明石康の発言 (憲法調査会)
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○参考人(明石康君) ありがとうございます。
国連は、できましてからもう既に五十八年、そろそろ六十年になるわけであります。二世代を経験することになるわけです。ところが、基本的には国連は大きな改革をしてまいりませんでした。安保理事会と経済社会理事会は一度改革し、多少構成を拡大しました。しかし、小規模な手直しに終わったということは言えると思います。
安保理に関して申し上げると、安保理の構成は、十一か国からただいま十五か国になっておりますけれども、常任理事国の数は五か国と、アメリカ、イギリス、フランス、当時は旧ソ連、現在のロシア、それから中国、この五か国にとどまっております。これに比べますと、国連加盟国の数は百九十一ということで、当初の発足時の四倍近くに拡大しておるわけです。開発途上国の数、非同盟諸国の数も増えました。
そういうことで、国連は改革すべき時期に来ているということは、我が国のみならず、いろんな国から言われております。しかし、それぞれの国の思惑が違っておって、なかなか改革案というのを一つにまとめることは容易ではありません。
我が国も、自分の思うところを同志を増やしながらコンセンサスを目指して改革の機運を盛り上げていくという作戦を粘り強く取っていくことが必要だと思います。例えば、我が国の常任理事国を目指す願望でありますけれども、私は、我が国は常任理事国になるべきだと思いますし、いずれはなるであろうと思います。しかし、それにはなかなか時間が掛かり、紆余曲折があるだろうと思います。
私は、当初の作戦は、日本だけが常任理事国になろうということでやってきたことがあるいは間違いであったと思います。例えばアジアの大国であり、開発途上国であるインドと組んでそういう機運を盛り上げていくべきではなかったかと思いますし、現在五つある常任理事国の中で、日本の常任理事国化に旗幟を鮮明にしておらないのは中国一つだけでありますけれども、対中外交ももっと活発にやり、中国の賛同を得べく働き掛けることも大事だと思います。
とにかく実績を積むことによって、我が国がなりたいから安保理事会の常任理事国になるのではなくて、日本を安保理事会の常任理事国にしないとおかしいではないか、国連自体の活性化にそれが必要ではないかという声がほうはいとして巻き上がってくるように我々は仕向けるべきであろうと思います。その意味では、多面的に国連活動に貢献していくという姿勢は崩すべきではないと思います。
我が国の国連で果たすべき役割ということに関する松田先生の御質問に対しましては、私は日本の役割は極めて大きいだろうと思います。
よく日本の国際的貢献という言葉が使われますけれども、私は実はこの貢献という言葉にちょっと引っ掛かっておりまして、貢献というと何かおためごかしに、やってあげるという響きがございます。ところが、私は、やっぱり現在のグローバル化した世界において日本が当然果たすべき役割、責務という観点から日本のなすべきことを考えていくことが至当なのであって、村の鎮守の神様のお祭りのときに寄附金を出すか出さないかというふうなのんびりした問題ではないのではないかと思います。そういう意味では、我が国がやっぱり鮮明な一つの世界観というビジョンを作り上げ、それに基づいて国連をどういうふうに活用するかということを考えるべきだと思います。
私は、国連の神格化というものが今まであったので、これは問題であると申し上げましたけれども、国連にお祈りしておっても平和は来ないんですね。ぼたもちのように落ちてはきません。やはり我々が国連において具体的にどういうことをやるかということを突き詰めて具体的に考えるべきなのであって、そういう意味では、国連というものは使いがいのある、現在、そういう構成上、組織上の問題がありますけれども、にもかかわらず、いろいろ使いがいのある外交の非常に重要な一手段であるというふうに考えることが必要だと思います。
最近のアメリカの国連外交を見てみますと、五百旗頭先生からもお話がありまして、私も全く先生と同感でありますけれども、アメリカという国はこういう国だと、こういう政策を取っているのはけしからぬとか賛成だとかいうのではなくて、非常にすそ野の広い、多様な考えを持った人が多くいる国でありますし、国連研究も、ほかの国の追随を許さないすばらしいものをアメリカのシンクタンクがいろいろ、ないしは大学その他が出しております。
