大出彰の発言 (憲法調査会)
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○大出委員 基本的人権の保障に関する調査小委員会における調査の経過及びその概要について御報告申し上げます。
本小委員会は、六月五日に会議を開き、参考人として、千葉大学法経学部助教授小林正弥君をお呼びし、基本的人権と公共の福祉、特に国家、共同体、家族、個人の関係の再構築の視点から御意見を聴取いたしました。
会議における参考人の意見陳述の詳細については小委員会の会議録を御参照いただくこととし、その概要を簡潔に申し上げますと、
小林参考人からは、
まず、従来国家と個人の二元論を主張してきたリベラリズムが自由主義思想を極端に急進化させたために、貧富の格差、市場の失敗、モラルの衰退、人間関係の希薄化などの弊害をもたらしたという指摘がありました。この弊害に対処するために、コミュニタリアニズムは、リベラリズムへの批判において、倫理、道徳、伝統、責務や共同体、コミュニティーの必要性を主張し、その基礎を、国家でも個人でもない家族、コミュニティー、NGO、NPOなどの共同体、コミュニティーに求めたという説明がありました。これがリベラル—コミュニタリアニズム論争であり、国家、共同体、家族、個人の関係の再構築は、コミュニタリアニズムの大きな主題の一つであることが説明されました。
しかし、コミュニタリアニズムであっても、憲法は国家対個人の関係を、権利を中心として規律するものとする近代憲法の枠組みを崩すものではなく、直ちに道徳規定や義務規定を法規範である憲法に書き込むことに結びつくものではないという指摘がありました。
そして、このコミュニタリアニズムの観点から日本国憲法の解釈を試みることにより、これまでのリベラリズム的な憲法解釈では不可能であった幸福追求、共同体の中の国家の相対性、地球的アイデンティティーなど新しい時の要請にこたえる解釈が可能になるとの考えが示されました。その上で、日本国憲法の規定ぶりはかなりコミュニタリアニズム的であり、当面それを改正する必要は見出せないのではないか、国家、共同体、家族、個人の関係の再構築のためには、憲法改正ではなく、むしろ憲法に内在する潜在的意義を最大限引き出し、具体化させることが重要であるという意見が示されました。
このような参考人の御意見を踏まえての質疑応答を通じて、委員及び参考人の間で活発な意見の交換が行われました。
そこにおいて表明された意見を小委員長として総括するとすれば、
現在の日本において、公と私の対立において私が余りにも強調され過ぎているために問題が生じていること、これに対しコミュニタリアニズムがどのような回答を用意しているか、そして、コミュニタリアニズムの言う公や道徳とは何かという点について議論が行われました。
特に、1.公や道徳の内容を考えるに当たっては、日本と欧米には宗教観の相違があることを見逃してはならないのではないかという点、2.コミュニタリアニズムの教育問題や政党政治のあり方への応用という点、3.環境権や美しい都市をつくる権利を憲法上規定するという点などについて意見の表明がなされました。
従来、日本国憲法は主にリベラリズムの観点からの解釈が行われてきましたが、憲法が規定する公共の福祉を考える際の新たな視点として、リベラリズム的な公私二元論を乗り越え、公共哲学という学際的なアプローチが始められていることにつきましては、注目に値するものであると考えられます。その考え方については、公共の福祉の解釈や家族の位置づけといったものを考えるに当たり、検討すべき事項はなお多いと思われますが、今回、新しい視点が示されたことにおいて非常に有意義な議論であったと考える次第であります。
以上、御報告申し上げます。