伊藤隆敏の発言 (予算委員会公聴会)

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○伊藤公述人 おはようございます。東京大学の伊藤隆敏であります。
 本日は、このような場にお招きいただきまして、ありがとうございます。私の方から、日本経済の現状と政策転換の必要性についてということで、二十分程度お話をさせていただきます。
 現在の日本経済について、私は次のような現状認識を持っております。
 第一に、デフレ、これは消費者物価の下落という形で定義できますけれども、このデフレは悪化しつつあり、デフレスパイラルが私は発生していると思います。これはデフレスパイラルの入り口にあると言う方もおりますが、私は既に発生していると思います。
 確認のため、図の一、これは、お手元資料の四ページに文章の後の方につけておりますが、図の一で見るとわかりますように、一九九八年半ば以降、消費者物価は下落に転じておりまして、過去三年、消費者物価は大体マイナス一%という率で下落をしております。これがデフレであります。
 二番目の認識として、伝統的な金融政策、これは金利を操作するということですが、これは、御存じのようにゼロ金利ということで最大限使われておりますが、これ以上金利を下げることはできない、名目金利をマイナスにすることはできないという意味で限界に来ているということだと思います。それで、日銀当座預金の積み増しといういわゆる量的緩和が図られてきましたが、これも余り効果がないということだと思います。
 三番目に、単に財政赤字の規模を大きくするという意味での伝統的な財政政策、これはしばしばケインズ型財政政策と呼ばれておりますが、これも余り効果を持たなくなった。これは、もちろん使ったお金の分の効果はありますけれども、それが民間の需要を派生して呼び込む、こういう派生需要のところが非常に効果が小さくなってきたというのが認識であろうかと思います。
 さらに、財政赤字を大きくしてきたために、国の債務が非常に大きくなっています。この債務・GDP比率が今年度末で一四〇%を超えると言われています。これ以上の財政赤字を積み増しというのは非常に危険ではないかというふうに私は考えております。
 これは、お手元資料四ページの図の二というところに、G7の国の一般政府債務・GDP比率の過去十二年の推移が書いてあります。一九九〇年には、日本とアメリカというのはほぼ同じGDP比の政府債務を持っておりました。六五%程度でありましたけれども、過去十二年の間に日本は非常に債務・GDP比率が高くなりまして、G7の中で最悪、一四〇%を超えていると。来年、来年というかことし末ですね、これは多分暦年だと思うんですが、OECDの資料でございます。多分暦年だと思いますが、一五〇%になるだろうと。このような状況でさらに財政赤字をどんどん拡大していくというのは、財政の危機に一歩一歩近づいているということだと思います。
 平成十五年度予算でも、前年度の当初予算に比べて財政状況というのは確実に悪化しております。歳入に占める公債発行額の割合は四四・六%、つまり、国の予算の半分が借金だということですね。発行額もふえている、税収は減っているということで、私は極めて財政状況は悪いというふうに思っております。
 四番目の認識としましては、不良債権処理。銀行のシステム不安、銀行の財務体質の脆弱性というのは、相変わらずこれは解決に向かっての進み方が非常に遅いということだと思います。
 したがって、以上の四点が私の日本経済に対する基本的な認識であります。
 先ほど、デフレスパイラルが発生していると言いましたが、これはどういう現象かということをお話ししたいと思います。
 スパイラル、これはいろいろあるんですけれども、私は、次の四つの悪循環、悪循環という意味でのスパイラルが発生していると思います。
 第一に、デフレ期待を通じたチャンネルであります。
 これは、デフレが起きている、消費者物価が下がると思えば当然デフレ期待というものが発生しまして、将来も下がるだろう、そうすれば消費を控えるということが起きます。あるいは投資を控えるということが起きます。したがって、消費のタイミング、投資のタイミングがおくれるということで、総需要が減る。したがって、総需要が減ることによって物価がさらに下がる。これで悪循環の輪が完結します。
 もう一つのチャンネルが、今言ったのはフローの意味での投資、消費を通じた効果でありますが、もう一つの効果は、積み上がったストックに対する効果であります。
 これは、デフレになりまして一般物価が下がっていくという状況の中では、これまで借りたもの、これは名目で借りています、住宅ローンにしても、設備投資のための資金にしても、これは名目の契約でありますから、その名目の契約の実質的な価値、つまり、幾ら稼いで返したらいいのかという実質的な債務が増大しているということであります。そうしますと、消費者ローンを借りている消費者にとっては、収入がどんどん減っていくのに同じ額を返していかなきゃいけないという意味で、実質負担が増加しているということで、その分消費に回す可処分所得が減っているということになります。
 したがって、このような名目の債務を負っている人にとって、物価が下落していくということは、可処分所得を減らして消費を減らす、あるいは、事業資金の場合には投資を減らすという形になって、総需要不足になってデフレになる。これで悪循環が完結するという、ストックを通じたチャンネルがございます。
