金澄道子の発言 (内閣委員会)

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○金澄参考人 私は、日本弁護士連合会の中の両性の平等に関する委員会の副委員長をしております金澄です。きょうはどうぞよろしくお願いいたします。
 両性の平等に関する委員会とは、女性に関係する問題についての専門委員会です。お手元に、私どもの委員会が中心となって作成し、日弁連が二〇〇一年に公表いたしました本法案に対する意見書と、本年五月に出しました日弁連会長の声明をお渡ししております。重複してお持ちの先生方もいらっしゃるかもしれませんが、再度目を通していただければ幸いです。
 私は、本日、基本的には、本法案が大幅な修正が必要であるという観点から意見を述べさせていただきます。
 それでは、本日お配りした要旨に従って、本法案の条文を基本に意見を述べさせていただきます。
 まず第一に、本法案は、妊娠、出産に関する女性の自己決定権を尊重するという基本的な視点に欠けております。
 少子化に対する対策は、女性が子供を産むようにするということに尽きるわけですから、基本的に人口政策になりかねない危険性を持っております。妊娠、出産は、女性の最もプライバシーにかかわる問題であり、また女性の生き方の選択にかかわる問題ですから、そこに国が何らかの影響を与えようとする施策を講じることは、もともと非常に危険な側面があることは否定できません。それでも少子化対策として何らかの施策をとるということであれば、その内容が女性の自己決定や女性の選択を尊重し、それを損なってはならないということが大前提になってまいります。したがって、本法案の中にもこの前提が基本理念として明確に記載される必要がございます。
 このような視点は、少子化に対する議論を行った人口問題審議会でも明確に述べられております。すなわち、平成九年十月の報告書によりますと、「妊娠、出産に関する個人の自己決定権を制約してはならないことはもとより、男女を問わず、個人の生き方の多様性を損ねるような対応はとられるべきではない、ということが基本的前提である。」というように述べられております。国際的にも、一九九四年の国際人口・開発会議、いわゆるカイロ会議ですけれども、ここにおいて、人口問題は女性の選択が基本であり、女性の選択をサポートすることの重要性というものがるる述べられております。
 このように、妊娠、出産についての女性の自己決定を尊重することが国際的な流れであり、既に国際社会の中でも確立された考え方です。したがって、本法案中の施策の基本理念の中に、女性の自己決定権の尊重が大前提となっているということを明記するとともに、少子化社会に対する対策が女性の自己決定権、特に結婚、妊娠、出産というライフスタイルの選択を損なってはならないということを明記していただきたいと思います。
 次に、二点目です。少子化対策の施策は社会環境の整備を中心に講じるということを、施策の基本理念の中にきちんと書き入れていただきたいというふうに思います。
 本法案の前文、二条の基本理念、六条の国民の責務の三カ所に「家庭や子育てに夢を持ち、」という文言が入っております。このことは、提出の先生方が、国民の結婚観や価値観の変化が少子化の原因であり、少子化対策のためには国民に対して家庭や子育てに対する意識の変革を求めているようにも読み取れます。
 しかし、さきにも触れました人口問題審議会の報告書では、少子化の背景を、個人の生き方の多様化、女性の社会進出とそれを阻む固定的な男女の役割分業や雇用慣行であるというふうに分析しております。つまり、個人の生き方、価値観の多様化と並んで、仕事と子育てや家庭の両立が困難な社会環境が原因であるというふうにも言えるわけです。
 前者の個人の生き方、価値観の多様化は避けられませんし、個人の自己決定に対してそもそも国は関与することができないのですから、国が行うべき少子化対策としては、必然的に後者の、性別役割分業と雇用慣行を解消すべきなどという、仕事と子育てや家庭の両立に向けての社会環境の整備ということに尽きることになります。平成十年十月三十日の少子化への対応を考える有識者会議働き方分科会の報告書というのがございますが、その中でも、政府や社会が少子化への対応にかかわる際の基本姿勢は環境整備であるというように明記されております。
 実際、諸外国を見ましても、いわゆるパパクオータ制、父親割り当て制というふうに日本語では訳されると思いますけれども、男性にも育児休暇をとることを推し進めたスウェーデンを初めとした北欧や、女性の就業率が高く夫の家事分担が多い国、すなわちいずれも男女共同参画社会の形成が進んでいる国と言えるかと思いますが、そのような国ほど出生率が回復してきている、出生率が高くなってきているということがわかっております。
 したがって、少子化対策の施策としては、男女ともに仕事も家庭も両立させるという男女共同参画社会に向けての社会環境の整備にあるということを、二条の基本理念に明確に入れていただきたいと考えております。
 三点目です。今の二点目とも若干関係をいたしますけれども、六条の国民の責務の中に「家庭や子育てに夢を持ち、」というふうに規定した部分がございますが、この部分については削除すべきであるというふうに考えております。