そういうことで、実は一九五〇年の朝鮮戦争のときも、国連のにしきの御旗をアメリカはうまく取り付けて朝鮮戦争を有利に戦うことができました。一九九一年の湾岸戦争のときも、安保理のにしきの御旗をうまく取って国論を統一し、戦争を成功裏に進めました。今回は、決議一四四一までは取ることができたわけですけれども、結局安保理決議をまた更にもう一つ獲得するということには成功しませんでした。
そういうことで、国務省と国防省とのいろんなぎすぎすした関係も伝えられておりますけれども、アメリカ外交は本来の形においてはもっと国連をうまく活用できたんじゃないかと私は思うんです。ところが、アメリカ自身が一部に国連軽視、無視の議論があって、それは南部出身の保守派の上院議員の影響力もあるんですけれども、国連分担金を長い間払わなかったり、そういう無理難題を吹っ掛けることがありまして、包括的核実験禁止条約も参加しない、国際刑事裁判所の設立にも背を向ける、京都議定書もこれを批准しない、生物兵器についての検証条項が交渉の上やっとできたにもかかわらずこれにも参加しないというようなことは、私はアメリカ自身の長期的な国益にとっても恐らくマイナスであろうと思います。
そういうことで我々は、国連を万能視することなく、過剰に美化することなく、しかもしぶとくこれを日本外交のために、私はカナダの例を挙げましたけれども、カナダのように知恵を絞って国連における我が国のイメージを上げ、また国連を通じてより広い国際的なそういう共同戦線を張っていくということがもっともっと行われていいと思います。
安保理改革にもう一度戻りますと、今度のイラク戦争でドイツがああいうような行動を取りましたので、私は、日本とドイツは安保理の常任理事国の資格を少なくともGDPその他から見て十分に備えておると思っておりましたけれども、アメリカの世論は恐らくそれをここ二、三年は許すことはないでありましょう。また、安保理の決定が容易ではなかったということで、アメリカは安保理拡大に対する熱意を一時失ったかもしれません。
また、長期的に見た場合に、ヨーロッパ連合、EUが、フランス、イギリスのほかに三票持つというのもおかしいではないかという声は出てくると思うんです。EUとして一票でいいではないかという声も出てくると思います。
しかしながら、私は、GDPから見ればフランスとイギリスは我が国の半分くらいですけれども、なかなかやっぱり旧植民地国家として大変に豊かな国際的な知識も情報も分析能力も持っておりますし、国連でのイギリスとかフランスの外交には鮮やかなものがございます。そういうことで、腐ってもタイと言うとちょっと語弊がありますけれども、フランスとイギリスの外交というものは私は重要なものであると思います。
そういうことで、アメリカにも安保理を余り拡大すると動きにくくなるという懸念がありますけれども、粘り強くアメリカを説得し、また日本を常任理事国に加えるのを嫌がる中国を説得していくと、そういうことで国連における多数派工作をますます進める。そのためには、ODAをうまく使うということも必要でしょうし、多面的に人権外交、軍縮外交、開発政策、環境問題、そういったような問題に率先して取り組むということが必要だと思いますし、私自身、最近、スリランカの平和定着の問題で政府代表として多少働いておりますけれども、こういうアジアの一角において民族紛争が起きても、それがその火の粉がいつ我が国に掛かってこないとも限りませんので、小泉総理が提唱し、川口外務大臣が実施しておる平和を定着させる外交、つまり、平和が来てからODAを使うのではなくて、まだ脆弱な平和を本物の平和にするために我が国が率先して出ていくと。
今までの安全第一主義、石橋をたたいてもなかなか渡らない外交ではなくて、より積極的な外交。それには失敗のリスクも当然出てくると思いますけれども、多少の危険を冒しても平和のために努力するという新しいスタンスを見せるならば、私は、国連における日本の地位というものは将来拡大するでありましょうし、日本の役割に対する認識も内外ともに大きくなると思います。