志方俊之の発言 (憲法調査会)

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○参考人(志方俊之君) 本日、このような席で意見を述べさせていただきまして、大変ありがとうございます。
 私はどの政党にも属しておりません。三十五年間自衛隊におりましたので、どの政党に属するということもございませんでしたし、したがってどの立場で話しているわけでもございませんが、自衛官として現場にいた、そこから憲法というものを見た、そのときのことを述べさせていただきたいと思います。
 現役の自衛官がこのような席でしゃべる機会がほとんど日本の場合は少なくて、アメリカなどではもう現役の軍人がどんどんこういうところで公述しているわけでありますが、日本はなぜかそういうことがありませんので、本日は、そういう、私は現役ではございません、もう十年も前にリタイアしております、しかし、自衛隊にいましたときの感覚で述べさせていただきたいと思います。
 自衛隊というのは我が国の平和と独立を守る集団でありまして、五十年間我が国が大変な冷戦の時代とその後の混乱の時代に平和を貫いてくることができたということは、自衛隊がしっかりとその任務の一部を遂行してきたということで、私は、自衛隊員には非常に平和を守ったという誇りがあると思います。そういう意味で、自衛隊は、戦闘する集団ではありますけれども、平和を守るという意味ではその一翼を担ってきた集団であるということが言えると思います。
 本日、レジュメが皆様のお手元にございますが、私の手違いで一つだけミスプリがありまして、皆様のレジュメの二ページ目のところの一番下のところに(3)国家改造の難しさとありますが、その中の②のところでございます。「規制の構造」という、この「規制」という字が間違っておりまして、既成の事実というあっちの方の既成でありまして、レギュレートする方の規制ではございません。直していただきたいと思います。不注意をおわびいたします。
 まず、レジュメの一ページ目に戻りまして、セクション1のところに「わが国の安全保障を考える場合の与件」、いわゆるギブンコンディションズというのがありますが、九つ指摘してあります。
 まず第一は、我が国の領土はこれ以上にはならないと。それから二番目は、その上に一億二千万の人口が、人間が住むと。そして、かつ資源の大部分、これを海外に依存している。エネルギーの場合は九〇%近く、食料は六〇%。最後に水は五〇%というのがございますが、これは今年、水フォーラムというのがございまして、そのときにバーチャルウオーターですか、そういうような概念が示されました。
 要するに、日本はトウモロコシとか大豆とか小麦を輸入しておりますけれども、あるいは牛肉もそうですが、その牛肉一キログラムを作るために牛にどのぐらいのトウモロコシを与えているか、そのトウモロコシを作るためにどのぐらいの水が消費されているかということを考えますと、日本は約一千億トンの食料を輸入しているだけで一千億トン年間水を輸入している、これをバーチャルウオーターと言っているわけです。
 実際、日本の上に降った雨は一千億トン、それを使っている。ですから、日本は五〇%ぐらいを海外から水を依存していると言っても過言ではないと、そういう意味で書いたものでございます。
 それから五番目は、我が国は戦略的な通常兵器を持たないということであります。──四番目が核兵器を持たないですね。これは我が国にあるコンセンサスであります。
 それから五番目は、通常兵器といえども戦略的なものを持たない。航空母艦とか弾道弾ミサイルだとか、それから戦略爆撃機等を持たない。そして、米国が矛、我が国が盾だと、こういう役割分担で成り立っております。
 それから六番目は、我が国は化学兵器、生物兵器、それから対人地雷を持たない。これについては、それを抑止する力、化学兵器は化学兵器で抑止する、あるいは対人地雷は対人地雷で抑止するという、そういう抑止力ではなくて、我が国は守る力だけで安全保障を全うしようという、そういうようなコンセプトでやっている。
 それから七番目、我が国の戦略情報収集能力には限界がある。戦略情報の多くをアメリカからもらっております。私は防衛駐在官としてワシントンに駐在しておりましたけれども、重要な情報のほとんどはアメリカからもらっておりました。
 それから八番目、我が国の軍事技術開発能力には限界がある。これは、軍事技術の基本的な部分はアメリカに依存している。日本でもライセンス国産はしておりますけれども、基本的な部分は対米依存であります。
 それから九番目、我が国のエネルギー輸送路の防護能力には限界がある。我が国の海上自衛隊が直接防護できるのはせいぜいフィリピンから日本までの間であって、それ以遠は米海軍に依存している。
 この九つの与件のうち、四、五、六、七、八、九というのはほとんどが、黒丸が付いておりますが、アメリカに依存していると。要するに今、日本が対米依存体質であると言われるゆえんであります。これは五十年掛けてできました体制でありますから、これをにわかに対米依存しないでいくということになりますと大変な努力が要るわけであります。
