阿藤誠の発言 (内閣委員会)
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○阿藤参考人 阿藤でございます。
私は、一九七二年から旧厚生省人口問題研究所、そして現在の国立社会保障・人口問題研究所に勤務しておりまして、主として人口研究、とりわけ結婚、出生、家族、家族政策といったようなことを、しかも国際比較的に研究している、そういうものでございます。また、立場上、人口に関する国際会議にたびたび政府代表の一員として出席しております。
早速でございますが、私は、本少子化社会対策基本法案に基本的に賛成の立場から意見を述べさせていただきます。その理由を三つの視点、すなわち少子化問題の現状認識、二番目には少子化の背景と政策的対応の関係、そして第三番目に少子化への対応と高齢化への対応、そういう三つの視点から述べさせていただきたいと思います。
第一の少子化問題の現状認識でございます。
言うまでもないことですが、一九七四年以来、合計特殊出生率、一人の女性当たりの子供の数が人口置きかえ水準と言われる二・一前後、最近では二・〇八というふうに計算されていますが、それを下回って低下を続けております。九〇年代に入りましてからは、合計特殊出生率は一・五を下回って、さらに低下を続けるという状況でございまして、諸外国、もちろん先進国でございますが、諸外国と比較しましても、外国の文献などではザ・ローエスト・ロー・ファーティリティー、私は超低出生率と訳しましたが、そういうカテゴリーに入る国になってきている、そういう状況でございます。日本と並ぶのは、イタリア、スペインとかいう南ヨーロッパ、あるいはドイツ語圏の国々であります。
そういった超低出生率がこれからも継続するという前提に立って、私どもの研究所が二〇〇二年の一月に発表しました将来人口推計によりますと、二〇〇六年には日本の人口はピークに達して、以後五十年、あるいは参考推計としては百年間にわたって人口が減少を続ける、そういう見通しでございます。
それから、いわゆる高齢化でございますが、国民の中で六十五歳以上人口の占める割合として、高齢化率といいますが、この高齢化率は現在一八%程度でございますけれども、やがて二〇五〇年には三六%、現在の二倍の状況に達する、そういう見通しでございます。
そういった急激な人口減少と超高齢化が続くと一体どうなるのか。なかなか単純な予測は難しいのでありますが、一般的に申しまして、労働力が減り、そして消費人口が減り、国内需要が縮小し、高齢化によって貯蓄率が下がるというふうなことで、経済成長にとってマイナス、ひいては国民生活の豊かさを脅かす、そういうふうに一般的には解釈されるのではないかというふうに思います。
以上が、いわゆるマクロの観点から見た少子化問題でありますが、世論調査などによって、個々人、いわばミクロの観点から見てみます。
例えば、お手元の資料の1、つい最近の読売新聞の調査でございますが、その結果を見ましても、もちろんこれにとどまりませんけれども、多くの人々が、これは未婚の方も既婚の方も含めて、あるいは若い人も高齢者も含めて、理想の子供数というものが平均で二・六人ぐらい、最もパーセントの高いいわゆる最頻値と言われるところは三人、そういう状況でございます。
しかるに、夫婦の平均の実際に産む子供の数というのは二・二人を下回り、最近では二・一人。もちろん、これに未婚者を含めれば、女性全体の平均値は大変大きく下がっております。つまり、多くの人々がこの理想の子供数を実現できないでいる、そういう状況にあるというふうに認識できます。
この読売新聞の調査では、実に七割の人々が、今日の日本は子育てしやすいかしにくいかと聞かれて、しにくい社会というふうに答えております。
このように、人口、経済というマクロの視点、そして個人個人の意識、ミクロの視点から見ましても、少子化の状況は極めて深刻だというふうに考えざるを得ません。
そういう意味で、政府は、この少子化の状況を是正するための施策を強力に推進することが現在求められているというふうに考えます。その点で、本法案の前文と基本施策の内容は、私とほぼ同様の現状認識に立っていると思われます。
第二番目の、少子化の背景と政策的対応の関係でございます。
この少子化の社会経済的背景と申しますのは、大変複雑であります。そう簡単に答えの出るものではないと思っておりますが、具体的施策との関連で考えますと、以下の二つの長期的な社会経済変化が重要ではないかと見ております。
