春名直章の発言 (憲法調査会)

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○春名委員 日本共産党の春名直章でございます。
 基本的人権と公共の福祉について、二点に絞って発言いたします。
 まず、日本国憲法のコミュニタリアニズム的解釈と新しい人権の問題について述べます。
 小林参考人は、日本国憲法をコミュニタリアニズム的に解釈することによって、環境権、プライバシー権、知る権利などの新しい権利は、憲法改正によることなく法律の制定によってその保障が可能であること、公共の福祉の概念を人権相互の矛盾や衝突の調整という従来の解釈の有用性を踏まえつつ、それを超えて国民全体の利益を構想する学説が有力になりつつあることを述べられました。
 振り返ってみますと、かつての憲法学における公共の福祉論と異なって、日本における公共性についての今日的意味が積極的に意識され始めたのは、大阪空港訴訟や名古屋新幹線訴訟を初めとした公共事業をめぐる公害訴訟においてでありました。公共事業を進める当局側は、公共事業の社会的有用性のみをもって公共性を論じました。それに対して住民側は、それらの公共事業によって損なわれる被害者の生活環境や文化などの公共性を鋭く対峙させました。この公害訴訟によって、公共論議に新たな局面が開かれたとされています。こうした歴史的経過を見たとき、参考人が指摘された公共性概念は、まさに環境権などの新しい人権を獲得する運動と一体に発展してきたものとも言えます。
 小林参考人が、リベラリズム、社会的保守主義との対比で日本国憲法を読み直してみたとき、第十二条は、新しい時代の要請に対応するためには、解釈改憲ではなく、むしろ逆説的に憲法の文言そのものに戻れということを述べられました。また、公共哲学で重視している幸福については、第十三条の幸福追求権が存在しており、これを私的幸福だけではなく公的幸福の追求へと発展させることも可能であることも述べられました。さらに、「われらとわれらの子孫のために、」という前文の文言は将来世代をも射程に入れており、これらの要素に注目すれば、日本国憲法の発展上に新しい時代の理念を考えることができるとまで述べられたことを大変印象深く受けとめました。
 そして、結論として、国家、共同体、家族、個人の関係の再構築という重要な課題を遂行するためには、憲法改正ではなく、現行憲法をコミュニタリアニズム的に再解釈し、それとともに政治的、社会的改革を遂行して、現行憲法に内在する潜在的意義を最大限に引き出し、具体化させることと述べられたことは、私たちが日本国憲法を改めて再認識すること、日本国憲法によって二十一世紀の日本を構想し得るというふうに受けとめました。
 日本国憲法の人権規定は、今日焦点となっている環境権、プライバシー権、知る権利に対応できるのみならず、さらに将来生起するかもしれない新しい人権にも対応し得る、懐の深い構造を持っていることを改めて認識するとともに、現行憲法の潜在的力を引き出す立法作業こそ、今日、国会に問われている憲法問題であると考えます。
 第二に、公共の福祉の通説的解釈の意義と、公共の福祉の名のもとに国民の自由と権利を制限し得るという議論についての批判的意見を述べたいと思います。
 憲法学における公共の福祉の解釈は、国家権力が公共の福祉を理由に過度に人権を制限することを防ぐことに力点が置かれて、積み上げられてまいりました。それは、小林参考人も、その有用性を認めているとおりであります。
 その背景は、一つは、戦前の日本においては、国民、当時は臣民ですが、その権利は法律によって幾らでも制限が可能という明治憲法のもとに置かれていたという歴史を持っていること。二つは、戦後も、日本国憲法によって何の留保もつけずに保障されるようになったはずの人権に対して、国家による国民への不当な人権侵害が相変わらず続いているという事情があるからだと説明できます。
 小林参考人は、公共の福祉の解釈は限定的なものにとどめず発展させることを指摘しましたが、日本の政治状況は、戦前はともかく現在においても、本来、人権を実現する意味も含めて説明されるはずの公共性が展望しがたい状況にあります。つまり、公共概念が現実の政治的、社会的関係に投入されますと、専ら個人を超越した国家的公共として作動していく現実があるからです。その端的なあらわれが、今回の武力攻撃事態法における公共の福祉論でありましょう。これは、国及び国民の安全を保つという高度の公共の福祉を理由に国民の自由と権利を制限できるとするものですが、しかし、個人の尊厳、法のもとの平等の原則、軍事力をも放棄した徹底した平和主義を貫く日本国憲法のもとでは成り立ち得ない立論であります。
 こうした公共の福祉を悪用する今日の政治状況をかんがみたときに、国家権力が公共の福祉を理由に過度に人権を制限することを防ぐことに力点を置いた公共の福祉論は、今日なおその重要性が確認されるべきであると考えます。小林参考人が、憲法の再解釈とともに政治的、社会的改革の遂行を述べたとおり、公共の福祉を悪用する今の政治改革こそ、今日直面する憲法問題だと考えております。そうしてこそ、これまで展望しがたかった公共性も構想できる展望が開かれるのではないでしょうか。
 以上で終わります。

発言情報

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発言者: 春名直章

speaker_id: 1215

日付: 2003-06-12

院: 衆議院

会議名: 憲法調査会