高見勝利の発言 (憲法調査会統治機構のあり方に関する調査小委員会)

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○高見国立国会図書館専門調査員 まず、今回提出いたしましたA3四枚つづりの資料でありますけれども、資料一は、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカ及び日本の政治制度に関するファクターを一覧表にしたものであります。資料二は、日本国憲法と明治憲法及び旧プロイセン憲法を比較対照したものでございます。また、資料三は、両院制に関する基礎データをまとめたものでございます。
 以下、若干の補足的な説明を行うことにいたします。
 まず、資料一の一番上の欄をごらんください。
 左端に「政治制度の類型」と書かれました欄でありますけれども、そこには、イギリス、ドイツ、日本について議院内閣制、アメリカは大統領制、そしてフランスはその中間の半大統領制であると表記されております。そこで、次のページにかけてざっとごらんいただきますと、この主要五カ国だけでも、その実定制度は実に多様な形を示していることがおわかりいただけるかと思います。特に、議院内閣制として一括されている制度は、議会と政府との関係が大変に複雑な組み合わせになっております。
 では、まず、そうしたその複雑な部分を捨象した制度の核心を構成するものは何かと申しますと、それは、権力分立という基本原理から導かれる立法と行政という二つの権力の間の緩やかな分立であるというふうに説明することができるのであります。そして、この点に着目いたしまして、議院内閣制は、大統領制という立法、行政の両権力が極めて厳格な形で分立した政治制度と対置されるのであります。つまり、議院内閣制と大統領制という二つの制度が分立の厳格度によって原理的に類別されているのであります。
 そして、この分立の厳格度の違いが制度上最も明瞭な形で示されるのが、資料一の一ページの下から二段目の「兼職」の有無に関する欄であります。
 そこでは、厳格な分立を組織原理とする大統領制のアメリカでは、閣僚と議員の兼職は許されないものとされております。これに対して、権力の緩やかな分立というよりは、むしろイギリスの場合には完全な融合という言葉も使われますけれども、そのイギリスの議院内閣制のもとでは、憲法習律上、閣僚は議員でなければならないものとされるのであります。
 ドイツの場合は、イギリスと同じ議院内閣制でありながら、憲法上、閣僚と議員の兼職に関する規定は置かれていないのでありますけれども、しかし、事実上、ほとんどの閣僚は、議員の中から、議員の身分を保持したまま選ばれております。これに対して、フランスでは、第三共和制以来、内閣の不安定は大臣のいすをねらって議員が絶えず政府を倒そうとしたために起こった、そういう反省から、議員の大臣病を断つという超然内閣の論理が働き、閣僚と議員の兼職はできないものとされているのであります。
 議院内閣制と大統領制という二つの制度を分かつ最も本質的なものは、しかしながら、分立の厳格度ではなくて、立法と行政との間の信任関係、責任関係の有無にあるものと考えるべきであります。このことは、資料一の「不信任・解散等」の対照表から読み取ることができます。
 アメリカの場合、徹底した権力分立主義の立場に立って、行政府と立法府とは法律的に別個の系統とされるところから、大統領は議会に対して何ら責任を負わない。したがって、大統領は議会から不信任されることもないので、議会を解散することはできないわけであります。つまり、大統領は、議会の信任の有無にかかわらず、その職を保持するのであります。そして、議会を構成する議員もまた、大統領が好むと好まざるとにかかわらず、その定められた任期を全うし得るのであって、任期中、大統領の手で議席を剥奪され、解散によって選挙人のもとに送り返されるということはないのであります。
 これに対して、イギリスでは、内閣は下院の信任を保持する限りその職にとどまり得るのであって、下院から不信任された場合、首相は内閣総辞職するか下院を解散するかのいずれかを選択することになるのであります。
 ドイツも、基本的にはイギリスと同じでありますけれども、憲法上、下院は後継首相を決めた上でなければ内閣不信任を表明することができないという、いわゆる建設的不信任の制度を採用しております。また、首相の解散権の行使についても一定の制限が付されておりまして、この点でイギリスと異なる形をとっているのであります。これは、ワイマール憲法時代に、議会の諸党派が倒閣では一致しながら後継首相について意見がまとまらなくて、長期間にわたって国政が麻痺してしまいまして、それがナチスの台頭を許す要因になった、そういう戦前の苦い経験に基づいて考案された制度であります。