 したがいまして、小麦、トウモロコシ、大豆、日本でいうと、豆腐から、しょうゆから、納豆から、こういうものも全部アメリカから来ているということを考えますと、我が国が対米依存度を下げるということであれば、少しずつでも資源の輸入先を分散する。しかしながら、ほとんどそれが言うはやすくて実際にできないと。
 例えば、我が国の軍事技術開発能力を対米依存度を減らすとなると、我が国の防衛予算のうち、もっともっと多くを研究開発に入れなきゃならない。そういうことを考えますと、この四から九までのことはよほどの革命的な変化をしないとできないということであります。
 したがいまして、対米依存度が大き過ぎるということを言われる場合には、どうすれば下げれるかということをはっきりと政治の中で提言されないと、単なる遊びになる、言葉の遊びになってしまう。
 したがって、私は、我が国においては、各政党ともどうすれば対米依存度を下げることができるかという具体的な提案を出して国民に示すべきであろうと思います。それでなくて、やたらと対米依存の体質を非難することは政治ではありません。
 それから二番目、我が国が存立する上での四つの必須条件というのがあります。
 これは四つありまして、一番目は、資源保有国が我が国に喜んで資源を供給してくれること。これは年間八億トンであります。
 それから二番目は、資源保有国から我が国に至る長大なシーレーンに沿って紛争がないこと。これは、湾岸はホルムズ海峡、それからインド洋ですね、それから東南アジア、すべてが安定しているということが非常に重要であります。特に、尖閣列島とかスプラトリーアイランドとかバシー海峡とか、こういうところが平和であるということが重要であります。
 それから三番目は、我が国は八億トンの資源を持ってきて、それに付加価値を付けて約一億トンの工業製品としてそれをまた売り出しているということから考えますと、付加価値を付ける能力が我が国になければならないと。付加価値を付ける能力の基本は高い科学技術と勤勉な労働力でありますが、この二つが今、我が国では非常に危機に瀕しておる。
 それから四番目は、その製品をまた我が国から買ってくれるという、この四つがなければ生きていけないのであって、自衛力が大きいとか小さいということよりも、この四つのことを重要に考える必要がある。
 そこに、黒丸が三つあります。
 結論的に申しますと、我が国ほど世界じゅうが平和であることを必要とする国はないということであります。したがって、二番目、我が国だけが平和であっても、それだけでは十分ではない。もちろん、我が国が平和であることが基本でありますが。それから三番目、したがいまして、我が国は世界の平和のため、全力を挙げて責務を果たさなければならない。これは憲法の前文にちゃんと書いてありますので、我々が今やっていることは正しいんだと思うんですね。
 それで、じゃ、まず、我が国の平和というものを維持するときにはどうするかということでありますが、それはお手元の四ページの下の図ですね。図4というものを見ていただければ分かると思います。我が国の安全保障の、安保の基本四原則というのがございます。
 まず、一、非核三原則、これは非常にいいことであります。これは将棋でいうと飛車抜きということであります。それから専守防衛、これもコンセンサスでありまして、これは角抜きであります。非化学・非生物兵器・非対人地雷という、これもコンセンサスであると、これは金抜きであります。それから四番目、武器輸出をしないと。事実上ほとんどしておりませんが、これは銀抜きであります。
 ということは、我が国の防衛は飛車角金銀抜きで相手と対峙するということでありまして、将棋でいいますと、相当の指し手でなければできないということであります。相手が十手先まで読むならばこちらは二十手先まで読んで、そして相手を倒すという攻撃的なことではなくて、負けないようにするという、そういうようなことが我が国に課せられたことで、私は、三十五年間それをやってきたわけであります。
 こうなりますと、相手が十手、こちらが二十手先を読むとなると、我が国は情報依存大国であってはならないということであります。
 アメリカの倍ぐらいの情報収集能力があってこそ対米依存をせずに済むことでありますが、悲しいかな、我が国は、何年間も情報収集衛星を上げることをためらってまいりまして、やっと本年、二つ上げて、秋にはもう二つということでありますが、四つ上げ、しかも、その分解能を見ても、ぼやっとしか見えないというようでは、相手に情報を依存する以外に方法はないのであります。そういうことで、その辺に対する投資といいますか、そういうことをしっかりしないと、ただ依存度が高いと言われても自衛隊としては非常に困るということであります。
 それから、セクション3のところに入りますと、我が国が分担すべき責務、要するに、我が国だけが平和であってもならないのならば、世界の平和のために我が国は何ができるかということを考えますと、一、二、三とあります。
 これは、一はリスク分担、二、負担の分担、三、価値観の共有ということがございます。これは、五ページにある図を見ていただきますとはっきりいたします。
 我が国がなすべきことは、この図のように、まずバリューシェアリング、共通の価値観を持つ。これについてはほとんど問題はございません。我が国は国際社会の普遍的な価値観を共有していると思います。
