坂本修の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(坂本修君) 本日は、参考人として意見を述べる機会を与えていただき、ありがとうございました。
私は、一九五九年に弁護士になり、ちょうど四十四年になります。この間、労基法の改正問題でも各地でたくさんの労働者や市民の人と話してきました。その人たちの思いを重ねてこれから意見を述べます。
第一に、解雇のルールについて衆議院で大事な修正がされたと思っています。しかし、望むべくんば、古川参考人の言われたようなもっとすっきりした形にしたい。それは、私の意見は変わりません。しかし、そのことを前提としますが、私たち弁護士は、あそこまで修正された条文及び政府の、繰り返し立証責任について述べた政府の答弁、さらには、附帯決議を生かして現実の法廷でも労働の現場でも無法な解雇が広がらないように、解雇に正当な理由が必要なんだというルールが確立したものとして、これから努力をしていきたいというふうに考えます。
第二に、にもかかわらず本法案には賛成できません。それは、短期雇用の問題と裁量労働といういずれも労働基準法の大原則を逆転させる改悪があるからです。
短期雇用の期間の延長について申し上げます。論より証拠と言いますが、前提として三つのことを証明されている事実としてつかむべきだと思います。
一つは、今パート、派遣労働に加えて短期、無権利の契約社員が、法が改正する前に既に濁流のように激増しているということです。第二に、これらの不安定雇用労働者の賃金は、正規常用労働者のトータルでほぼ二分の一にしかすぎないということです。第三に、日本の大企業はこうした無権利労働者の拡大に今全力を挙げているということであります。この中で改正が行われますと、実際、新卒は三年短期雇用、プラス今回の改正された派遣労働が大半になるというふうに私は考えます。そして、そのことをてことして、私が最近の幾つもの事件で経験しているように、正規常用労働者の大量の置き換えが始まるというふうに考えざるを得ません。
労働者に実際何が起きるのか。この期間は、実際には長期の試用期間です。かつて問題になった契約スチュワーデスの実例が既に証明しているように、三年後に雇用を継続してもらうために労働者は何の文句も言えず、病気であっても身を粉にして働かなければならないのです。三年後に更新される保証は何もありません。雇止めは自由です。せっかく衆議院で修正をした解雇のルールも、これらの労働者については無力であり及びません。
政府は労働者の選択肢を増やすと言っていますが、このような不安定な労働を望んでいない労働者が七五%、正規に働きたいというのが七五%を超えていることは、政府関係の資料でも明らかであります。なすべきことは、資料〔1〕の東京新聞の社説も言うように、そして東京弁護士会の会長声明も言っている、資料〔2〕の会長声明も言っておりますように、雇止めを規制するためのILOやEUの定めるようなルールを作ることであり、均等待遇の保障です。それなしの改正は絶対に認められないと考えます。
次に、裁量労働の要件緩和について申し上げます。
我が国は、世界に有数の長時間労働の国であり、政府統計、総務庁などの労働力調査から逆算すると、労働者一人当たりのサービス残業時間は二〇〇〇年で三百三十五時間という膨大な不払残業のある国です。不払残業の是正に努力すると政府は再三答弁しています。しかし、裁量労働制はこの不払残業をコントロールするのではなくて、野放しにすることはもう客観的に明らかです。推測ではありません。私の知っているところで、合法的に裁量労働を労使合意で実施しているところであれ、あるいは様々な手当でごまかして偽装裁量労働制を実施して摘発された大企業の場合であれ、実際の残業時間の二分の一前後しか裁量時間とされず、つまり二分の一の残業代は現在不払にされているんです。これが実態です。立法するならば、この実態にちゃんと立脚した立法をすべきです。
改正は、本社業務限定という枠を外しました。それから、労使合意でやるから大丈夫だと言いながら、労使委員会の設定について届け出る義務を外しました。労使委員会での全員一致制を外しました。そして選ばれた労働者委員が職場の全労働者の信任を得なければならないという手続を外しました。
なぜ、裁量労働がこんなに被害を生んで、過労死や過労自殺、メンタルヘルス障害の障害なり不払残業を拡大しているのに、なぜこれだけのものを外すんですか。数年前の衆議院、数年前の国会であれだけ議論してたくさんの歯止めを掛けたのに、その歯止めの最も中枢的なものをなぜ外すのでしょうか。許されないことだというふうに考えます。
最後に、一言したいと思います。
改正は、五千三百万労働者とその家族を含めれば計八千万人から人間らしく働き生きる権利を奪うことになります。そのことは、我が国が発達した資本主義の国の中でも例のない人権のない国に転落すること、正に労働についてのグローバルスタンダードに反する国になるということを意味します。改正が、言われるようにかえって不況を拡大するにとどまらず、この国の未来をゆがめ閉ざすことになるということをどうしても言いたいのです。高卒、大卒の若者の多くがフリーター化し、世に言うパラサイトシングル化することは、この国の未来を切り開く人間の力を私たちが失うということです。人は希望がなければ生きられません。まともな労働がなければまともな人生はないのです。若者から希望を奪い、まともな労働を奪ってどうして私たちの未来があるのでしょうか。
極端な少子化は政府も大問題にしています。少子化の原因に長時間過密労働とかいろいろなことが言われています。それはそのとおりです。しかし、私は、その根底に、親になるべき男や女が自分たちの人生の未来について希望を失っているからだと思います。不安にさいなまされているからだと思います。自らの人生に不安な人たちが、どうして新しい生命をこの世に送り出すことができることになるでしょうか。そこに問題の根本があるんだと思います。
人間らしく働く道を奪い、人間性までをゆがめてしまった後に誤りに気付いて後悔しても、人間は簡単に再生できません。どうにもならない少子化が来て、どんな日本の大企業が、国費をどう投じても、子供を試験管で生んで大量生産することはできないのです。崩したものは返ってきません。
二十一世紀のこの国の未来を取り返しの付かない荒廃に陥れないこと、この国を、この社会を人間らしく幸せに生きられる国にし、生まれてきて良かったという国にするために、本法案は抜本的に修正されなければなりません。そのことを心から求め、もしそれができないというならば、いったん廃案にし、改めて広く国民の声を聴いて再立法されることを求めて、私の意見といたします。