 フランスの場合には、やや込み入っておりますけれども、大統領と下院はともに国民の直接選挙により選ばれますので、選挙の結果次第では、大統領と下院との間で、その支持する政党にねじれが生ずることも当然あり得るのであります。この点は、基本的にアメリカの分割政府と同じでありますけれども、しかし、アメリカの大統領制と違うところは、フランス大統領の場合には下院解散権が認められているということであります。大統領は、下院から不信任されることがないわけですけれども、それにもかかわらず下院を解散することができるというわけであります。大統領はまた、首相、大臣の任免権を保持しております。しかし、内閣と議会との関係ということになりますと、内閣は下院の信任がなければ円滑な国政運営を行うことができないことは、これはもとより当然のことであります。
 下院にとっては、内閣不信任制度が政府の責任を追及する有力な武器となるのであります。この武器を用いまして、下院が内閣に対する不信任動議を可決した場合、憲法上、首相は大統領に政府の辞職を申し出ることになっておりますけれども、しかし、それによって当然内閣が総辞職ということになるわけではないのであります。なぜなら、大統領には首相の辞職を受理するか下院を解散するかの自由な判断権が与えられているからであります。
 このように、議院内閣、責任内閣の論理の貫徹が大統領の権力によって阻止せられ得る仕組みになっているというのが、半大統領制と呼ばれるフランスの制度の特徴であります。
 日本国憲法も議院内閣制を採用しているのでありますけれども、当初、この制度が実際にどのような形で運用されるのか、不明なところがございました。
 どう運用すべきかが真剣に議論され、問題になったのは、一九四八年十二月に行われた最初の解散のときでありました。すなわち、このときの解散が憲法六十九条を根拠にして行われたため、国会の内外で、憲法上、首相の解散権に制約があるのかどうか、大論争となったのであります。この論争は、憲法第七条に基づいて行われた一九五二年八月の第二回目の解散のときにも再燃いたしましたけれども、しかし、その後七条解散が定着したこともありまして、原則として首相は自由に解散権を行使することができるイギリス型、もっともイギリスの場合では、解散権の行使につきまして憲法習律上、一定の制約があるというふうに考えられておりますけれども、このイギリス型に最も近いものとして、今日に至るまで日本国憲法に規定する議院内閣制の運用が図られてきたことは、これは言うまでもないところであります。
 ここで、資料二の帝室内閣制について一言コメントしておきたいと思います。
 これは、いわゆる君主主義に基づいて、君主の政府が議会に押さえつけられないように権力の厳格な分立を強調し、制度上も大臣は専らその任命権者たる君主に対して責任を負うとするものであります。
 この点で、帝室内閣の大臣はアメリカの大統領に直隷する閣僚に似ておりますけれども、しかし他方、君主の解散権はイギリス国王の大権と同じものと考えることも可能でありまして、そこでイギリスをモデルに、十九世紀後半から二十世紀初頭にかけて、プロイセン議会や我が国の帝国議会は、憲法上付与された法律や予算の審議・議定権、さらには、憲法上規定のないものでございますけれども、不信任決議権を武器にいたしまして、議会、特に下院に対する政府の政治責任をある程度実際に確立し、議院内閣、政党内閣をかなりの程度において実現することができたのであります。
 しかし、日本では、それが統帥権の独立に代表される、政府から隔絶した諸権力によって制約された枠内のものでしかなかったことは、明治憲法のたどった運命が示すところであります。これに対して、行政権は内閣に属するといたしまして、その行政権の行使について、内閣の国会に対する連帯責任を明記した日本国憲法第五章の諸規定はさきの反省の上に立ったものであることも、これもまた指摘するまでもないところでございます。
 次に、両院制についてでありますけれども、ここでは、議院内閣制、すなわち、下院選挙で多数を制した政党が下院を基礎に内閣を組織し、政権を担う統治システムのもとで上院の役割をどう考えるべきかということが一番の問題となります。下院と同様、公選議員から成る、いわゆる民主的第二次院型と言われる上院を採用する国家の場合には、特にそれは難しい問題をはらんでおります。
 ただ、その場合でも、連邦制の場合には、上院の存在理由についてまだ少しは説明が容易ではあるのですけれども、しかし、単一国家の場合には、上院はその存在自体が本質的に争いのある制度だというふうにもしばしば言われるところでございます。そこで、思い切って一院制にした方がよいのではないかという議論も有力に唱えられるわけでありますけれども、しかし、これに対しては、両院制論者の側から、一院制こそ本来的に問題のある、一院制も非常に問題のある制度だ、そういった批判がなされているところであります。
