内野正幸の発言 (憲法調査会基本的人権の保障に関する調査小委員会)

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○内野参考人 御紹介いただきました内野正幸でございます。
 お配りしましたもののうち、三枚とじで、その1、その2、その3となっております「〔改訂版レジュメ〕現憲法下で差別撤廃策の推進を」というものに即しまして、これをアレンジした形で話していきたいと思います。
 先ほどの御紹介の中で一票の格差の問題などなどを含むという御指摘がありましたけれども、これはあくまでも含むということでございまして、それを中心とするという趣旨ではございませんので、あらかじめ申し上げておきます。
 それで、このレジュメその1の「1、はじめに」というところですけれども、憲法改正を主張するよりも現憲法下でさまざまな施策を充実化させよというところであります。
 (1)です。伝統的に日本社会は、人々がいわば異質な少数者に対して偏見を抱きやすい同質性社会の傾向があります。単一民族社会という不正確な言葉が使われることもあるわけですけれども、いずれにしましても、同質性を重んじる傾向があると思います。また、そこでは、不利な立場の人々、いわば社会的弱者ですが、そういう人たちに対する配慮の不足というものも感じられるわけです。
 そこで、社会的弱者に優しい社会とか、あるいは社会的弱者の苦しみを最小化することを目指す社会、あるいは社会的弱者の人たちがより快適に暮らせるような社会を築き上げることに向けて、国や地方自治体に啓発を含めいろいろな責務があると思います。その中では、人々が多かれ少なかれ抱きがちな差別意識を克服していくという課題も重要になってくると思います。
 なお、平等論の枠を超えて言いますと、例えば過疎地における医師不足などの問題も重大だと思います。
 (2)ですが、人権の領域では、プライバシーの権利などの明文化ということも含めまして、憲法改正の必要性は当面少ないと考えております。現在の日本国憲法の解釈によってプライバシーの権利などを引き出すことができるわけでして、むしろ、現在の憲法のもとで、国際人権諸条約の国内実施も含めて、法令、その充実化あるいは行政措置などを通じて人権保障や差別撤廃を推進していくという課題が重要だと思います。
 なお、「人権擁護法案」というやや厚めの資料も用意してありますが、これについては後に述べます。また、学校教育関係にかかわる平等や差別の諸問題については省略いたします。さらに、外国人の権利や国籍にかかわる問題につきましても、深入りしないことにいたします。
 そこで、(3)典型的な差別禁止事由というところです。
 きょうお配りした資料で、一枚の紙でいろいろな条文が掲げられているものがあります。その最初に日本国憲法の十四条が引かれていますが、その第一項では、「人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、」「差別されない。」とあります。この場合の人種を初めとする差別禁止事由の列挙は例示的なものだと思います。
 憲法四十四条というのがその下に引かれていますけれども、これは、「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。」と本文がなっておりまして、そのただし書きで差別禁止事由が列挙されています。これもやはり例示的なものだと思います。
 そこに書きましたように、部落出身者であるということは社会的身分に含まれるということです。
 それから、人種差別撤廃条約の抜粋の条文もこの資料で用意しましたけれども、その第一条で、この条約で「「人種差別」とは、人種、皮膚の色、世系」、「世系」という国語辞典に余り載っていない日本語なんですけれども、「世系又は民族的若しくは種族的出身に基づくあらゆる区別、」とあります。ここで言う「世系」という中にも、部落出身者であるということを含ませるべきではないかと考えます。なお、このような主張は、部落を人種と同列に扱おうとする趣旨に基づくものではありません。
 なお、そこに書きましたけれども、住宅ローン拒否の事件に関する東京地裁の平成十三年の判決では、この「世系」を人種に準じて狭く解釈しています。
 いずれにしましても、差別を受けやすい人たちとしては、部落住民、アイヌ民族、在日定住韓国・朝鮮人を初めいろいろな在日外国人、心身障害者、さらに女性、同性愛者などの性的マイノリティー、それからハンセン病などの一定の病気の(元)患者、さらには宗教的少数者というものが挙げられますし、そのほかに刑事事件の関係者、被疑者とかあるいは出所者などです。さらには、高齢者などなどが挙げられます。
 なお、障害者の害という漢字を気にする人もいるようで、平仮名でがいと書いて障がいのある人でもいいわけですけれども、広くは、排せつ機能の障がいとか顔面、顔の障がいなどなど、いろいろなタイプの人を含むと思われます。
 そこで、次の項目、「2、憲法の「平等」条項の読み方」というところです。
