大久保幸夫の発言 (予算委員会公聴会)

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○公述人(大久保幸夫君) 大久保でございます。
 私は、専門が雇用労働問題でございますので、少し雇用の視点を中心にしながら、景気・経済の問題、お話をさせていただきたいというふうに思っております。
 まず、現況の労働市場の状況について最初少しお話をしたいというふうに思いますが、二〇〇一年の秋から求人数というのは前年比でいうとマイナスに転じまして、それ以来、求人の伸びというのは低迷を続けております。一部、職安の求人数や民間の発表しております求人件数の動きに少し回復の数字は出ておりますが、これも、公共職安も今、一生懸命、求人開拓に努力をしております。また、民間事業者も、一部無料による再掲載等を含めて少しでも多くの求人を紹介しようという努力を続けております結果として、若干求人数、少し上めに出ているところもありまして、実態としては現場関係者の見方は底ばい状態がまだ続いていてなかなか底離れをしないと、いつになったら底離れをするんだろうかと、こういったのが現場の見方ではないかというふうに思っております。もちろん一部の業界には、求人・雇用動向の回復の兆しが出てきているのも見て取れます。
 お手元の資料の三ページ目に、産業別の求人動向というのを一覧表に付けてございます。これを見ますと、例えば電機あるいは自動車というのが求人が復活をし始めてきているという数字が出ておりますが、こちらに関しては、例えば電機であればデジタルカメラやDVDといったものが比較的製造が好調であると、あるいは自動車の生産台数も伸びているということが背景にあって求人数一部伸びてきておるわけでありますが、全体を見ますと、まだ相変わらずマイナス成長のところが大変多くて、最も厳しい銀行・証券といったところは求人数は去年と同じ月と比べても半分という状態になっておりますので、全体の求人はまだまだ決して楽観できるほど労働市場は回復の兆しに入っていないんだろうなというふうに私は見ております。
 また、一方、賃金という問題も非常に市況を見る上で重要なんでありますが、賃金は、こちらも二〇〇一年度から明確に賃金が下落する傾向に入っております。
 昨日、厚生労働省が発表いたしました賃金構造基本調査の中でも、一般労働者の所定内賃金が初めて一%ですか、下がったという発表が昨日されたところでありますが、実は私どもで昨年度、これは首都圏で大規模な調査を行いましたところ、この二年間に転職した人は転職によって賃金が二一%下がっているという結果が出ました。これは、企業は現在所属している正規従業員の賃金を抑制する一方で、雇い替えるといいますか、新たに雇い入れる人に関しては低賃金の労働者を雇っている、もしくは非正規労働者を雇うことによってコストダウンを図っていると、こういうことの証左であろうと、こういうふうに思います。単純な賃下げだけではない構造的な賃金の下落傾向というのが起こっていると、こういうことが一つ言えるんではないかと思います。
 また、残業時間の方でありますが、こちらも昨年から所定外労働時間、残業時間は増えてきております。とりわけ三十代の人たちの残業時間が増えていますね。これは企業調査するのと個人調査するのとかなり違う結果が出るんですが、個人に調査をすると、三十代の人の一六%ぐらいは週六十時間以上働いておるという結果が出てきておりまして、これは過労の問題、心配になってくるところなんですが、一方では、企業調査の方ではそれほど、もちろん増えてはいるんですけれども、それほど大きくは所定外労働時間は増えておりませんで、つまりサービス残業が拡大しているということが現在起こっているのではないかと思います。
 この所定外労働時間に対応する残業手当を含めても賃金はマイナスになっているということですから、長く働いて給料は少なくと、こういうことが起こっているというのが労働市場であろうかというふうに思います。
