古川景一の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(古川景一君) 古川です。参考人としてお招きいただき、誠に光栄に存じます。
では、まず解雇について述べさせていただきます。
参議院に送付されてきました解雇に関する条文案は、政府の原案に比べれば大幅な前進であると評価いたします。しかしながら、まだまだ不十分さがあります。
今回の十八条の二の条文にある「その権利を濫用したものとして、」という文言は不要です。この文言は、最高裁の日本食塩製造事件判決にある言葉をそのまま引用したものであります。元々、裁判所は法律上の根拠なしに判決を下すことができません。そのため、最高裁は判決を下すための根拠条文を民法一条三項の権利濫用という一般条項に求めざるを得ませんでした。
今回、国会が解雇全般に共通するルールを定める法律を作る際には、国会は裁判所とは異なり民法一条に依拠する必要がありません。ですから、今回の法律にその権利を濫用したものとしてという他の法律に例のない言葉は不要なのです。このような不要な言葉が残っていると、権利濫用論なのだから労働者が証明責任を負うのではないかなどと解釈され、無用な誤解や混乱を生じさせる危険があります。
次に、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」という条文上の文言についても問題が残っています。衆議院での民主党の修正案のように、解雇の有効性要件として客観的に合理的な理由があること及び社会通念上相当であることの二つの要件を掲げていれば条文解釈上の誤解は生じません。また、この二つの要件を満たさないと解雇できないのですから、これらについて使用者が証明責任を負うことも明らかです。
しかし、今回の条文案を見ますと、解雇の無効原因が今申し上げた二つではなくて、最初にある客観的に合理的な理由を欠いていることという一つだけであるという解釈も可能なのであります。すなわち、客観的に合理的な理由を欠いている場合に社会通念上相当でないとの推定が働き、その結果権利濫用となって無効という効果を生じるという条文の読み方も十分に可能なのです。既にその可能性を指摘している労働法学者もおります。本来、契約法を作る際には、法律効果を導く要件と要件から導かれる法律効果のみをシンプルに記載して、一般市民が見てもだれでも容易に理解できるものであるべきです。幾つもの解釈の余地がある条文は余りできが良いとは言えません。
解雇に関する今後の課題として、使用者は何を尽くせば解雇ができるのかという点を明確にすべきです。そうしませんと、客観的に合理的な理由があるか否かについて事件ごとに裁判官の価値判断にお任せとなってしまいます。これでは裁判の結果の予測ができず、使用者にも労働者にも不幸と言わざるを得ません。ドイツ、フランス、イギリス、韓国などの法律では、使用者が何と何を尽くせば解雇できるのかを明記しています。日本でも解雇の必要性、不利益緩和義務の履行などの具体的、実体的要件と、当該労働者や労働組合などとの説明協議という手続的要件について詳しく明確に定めた法律の整備を図るべきです。
次に、有期雇用について述べます。
有期雇用は労働者にとって何のメリットもない制度です。それは期間満了時に労働契約が終了する不安定な雇用であり、さらに契約期間中は退職の自由が制限されるからです。この二つの大きな弊害のうち、契約期間中の退職の自由については、衆議院での修正により三年上限の有期雇用に関して一年経過後の退職の自由が確保され、弊害が緩和されました。五年上限の専門職と六十歳以上の有期雇用についても一年経過後の退職の自由を保障すべきですが、これができないのであれば、少なくとも大臣が定める五年上限の専門職の範囲に関して契約の中に退職に関する契約条項を盛り込むだけの高度な交渉能力を有する高度な専門性を備えた者だけに限定をすべきであると考えます。
これから三年間掛けて有期雇用をめぐる全般的な検討作業が始まります。働く人が未来に希望を持つのを困難にする不安定雇用に抜本的な歯止めを掛ける必要があると思います。有期雇用を用いることができるのは、フランス、ドイツと同様に、原則として臨時的・一時的な場合に限定をするべきです。また、反復更新を一回しか認めず、それ以上であれば期間の定めのない契約になったものとみなすべきです。さらに、正社員との均等待遇を実施すべきです。そして、期間の定めのない場合とある場合を比較して労働条件に格差があるときには、その相違の合理性について使用者が証明責任を負うものとし、使用者が合理性を証明できない場合には均等待遇を実施すべきです。
次に、裁量労働について述べます。
裁量労働は賃金不払労働を増やす危険があります。また、日本の長時間過密労働の実態を隠ぺいし、国際的な批判を免れる隠れみのとなります。
なぜなら、実態として三千時間働いていても、労使協定で定めたみなし労働時間が仮に千八百六十時間であれば統計上の労働時間も千八百六十時間として扱われます。しかも、日本の裁量労働制度は世界に例のないものですから、このからくりは世界各国には容易に分かりません。裁量労働制は、日本の長時間過密労働の実情を隠ぺいして統計数字を合法的に改ざんするものであると言わざるを得ません。仮に、裁量労働制を残すとしても、企画業務型のみならず専門業務型の場合にも導入時の本人同意を必要とすべきです。また、一定の予告期間を置いて裁量労働制から離脱する権利を法律上明記すべきです。さらに、勤労者の健康保持のためにも最低限の時間管理を行う必要があります。
日本経団連は、裁量労働制にとどまらずにホワイトカラーを労基法による労働時間規制の対象外とするアメリカ型のホワイトカラーイグゼンプションの導入を強く求めております。私は、この制度の導入は、多数の働く人の健康破壊の危険をもたらして、健康破壊の被害を受けずにタフに生き延びた少数の強者だけを優遇する弱肉強食、自然淘汰の制度であると考えます。そして、この考え方とは全く逆の考え方をEU諸国で採用していることを指摘します。
例えば、フランスでは、日本でいう純然たる経営者以外のあらゆる人に対して休息時間十一時間の規制があります。具体的に言いますと、午後十一時まで仕事をしたらその後に休息時間十一時間を確保しなければならず、翌日の午前十時まで就労できない制度です。
この制度は、場合によっては参考人の紀陸さんにも適用されるのではないかと思います。それで、紀陸さんは、休息時間十一時間も要らない、もっと働きたいと言われるかもしれませんが、それはほかの人から見れば、ほかの人も同じように働かなければならなくなり、迷惑なことであります。それを規制するために正に法律で時間の制限をしているわけです。
こうした労働時間規制を設けなければ健康破壊を防ぐことは困難であります。そして、勤労者相互、使用者相互の公正競争条件をそろえるためにも労働基準法の役割をもっと強めなければならないと考えます。そのことを述べて結びといたします。