山田昌弘の発言 (厚生労働委員会)
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○参考人(山田昌弘君) ただいま御紹介にあずかりました山田昌弘でございます。お呼びいただきまして、どうもありがとうございました。
私は、家族社会学というのを専門としていまして、先ほど坂本さんから言及があったパラサイトシングル論、少子化などを中心に研究していました。五年前に参議院の国生調査会で意見陳述を行いましたので、もしかしたらその点は御存じの方もいらっしゃるかもしれません。近年は、雇用の不安定化と少子化の関係について主に調べており、研究しておりまして、その関係でフリーター調査、いわゆるフリーター調査を積極的に行っていまして、その記事が議員の目にとまり、ここで話させていただく機会を得ました。
私は労働法の専門家ではありませんので、個々の案文の法的妥当性というよりも、マクロ的、社会の全体的変動の中に今の若者層を位置付けて、今の若者層というものがどういうことを感じて何を望んでいるかという点についてお話しさせていただきます。
〔委員長退席、理事中島眞人君着席〕
まず第一点は、これは坂本参考人も何度も述べていますが、今若者の間ではフリーターと呼ばれる非正規雇用者というのが増大しております。ここに表が、参考として載せておきましたが、ここ十年間で二倍以上、学生、主婦を除けば五人に一人、十五歳から三十五歳までの五人に一人は非正規若しくは失業者という状況になっております。
私がこれを研究者として分析した場合、これは不況とか、今不況だからとか、たまたま企業業績が悪いから非正規雇用が増大しているという一時的な理由とは私は考えません。第二点として、若者がそれを望んでいるから増えたということでもありません。これは国民生活白書にも載っておりましたが、フリーターの大多数は正社員になりたいというふうに答えているわけです。
これは、なぜ増えたかというと、これは私はニューエコノミーと呼ばれる、ニューソサエティーなどと呼ばれる産業構造の転換期に今来ているんだと思います。その影響をまず最初に受けているのが今の日本の若者たちであるというふうに考えています。
従来型の産業というものは、いわゆる男性社員を中心にして、それが企業の中で徐々に仕事能力を付けて終身雇用、年功序列していく、年功序列であるというふうな、で、定年退職をするという形の労働形態が適合的な産業だったんだと思います。それが今の現行法が想定する労働者だったと思います。しかし、今、ニューエコノミーなりグローバリゼーションなり、IT化、サービス化といったような言葉でくくられているような流れが世界的に起こっております。
そこで、私は、一つはリスク化と一つは二極化という二つのキーワードでとらえることができると思いますが、リスク化というのは選択を強要されるというか、リスクを強要されるような、リスクを取ることを強要されるような社会に徐々になっていく、つまり安全な道というものは徐々に少なくなっていくということです。
今日は、主に二極化についてお話し、後者の二極化についてお話しさせていただきます。
ニューエコノミーというものは、雇用を二極化させる効果を持っています。つまり、一方で中核的専門的労働者と呼ばれるような創造的、専門的な労働者の需要が高まる一方で、単純労働者、つまりマニュアルどおりに働く人というものの需要を大量に生みます。
例えば、IT化の現場でしたら、システムエンジニアのような専門知識労働者を必要とすると同時に、大量のデータを打ち込むキーパンチャーが必要となってくるわけです。サービス化と言われる現場では、マニュアルを作ったり出店計画を立てたりする少数の中核労働者と、その少数の中核的労働者が作ったマニュアルどおりに働く大量の単純労働者が必要とされているということです。
これは多分、企業にとってはグローバルな競争的環境を生き残るためには必然である、これは不可避の流れだと思います。この不可避の流れを前提にして我々は議論を進めなくてはいけないと思っています。
つまり、企業は中核的な専門的労働者を企業の中に囲い込もうとし、結果的に長時間働かせることになります。逆に、マニュアルどおりに働く人というのは、臨時化、パート化、子会社化等の手段によってコストを削減しようとするわけです。これは、自由主義社会である以上、必然の流れだと思います。
