村越進の発言 (武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会)
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○村越参考人 日本弁護士連合会、日弁連の有事法制問題対策本部本部長代行をしております村越と申します。
本日は、有事法制関連法案、特に国民保護法案等につきまして、参考人として日弁連の意見を述べさせていただく機会をいただきましたこと、大変ありがとうございます。
共産党の推薦ということで参っておりますけれども、もとより日弁連は特定の政党と何か連携関係があるわけでは全くございません。国会の場に来て意見を言えと言われれば、どのような形でも積極的に参加して発言をさせていただく、そういうことで本日参っております。
日弁連は、申すまでもございませんが、全国の約二万名の弁護士が全員加入しているところの法律家団体でございます。法律家団体として、弁護士法に定められた人権の擁護そして社会正義の実現というものを使命としておりますし、また、法律制度の改善に努めることもその職責であります。
日弁連は、そうした立場から、現在国会で関連法案が審議されております司法制度改革、これに総力を挙げて取り組んでいるところでございます。
また、有事法制問題につきましても、政治的、政党的立場からではなく、あくまで法律家団体として、憲法と人権の視点から検討し、これまで見解を表明してまいりました。その基本的なスタンスは、有事法制そのものの是非あるいは必要性については会内でもさまざまな意見がありますので、その点については態度、判断を留保し、提案された具体的な法案について検討して意見を述べるというものであります。
日弁連は、そうした検討の結果といたしまして、昨年の通常国会で審議、採択された有事法制関連三法案につきましては、一つは、武力攻撃事態等の範囲、概念があいまいであり、国会の関与が事後承認であり、政府の恣意的な判断を許すおそれがある。二つは、さまざまな私権の制約、社会生活の規制等が基本的人権の侵害につながるおそれがある、殊に、国民は国等の措置に「必要な協力をするよう努める」との規定は思想、良心の自由を侵害するおそれがある。三つ目として、周辺事態と武力攻撃予測事態が重なり合うことにより、集団的自衛権行使の危険性が高まる。四つ目として、内閣総理大臣に強大な権限が集中し国会等による民主的コントロールが弱まり、民主的な統治構造や地方自治が形骸化するおそれがある。五つ目として、NHKや民放を指定公共機関として政府の統制下に置くことは報道の自由や国民の知る権利を侵害するおそれがある、ひいては国民による政府の民主的チェックを不可能とするおそれがあるというふうに考えまして、日弁連として法案に反対するとの見解を表明いたしました。
全国の四十六の単位弁護士会も、同様の見解を表明しております。
現在審議されております七法案についても検討しておりますが、本日、時間がありませんので、国民生活に最もかかわりが深いと思われます国民保護法案についての意見を述べます。
国民保護法案には、幾つかの問題点、疑問点がございます。
第一は、緊急対処事態の問題です。法案は、第八章において、「緊急対処事態に対処するための措置」を定めています。緊急対処事態は、手段としては「武力攻撃の手段に準ずる」とされ、行為は「多数の人を殺傷する」とされている点で、武力攻撃事態等とは全く性格が異なりますし、その定義は甚だあいまいであり、その範囲はかなり広範にわたるものと考えられます。
そもそも、テロ等は、原則として警察、海上保安庁等が治安問題として対処すべき事態であり、武力攻撃事態等における国民保護措置に関する法案にこのような緊急対処事態に対する措置をも含めて規定することには疑問があります。
しかも、法案は、緊急対処事態においては、武力攻撃事態等と異なり、対処方針についての国会承認を不要としながら、武力攻撃事態等における対処措置の多くを準用しています。このような規定の仕方は、重大な武力攻撃事態等に対する対処措置を、全く性格や規模の異なる緊急対処事態にもそのまま準用するものであり、立法のあり方としても、また人権保障という観点から見ても、大きな問題が存在します。
さらに、緊急対処事態は、「後日対処基本方針において武力攻撃事態であることの認定が行われることとなる事態を含む。」とされております。これは、国会の関与を排除しつつ、事実上、武力攻撃事態等の範囲を拡大し、あるいは時間的に前倒しすることにつながりかねず、そもそもあいまいであった武力攻撃事態の定義や範囲をさらにあいまいにし、政府の恣意的判断を許す危険性を有するものであります。
次に、避難についてですが、法案では、住民避難というものが保護措置の中核に位置づけられております。しかし、この住民避難というのは、国民の保護措置として有効かつ適切に実施し得るのか、機能するのかということについては疑問があります。
