2004-06-11
参議院
山中あき子
イラク人道復興支援活動等及び武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会
山中あき子の発言 (イラク人道復興支援活動等及び武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会)
⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。
詳細は利用規約をご確認ください。
○参考人(山中あき子君) ただいま御紹介いただきました山中あき子でございます。
不審船舶の検査のプロジェクトチームの一員として検討したことがございますので、今回、ああ、ここまで来たなというふうに思っているところでございます。また、動燃の事故の折にワシントン州の燃料工場の危機管理と危機対応のシステムの視察をいたしましたし、また、そのときにカリフォルニア州の原子力発電所で国、州、それからその会社、付近住民の危機管理の提携の在り方、これを調査したこともあります。それを含めまして、「Think, or Sink」という予防国家論を昨年末まとめました。
そのような視点から、今日は緊急事態基本法の制定に関して少し意見を述べさせていただきたいと思います。
現状認識をしてみますと、地下鉄サリン事件以後、サリン等毒物製造禁止法が制定されたり、あるいは阪神・淡路大震災の折に救助犬のことですとか外国人医師の問題ですとか、国際社会の善意にこたえられなかった経験からいろいろな受入れ手続の申合せがありますけれども、まだ法的な改正はありません。
そういう状態で、緊急事態という概念を基本的な、すなわちあらゆる原因による、テロもあり、事故もあり、外敵からの攻撃もあり、自然災害もある、いかなる原因であっても国民が危機に瀕すると、そういう状態でとらえるという、この修正された方向というのは非常に現実的であるというふうに評価いたします。私自身は、緊急事態基本法というのは実は国家安全保障と危機管理基本法、これを併せたようなものであってほしいというふうに望んでいるわけでございます。
まず、基本的には、一体何のための法律かということをもう一度考え直していただきたい。すなわち、国民の生命と国土の保全が国家の最大の義務であれば、何かが起こったとき、果たして日本は国民を守れるだろうか、国民の生命を守ることが第一の目的のはずである、そういう可能性を視野に収めた法律を是非立案していただきたい。そのためには、実は各省庁又は関係各団体の利益を優先するような法律がもし今あるとすれば、これは正にポリティカルウイル、皆さんの政治的な意思をもってそれを統廃合する大変いい好機であるというふうに考えます。
ですから、国民に対して分かりやすく、そして関連の諸機関や地方自治団体にも分かりやすく、しかも機能しやすい包括的な一本の法律として災害救助、有事対応、国民保護、自衛隊や消防、警察の役割、国民の基本的な権利と義務などがはっきり分かるようなスタンスの基本法の制定を期待しております。
政府は、いかなる理由があろうと、国民が脅威にさらされたときに最小限の被害で食い止められるような政策を打ち出し、立法化すること、これを今なされば、正に時宜を得ていると思います。
その意味で、国民保護法案に関して一言申し上げます。
これまで衆参で大変長い時間を掛けて議論されてきております武力攻撃以外の事態のときという認定、また緊急対処組織というのはどういうものか、文民保護組織の法制化は不要なのか、国、都道府県、市町村という従来型の伝達パターンで緊急時に間に合うのだろうか、あるいは私権制限の要請拒否の正当な理由というのはマニュアル化しておかなくてよろしいのだろうか、あるいは総理大臣の代執行権というのは本当に現実的なのだろうか、こういう議論に対して提案者である国は早急に検討をしておくべきであるというふうに思います。
危機の段階というのは、私は危機の発生前、それから警告期、危機発生、それから進行期、そして危機終息後というふうに分けられると思いますけれども、危機が何日も前に予測できる場合は手順を踏んでいくわけですけれども、わずか数分、又は起きてしまったときに手順を踏んでいたら、その判断が現場でできなければ間に合わないこともあり得ると。そういうふうなことでは、危機管理センターがいかに最新の設備を誇ろうと、結局のところ、国民はもちろん関係の協力体制がいかに構築され機能するか、つまりソフトパワーがいかに機能するかに掛かっていると。
具体的には、情報の収集、連絡、活動の体制の確立と同時に並行して、人命救助、救急活動、医療活動、消火活動などの応急対策活動が実施されなければ被害を最小限に食い止められることができません。つまり、被害を最小限に食い止めるためには様々なものが同時に進行するという、そういうシステムにならなければならないわけで、常にと言ってよいほど、これまで様々な経験の中で政府の対応の遅さが指摘され、すべて後手後手だったという不満が被害者や住民から出ています。
