逢見直人の発言 (法務委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(逢見直人君) UIゼンセン同盟の逢見です。
UIゼンセン同盟は、本年九月にゼンセン同盟、CSG連合、繊維生活労連の三組織が統合して結成された組合員七十八万人の産業別組織です。UIゼンセン同盟は、製造業、流通・サービス産業を中心に個人消費に密接にかかわる生活関連産業をカバーしております。
私はそこで企業倒産や合理化問題の担当責任者をしておりますが、ここ四年ほど前から、私たちの組織の中でも長期不況によって経営が行き詰まり会社更生法を申し立てる企業が増加しております。私自身がかかわったものとしても、ヤオハン、長崎屋、シーガイア、マイカルなどのケースがございます。もちろん、会社更生法のみならず民事再生あるいは破産申立てといった事案も多いわけです。
これら倒産法制全般について意見がございますけれども、本日は会社更生法改正案にかかわる論点に絞って意見を申し述べさせていただきます。
まず第一は、労働組合の手続関与であります。
不良債権処理が企業経営者と銀行との間で行われている間は従業員は直接の当事者でありませんが、倒産法制を活用する場合には取引先や当該企業に働く従業員にも直接的な影響を与えます。倒産法制は、当該企業に働く従業員にとって雇用あるいは労働条件に直接かかわる問題でありながら、しかし、これまでは労働組合がその手続に関与するウエートは極めて低いものでありました。例えば、現行の会社更生法においては、百九十五条で更生計画案について裁判所の労働組合等からの意見聴取があるのみであります。
二〇〇〇年四月から和議法を全面的に改正する形で民事再生法が施行されましたが、この民事再生法では、これまでの倒産法制に比べて労働組合の手続関与の割合が増えました。今回の会社更生法改正におきましても、労働組合が民事再生法と同様に手続の各段階に関与できる旨の規定が設けられ、それに加えて、民事再生法にはない労働組合の手続関与が更に書き加えられたことは率直に評価したいと思います。
特に、会社更生法の場合は、更生計画案の策定段階よりも更生手続開始の段階でスポンサーが事実上決定するなど、更生の枠組みが決まってしまうケースが多いので、更生手続開始前から労働組合の意見聴取ができるように法改正すべきであるということを、私はかねてからそういう意見を持っておりましたけれども、今回の改正でこれが明記されたことは評価したいと思います。
ただ、民事再生法の下で私たちが経験したところでは、民事再生法では、原則的には債権者と債務者との間で決められるという枠組みであるために労働組合の意見は聞きおく程度というのが実情でございます。会社更生法では管財人や裁判所の管理の度合いが高いわけでありますから、また、会社更生法の場合は手続が厳格で、更生計画案の策定に至るまでに幾つかの関門といいますか、節目節目があるわけであります。そうした各段階での労働組合の意見聴取にとどまらず、これを協議というレベルまで引き上げるべきであるというふうに私は思っております。
とりわけ問題と思っておりますのは営業譲渡であります。改正案にある更生計画認可前の営業譲渡については、これは当該企業に働く従業員の譲渡先との雇用契約の承継に密接にかかわる問題であります。しかし、これについての労働組合の関与は、営業譲渡の許可の際の裁判所による意見聴取ということとなっております。労使関係の分野では、こうした問題は意見聴取ではなくて事前協議で行っております。このような内容の改正では今後様々な営業譲渡にかかわる問題が出てくることが予想されます。
お手元に資料をお配りしておりますので、ごらんいただきたいと思います。
これは、営業譲渡にかかわって厚生労働省内に設置された企業組織再編に伴う労働関係上の諸問題に関する研究会の報告でございます。この報告書の結論は、営業譲渡時の労働契約の承継については特段の立法措置の必要はないというのが結論であります。この結論そのものについても私は問題があると思いますが、ここでは営業譲渡全体の問題には触れません。
