富田俊基の発言 (決算委員会)

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○参考人(富田俊基君) 御指名をいただきました野村総合研究所の富田俊基でございます。
 決算審査の在り方につきまして意見を申し述べさせていただきます。
 お手元の資料も御参照ください。
 まず、我が国の財政の現状についてですが、先生方には既に御存じのように、古今東西に類例を見ないほど悪化しております。政府短期証券、借入金を含めた国の債務残高のGDP比は昨十五年末一三四%と、学徒出陣のあった昭和十八年度に並ぶ水準まで上昇しています。国内では依然としてデフレ期待が根強いことを反映して国債金利が極めて低い水準で推移していますので、まだまだ大丈夫だと思い込みがちです。しかし、国際金融市場では、日本国債の信用力が低いという評価が定着しています。
 例えば、ドル建ての日本政府保証債の金利は、同じ満期のアジア開発銀行債よりも〇・二%も高い。円建ての日本政府保証債の金利は、ドイツ復興金融公庫、KFWと呼ばれておりますけれども、そこの債券よりも〇・一%高い水準で推移しています。また国際決済銀行、BISの季報によりますと、ソブリン・クレジット・デフォルト・スワップ市場での日本国債の取引高、二〇〇〇年から二〇〇三年について見ますと、ブラジル、メキシコに次いで多かったことが報告されています。
 こうした状況の中で、予算編成プロセスの改革論議が行われています。例えば、いわゆる骨太の三では、財政構造改革に当たっては予算の質の改善、透明性の向上が必要と指摘しています。質の改善はうたわれても量の改善がなぜ入っていないのかは疑問です。この骨太三を受けて、十六年度予算で、年度をまたぐ予算執行の弾力化と予算項目の大くくり化を内容とするモデル事業が試験的に導入されました。こうした動きの背景には、いわゆるニュー・パブリック・マネジメント、NPMと呼ばれる運動があるように思えます。
 論者によってその具体的な内容は異なるようですが、一、多年度予算、二、事前統制から事後評価に重点を移す、三、発生主義という会計手法の導入、これらを主な内容としています。
 参考人も、議会制民主主義の枠内であれば民間企業の経営手法を独立行政法人や特殊法人、地方公共団体など行政の現場に導入し、行政の効率化、活性化を図ることに異論はありません。しかし、中央省庁への導入には、縦割り、省庁縦割りの助長と官僚独裁とも言うべき大きな落とし穴があることに注意しなければなりません。
 まず、年度をまたぐ多年度予算についてですが、これは我が国戦前の軍事予算と同様の構造で、民主主義の否定、官僚独裁につながりかねません。昭和十二年に設置された臨時軍事特別会計は戦争終結までの多年度予算で、しかも予算科目の区別は臨時軍事会計費の款が一本、陸軍、海軍、予備費の三項のみです。国会では予算は項のレベルで議会されるため、海軍、陸軍はそれぞれ一括の大くくり予算で、しかも多年度予算ですので、国会による予算統制が掛からなくなったことを忘れてはなりません。
 また、海外での多年度予算は政府内部の計画書といった位置付けで行われていますが、それには予算が既得権益化する、楽観的な経済見通しによって歳出が下方硬直化する、実質値で中期計画を作った一九七〇年代のイギリスでは著しく財政が悪化したなどの問題を生みました。
 次に、事後評価の重視についてです。
 これは、厳格な事前統制とともに推進すべきことは当然です。厳正な事後評価のためには、事前に明確な定量目標を立て、評価に恣意性が入り込まないように評価方法もあらかじめ決めておく必要があります。
 しかし、現状のように事後評価を主として各府省の自己評価にゆだねることで十分でしょうか。また、仮に厳正な事後評価ができたとしても、その予算へのフィードバックは国会の決定にゆだねるべきです。
 次に、発生主義予算についてです。
 現金主義会計では、年金、公共事業、政府保証などのコストが正しく認識できないので、発生主義の考え方で将来にわたる国民負担を計測し、政治決定の参考とし、予算編成プロセスで活用することは極めて重要です。
 しかし、発生主義で予算そのものを編成するとなると、現金主義に比べて裁量の余地が大きい、巨額の投資的支出も毎年減価償却費など予算としては少額しか計上されない、現金主義による予算統制と発生主義予算の制度的な不整合が生じるなどの問題が起こります。このため、ニュージーランド、オーストラリアにおいても、適用範囲は政策経費を除いた各省庁の使う直接経費に限定されています。