何か起こったら、そこにかかわるすべての機関が整然とそれぞれの役割を同時並行的に果たす、そういう体制にあるかということが問われているわけで、すなわち消防、警察、自衛隊が同時に連携を取って即座に動くことができるかというようなことであり、災害も事故も事件も時間との勝負であるということを再認識すれば、国民保護法案の疑問点の早急な検討が必要なことが改めて強調されると思います。
私がここで申し上げたいことのもう一つの視点は、発想の転換を図っていただきたいという点です。
テロ特措法も有事法制も、これまでの冷戦時代の枠組みの積み残しの処理に腐心しているように見受けられます。つまり、政府の冷戦後の新しい時代への国家像や日本の将来像への政治哲学、政治理念というものが感じられない。つまり、できるところから少しずつというこれまでの政治手法から脱皮し、改革を標榜する小泉総理らしく、思い切って国家百年の計で将来展望に基づき、日本の国土と領域におけるあらゆる不測の事態に備えた基本法を制定してほしいというふうに思うわけです。
それから次の視点は、総合的視座で是非立法していただきたい。
有事法制も災害対策基本法も、また原子力災害対策特別措置法もすべて包含されるべきであるというふうに思っております。私は、厳しい言葉で言えば、タコ足配線のような今の法整備にどこかで終止符を打つときが来るとしたら、今このチャンスではないかというふうに思っているわけです。したがって、国家安全保障、危機管理、そういったものを包含した今回の危機対応の基本法というのに期待が大きい。国民はどのように国によって守られ、どういう義務を負うのかということもきちんと総合的視座で位置付けてほしい。
例えばスイスでは、核戦争に備え、各建造物の地下に地下ごうの設置と食糧の備蓄を義務付けておりますし、牧草地を農地に転用できる体制を作ったこともよく知られております。
私権の制限は自衛隊と米軍の陣地の構築、通行などが特化していますけれども、阪神・淡路大震災のときを思い出していただけば分かるように、避難路や避難場所の確保など、いわゆる防災都市、すなわち災害を予防するような町づくり、これを作る絶好のチャンスだったわけですが、私権の制限ができないために、結局、災害前の状態に戻すというようなやり方の復興になってしまった。そういう意味で、前向きの私権の制限ということも検討に値するというふうに思います。
国、地方自治体などの地域住民が一致団結して被害を最小限に食い止め、危機を早期に終息させなければならない。そのためには、互いの信頼関係の構築というのがかぎになります。
私権の制限を適用する場合はなおさらのことであって、したがって、日ごろから各地方自治体の生涯教育の場などを使って予防国家論や危機管理論などの学習の機会を積み重ねることが効果的であるというふうに思います。国民の意識の向上にも寄与しますし、また一方で、国、地方公共団体や自治体などの役人は自分たちがパブリックサーバントであるということを再認識する必要があると思います。つまり、総合的視座と長期的展望での全体像が法制には必要だと思います。
法整備のポイントはかなり網羅されているように私は拝見しましたけれども、まとめますと、まず第一に、国民の生命と財産を守り、国土の保全を図るという目的の明確化をしていただきたい。第二に、実現のためにどのような国土づくりが必要かという全体像に基づく国づくりの提示をしていただきたい。第三に、国や地方のあらゆる機関に機能的に活用できるシステムを構築してほしい。第四には、民間と国民の協力的参画体制の整備が必要である。第五番は、駐留米軍との協力の具体的な取決めを国民にも提示してほしい。それから六番目は、情報をどの時間内にどこに通知するか、そういった手順の明確化というものを考えていただきたい。先日の羽田空港の滑走路の侵入事件は幸いなことに事なきを得ましたけれども、警察を入れる許可を得るのに時間が掛かった、これが今日本の現状なんです。七番目は、都道府県の単位より、より広域的なブロック制ということも視野に入れてはいかがか。つまり、消防、病院、警察、自衛隊などのネットワークは、県単位ではなくて、それより広い範囲でブロックとして機能できないかという視点です。八番目は、避難場所や避難路の確保や救助活動のために私権の制限や規制緩和を提示していただきたい。九番目に、立法と行政の両面で順次整備できる仕組みを構築し、実効性を担保していただきたいということです。
