田中隆の発言 (イラク人道復興支援活動等及び武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会)

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○参考人(田中隆君) 御紹介いただきました弁護士の田中隆と申します。全国一千六百名の弁護士で構成する法律家団体の自由法曹団というところで活動をしておりまして、平和・有事法対策本部の副本部長をしております。
 自由法曹団は、一昨年、二〇〇二年春に有事法制が浮上して以来何度も出版や意見書の発表を重ねてきました。発表した意見書、合わせて十五次に及んでおりまして、自由法曹団のホームページにすべて掲載しておりますので、御参照いただければ幸いです。
 本日は、参考人として陳述する機会を与えていただきましたので、法律家として三つの点に絞って述べさせていただきます。
 第一点、最初は有事法制が発動される場面と及ぼす影響の問題であります。
 今回の有事十案件の母法に当たります武力攻撃事態法、もう略称で申し上げます、の構造は、現実にこの国への武力攻撃がなくても、切迫あるいは予測の段階から、政府の判断で武力攻撃事態あるいは予測事態を宣言して対応態勢を構築する、そして米軍と自衛隊の作戦や兵たんのサポートを行うという構造のものでした。
 一昨年来の国会審議の中で、この武力攻撃事態や予測事態が、現に米軍が武力行使を行っており、自衛隊がその後方支援に当たっている周辺事態法上の周辺事態と併存することが明らかになり、現在では確定的な解釈になっています。しかも、この武力攻撃というのは何もこの国本土に対するものに限られず、在外公館や海外にいる自衛隊への攻撃も武力攻撃に当たるというのが政府答弁ですから、周辺事態法で米軍の後方支援などに当たっている自衛隊に相手の国あるいは国に準じる者から攻撃が予測されれば予測事態が宣言できると、こういう構造になります。
 法案を提出された政府の側から、この有事法制あるいは事態対処法制の発動場面が具体的に明示されることはついにありませんでした。しかし、米軍との共同対処を前提にした法制の構造や北東アジアの政治情勢からして、発動可能性が最も高いのは、米軍が北東アジアで軍事行動を取る周辺事態に際しての相手国の軍事的行動が武力攻撃事態あるいは予測事態に至る場面と考えざるを得ません。それゆえに、この国会でも、一昨年来、周辺事態との併存等が繰り返し問題にされてきたと考えます。
 今回の法案は、こうした有事法制に極めてドラスチックな内容を付け加えます。
 箇条書的に指摘します。
 米軍支援法では、予測の段階から、米軍の行動をサポートする無限定の行動関連措置が組み上げられ、地方自治体や企業が協力を要求されます。自衛隊は米軍に弾薬まで提供しますが、米軍がその弾薬をどう使用するかをチェックする法的手続はなく、最終的には米軍に対する信頼によってしか担保されない。これも、予測の段階から、公共施設等利用法で政府が優先順位を指定する空港、港湾等の優先権は米軍や自衛隊にも付与され得るという答弁でありますし、元々交通や電波の管制は作戦をサポートするための法制として制定を要求されたものですから、軍事優先になることは法制上も明らかです。
 事態が進行して一触即発の事態になって発動される海上輸送規制法では、第三国の船舶に不審な敵性国人が紛れ込んで密輸的に物資を運んでいると認められている場合にも臨検が可能、停船命令ですね、が可能で、危害射撃ができるとなっています。これは自衛権では到底説明はできないと思います。
 捕虜法や人道法等は、文字どおり交戦を前提にした規定で、重要文化財破壊罪や占領地入植罪などは自衛隊が海外に出ていった場面での国外犯しか想定できない。
 これらは、すべて法文及び政府の答弁から抽出したもので、自由法曹団がそうなると言っているものではありません。これでは、米軍との一体化を果てしなく進めて、いつでも臨戦態勢を構築して戦争ができると宣言しているものと考えざるを得ないんです。