 この責務は、結婚、妊娠、出産というライフスタイルに対する国民の価値観、生き方に対して、一定の考え方、価値観を持つことを一律に国民の責務とするものでして、国民の自己決定権を尊重するという考え方には相反しております。さらに、国民の内心に踏み込む可能性もありまして、憲法十三条の個人の尊重、十九条に定める思想信条の自由に反する可能性もございます。
 さらに、結婚して子供のいる家庭という一つの家族像を理想とすることを政府が強調するものでして、一九八九年の国連総会で採択された国際家族年宣言、政府は、家庭にかかわる施策の遂行において、唯一の理想的な家族像の追求を避けるべきであるという精神にも反するものになります。
 したがって、国民の責務の中から「家庭や子育てに夢を持ち、」の部分は削除すべきであると考えております。
 次に、条文としては若干さかのぼりますけれども、二条についてです。二条には、「父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有する」との文言が入っております。もちろん、子育ての責任が第一次的に両親にあることは当然です。しかし、何度も触れておりますとおり、人口問題審議会の報告書の中に、育児の負担感、仕事との両立の負担感が少子化の要因として挙げられていることからすれば、親の責任を書くばかりでは親の負担感を増すだけで、逆効果です。
 したがって、親の責務の規定に加えて、親の負担を軽減するための環境整備という観点からの国の責任も重要になってまいります。例えば、労働時間、残業時間の規制を初めとする労働環境の整備、経済的負担を補う児童手当、教育費の負担軽減のための奨学金制度、そのようなものがいろいろ考えられます。
 したがって、子育てについて国が個人を援助する、子育ての環境を整備するなどの方法により、国にも子育ての責任があるということを明記すべきです。このような規定の仕方は、我が国が批准しております子どもの権利に関する条約第十八条二項にもありますので、本法案においても、少なくとも、同条約の規定程度には明確に国の責任を条項に入れていただきたいというふうに考えております。
 五点目です。十七条には、国民に対する教育及び啓発の内容として、生命の尊厳や子育てにおいて家庭が果たす役割というものが入っております。生命の尊厳については、前文でも「生命を尊び、」という文言が入っております。生命が重要であること自体には何ら異論はございませんけれども、生命の尊厳を強調するということは、母体保護法改正論議の際に、経済的理由による中絶条項の削除を主張する方々が根拠として使われたものです。人口政策と微妙な関係にある少子化対策の中でこの言葉を使うことは、女性の出産についての自己決定権を否定する方向につながりかねない懸念がございます。
 また、子育てにおいて家庭の果たす役割を特に教育、啓発の内容として掲げることは、少子化の原因が仕事と家事、育児の両立の困難性や子育ての負担感にあることからすれば、育児の責任を家庭の内部に押しとどめようとするようにも読み取れる文言でして、少子化対策としては逆方向と言わざるを得ません。
 六点目として、基本法の規定の仕方として均衡を失していると思われる幼稚園と不妊治療について述べます。
 十一条二項において幼稚園の果たす役割が特に一項を設けて強調されておりますけれども、少子化の要因が仕事と家事、育児の両立の困難性にあることからすれば、幼稚園よりも、待機児童が多い保育園や学童保育の充実こそ強調されるべきです。さらに、十三条二項で規定している不妊治療に対する施策は、女性の出産に対する自己決定権に微妙な影響を与える問題であり、正常出産に対する健康保険の適用もない現段階においては、時期尚早であると言わざるを得ません。幅広い国民的議論を待った上で、慎重な審議が必要であると考えております。
 最後に、第五条、十条に「子どもを生み育てる者が充実した職業生活を営みつつ豊かな家庭生活を享受することができるよう、」という文言がありまして、十二条にも「子どもを生み育てる者」という文言がございます。これは、女性のみを指すものではなく、当然男性をも含むものであるということを明らかにしていただきたいと思います。
 「生み育てる」と一言でなっておりますが、男性も子供を育てることについては主体的になっていただいて、仕事と家庭の両立を図ることが男性でも可能にならない限り、女性の子育ての負担感、仕事と子育ての両立は図ることができません。女性のみならず、男性の仕事と家庭の両立を可能とする施策が求められております。それこそが男女共同参画社会の実現に向けての施策となり、ひいては少子化対策の施策の方向となるものです。
 以上、このようにるる申し上げましたけれども、本法案については、基本的理念のところに欠けている視点があると言わざるを得ません。その点については、これまでの審議の中で当然の前提であるということが何度か繰り返されてきておりますが、当然の前提であれば、それをきちんと入れていただくということが基本であるというふうに考えております。
 以上です。(拍手)

発言情報

speech_id: 115604889X01420030604_008

発言者: 金澄道子

speaker_id: 10108

日付: 2003-06-04

院: 衆議院

会議名: 内閣委員会