井ノ川金三の発言 (憲法調査会公聴会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○井ノ川公述人 憲法改正に関して所信の一端を述べさせていただきます。
二院制の見直しについてですが、見直すといいましても、二院制を短絡的に一院制にしようというのではありません。国会の機能を効率的かつ的確に発揮させるにはどうすればよいか、そこを議論の出発点とします。
国会運営が効率的でない例といたしましては、通常国会冒頭に行われる総理大臣、外務大臣、財務大臣、経済担当大臣の四大臣の演説がありますが、衆議院で行う内容と参議院で行う内容とはほとんど同じで、時間のむだではないでしょうか。両院議員が一堂に会した席でできないものでしょうか。参議院は独立しているのだと言ってしまえばそれまでのことですが、でも、国会運営が効率的でない理由の一つになっております。
もう一つの例といたしまして、衆議院が予算案を審議、議決し、予算案は参議院に送られます。参議院で審議し、議決、予算が成立しますけれども、予算案が年度内に成立しなくても、衆議院で年度内に議決してあれば、その時点で予算は成立します。こういったことは先生方にとって釈迦に説法ですが、私の言いたいのは、与野党対立で国会は紛糾し、予算委員会が開かれない例はしばしば見られるところです。政治のことでやむを得ない面もありますが、でも、その間、予算案を審議しませんから、国会は機能を停止しております。
比較的まれと言ってよいでしょう、衆参ともに審議が順調で、年度内に予算が成立することがあります。こうした例は、一見して正常に見えるのですが、果たしてそうでしょうか。実は、審議は駆け足審議で、急いで議決した節が見られるからです。これでよいのでしょうか。
前の例も正常とは言えないし、後の例も正常とは申せません。審議が順調過ぎて、間違いがあるのではないかと疑念を抱くわけです。
国会運営に一番苦労されている方は、国会運営委員の先生方です。テレビを見ていてよくわかります。でも、それは表立ったことで、裏ではどんなに御苦労されているか、想像されます。
お配りした資料の二枚目の左をごらんいただきたいと思います。見直し案についてですが、国会運営を効率的かつ的確にするため、衆議院は予算審議、参議院は決算審査と、権能を分けます。権能を分けることによりまして一つのことに集中でき、的確さが図られるのではないでしょうか。予算審議を衆議院の専権とし、決算審査を参議院の専権とします。
決算審査は軽く扱われた向きがありますが、予算審議以上に重要だと思います。決算審査は、国の収入、支出が適正に処理されているかどうか総合的に審査され、それによって、予算執行の責任者である内閣の政治責任を明らかにするという目標があります。会計検査院の検査とは別の意味で重要です。
決算審査に関しまして、憲法は九十条一項後段で、内閣は、次の年度に、会計検査院の検査報告とともに、決算を国会に提出しなければならないとあります。これを受けての決算審査ですが、内閣は、決算を衆参別々に提出しているのです。これが実際です。
なぜそうしているのか。決算は、予算と違って、議決を求めているものではない、報告案件の一つです。審査を求めているにすぎないからです。でも、これでは決算審査がおろそかになります。衆参別々に審査することで、審査に整合性が保てない、そごを生ずるおそれがありますなど、欠点があります。
参議院専権にすれば、そうしたことはなくなります。審査の結果、決算が理に合っているのか合っていないのか、その当否を内閣に知らせる。これは当然のことです。そして、国民に向かって公表する。決算審査を専権とする参議院の役割でしょう。
次に、憲法六条二項には、天皇は、内閣の指名に基づいて、最高裁判所長官を任命するとありますが、内閣に権限が集中しているのはよくないことなので、内閣の指名となっているのを参議院の指名と変えます。すなわち、天皇は、参議院の指名に基づいて、最高裁判所長官を任命するとします。同条一項は、「天皇は、国会の指名に基いて、内閣総理大臣を任命する。」となっていますが、これとの兼ね合いから、最高裁判所長官の任命を参議院の指名とします。
天皇の国事行為に係る権限についてですが、国事行為は、すべて内閣の助言と承認によって行うことになっておりますが、そのうち、司法に係る国事行為、つまり、七条六に、大赦、特赦、減刑……を認証することを、参議院の助言と承認により、とします。すなわち、天皇は、参議院の助言と承認により、大赦、特赦……の認証について国事行為を行うとします。
