案によって安楽死目的での濫用的な申立てがなされ、会社の残存資産を食いつぶして労働者の退職金を脅かすような事態が発生するのを防ぐためにも、会社更生手続の不可欠な主体の一つとして労働者代表を置くべきであります。そして、開始決定に対する抗告権を付与したり、手続廃止の申立て権を付与するなどの措置を講ずるべきであります。
 今回の改正案では、営業譲渡の許可や会社更生計画に関して意見聴取をすることとしていますが、しょせんは聞きおくだけであります。この点につきましては、法制審で現在、破産法改正策定のための作業がされており、安楽死させた企業を破産手続に行って言わば企業のお弔いを上げる、会社更生でうまく安楽死をさせて最後の締めくくりは破産でやるということの審議が現在なされていますが、この過程で、この審議においても労働者代表の手続関与についての検討が絶対に必要不可欠であると思っております。
 それから、第三に営業譲渡に関する問題です。
 今回の法案では、管財人が裁判所の許可を得て更生会社の営業の全部又は重要な一部を譲渡することができますが、一九七七年のEEC指令や日本における会社分割法等の例に見ても、営業譲渡について労働者が原則としてくっ付いていくということを義務付けるべきであります。労働者を振り捨てた上での営業譲渡というものは許されるべきではありません。
 それで、最後に裁判管轄についても触れたいと思います。
 現行法では本店所在地を管轄する地方裁判所の専属管轄となっておりますが、先ほども指摘のありましたように、全国の事件を東京地裁、大阪地裁で扱うことができるという改正がなされようとしています。これは大変問題が多いと考えております。
 なぜならば、地方の企業の労働者の手続の関与を困難にするというのが第一です。それからもう一つは、将来このような会社更生法はより利用されなければなりません。そのときに清算型や再建型の倒産処理に対応できる人材を全国各地に長期的に養成しなければならないのに、その人材が東京と大阪に集中する結果になることが目に見えていると考えるからであります。
 以上をもって、私の意見陳述とさせていただきます。

発言情報

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発言者: 古川景一

speaker_id: 23610

日付: 2002-12-05

院: 参議院

会議名: 法務委員会