 かつて政府は、武力攻撃の意図を明示して多数の艦船や航空機を集結させる状況は武力攻撃の切迫、当時はおそれでしたが、だと説明されました。公共施設等利用法によって、予測段階で港湾や空港に米軍や自衛隊の艦隊や航空機を集結させれば、それは相手の国からすれば一触即発の切迫事態ということになります。こうした軍事緊張のエスカレートを法制上組み込んだ法律を制定することがこの国周辺のアジア諸国との関係にもたらす影響をいま一度考えるべきではないかと考えます。
 なお、事は周辺事態に限られた問題ではなく、自衛隊の海外派遣でも同じ問題が発生するはずです。
 新聞報道によりますと、内閣法制局は、イラクで抵抗戦を続けるサドル派は国に準ずる者に該当するとの法解釈を示されたとされています。仮にもし、このサドル派が国に準ずる者と認定され、そのサドル派によるサマワにいる自衛隊への攻撃が予測されるとなると、イラク特措法とは別チャンネルが、有事法制が動き、別チャンネルの有事法制が動き出すことがあり得ることになります。そのとき、サドル派が果たして国に準ずるかどうかということを事後的に国会が十分チェックできるでしょうか。現に、自衛隊が海外で行動するようになっている今日、有事法制が発動態勢に入ることの重大性をもう一度検討すべきではないでしょうか。
 二点目は、国民保護法が社会に及ぼす影響の重大性です。
 国民保護法制は、すべての地方自治体や地域に直接かかわる法律という点で特別の重大性を持っております。御承知のように、警報や避難から始まって応急復興、武力攻撃災害対処、国民生活安定、復旧・復興に至る十万字を超える壮大なる法律案です。
 この法制の構造からすると、地域全住民が県境を越えて、県の境を越えて避難しなければならないほどの大規模な着上陸脅威、攻撃あるいは大規模な空襲がこの国の本土に加えられる場合を想定しているとしか考えられません。
 しかし、現在の国際情勢からしてこうした事態が考えられないことは明らかですし、現に政府自身、まず考えられないと答弁されています。政府の答弁はその後、しかし絶対にないとは言い切れないと続きます。しかし、蓋然性どころか可能性の計測もできない下で、ないとは言い切れないとして対応態勢を組み上げることは、殊更危機や不安をあおり立てることになり、政治の道筋としても危機管理のありようとしても重大な問題をはらんでいると思います。
 この国会でも、地域全住民の避難のはらむ問題について、例えば鳥取県でのシミュレーション等を摘示しながら、様々な指摘や議論が行われました。しかし、全体としては、こうした指摘がありながらも、何としても自治体に対応態勢を確立させるという極めて強権的とも見える方向に向かっているように思われます。
 政府がモデルを作って自治体の計画を促す、防衛庁は幹部自衛官を全自治体に派遣してイニシアチブを行使する、図上訓練では足らないから実地訓練も行う、やってくる中で対応も早くなって知事や市長などの意識も変わっていく等々、こんな答弁が繰り返されました。
 政府は、本年を含めて五年計画で都道府県、市町村の実動演習まで持っていく計画のようで、と伝えられています。こうなりますと、自治体は、自治体部局はおろか、地域の町会、自治会、商店会、学校、病院、交通機関、医療機関などを挙げて演習に駆り立てざるを得なくなります。問題は、その演習が軍事緊張が高まって政府がどう努力しても戦争が避けられそうにないという状況で行われるのではなく、具体的な想定事態もなく、仮想敵も存在しない中で行われることです。実際の戦争が訓練をやったとおりに起こる保証はなく、避難先に想定した地方から敵がやってきたとなれば何の効果もありません。この点で最後に申し上げたいのは、言わば空中楼閣に近い対応を組み上げること自体のはらんでいる危険性です。
 かつてこの国が初めて帝都の防空演習をやったのは一九三三年と記録されています。このとき、どの国にもこの国に空襲を加える空軍力はありませんでした。その架空の危険を掲げて行われた演習がその後の防空法の制定や防護団につながり、隣組や自警団につながっていったのは歴史の記録するところです。