 また、もう少しマクロ的に労働市場全体を俯瞰いたしますと、バブル崩壊以降も実は労働市場のパイというのは拡大を続けておりました。ところが、一九九七年から八年ごろをほぼピークとして、その後は雇用のパイは膨れなくなりました。大体横ばい状態が続いていると、こういうことになっているわけでありますが、ちょうどお手元の資料の数字を見ていただくと非常に構造がクリアにお分かりいただけるんじゃないかと思うんですが、九七年からずっと、そう大きく、全体規模は横ばいなんですね。この数年の間に正規従業員、つまり正社員は三百五十万人ぐらい大体減っていると。で、非正規の従業員がちょうどそれに相当する分、三百五十万人が増えているわけですね。差引きでいうとちょうど規模は同じと、こういうことになっているわけでありまして、ついに非正規労働、非正規従業員の比率は三〇%を超えました。特に、ここ数年の非正規の増加というのは、そのスピード、大変目をみはるものがございます。
 これは、一つの会社の中で正社員同士が仕事を分かち合うという、いわゆる緊急避難型のワークシェアリングというものは昨年随分議論がされましたけれども、結果的には余り進んでおりませんで、これは各企業がこのようなワークシェアリングが生産性を落とす危険性があるということで、その導入を手控えているということが原因だろうというふうに思いますが、一方で、やや皮肉なことに、オランダがパートタイム労働の雇用を大幅に増やしたように、ある種の社会的ワークシェアリングというものが起こっていると。このことがこの数字の示す裏側にはあるのではないかというふうに私は理解をしております。
 また、人材の流動化ということを少しお話をしたいと思いますが、この人材の流動化の状況については特に若年において急激な変化がございます。非常に若い層の転職、離職が増えていると。ここに、例えば十九歳以下の場合に、二〇〇一年で四五・六%の離職率というようにありますが、つまり、これはこの一年間の間にこの世代の人たちは百人いたら四十六人が、四十五人が離職をしているということなんですね。非常に頻繁に職を替えていると、こういう状態が起こっております。また、比較的収入水準の低い人ほど頻繁に転職をしているという結果も出ております。
 さらに、雇用不安ということについても触れたいと思いますけれども、我々もこれまた調査をいたしましたところ、正社員においても五三%の方が自分自身の雇用に対して不安を感じているというふうに回答しております。つまり、この先自分自身がリストラの対象になるかもしれないし、あるいは大幅な賃下げの対象になるかもしれない、そういったことに関する不安を感じている。
 このように、求人がなかなか回復してこない、そして賃金が低下してくる、あるいは市場相場賃金も下がり傾向だ、残業は増えている、若者を中心に離職は大幅に増えている、そしてまた雇用不安も高いと。なかなかこの労働市場というものが大きな課題を抱えている、抱え続けているということが言えるんではないだろうかというふうに私は感じておるところであります。
 このような労働市場の状況なわけでありますが、その中で二つ喫緊の課題があるのではないかというふうに感じております。
 一つは、失業期間が大変長期化していることに対して対策が必要であろうということであります。これも最新の統計によりますと、失業者のうち一年以上にわたって失業している人の比率が三〇・五%というふうに、三割を超えました。これもこの数年の間に急速に長期失業者比率が増えているという数字であります。
 この一年以上にわたって失業しているということは、標準的な雇用保険の失業給付の給付期間が終わっている可能性が高いわけでありまして、これは何も好き好んで就職しないわけではなくて、大変就職活動した結果見付からずに長期化していると、つまり自力で就職するということに関してはかなり難しい状態に陥ってしまった人たちであろうということが想像できます。ところが、現政策によると、これは雇用保険を中心としたセーフティーネットの構造になっておりますので、雇用保険が切れてしまえば、後は実質的にはほとんどその人個人の努力によってしか自分自身の生業を支えることも就職先を探すこともできないというのが現状であろうというふうに思います。ここに一つ重要な喫緊の課題といいますか、政策上の課題があるのではないかというふうに私は思っております。