 それから、バーデンシェアリングというのは、汗をかきお金も使うということで、我が国のODA、我が国のPKO活動、あるいはNGOの人たちの活動、こういうものはもう世界に誇れるぐらいのことをやっております。
 ただし、一番上の、リスクの分担になりますと、それはなかなか実施することが難しい。したがいまして、俗に言えば、総論賛成、各論賛成、実施はできない、これでは国際社会から孤立する以外に方法はありません。
 そういう意味で、我が国が国際社会から孤立すること自身が我が国にとっての最大の脅威であるとすれば、我が国は、総論も賛成、各論も賛成、リスクの分担もちゃんとやらなければ国際社会で発言力が非常に極小、局限されてしまうということであります。
 それから、五番、次のページに行っていただきまして、セクション5、我が国の防衛の構造改革であります。これは学生が、先生、どうですかと言って質問したので書いたものでありますが、なかなか、文章がちょっと違っているもの等もあるかもしれませんが。
 基本法というのは、国政に重要なウエートを占める分野について、国の制度、政策、対策に関する基本方針を明示した法律と定義されておりますが、我が国には一から十六まで基本法というものがございます。これも、どれも非常に大切な基本法でございます。
 教育基本法から始まって、障害者基本法、ものづくり基盤技術振興基本、少子化社会とかできましたけれども、なぜ安全保障の基本法がないのかと。安全保障というのは、国家に、国政に重要なウエートを占めることではないのかということであります。
 そして、じゃ、どうすればいいかといいますと、その(2)のところで、基本法と憲法との関係であります。これは、図の4を見ていただければ分かります。四ページの図の3ですね、一番上の図です。
 四階に陸海空自衛隊、防衛庁という実動集団がございまして、三階はその手続を決めた自衛隊法及び防衛庁設置法、二階部分が先般作っていただきました有事法制関連のものでございます。しかし、一階がないわけであります。なぜ一階がないかというと、憲法の中に我が国の安全を守るということが明示されていない、自衛隊という文言すらありません。
 そういうことで、やはり安全保障基本法というのをしっかりと作っていただく、これが大切なことかと思います。我が国は法治国家でありますから、法律によって自衛隊を動かすということが大事であります。したがって、安全保障基本法というのを作っていただくということが何よりも大切であります。
 これは、先ほど、我が国が防衛力を行使する場合はどういう場合か。何か国際紛争が起こった場合には、まず政治的な対話でやる。それも駄目なときには、更に外交的な交渉もする。それも駄目なときには、経済支援とか経済力で説得をする。それも、その三つのどれも通用しない相手の場合には、我が国は防衛力を行使せざるを得ないということを明示したものが、どういう場合に我が国は防衛力を使うかということが基本法に明示されることであります。
 そういう意味で、外国から我が国の自衛隊を見ますと、取扱説明書がない軍事力というように見えて、我が国が平和主義を唱えるこの平和憲法に反していると思いますね。我が国がそういう、自分のどういうときに使うかということをはっきりするということが平和につながっていくのではないかということであります。
 それで、二ページの最後に、(3)国家改造の改革の難しさということが書いてありますが、やはり今、我々は大きな軍事的動乱もなく我が国の構造改革をしようとしているわけでありますが、今まで、大化の改新に始まり、明治維新それから昭和の改革、こういうものの場合にやはり四つあると。
 一つは、国際的条件といいますか、外圧という言葉も適切かどうか分かりませんが、そういう外からの要件ですね、それも一つありましたし、それから、今まである構造の大きな破壊がありました。明治維新も大きな破壊がありましたし、それから昭和もそうでございました。
 それは、どういう国家にするかという目標があって、破壊しなければ意味が、単なる破壊でありまして、やはり既存のものを破壊するためには次の目標というものが要る。明治維新のときには近代的な西欧の国家というのもありましたし、昭和二十年のときには、アメリカのように、お金があって、そして民主主義の国になろうという目標がありました。今、我々がやろうとしている平成の国家改造というのは、国際的条件というのはほとんどありません。
 それから、既成の構造を破壊しようと思っても、どのような国にするかという目標を明示しているところが余りないと。
 そして四番目に、傑出した指導者の輩出ということであります。
 この四つの条件のどれかが欠けるとできません。特に、我が国は今、大きな破壊を伴わないで自分たちの構造を変えようとしているわけですから、これは、我が国は日本の歴史の中で最も難しいことに挑戦しているんだということで、ここに出ておられる先生方に是非これをお願いしたいと思います。
 大変失礼なこともお話ししたかと思いますが、お許しください。

発言情報

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発言者: 志方俊之

speaker_id: 3847

日付: 2003-07-09

院: 参議院

会議名: 憲法調査会