 空中楼閣に等しい対応法制を生み出すことが社会の不安や亀裂を拡大し、社会全体を好戦的な方向に誘導し政治を誤りかねない、法制度がそういう危険をはらんでいると思いますので、実は法律家としてこの法制に反対せざるを得ないのであります。
 最後に、三点目、法案の提出と研究や審議について一言申し上げます。
 この有事十案件が提出されたのは三月九日。法文だけで四十万字、対照表や関連条文を含めると六十万字に及ぶ膨大なものでした。国民保護法制だけは若干概要が伝えられていましたが、それ以外の法制は直前まで明らかではありませんでした。これだけの法案を短期で審議し、行動や問題点を明らかにし、国民の十分な理解を得た上で結論が出せるかというのが、最初に全文読んだ考えでした。どうもこの考えは法律家だけのものではなかったと思っています。
 四月十三日、この法案が衆議院本会議に上程されたとき、民主党から代表質問に立たれた首藤信彦議員は、その一つ一つに関して、その審議で国会会期全体を使ってもおかしくないような非常に重要な案件であり、これを一括して国会に提出した政府の行為は、正に神を恐れぬ行為と言わざるを得ないと質問を締めくくられました。達見だと思います。
 この四月十三日とは、イラク全土が戦場となって、三人の青年が拘束されているさなかでした。私たちの仲間にもイラクで救援活動に当たっている弁護士がいます。人ごとと思えず、全世界のNGOと結んで救援に当たっていました。そのさなかでした。参議院で審議が行われた五月下旬は、国民の関心が年金問題に集中しているときであり、審議が途絶えることもございました。このような中で、すべての自治体や地域に直接に関係する国民保護法を含めて、これらの法案が国民に十分理解され、検討、研究が尽くされたか。率直に言って甚だ疑問と考えざるを得ません。
 さらに最後に、衆議院議員の最終盤になって挿入された修正についても一言申し上げておきます。
 今度の修正は、法案として提出された国民保護法案を修正することによって母法と言うべき武力攻撃事態法を改正するという、通常の法制定の過程では考えられない内容を持ったものでした。このまま改正されますと、この武力攻撃事態法は、武力攻撃という戦争の場面を想定したものが大規模テロ等という犯罪の領域に属することまで、問題までサポートすることになります。法的に言えば、安全保障と治安の二つの領域にまたがる法制となります。
 あらかじめ予測がほとんどできず、捜査も密行で進められざるを得ない治安の問題と、外交の延長として生じる軍事緊張が発端となる安全保障の問題、さらに、一過性であって意思を持った敵が介在していない自然災害の問題を安易に同じカテゴリーで考えることは重大な誤謬と考えざるを得ず、犯罪捜査や災害対策にいたずらな混乱をもたらす危惧も禁じ得ません。
 以上、全体として、この法案は重大な問題をはらんでおり、いまだ十分に研究、解明されたとは言い難いものでありますので、採択、成立に至ることには、私自身としても自由法曹団としても反対せざるを得ません。
 また、全国二万名の弁護士が全員加入している強制加入団体の日本弁護士連合会も、かつての有事三法案にも米軍支援法案や国民保護法案を中心とする今回の有事法制にも強く反対をしていると付け加えます。
 最後に、二年半前から有事法制にかかわった自由法曹団が問い掛け続け、掲げ続けたのは、行くべきは平和の道ではないかという問い掛けでした。この二年半、私自身を含めて多くの弁護士がアフガニスタンやイラク、朝鮮半島、中国等に赴いて、微力ながらも救援や支援を続け、平和的な道筋のために努力してきました。いかに苦難の道であっても、その平和を行くためにこの国の力を発揮していただきたいと思います。そのことをお願いをして、陳述といたします。
 ありがとうございました。

発言情報

speech_id: 115913807X01720040611_009

発言者: 田中隆

speaker_id: 23112

日付: 2004-06-11

院: 参議院

会議名: イラク人道復興支援活動等及び武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会