 こうした最近の予算編成プロセスの改革の中には、政府の活動を市場あるいは第三者に評価させようとする考え方があるように見えます。その代表例が市場での財投機関債の発行と第三者による独立行政法人の評価です。
 資料の二ページにお移りください。
 財投機関債は、市場、マーケットによる特殊法人の改革という目的で発行されましたが、マーケットでは、この債券には暗黙の政府保証が付いているとみなされ、民間社債のようにリストラや退出を促すという機能は果たしていません。十五、六年度の財政投融資計画で大幅な削減を可能にしたのは、財投機関債ではなく、各機関の担う政策と主要事務事業の見直しによるものであります。
 独立行政法人は、行政機能を企画立案と執行とに分離し、執行業務については、運営費交付金の一括交付という形で予算統制を緩和し、その長の責任で組織を最も効率的な方法で運営させるという考え方でできています。しかし、政治からも市場からも統制を受けず、所轄府省が事後評価でコントロールするという言わば官僚特区となるならば、それはそもそも許されようはずはありません。
 事前統制緩和の代償として厳しい事後評価が必要とされているのですが、厳格な事後評価のためには、明確な中期目標と定量的に示された中期目標、年度目標が必要であります。特殊法人等改革推進本部参与会議と総務省の政策評価・独立行政法人評価委員会で独立行政法人の中期計画の明確化を各府省に強く要請していますが、各府省の対応はまだ十分とは言えません。
 計画が定量的に示され、第三者による事後評価が可能となっても、独立行政法人の業績が業務執行の効率化によるものか、環境変化によるものか、あるいは事前統制が緩いためなのか、これらを果たして明確に分離して評価できるのかという基本問題が残ります。
 独立行政法人への運営費交付金も国会の指示に従って予算執行をゆだねられた税金であり、それを売上げと仮想して経営努力を求めるという考え方にも限界があります。また、予算の使い残しを決算審査も経ずに官僚が勝手に使ってしまうことがあっては民主主義の否定につながりかねません。税金を投入し、国の機構としてののれんを使っている以上、国会による事前統制と厳格な決算審査とのフィードバックが当然必要であります。
 以上の陳述をまとめさせていただきます。
 第一に、各府省がNPM、ニュー・パブリック・マネジメントを武器として縦割りの官僚独裁に陥らないよう、国会による厳しい予算統制と厳しい決算審査が必要であります。
 第二に、事前統制には厳しい予算制約が必要です。
 この巨額の財政赤字を見るまでもなく、予算の量の改善、すなわち歳出削減が優先課題です。企業も家計も予算制約の中で最適化行動を取っているのですから、政府の活動でも厳しい予算制約による量の削減が質の改善、業務の効率化につながるという考え方が必要です。
 そのためには、大蔵大臣の権限強化が必要です。大ぐくり予算、多年度予算、事前統制から事後評価重視へというNPMの思想は、さきに述べましたように、国会の役割と政府内部での大蔵大臣の権限とを縮小しようとする動きと言えます。大蔵大臣の権限の弱い国ほど財政赤字と国債残高が多い。これは、欧州通貨統合に際しまして各国の財政健全化を進めるために行われた比較制度分析の結果です。我が国にこれを当てはめますと、国会の役割と財務大臣の地位がこれまで以上に低下すれば、止めどもなく国債の累増が進んでしまいます。
 そして、第三に、国会における事後評価の厳格化が必要です。
 各府省の自己評価にはおのずと限界があります。また、自己評価と第三者による事後評価への過度の期待も禁物です。政治も市場も要らない哲人政治、アナーキズムか、あるいは崩壊したソビエトのような官僚独裁に陥らないとも限りません。これを防ぐためにも、決算と会計検査の早期提出に併せ、決算審査の予算編成へのフィードバックを積極化すべきです。
 なお、今後の課題として、予算書、決算書の表示を政策体系に即した形にし、事業評価との連動が可能となるよう区分を見直していくべきであります。
 御清聴ありがとうございました。

発言情報

speech_id: 115914103X00520040322_005

発言者: 富田俊基

speaker_id: 4641

日付: 2004-03-22

院: 参議院

会議名: 決算委員会