ただ、報告書では特段の立法措置は必要ないとしながらも、二ページのところですが、譲渡会社が経営破綻している場合についてこの報告書では、
譲渡会社自体が経営破綻していることから、当該譲渡会社の全ての雇用を確保することは、一般的には困難であり、様々な努力によって、どれだけの雇用の場が確保できるのかが焦点となる。
このような場合には、譲渡会社の破綻処理・再建の過程を通じて、労働者の雇用や労働条件について、適切な配慮がなされることを期待することになる。このため、具体的には、会社更生法等法律に基づく手続等において、労働組合等に適切な関与の機会が与えられ、管財人等が労働関係法を遵守し、裁判所が手続の過程で雇用等に適切な考慮をすることによって、対応すべきである。
こう述べているわけであります。
この研究会は、第百四十七国会における商法改正による会社分割制度の創設と労働契約承継法の制定の際に、衆参両院の附帯決議を受けて営業譲渡を中心に調査研究を行ってきたものであります。
当時の国会の附帯決議では「立法上の措置を含め」という形でボールが投げられたわけでありますが、厚生労働省の研究会報告は、特段の立法の措置の必要はないという結論を出し、しかし、譲渡会社が破綻している場合には会社更生法等法律に基づく手続等において労働組合に適切な手続関与の機会を与えるべきであるという形で今度は逆に球が投げ返されてきた。今回法務省が中心になってまとめた会社更生法改正案には、更生計画提出前の営業譲渡を認めたにもかかわらず労働組合の手続関与に関しては意見聴取にとどめたわけであります。
民事再生法の下でも再生計画提出前の営業譲渡が認められております。この営業譲渡の実態について私が直接かかわった事案に関してだけでも、全部譲渡のケース、それから一部譲渡のケース、それから譲渡先が複数企業にわたるケースなど様々であり、その後の再生手続でも、申立て企業が清算型に行く場合もあるし再建型に行く場合もあります。要するに、営業譲渡はケース・バイ・ケースで判断せざるを得ず、私どもUIゼンセン同盟の場合は、そうした場合には個別に合理化対策委員会を設置して、経営者あるいは弁護団、管財人等と随時協議をして、従業員の最大限の雇用、雇用がどのような受皿で移るのかということについてかなり協議をしているわけであります。
こうした民事再生法での経験から類推するに、会社更生法においても今後、更生計画提出前に営業譲渡するケースがかなり出てくるものと思います。営業譲渡がなされる場合、雇用数あるいは労働条件といったものは極めて当該従業員にとって重要な問題であり、実際には、運用上は管財人は労働組合にも十分な説明をして理解を求めることになるだろうし、労働組合も、協議の経過を組合員に報告するなどして、個別の営業譲渡問題について、そこに働く労働者としてこれが理解できるのか、納得できるのかという判断をしていくことになると思います。
ただ、管財人が労働組合との事前協議に応じてくれるかどうかというのは、法律の規定がない以上、これはあくまでも管財人の善意に期待するだけということになります。
会社更生法のような申立てというのは、私たち産業別労働組合にいる人間は幾つか経験がありますが、企業別組合の役員にとってそのような経験をした人はほとんどいないと言っていいと思いますが、そうすると、法律についての知識もありません。事前協議もなく、結果だけを通告されて、最終段階で意見を聴くということであれば、これは形式的に聞きおくだけということになります。スピーディーな処理というのが分からないわけでもありませんが、雇用の承継や労働条件に直接かかわる営業譲渡については、意見聴取ではなくて事前協議とすべきであります。
また、営業譲渡全般についても、会社分割と同様に労働契約承継についての法的なルールを作るべきであります。その際、譲渡される事業にある労働組合と譲渡元の企業、譲渡先の企業、その三者での協議を義務付ける必要があると思います。この点は、今後、法務省、厚生労働省との間で十分な協議がなされることを強く要望したいと思います。