 このことは、資料三の二の「一院制・二院制の長所と短所」を比較した一覧表からも読み取ることができるのであります。
 例えば、一院制の長所とされる、効率的な審議、政策決定の迅速性というのは、これは両院制論者からいたしますと、一院の衝動的な行動をチェックできない、そういう短所として映るわけでございますし、それから、両院制の長所とされる拙速を避け慎重審議を行うこと、これは一院制論者からいたしますと、総じて、非効率で決定が遅延するだけだ、こういうふうに映るわけでございます。すなわち、一方が長所だと主張する点は他方にとっては短所、欠点とみなされる、そういうわけでございます。
 なお、両院制の採用状況は、資料として掲げました一の「二院制採用国の推移」が示すとおり、全体の約三分の一程度にとどまっておりますけれども、しかしながら、ここ七、八年の推移を見ますと、やや増加の兆しがあるようにも思われます。一院制の国家は数の上では圧倒しておりますけれども、しかし、それらは総じて人口規模の小さな国でありまして、規模の大きな国では、中国を除いてほぼ両院制でありまして、三の「主要国の二院制議会一覧」からも明らかなように、G8を構成する国はすべて両院制を採用しております。
 最後でございますけれども、この一覧から、一九八〇年代の半ばに政権交代があって、その結果、上院の存在感が増して、下院との間であつれきの生じましたカナダの例をごく簡単に御紹介しておきたいと思います。
 カナダの上院議員は任命制でありまして、その任命は、首相の助言のもとに総督が行うものとされております。一九八〇年代の半ばに実施された下院総選挙の結果、それまで長期間政権の座にあった自由党にかわって、進歩保守党が政権についたということから、上院と政府との間で党派的なねじれが生じ、緊張感が高まったことがございます。ここで注目しておきたいのは、その張り詰めた緊張状態の中で下院と上院とがおのおの主張した、みずからの権力の正当性の根拠についての議論であります。
 下院側の主張は、いわば選挙民主主義とでも呼ぶべきものでありまして、それは、要するに、政治権力とその行使の正当性は、直接、選挙により国民から授権されたマンデートに基づいて、下院で多数派及び少数派を構成する政党から派生するものであって、国民のマンデートを保持しない上院は、下院の意思をくじくだけの民主的な正当性と権力を保持しない、こういう議論でございます。
 これに対する上院側の主張でありますけれども、それはその時々の国民の多数ないし議会多数派の意思を超えた憲法的権威に訴えるものでありまして、それは、たとえ上院が選挙で選ばれたものでなくとも、その役割を果たすべき憲法上の義務を保持し、下院多数派を基礎とする政府が、憲法に照らしてその権力を踏み越えていると見た場合には、判断した場合には、単に消極的な抵抗にとどまらず、体を張ってでも積極的にそれを阻止する行動に出るべきだ、出る権限を有する、そういう議論でございます。
 しかし、この上院の見解にはかなり苦しいところ、無理なところがございまして、それは、立法府ないし政府の権力行使が違憲かどうかは、本来、違憲審査権を保持する裁判所が判断すべき事柄。カナダの場合にも違憲審査権を裁判所が持っております。したがって、それは上院の権限ではない、こういう反駁が容易に予測されるからであります。ただ、カナダの場合には任命制、終身制の上院でありますので、論者は、権力の正当性の根拠を直接、憲法的権威に求めざるを得なかったものと思われます。
 しかし、もしそれが公選制の上院であったならば、その権力の正当化論は、下院と同様に、選挙民主主義論に依拠することになるのではないかと思われるわけです。その場合、上院は、下院と同じ土俵、すなわち同じ国民から選出され、立法権を分有ないし共有する機関として、下院との違いをどのように示せばいいのか、どのように出せばいいのか、上院の役割をどのように果たせばいいのか、その選出の仕方をどのように工夫すればいいのかなどなど、難問が続出することになるのであります。
 そして、それは、当初、一院制であった総司令部案に対して日本政府が両院制を要求し、両院ともに公選とすることを条件にその要求が認められて参議院制度が発足したわけでございますけれども、この参議院制度発足以来現在に至るまで我が国において議論が積み重ねられてきたところでもありますし、これからも議論を重ねていく必要があるところではないかと思います。
 私の補足説明は以上でございます。(拍手)

発言情報

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発言者: 高見勝利

speaker_id: 20143

日付: 2003-07-10

院: 衆議院

会議名: 憲法調査会統治機構のあり方に関する調査小委員会