以上、決算審査、最高裁判所の長官の任命、それから大赦、特赦等の認証を参議院に移すことによりまして、参議院に独自性を与えることができると思います。そうしたことができなければ国会を一院制にした方がましだと、失礼な表現を用いたことをお許しください。
先生方御存じのマッカーサー草案ですけれども、マッカーサー草案では、国会は一院制でした。草案四十一条に、「国会ハ……議員ヨリ成ル単一ノ院ヲ以テ構成ス」でした。草案を受け取った政府関係者はびっくりしたことでしょう。政府関係者はもともと二院制に固執しておりましたので、日本国憲法案では、「国会は、衆議院及び参議院の両議院でこれを構成する。」として、GHQに示し、GHQの了承を得たものと思われます。
お隣の大韓民国の国会は一院制です。だからといって我が国も一院制でよいと言っているのではありません。先進諸国は二院制です。二院制なのはそれなりの理由があってのことです。特に、第二院についてですが、イギリスの貴族院型、アメリカの連邦型、フランスの元老院型、ドイツの連邦型など、それぞれの存在理由があってのことです。我が国の参議院は、それらの国に比べまして、はっきりとした存在理由が見出せないのです。
第二院につきまして学者間で言われていることは、第一院が常に正しい結果を生むとは限らない。第二院に、審議を慎重に、事を合理的ならしむる抑制的機能を期待すること、そして、第二院に第一院の補充的地位を与えることです。
我が国の参議院の緊急集会は、過去、衆議院が解散中、補充的働きを果たしたことがあります。ただ、残念ながら、参議院は抑制的働きを果たしたとは言えないのです。抑制どころか、参議院が政党化したために参議院議員が政党勢力となって、衆議院議員と変わらなくなってしまったことです。これでは参議院無用論が言われるのも無理からぬことです。
私個人としましては、国会は二院制でよいと思っているのですが、参議院が第二院としての役割を果たせないならば、国会は一院制でもやむを得ないと考えております。
それとも、ここで全く新しい参議院をつくる。
先生方御存じのドイツ連邦参議院のことに若干触れます。
ドイツ全土は十六のラントに分かれております。ブランデンブルク、ザクセンなど十六のラントに分かれていますが、ラントでもって構成されているのがドイツ連邦共和国です。ラントの代表が集まるのが連邦参議院です。ラントと我が国の都道府県とは性格が大分違います。都道府県には地方自治が与えられていますが、権限は形だけのもので、機関委任事務が多く、財源が乏しく、国の出先と言ってもよいでしょう。
政治と経済は密接不可分の関係にあります。歴史的に見てもそういうことが言えます。都道府県の数は現在四十七ですが、経済規模が拡大し、経済構造が変化している、それなのに都道府県の規模は昔と変わらないわけで、余りにも小さく、時代に合わないものになっております。早晩、道州制に移行するものと思われますが、そうなったとき、道州の代表を国政に参画させる必要があります。また、道州の人口に応じて表決権に差を設けるのです。
中央とか地方とかといったような言い方はこの際やめにしまして、国と道州で仕事を分担し、新しい日本を築いていくことが大切です。道州の代表を参議院議員とする、非常に手前みそな言い方で恐縮ですが、ドラスチックな国会改革案と言えるのではないでしょうか。
もとに戻りまして、資料の一枚目の左をごらんください。「議員は二院制見直しには消極的と考えられる。」これに対して、いや、そんなことはない、見直しには積極的なんだと反発なさる議員もおありでしょう。参議院のあり方が問題になっている折、衆議院議員は参議院のことに口を出すのをはばかるでしょう。選挙で互いに応援した仲ならなおさらでしょう。参議院議員も、参議院を廃止してよいとは言わないでしょう。中には、先駆的に、廃止してもよいとおっしゃる方もいるかもしれません。でも、それはまれでしょう。そう考えますと、二院制見直しには消極的と受け取ってよいのではないでしょうか。できれば二院制見直しは避けて通りたいと思うのが本音ではないでしょうか。
しかしながら、それでは通らないと思います。なぜなら、国民にとりまして、国会のあり方は、直接政治にかかわるだけに、これほど重要なことはないわけで、国民から信託された国会の現状を見ると、このままでよいとは思っていないはずです。国会運営を効率的かつ的確にしてもらいたいと願っていることでしょう。
御清聴を感謝します。(拍手)