 一つの方策というのは、これはイギリス政府がやっているものでありますが、二〇〇〇年からこれは公の部門と民間部門が連動いたしまして、長期失業に残念ながら陥ってしまった人たち、この人たちは、この人たちを公共職業紹介所から紹介された民間の委託先にいったん移して、そこでもう個人ごとに、パーソナルアドバイジングといいますか、キャリアカウンセラーがその人を徹底的に指導して、またその人に合った求人開拓をわざわざして就職させると、こういうことを始めております。この二年半の間に約十万人強の長期失業者をこれによって就職させまして、今発表されている数字によりますと、イギリス長期失業者は三二%減少したと、こういう成果が上がっております。一律にすべての人に対して一定のセーフティーネットを整えるということももちろん必要なんですけれども、その中でもかなり深刻な状態に陥ってしまった人については、個別の支援というものをもう一段階取る必要があるのではないかというふうに私は感じております。
 そして、もう一つの喫緊の課題ということで申し上げたいのは、若年者の失業や無業というものがかなり拡大をしてきておるということであります。最近、頻繁に取り上げられる数字でございますけれども、高校生の卒業者のうち進学も就職もしないという人が一〇・五%、大学の卒業生のうち同じように進学も就職もしないという人が二一・七%、五人に一人という状態まで来ているわけであります。また、これは首都圏の調査でありますが、十八歳から二十四歳を対象にした調査でありますが、学校を卒業して最初に就いた職業がフリーターであったという人が三一%に及んでおります。
 この状態というのは、もちろんフリーターがすべて悪いとは思いません。フリーターは一種のパートタイマーでありますし、サービス産業にとっては重要な労働力でありますから、一概にフリーターをけしからぬと言うのは正しくないと思いますけれども、ただ、その背景にあるものは、経済的あるいは社会的理由によって余り望ましくない選択の結果フリーターや無業に陥っている可能性があるのではないかということが気になるわけであります。
 例えば、これは中高校生に統計を取りますと、いわゆるサラリーマンになるということに関するネガティブイメージといいますか、非常に悪い印象を持っているということが分かります。中高校生にとってサラリーマンというものを感じる場というのは、一つは、新聞やテレビのような報道を通じて、サラリーマンというのは頻繁にリストラをされていると、こういう姿であります。二つ目には、高校生は最近多くアルバイトをいたしますが、アルバイト先でたまたま見掛ける正社員の人たちの姿であります。そしてもう一つは、うちに帰ってくる父親の姿でありまして、この三つのイメージを総合して非常に悪いイメージを持っている。一体自分にとって一生懸命勉強した成果としてつながるプロセスは何なんだろうか、自分にとって仕事をするということはどういうことなんだろうかということが見えなくなってきている。これが学習意欲の低下、就業意欲の低下ということにかなり影響を及ぼしているのではないかというふうに思っております。
 そして、もう一つは、高校の求人市場というものが壊滅的になってしまったということであります。高校の求人はこの十年間の間に求人数八分の一になりました。十年間で求人数八分の一というのは、ほとんど市場がなくなってしまったというのに近いぐらいの壊滅的な状況でございます。今現在は高校の就職志望の生徒たちに紹介してあげられる求人がなくて、各高校の先生が授業の合間に自ら求人開拓をして歩いている、こういう状態でありますが、当然先生方自身による求人開拓というのは限界があります。もう行き詰まりを迎えている。このような若年の失業、無業、未就業の状態に対しては早急に手を打つ必要があるというふうに私は思います。
 一つは、やはり高校、各高校に完全に任せきりであった高校の新卒の就職市場というものに関して、ちゃんと外部に仕組みを作ってあげるということだろうというふうに思います。つまり、地域にキャリアセンター的な機能を作り、一括して求人も集めるし求人開拓も行う、あるいは必要に応じて民間の求人もそこに含めて紹介をしていくという取組が必要でありましょうし、あるいは専門のキャリアカウンセラーを雇い入れて各高校に派遣しながら就職指導に当たる、こういったことも考えなくてはならないのではないかというふうに思います。