先ほど来触れられております鳥取県のシミュレーション、この現実性ということを考えましても、その非現実性あるいは困難性というものは明らかになっているのではないでしょうか。適切で実効性のある国民の保護とは何か、もっと議論が必要であると考えます。
三番目に、立法事実の有無についてですが、言われているところの想定される有事事態は、弾道ミサイル攻撃、航空機や船舶により地上部隊が上陸してくる攻撃(着上陸侵攻)、航空機による攻撃(空襲)、ゲリラや特殊部隊による攻撃の四つでございます。国民保護法制の必要性、立法事実の有無という視点から見ますと、法案が予測しているそうした事態が発生する可能性の程度、それに対処する保護措置の現実性、実効性、さらに経済的、社会的合理性の有無等を勘案し、総合的な判断が不可欠であると考えます。
次に、平時における作用ですが、法案では、指定行政機関の長及び知事は、あらかじめ内閣総理大臣と協議し、基本指針に基づき国民保護に関する計画を作成するとなっております。市町村長もほぼ同様でございます。それから、指定公共機関は、やはり基本指針に基づき業務計画を作成し、内閣総理大臣に報告する。内閣総理大臣はこれに対する助言権があるとされています。それから、地方公共団体は、平素から国民保護協議会を組織するということになります。さらに、国民に対し訓練と啓発に努めなければならないという規定が存在しまして、指定行政機関、地方公共団体、指定公共機関に、平素から国民保護措置を的確、円滑に実施するための組織整備と住民訓練の実施を義務づけております。
つまり、平時において有事に向けて準備を怠らないということではありますが、これは一方で、我が国の統治構造あるいは社会のあり方を平時から大きく変えていくということにもなるというふうに考えます。
それから、日弁連として最も大きく考えております人権侵害の危険性ですが、法案の四条一項で、国民は、協力を要請されたときは、必要な協力に努めるようにするというふうな規定がございます。これは強制ではないということにはなっております。しかし、実際に、自主防災組織、ボランティアということが強調されております。そういう地域ぐるみの協力活動が平時から行われ、盛り上げられていく中で、本当にこれが強制にならないのかという点には疑問が存在します。国民の協力は、あくまで一人一人の自主的判断にゆだねられるべきものであります。
さらに、協力を超えた具体的な強制措置としては、運輸の強制があります。運送事業者は、正当な理由がない限り拒否できない。物資の保管命令、売り渡し要請、収用もあります。違反に対して、六カ月以下の懲役または三十万円以下の罰金です。土地、家屋、物資の強制使用、これも、立入検査を拒む等には三十万円以下の罰金刑があります。医療の実施指示ですが、医師、看護師その他の者に医療を行うよう要請することができ、正当な理由なく拒否したときは、医療の実施を指示できることになります。
つまり、実際には、かなり広範な国民が、自発的な協力だけではなく、強制の対象となります。強制の根拠、要件は何か、拒否できる正当な理由とは何か、だれがどのように判断するのか、不服申し立てはどうするのか。財産権、営業の自由、幸福追求権等の人権にかかわるだけに、より明確な規定が必要であり、そうでないと、基本的人権の尊重を幾ら総則に書いてあっても、それが画餅に帰する危険性があります。
最後に、報道の自由、知る権利についてですが、先ほど言いましたので簡単にいたしますが、指定公共機関にNHK、民放がなることにより、放送事業者は、放送の根幹にかかわる体制や報道姿勢について業務計画として作成し、これを内閣総理大臣に報告する義務を負い、かつ助言を受けるということになります。
以上述べましたとおり、法案は、有事法制三法に至る過程では必ずしも十分に議論されていなかった、そして定義も明確でない緊急対処事態をも対象とするものであり、立法事実の有無や国民保護措置の現実性、実効性についても大きな疑問があります。さらに、基本的人権を侵害し、知る権利を制約し、地方自治を含む我が国の民主的な統治構造を平時から大きく変容させる危険性をはらんでいる、そういうふうに言わざるを得ないと考えます。人権と民主主義にかかわるこのような重要法案については、十分な国民的議論を尽くした上で、慎重な国会審議が求められていると思います。
したがいまして、日弁連は、ただいま指摘しました問題点を解消するような抜本的な見直しがなされない限り、この法案には反対せざるを得ないと考えております。殊に、大変審議期間の限られた今国会において、この法案を、拙速と言ってはなんですが、審議、採決するということには強く反対するものであります。
以上でございますが、なお、日弁連は、他の六法案についても四月十七日に意見を取りまとめておりますが、基本的には同じような考え方でございます。
大変駆け足の意見陳述になってしまいましたが、御清聴ありがとうございました。(拍手)