具体的な施策としては、全国のブロックごとに避難場所や避難施設を整備するという意味で、緑地確保のために国や都道府県、市町村の所有地の拡大も努め、ふだんは公園などとして住民に開放し、またダムや貯水施設も水に親しむ余暇の利用の視点を加えながら必要に応じて再整備するという視点も大変大事です。
また、世界のエネルギーの安全保障にも貢献し得ることを視野に入れて、地域特性を生かしつつ、太陽熱や風力などの自家発電など、代替エネルギーの確保に努めるという視点も必要です。
食料の自給率が極めて低い日本ですから、食料の備蓄方法の研究を促進するという視点も欠落させられません。
国際レベルで活動できる救助隊員の育成を加速化し、建築物の安全性やライフラインをチェックするインスペクターや危機管理専門家などの人材を育成し、専門家を増やし、新しい雇用創出にもつなげるという視点も考えられます。
冒頭に申し上げましたシーメンスの燃料工場では、燃料工場ですのに四十五人の各分野の安全専門家を雇用しております。チームに分けて二十四時間体制で、安全対策組織としての危機対応チームと、起こった危機にどう対応するかという管理危機チーム、この二手に分かれているわけで、ここでは予測し得る十三項目に及ぶ最悪の事態発生への対応を具体的に分析し、全従業員を訓練しております。同時に、連邦政府の原子力委員会はこの燃料工場の施設運営のライセンスの取得にも厳しい基準を示しております。日本でそれができていたら死亡の事故はなかったというふうに私は思います。
こういった縦走したネットワーク作りに留意して、自衛隊、消防、警察を一元化する、常にではなくて、非常事態の体制の確立も必要だと思います。
カリフォルニアの原子力発電所では、カレンダーで自然に必要手順を学ぶというやり方をしています。例えば、どういう指示が出たら脱出避難するのか、どういう指示が出たら自宅待機をするのか、非常に大事なことです。また、十六キロの円の中に七十二基のサイレン、それからラジオを使って、何かが発生したら十五分以内に施設外のすべての部局に緊急事態が通報されるというシステムになっています。二年に一度、八時間にわたる避難訓練を実施しております。地元の消防、病院、交通諸機関、それから軍、連邦政府の担当者、核の研究所などが協力して学童の退避、住民の避難訓練などを実施しているわけです。
そういうふうに見てまいりますと、各首長の危機管理の研修も大事になります。
是非、皆様に今国会から次の国会までの間にしていただきたいことは、時限的検討委員会というものを設けていただきたい。これは与野党の担当者と内閣府、防衛庁、国土交通省、総務省、外務省、そして文科省から局長クラスを担当者として参画させて、そして夏の一週間から十日間に分けて、これは識者を集めて現在の法律の在り方を精査し、何を廃止し統合するかを検討した上で、基本法の制定をし、同時にそれを機能させるための実施まで皆さんが関与していただきたい。
そして、小学校からリスクマネジメントの教育や大学の危機管理専門家の養成講座、そういったものを導入し、先ほど申し上げた生涯教育における国民の意識の向上と相まって、そういった人材の養成を図ることは非常に重要なことです。
このようになれば、期待される波及的効果としては、まず行政改革により規制緩和の促進、耐震構造物や備蓄可能な食品加工技術などの技術開発、専門家の養成による新しい雇用の分野の創出、救助隊員や専門家の近隣のアジアや世界の災害、事故、紛争などの派遣や、備蓄食糧物資の提供などの国際協力、国家目標に沿った公共工事などの内需拡大、そして冷戦後の新しい時代に合った自衛隊、警察、海上保安庁、公安などの任務の見直しと訓練方法の改革、新分野の人材確保というような連携作り、そして国民の政治への信頼を回復することができるというふうに思っています。
重層的な危機管理体制を構築するには多大な予算が必要です。ですから、その意味では、予算の執行優先順位を付けることや、多年度予算の導入ということで、十年、十五年後までに全国がきちっとした形の防災国家になっていることを期待します。
最後に、私が予防国家という言葉を使っておりますのは、予防国家としてあるべき十原則というものを考えているからです。一つは、国家安全保障・危機管理基本法、これは今ので解決できます。あとは、迅速な意思決定。三番目は、統括指揮者の責任を明確にすること。的確な情報の収集、分析を行うこと。そして、地方自治体の危機管理能力を強化すること。六番目は、警察機能の強化。七番目は、医療機関の充実。そして、自衛隊の活動。国民の認識力の強化。そして、最後十番目は、効果的な実践訓練です。
日本の国民のいわゆるフェールセーフ、失敗しても安全を確保する、こういう予防国家の発想、そういうシステムの構築と人材の育成、そして非常事態勃発に即応する法整備と国の危機管理システムの構築は、日本の国の歴史に残る偉業と思います。
国会の御検討を心から御期待申し上げます。
以上でございます。