 また、先ほどサラリーマンに対するマイナスイメージのお話をしましたが、これはもう少し深く言えば、仕事というものを生き生きと生で感じる機会というものがなくなってきているということにつながっていると私は思います。つまり、小中という段階から、本当に自分の専門性を持って自分の仕事にプライドを持って生き生きと働いている人と直接接する機会を作ってあげるような、言わばキャリア教育というふうに言えると思いますが、そのような機会をきちんと開発していくことが求められているのではないかというふうに私は思っております。
 さて、これは喫緊の課題として二つを申し上げましたけれども、もう少し長期的な、中長期的に取り組まないと成果の上がらない問題も二つ申し上げておきたいというふうに思います。
 一つは、先ほど求人の停滞ということを申し上げましたけれども、求人の停滞以上に私は深刻だと思っているのは、労働市場で求められている能力水準と実際の労働者の能力水準というものにかなりのミスマッチが存在しているということであります。これは、企業経営が求める人材に対する能力というのは、競争の激化に伴って日に日に高くなってきておるわけであります。もう常に即戦力が欲しい、スペシャリストが欲しい、リーダーになり得る人材が欲しいと、こういうふうに思っているわけでありますが、なかなか企業側の人材要件にかなう人たちというのは多くない。つまり、このギャップというものが求人数の低迷以上に大きな問題として私は労働市場に降り掛かってきているのではないかというふうに思うわけであります。
 つまり、雇用対策というものは、長期的に見るならば、これは人材育成政策にほかならないというふうに私は思っております。とりわけ、社会に出てからの職業能力の教育ということに関しては、これまではすべて企業内教育というものに完全に任せきりでありました。しかし、これは流動化が進めば当然心もとなくなってまいりますし、今現在も企業は確かに企業内教育、熱心にやっておりますが、それは中核的な人材に対するリーダーシップ開発であったりとか、あるいは、現場におけるすぐ学んですぐ使えるといったたぐいの教育が中心でございまして、なかなかすべての人たちに総合的に職業能力を高めるための教育を提供しているとは言い難い状況にございます。これに関して、外側に、つまり社会的に職業能力育成の仕組みを構築していく、あるいはここに対して一定の政策的な予算のシフトをしていくということが必要なのではないかというふうに思っております。
 最後に、この労働市場で起こっていることをもう一度俯瞰的に申し上げますと、企業経営としては、競争力を高めるためにも何とか硬直化した人件費について、それを抑制したい、あるいはそこのコストを削減したいというふうな意思を強く持っております。
 一方、社会的に見れば、何とか労働投入量といいますか、就業率を高めていくことを考えていかなければならない。既に、十五歳以上人口の中で就業している人の比率は五七%まで低下をしておりますし、あるいは国民全体で見れば働いている人の比率は二分の一以下であります。六十五歳以上の高齢者について言えば、一時期四十数%働いていた人たちは、もう二割を切る就業率まで低下をしてきている。こういうように、就業率低下の問題というのは経済に与えるインパクトが大きいものですから、何とか多くの人たちが働く場を見付けられるような構造を作っていく必要がある。
 そして、もう一つ、個々人から見れば、自分の生活感や価値観に合った働き方というものを選択し、自分の満足感を高めていきたいと。この三つをどうバランスを取っていくのかというのが、私はこれは労働市場構造改革の一番本質ではないかというふうに思っております。
 なかなか、低経済成長の下では正社員だけでこの需要を埋めるということは不可能でありまして、正社員と正社員の七掛けのパートタイマーという二極化した構造ではない、もう少し多様な、なだらかなワークシェアリングの選択肢を作っていくということが必要だろうというふうに思っております。なかなか多様な働き方の実現といっても、総論賛成、各論反対のぶつかることが多いのでありますが、このことを力強く進めていくことが長期的には重要であろうというふうに私は感じております。
 以上、私の意見として申し述べさせていただきました。

発言情報

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発言者: 大久保幸夫

speaker_id: 29221

日付: 2003-03-20

院: 参議院

会議名: 予算委員会公聴会