両者の溝は構造的にどんどん深まってきます。つまり、専門的中核的労働者というのは、若いころからの長期的訓練を必要としますし、特段の才能が必要とされるわけです。つまり、マニュアルどおりに働いている人は、そこでマニュアルを作る人にはなかなかなれるものではない上に、すべての人が中核的専門労働者になれるということは幻想にすぎないわけです。そういう中で、企業の中で徐々に昇進していくという従来型の労働者、現行法が想定している労働者というのは徐々に減っていきまして、それが若者にしわを寄せているというふうに思います。
つまり、今のフリーターの現状はどういうことかというと、私がインタビュー調査をする中で分かってきたのは、せめて旧来産業の正社員になれればとアルバイトをしながら待っている男性、女性。女性であれば、その妻になって男性に養ってもらえるのではないかと思いながら、アルバイトを続けながら家族責任を持たないまま待っているという状態だと私は思っています。しかし、それがだんだん無理であるということが今分かりつつあるのではないでしょうか。
第二点として、法案について、そして若者対策の必要性について若干意見を述べさせていただきたいと思います。
ここでも坂本委員もおっしゃったことですけれども、希望というような感情を若者に復活させることが必要だと思っています。ただ、それは坂本委員がおっしゃるような形ではないと私は思っております。
私は、感情の社会学というのを、社会意識の社会心理学というのを専門にしています。希望という感情は、努力が報われると感じることができたときに希望という感情が生じる、絶望というのは、努力してもしなくても同じだと感じたときに絶望という感情が生じるというふうに社会心理学では言われております。
そこで、今の状況で、今の制度で若者が果たして希望を感じることができるだろうかということになってくるわけです。
つまり、従来の制度は、この報告書なり参考資料なりにありましたように、制度の中に入っていれば安心、逆に制度の外にいれば不安定というような状況にあります。つまり、制度の内側にいる人の安心を保証することに尽力すれば、逆に制度外の不安定さというのを増してしまう。私は、そういうトレードオフ関係に、図らずも、残念ながらと私は言うしかないのですが、残念ながら客観的分析によりますと入ってしまっているのではないかと私は考えます。つまり、現在生じていることは、制度外の人々が、先ほど述べたように、無視できないくらいに増大しているということです。
坂本委員がおっしゃった、私も同じことを言おうとしていたのですが、解雇ルールというのは正社員になっていない人にとっては関係ないというふうに答えられてしまうと思います。つまり、若者にとって必要なのは、これは山岸俊男北海道大学教授の言葉ですが、安心よりも信頼が必要であるというふうに述べました。
〔理事中島眞人君退席、委員長着席〕
信頼というのは、ルールへの信頼であり、努力に対する見通しというものが付くかどうかというところにあると思います。つまり、どの程度努力すればどの程度の収入が得られるかという見通しが若者にとっては必要なのに、今、それが与えられていない。つまり、ずっとフリーターのままいなくてはいけないのか、正社員であってもどれぐらい努力をしたらどれぐらいいくのかということに関して不確実になっているということが若者の将来設計を狂わせているわけです。
そして、逆に解雇の場合も多分同様だと思います。つまり、どの程度実績を上げられなかったら解雇をされるのかということが、明確な基準がなければ企業の中で努力しようもないわけです。つまり、ここで多分解雇ルールというのが必要になってくるというのは納得、自分のつまり実力を発揮できなかったから仕事を失うというのは、逆に言えば何の恥ずべきことではなく、たまたま合わなかったことだというように解釈できるからです。
一つ例を述べますと、私はあるサービス産業を調査をしまして、準社員なり正社員なりに登用される制度がある、でも制度があるだけでは若者の希望にはならないわけです。つまり、アルバイトとしてどれぐらい働いてどれぐらいになれば準社員になれる、準社員になってどれぐらい働いてどれぐらい実績を上げれば正社員になれるという基準がないまま、ただ単に制度があると言われても、若者はどうやってどれぐらい努力をしたらいいのかということに関して全く見通しのないままほうり出されているということでございます。
本法案が信頼社会形成の第一歩となるようにと私は考えております。