次に、管財人の選任に関して、経営責任の存しない取締役等に継続して事業を運営させるいわゆるDIP型の更生手続を導入することについてであります。
私たちの経験でも、会社更生法申立て直後は保全管理人の管理下に入って、取締役は原則として全員退任するわけですが、その際に、実務の責任者が不在になって保全管理人が企業の全体を把握するまでに言わば司令塔不在の状態になってしまい、労働組合が現場からの問い合わせに答える、あるいは保全管理人に対して今どのような指示を出すべきか意見具申するといった経験がございます。
また、更生会社の事業再生に当たって、これまで事業に携わってきた旧役員が管財人になる、そのことによって更生がスムーズに進むことがあるというケースも否定しません。しかし、会社更生法申立てというのは、取引先等の債権者に多大の損害や迷惑を与えているわけですから、そういった人たちが管財人に加わる、あるいは管財人代理になるということについては、その必要性、合理性を十分説明する責任があると思います。
経営者が退陣しなければならない会社更生法と違って民事再生法は現経営陣がそのまま残って経営の指揮を執ることができるため、大企業でも会社更生法を選択しないで民事再生法を選択したというケースがあります。これは経営のモラルハザードともいうべき問題であって、私どももそうしたことに立ち会ったわけですが、そうした場合には、民事再生申立て企業でも、経営責任の所在を明らかにさせて経営者に退陣を求めたこともあります。会社更生法改正によってこの点について経営者のモラルハザードを起こすことがあってはならないと思います。
企業の再建のためには、当該企業の従業員の理解と協力、とりわけ倒産企業を再建させるためには、理屈抜きに従業員の求心力となるべき人材が必要になります。裁判所が旧経営陣を管財人とする場合には、その選任について労働組合からの意見を事前に十分聴くべきであると思います。
次に、適用法人の拡大についてであります。
現行法では適用対象は株式会社のみでありますが、しかし、経営が苦境にあるのは、株式会社だけではなくて学校法人あるいは医療法人のような公益法人もあるわけですし、協同組合形態による事業体、あるいは今後、特殊法人、認可法人、独立行政法人についても経営が行き詰まるところがあるかもしれません。
私も県や市が出資した第三セクターの会社更生にもかかわりましたけれども、これは株式会社であったために会社更生法が適用されましたが、別の形態の法人ではこれを使うことができなかったわけです。会社更生法の特徴は、すべての利害関係人を取り込み、会社の役員、資本構成、組織変更までを含んだ抜本的な再建計画の立案が可能になることであります。こうした枠組みを活用するためには適用法人を一般まで広げるべきだと思います。
最後に、会社更生法だけの問題ではありませんが、倒産法制における労働債権の優先順位の引上げについて申し上げたいと思います。
今後も不良債権の抜本処理に関係して倒産件数が更に増加することが懸念されます。こうした中で労働債権が確保できないという事態が発生します。現行法制では労働債権の保護が余りにも不十分であり、倒産法制の中での労働債権の優先順位を引き上げる必要があります。
一九九二年に採択されたILO百七十三号条約では、国内法令は労働者債権に他の大部分の優先的債権、特に国家や社会保険料よりも高い優先権を与えると定められております。つまり、国税や社会保険料などの公租公課よりも労働債権が優先的に取り扱われることを義務付けております。日本はこの条約を批准しておりませんが、労働債権は公租公課よりも劣位にあります。労働債権を租税、社会保険料債権よりも優先させるべきであります。
それから、担保権と労働債権の順位につきましても、現在は労働債権は担保権よりも劣位にあります。法的手続に至った企業は、不動産等はほとんど担保設定されており、労働債権に回せるものがないというのが実態です。会社更生法でも共益債権となる労働債権の範囲が限られております。
会社更生法のみならず倒産法制全般において、一定限度の労働債権は抵当権等の担保権より優先すべきであるということを最後に申し上げまして、私の意見陳述を終わります。