第一の点は、かつては、いわゆる性別、役割分業が支配的な時代というふうに特徴づけるとしますと、その中で、男性は職業労働、女性は家事育児に携わるという形で一種の両立が可能であった、仕事と育児の両立が可能であった、そういうふうにとらえられておりますが、時代の変化とともに、女性の高学歴化、就業機会の拡大、男女の賃金格差の縮小などによりまして女性の就業率が増大し、就業意欲が強まり、その中で特に女性にとって結婚、出産と仕事を両立する、言いかえれば、結婚、出産した後も仕事を継続するということが容易でなくなっております。そのため、あえて言えば、未婚で働き続ける人と、結婚して仕事を、あるいは出産をして仕事をやめてしまう人という二者択一的な選択を迫られるようになってきている。統計で見てわかりますように、未婚で就労を続けている方はほとんど子供を産まない、そういう状況になっているわけでございます。そういう意味で、社会全体として、職業労働と家族形成、俗に、仕事と子育ての両立が容易でない時代が来たんだ、こういうふうに認識できるわけであります。
第二番目には、かつては、子供は親にとって家業の労働力、後継者、老後の保障、家の継承といった意味を持っておりました。言いかえれば、子供を持つということは結婚の前提であって、ほぼ、子供を持つということがいわば選択の有無を問わない必然的なものであった、こういうふうにとらえることができたかと思います。
しかし、戦後の高度経済成長を経て、いわば七割、八割がサラリーマンの社会に変わってきております。その中で、子供が家の宝という意味合いは大変弱まっておりまして、子供が親にとって持つ意味は、資料の2で示されておりますように、これは毎日新聞の調査ですが、子供を持ってよいことは、子供がいると家庭が明るくなる、子育ては楽しい、あるいは、子育てによって自分も成長できるといった心理的、情緒的な満足を与える、そういう存在として親にとって意識されている、そういう時代でございます。そういう意味では、子供を持つということが現代の社会では選択的になっている。
その一方で、高度情報化社会によって高学歴が必要な、つまり職業労働を持つために長い年月の教育期間が必要だ、そのために子育ての金銭的、時間的コストというものがかさんできているということがございます。それだけに、現代の親にとっては子供の経済的、心理的負担感が強まっている、こういうふうに認識できると思います。
繰り返しになりますが、そのことは、資料の2の表1の方は子供を持つことのよさ、そして表2の方は子育てで大変なこと、もちろん資料の1の方にもそういった同旨の結果が出ております。
したがいまして、少子化への政策的対応の中心というのは、この二つの問題、両立問題の改善ということと子育て負担感の軽減ということが二本の柱になるべきであるというふうに考えております。
その点で、第一の両立問題の改善に関しましては、本案は施策の基本理念において、男女共同参画社会の形成と相まった、子育て環境の整備を旨とするというふうに述べて、基本的施策の最初に、雇用環境の整備、そして保育サービス等の充実ということを置いております。
第二の、子育ての負担感の軽減に関しましては、本法案は基本的施策で、地域社会における子育て支援体制の整備、ゆとりある教育の推進によっていわば子育ての心理的負担感を和らげ、そして生活環境の改善、経済的負担の軽減によって文字どおり子育ての経済的負担感を軽減する、そういう施策を掲げております。
以上のように、本法案は、少子化の背景と政策的対応の関係という点からも、おおむね納得できるものだというふうに思います。
第三の、少子化への政策的対応と高齢化への政策的対応の関係でございます。
日本は、社会保障全体の給付構造という観点から見ますと、子供、家庭に対する給付が大変小さい、それは絶対額においても、そして高齢者への給付と比べても、先進国中最も小さい国の一つであるということがデータで示されております。
お手元の資料3に、図1の方は、横軸に現金給付、縦軸にサービス給付とございますが、要は、日本はその軸の両方の一番低いところの一群に入っております。それから、図2の方は、同じデータでございますけれども、高齢者に対する給付に比べて子供、家庭に対する給付が小さい、一番下の方から数えた方が早い、そういうところに位置するということが示されております。
しかも、これは社会保障でございますけれども、これに加えて日本の教育費、とりわけ大学教育のコストというものの個人にとっての負担というのは大変大きい、これも先進国の中では顕著でございます。こういったことが、今の日本は非常に子育てしにくい社会だという人々の評価につながっているのではないかというふうに思われるわけであります。
この点で、本法案が、内閣府のもとに高齢社会対策会議と並んで少子化社会対策会議、これは総理主宰のもとだそうですけれども、これを置くことで子供、家庭、子育て者への政策的支援の強化に努めようとすることは、社会保障におけるこのアンバランスな給付構造の変化、そして教育費負担の軽減に向けての大きな力になるものと考えております。
以上、少子化問題の現状認識、第二番目には少子化の背景と政策的対応の関係、第三番目には少子化への対応と高齢化への対応の関係という三点から見まして、私は本少子化社会対策基本法案に賛成するものであります。
ありがとうございました。(拍手)