 先ほど条文を確認しました憲法十四条や四十四条ただし書きによる差別禁止というのは、絶対的なものではありませんで、合理的な区別を許すものであります。
 四十四条ただし書きに関するちょっとした説明ですけれども、供託金を出せなければ立候補できないとしても、財産による差別として違憲とは言えないわけです。また、机の上の話ですけれども、仮に、初歩的な政治的教養を試す試験にあらかじめ合格していなければ立候補できないという仕組みを将来設けたとしても、それは教育による差別として違憲であるということにはならないと思います。
 次に、その2というところですけれども、(2)で、憲法十四条が原則的に禁止しております差別というのは、差別的取り扱いであるというふうに考えるべきだと思います。差別的取り扱いといいますのは、いろいろな施設を利用させないことなどなど各種のタイプのものを含みますけれども、いずれにしましても、差別意識や差別的表現を憲法十四条が差別として禁止しているというわけではないというふうに確認しておきたいと思うわけです。
 それで、(3)としまして、差別的表現について言及しておきました。不特定多数の人たちのグループに対する差別的表現、例えばアイヌ民族は何とかだという発言、そのような差別的表現に対しまして、民事救済とかあるいは行政的対応というのは認められるわけですけれども、しかし、刑罰つきの法的規制を行うことは慎重にすべきだと考えます。
 行政的対応という場合、従来からあるものとしまして、地方法務局による勧告など、例えば、このような差別ビラまきはしないようにとする勧告、そういうタイプの勧告などのほかに、人権擁護法案における人権委員会の特別救済手続も含まれるわけです。
 なお、確認のためですけれども、特定の個人、Aさん、Bさんに対する差別的表現に対しては、現行法上も処罰可能です。侮辱罪や名誉毀損罪になるわけです。
 それで、この差別的表現に関しましては、人種差別撤廃条約の四条というのがありまして、これは条文が資料で確認できると思うのですけれども、この第四条の中でも特に(a)、さらには(b)です。この条文資料の上の左の方にあるんですけれども、四条の(a)によりますと、「人種的優越又は憎悪に基づく思想のあらゆる流布、」というふうになっておりまして、こういうものについて法律で処罰すべき犯罪であることを宣言せよとなっているわけです。日本政府はこの条約の四条を留保したわけですけれども、私の立場からいいましても、このような留保は原則的に支持できるわけです。
 と申しますのも、人種差別撤廃条約の四条の(a)は、広い領域におきまして差別的表現やそれに類するものに刑罰を求めているわけでして、表現の自由という見地から見て、規制が行き過ぎているのではないかと思うからであります。
 次に、3としまして、「形式的平等と実質的平等」というところであります。
 レジュメには「(その定義は別紙)」と書いてありますけれども、「法の下の平等」というタイトルの縦書きのプリントがあるんですけれども、その中の十行目近く、「第三に、」というところですけれども、平等の観念には二つあると。形式的平等というのは、諸個人をその事実上の違いにかかわらず一律に同等に扱うべきことを求めるものだと。それから、実質的平等というのは、事実上劣った地位にある人をより有利に扱うことにより結果を平等なものに近づけようとするものであるということです。
 それで、憲法十四条は、実質的平等ではなくて、形式的平等を原則的に命じるものである。その際に、合理的区別を例外としているということであります。
 その2というレジュメの真ん中あたりの(a)というところですけれども、衆議院では議員定数不均衡を格差二対一内におさめることが憲法上要請されるにしましても、参議院につきましてはそこまでは言えないだろうと考えております。と申しますのも、半数改選に伴います偶数選出の要請がありますし、また、都道府県別選挙区というのは、これは憲法が要請しているものではありませんけれども、許容しているものだと思われまして、そういう点を考慮する必要があるからであります。
 それで、政治的平等としましては、ほかに選挙資格や投票の機会の保障の点で現行制度をもう少し再点検する余地があるのではないかと思います。
 次に、(b)ですけれども、いわゆる非嫡出子、婚外子というふうに呼ぶこともできるんですけれども、婚外子への差別は違憲であるというふうに書きました。とりわけ、最高裁で相続分に関する非嫡出子差別の事件の判決が出ていまして、そこでは依然として少数意見にとどまっているわけですが。
 他方、非嫡出子とは別に、選択的夫婦別姓ですけれども、これは憲法十四条が要請するものであるとは考えておりません。立法政策的に望ましいものとして、その実現、推進を図るべきだと思うわけです。
 それから、(c)としまして、性的指向による差別です。この性的指向というのは、シというのを志すという字ではなくて指という字で書くということなんですけれども、同性愛者に対する差別、あるいは、ここには書きませんでしたけれども、両性愛、同性も異性も愛するという両性愛者というのもこの性的指向でカバーできることだと思います。同性愛者に対しては、施設利用などの点で差別があってはいけないのは当然であります。