 もう一つは、資産価格を通じたチャンネルでありまして、デフレであるということは、実質金利、これは名目金利マイナスインフレ率ですから、実質金利を上昇させます。インフレ率が下落するということは実質金利は上昇するということですから、これによって資産価値というものが下落していきます。金利が上昇するということは資産価値が下落するということですから、これによって住宅あるいは設備投資が抑制されるという効果がございます。
 したがって、買う人がいない、つくる人がいなければ資産価格というのは下落していきますので、資産価格の下落につながっていくということで、これで悪循環がもう一つ完結すると。
 もう一つは、実質金利の上昇、資産価格の下落から耐え切れなくなって破綻する借り手が出てきます。これが不良債権ですね。この結果として銀行の財務が悪化してまいります。これによって、御存じのとおりの銀行の貸し渋り、貸しはがしという現象につながって、中小企業の倒産あるいは総需要不足ということにつながっていくということで、さらにこれが物価を下落させると。これでもう一つのデフレのスパイラルが完結いたします。
 このように、デフレスパイラル、幾つかのチャンネルがあるわけですが、これらがすべてデフレがデフレを呼ぶという形での悪循環になっているわけです。
 そこで、このようなデフレの克服がなぜ重要かということでありますが、今説明しましたように、デフレというのは、放置しておくと、どんどんデフレがデフレを呼ぶという形で悪い方へ悪い方へ行って、自律的な回復の過程というものがないんですね。経済の多くの現象の場合には、何かショックがあった場合には自律回復機能というものがある場合が多いのですが、このデフレに一たん陥ってしまうと、それが働かなくなるという非常に危険な状況だと思います。
 それから、不良債権問題というものがそのチャンネルの一つだというふうに申し上げましたが、今既にその不良債権問題というのは非常に長い間苦しめられてきた現象でありますが、これをさらに悪化させる。つまり、過去の不良債権を処理したとしても、新しい不良債権がどんどん出てきてしまう。したがって、デフレが継続している以上、過去の不良債権を処理しても処理しても、どんどん新しい不良債権が出てきて銀行が苦しめられるということになります。
 三番目の恐ろしい点は、これは財政破綻の危険性であります。デフレが続くということは、どんどん税収が減っていく。一方、景気刺激のために財政の出動が要請される。税収は減って支出がふえるわけですから、当然赤字額はふえていく。先ほど申し上げましたように、既に政府債務・GDP比率というのはほぼ危機的な状況まで高まっているわけですから、これ以上デフレを放置するということは、さらに財政破綻の可能性を高めていくということでございます。
 もう一つは、デフレの状況では金融政策の力を発揮できないということであります。伝統的な金融政策の手段がない。つまり、実質金利を下げることができない。デフレがひどくなればなるほど実質金利は上がっていって、金融は自動的に引き締めになっていくという点がございます。
 このような点を総合して、デフレというのは経済を縮小均衡、悪い均衡へ向かわせているということが言えます。つまり、日本経済の潜在的な力を引き出すことができないというような状況をつくり出しているのがこのデフレという現象であります。
 では、このデフレというものから脱却するにはどういった政策が必要になるのかということでございます。
 今説明しましたように、伝統的な政策というものには限界があるということを申し上げました。したがって、非伝統的な政策というものを使わなくてはいけないというふうに私は考えております。
 それで、これは一つの政策でデフレから脱却できるわけではございませんで、恐らく、幾つかの政策を組み合わせるという、いわゆる政策パッケージというものが必要かと思います。
 私は、そこに五つの重要な要素を書いておきました。
 一つ目が、いわゆる非伝統的な金融政策というものでございます。これは、これまで日銀が購入していなかったような資産というものを購入して、そういう新しいチャンネルから貨幣供給を行っていくということでございます。
 二番目が、その金融政策の効果を高めるためにインフレ目標を導入するということでございます。これは、効果を早め、しかも副作用を抑えるという効果があると私は考えております。
 三番目は、非伝統的な財政政策という名前をつけましたが、いわゆる総額としての財政赤字をふやすのではなく、乗数効果の低いプロジェクトから高いプロジェクト、つまり、民間の投資を呼び込むような、誘い水となるようなものを探し出して、そこに支出を移していくということがぜひ必要だというふうに考えております。
 もう一つは、歳入の方であります税制、これの改革が必要だというふうに考えております。短期的な減税という消費刺激と、中期的には、先ほど言いましたように増税は免れないというふうに思っておりますので、中期的には増税することを組み合わせるということがぜひ必要ではないかと。消費、投資が落ち込んでいるわけですから、そこを刺激するような、住宅投資あるいは設備投資を刺激するような減税と、中期的には消費税の増税というものは私は不可避であるというふうに考えております。