 最近話題になっておりますのは、同性愛者同士の結婚であります。あるいは結婚に準じるパートナーシップの形成です。その場合、条文ですと、日本国憲法二十四条で、その第一項ですけれども、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、」というところで、「両性の合意」という言葉がひっかかるわけです。文理解釈いたしますと、憲法二十四条一項を改正することなしには同性愛者の結婚は認められないというふうになりそうですけれども、その点の解釈については議論のあるところだと思います。
 最近の話題としましては、そこに書きましたように、昨年十一月のアメリカ合衆国のマサチューセッツ州最高裁判決が、同性愛者に対する結婚を認めるべし、認めないのは平等違反であるとしたわけでして、それに対するブッシュ大統領の批判的反応などのいきさつがあるわけです。
 次に、(2)です。立法や行政の施策によって、いわゆる積極的差別是正措置、アファーマティブアクション、あるいは似たような意味でポジティブアクションと呼ばれますけれども、そういうものも含めまして、今後、実質的平等を推進すべきだと思うわけです。
 それで、そこに書きましたように、障害者のためのバリアフリーなどであります。ここでは具体的な中身をお話しする余裕はありませんけれども、最近の動きとしまして、改正公職選挙法による障害者の投票機会の保障とか、あるいは性同一性障害者特例法、それから身体障害者補助犬法というのが注目されるわけであります。
 ポジティブアクションといいますと、さまざまな分野での女性の積極登用というのが今後重要な課題になってくると思います。その中には女性の政治進出を促進するための政策も含まれるわけでして、幾つかのヨーロッパ諸国あるいはアジアの幾つかの国で女性が積極的に政治家として進出できるための枠組みづくりが行われていますけれども、今後日本でそのような政策をとるべきかどうかは議論のあるところだと思うわけです。
 それで、女性ということですと、次の4という項目に入るわけです。「女性差別(ジェンダー平等)」と書きました。
 まず、(1)ですけれども、憲法十四条などは性別による差別を禁止しているわけです。その判断基準につきましては、縦書きの別紙の一番最後の三行に書いてあるのですけれども、男女の肉体的・生理的条件の違いに由来する性差別は合憲であるが、男は仕事、女は家庭といった男女の役割分担についての固定的な観念、ないしは女性の地位についての偏見、男尊女卑の思想に由来するものは違憲となると言えると思います。
 関連しまして、憲法二十四条には、「夫婦が同等の権利」とか、あるいは「両性の本質的平等」という言葉があります。
 女性差別に関しましては、女子差別撤廃条約の一条から六条という最初の部分をプリントで示したわけですけれども、その中では、そこに書きましたように、特に五条による男女役割分担慣行の撤廃ということが注目されるべきだと思います。先ほど触れましたポジティブアクションのことは、条約の第四条で、暫定的な特別措置という形で規定されているわけです。
 このような点も含めまして、最近のスローガンとなっております男女共同参画社会を築き上げていくということが今後の重要な課題になると思うわけです。
 次に、レジュメのその3というところですが、(2)としまして、女性天皇についてであります。
 男系か女系かという問題もあるわけですが、男系であれ女系であれ、女性天皇を認めるかどうかは立法政策の問題であるというふうに私は考えております。言いかえますと、女性天皇を認めなくても憲法十四条違反にはならないと解釈しております。と申しますのも、世襲の象徴天皇制そのものが、生まれによる差別の禁止という原則に対する大きな例外を憲法が明文で定めたものだからであります。
 次に、(3)としまして、一定のスポーツ競技や刑務所などの男女別は合理的な区別として許容されると思います。あるいは、国公立の女子大や女子校が合理的な区別としてどこまで許容できるかは議論のあるところだと思います。
 次に、(4)ですけれども、間接差別という言葉が最近時々話題になっておりますけれども、例えば、世帯主でない者、非世帯主に対して劣った扱いをする。こういう場合に、事実上の傾向として、男性よりも女性の方が、夫よりも妻の方が劣った扱いをされる結果をもたらす可能性が高いわけですけれども、このような間接差別に対する規制というのも今後考えていく必要があるわけでして、枠組みとしましては、合理的理由なく形式的平等を侵してはならないというこれまでの枠組みのもとで、間接差別に対する規制は理屈の上では可能でありますが、何をもって間接差別と見るかの基準づくりは今後の課題だと思います。
 最後に、5という項目で、「民間社会における平等と差別」というところであります。
 企業関係の問題は、男女雇用機会均等法とか労働基準法などの法律によって、少し、あるいはかなり解決されつつあるわけです。少なくとも、法的側面においては解決に向かっているわけです。