 五番目は、不良債権の迅速な処理。これは皆さん口をそろえておっしゃることで、異論はないと思いますけれども、これがなぜおくれているかということは、採算がとれないような企業、債権放棄を何回やっても立ち直れない企業というものは、これには退場していただくということがぜひ必要であります。不良債権を切り離すということを行って、初めて銀行の財務は改善するというふうに思っております。
 このような五つの要素を書き出しましたけれども、これを同時に行うということが私はぜひ必要だというふうに思っています。これは、相乗効果をねらうということもございますけれども、一つだけ取り出してやると、かえってデフレは短期的には悪化するという政策、これは例えば不良債権の処理がそれに当たると思いますが、そのようなものもありますので、同時にやることによって、お互いの副作用を打ち消し合って相乗効果をもたらすという効果があるというふうに考えております。したがって、ぜひこのようなパッケージを導入して、デフレからの脱却を図っていただきたいというのが私の希望でございます。
 次に、財政規律のことについてお話しさせていただきます。
 今のままの財政赤字、これは、GDP比で七%あるいは八%というような数字になっておりますが、これをこのまま続けますと、私は、数年のうちに財政は取り返しのつかない事態になると思っております。
 それで、財政破綻が何かということと、どの数字まで行ったら危ないのかということについて、特に学界の定義があるわけではありませんし、国際的にも基準があるわけではありませんが、一般に、一般政府債務・GDP比率が二〇〇%になるということはもう実質的に破綻ですねということを言う学者の方は多いというふうに思います。
 では、この二〇〇%というのがいつ達成されるのかということですが、これは、今のままの七、八%の財政赤字を毎年出していきますと、六、七年のうちには二〇〇%になってしまうということですから、日本経済に、デフレ脱却それから財政規律のための財政再建というものに取り組むまでの時間というのはそう長くはないということでございます。したがって、今すぐにでもデフレ脱却、将来的に財政再建、すぐにはできないと思いますけれども、将来的には財政再建ということに取り組む、その道筋をつけるということは非常に大切だというふうに思っております。
 非伝統的な金融政策が重要であると申し上げましたが、その中身は何なのかというと、これまでは、国債の買い切りの増額ということを行っていわゆる量的緩和を行ってきたわけですが、これは必ずしもうまくいっていない。その理由は、銀行を通じたチャンネルということ、これが伝統的な金融政策でありますが、そこに集中していたために、銀行が不良債権に苦しんでいる中ではどうも効果が出ないということがわかってきたということだと思います。
 では、どうすればいいのか。非伝統的な政策、これは、例えば上場株式投信、いわゆるETFというものを買う、あるいは上場されている不動産投資信託、REITと呼ばれているもの、これを購入していくということによって新たな貨幣供給のチャンネルをつくり出すということを実行するということであります。
 これは、それまでETFあるいはREIT、不動産を持っていた人から資産を買い上げて貨幣供給をするわけですから、供給されたその貨幣がそれまでの投資家に渡る。彼らはまた株を買うかもしれないし、不動産を買うかもしれませんが、外債を買うかもしれないし、消費するかもしれないし、投資するかもしれない。どこに行っても悪いことはないわけですね。株に行けば株が上がるでしょうし、外債に行けば円が下落するでしょうし、消費すれば直接それで効果が出てくるということで、どこに使われるかはやってみなければわからないわけですけれども、悪いことはないという政策であります。
 つまり、ポートフォリオバランスを変えていただくということでリスクをとっていただく、あるいは、消費、投資をしていただくというためにこのような非伝統的な金融政策ということが重要だと思います。
 それから、インフレ目標政策というのはどういうことかといいますと、インフレ率が二年後に一から三%になるというようなコミットメントを行って金融政策を行うということで、これは副作用があると言う方がいらっしゃいますが、私は、むしろ副作用を抑えて、今言った非伝統的な金融政策の効果を高める効果があるというふうに考えております。
 最後に、ちょっと時間が超過しているかもしれませんが、一分だけいただきまして、円安誘導の話をさせていただきます。
 日本経済がこのようなデフレで不況になっているときに、円安をすることはいいことだということで、円安誘導したらどうかという意見がございます。円安になれば、これはもちろんデフレに対して効果的な対策になるわけですが、では、果たして円安にすることができるのか、あるいは、そういう政策を政策として行うことが適切かということでございますが、私はむしろ、先ほど言った政策パッケージというものを行えば自然に円安になる、自然に円安になったものを放置すればいいというふうに考えております。何もしないまま介入だけ行っても、恐らく円安にするのは非常に難しい、適切な政策パッケージを行えば確実に円安になると私は考えております。
 したがって、無用な摩擦を起こす必要はありませんで、適切な国内政策をとることによって自然な円安が起きて、それを放置するというのが適切な政策かと思います。
 以上でございます。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 伊藤隆敏

speaker_id: 33015

日付: 2003-02-25

院: 衆議院

会議名: 予算委員会公聴会