 最近の話題としましては、住友電工男女差別訴訟で、大阪高裁で画期的な和解が行われたということであります。これは、仮に判決という形式をとったならば、このような画期的な内容のことは書けなかったかもしれないと思われるほど、男女差別撤廃に向かってのいい方向を裁判所が示したものとして評価できるわけです。
 関連しまして、企業の社会的責任ということが最近よく言われますけれども、環境保護の責任などのほかに、企業内で男女平等の推進あるいは女性の積極登用を行うということも、企業にとって中長期的に見てプラスになることだと思うわけです。その意味で、企業の社会的責任ということに関連づけられると思います。
 一般的に言いまして、民間社会における差別につきましては、公序良俗違反に関する民法九十条や不法行為に関する民法七百九条などを媒介にしまして憲法の人権規定を私人間へ間接適用することによって、理屈の上では十分対応できるわけです。その場合、民間における差別は憲法十四条違反とはならず、憲法十四条の精神に照らして違法になり得るわけです。
 ただ、三菱樹脂事件に関する最高裁判決によりますと、私的な支配関係におきましては、平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容し得る限度を超えるときに違法となり得るとされるにとどまるわけです。この言い方は漠然とした抽象論です。
 思いますに、ある人たちの人格や地位を低く見る内容の差別、人種差別とか部落差別などですけれども、このような種類の差別というのは、民間のお店とか宿とか住居、その他の施設でも厳しく禁止されるというルールづくりが必要になると思うわけです。確かに、差別禁止あるいは排除禁止という要請と、ほかのお客さんたちへの配慮などの民間施設側の営業的利益というものが衝突するということがよくあるわけでして、一般論としては、この二つのものとの間でバランスをとれということになるかもしれませんけれども、しかし、その場合であっても、差別禁止の要請をずっと重視するべきだと思うわけです。
 そこで、「なお、」として旅館業法五条に触れてありますけれども、そこでは、宿泊を拒める場合の一つとして、「宿泊しようとする者が」「風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき。」が挙げられています。仮に旅館業者が、この条項に基づいて、日本に来た外国人とかあるいは知的障害者とか同性愛者などなどの宿泊を拒むということがあったとしましたら、これは憲法十四条の精神に照らして違法になるわけです。また、別の言い方をしますと、この旅館業法の五条も、憲法十四条の精神に沿うように解釈されるべきだと思うわけです。
 次に、(2)で、人権擁護法案というところであります。
 これは、おととしの三月国会に提出されながらも、審査未了でいわば廃案になった扱いだと思うんですけれども、その見直しや再提出を検討すべきだと思うわけです。先ほど言いましたように、民間社会における平等や差別というのは、憲法の人権規定を私人間に間接適用することによって理屈の上では対応できるわけですけれども、しかし、人種差別などが厳しく禁止されるというルールづくりのために、そのための特別の法律を整備するということも必要なのではないかというふうに考えるわけです。その手がかりとしまして人権擁護法案というものが参考になるわけです。この法案は、公の機関も民間の団体も適用対象になっております。
 お配りしましたやや分厚い資料で一つページをめくっていただきますと、第二条とか第三条というのが出てきます。第二条の五項ですけれども、この法律案における差別禁止事由の中では、その終わりに「性的指向」という言葉が出てくるわけで、この点は評価できると思います。
 それで、三条で、これこれの人権侵害をしてはならないということで、その第一項で、「次に掲げる不当な差別的取扱い」となっています。先ほど申しましたように、差別とは差別的取り扱いであるということをこの文脈でも確認してよかろうかと思います。
 なお、人権擁護法案の第二条の五項に差別禁止事由が列挙されていますけれども、これにつきましても、「その他の事由」という言葉をその後に入れるのも一案だと思います。
 なお、人権擁護法案については、人権委員会の独立性などの問題があるわけです。
また、差別禁止法などの名称の法律案を新たに準備するということも検討されてよかろうかと思います。
 最後に、(3)で、最近の判決としまして、宝石店外国人拒否に関する静岡地裁浜松支部の平成十一年十月十二日判決、それから、小樽での外国人入浴拒否に関する札幌地裁平成十四年十一月十一日判決などが注目されますけれども、時間の関係上、その内容に立ち入るのは差し控えまして、以上で私からの陳述を終えたいと思います。(拍手)

発言情報

speech_id: 115904186X00120040219_002

発言者: 内野正幸

speaker_id: 5943

日付: 2004-02-19

院: 衆議院

会議名: 憲法調査会基本的人権の保障に関する調査小委員会