大村多聞の発言 (内閣委員会)
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○参考人(大村多聞君) 日本経団連消費者法部会長代行の大村でございます。国民生活審議会消費者政策部会、日本経団連の代表として、委員として参加させていただいております。
本日はこのような発言の機会をいただきまして、誠に有り難く存じます。
まず初めに、公益通報者保護制度の導入に対する日本経団連としての基本的な考え方につきまして申し上げます。
各企業は、あらゆる法令の違反や企業倫理に反する行為を予防するためコンプライアンスに力を入れております。日本経団連も企業行動憲章と、その企業行動憲章の実行の手引も発行し、会員企業のマニュアルとして活用してもらうことなどを通じて未然防止の働き掛けを行っております。それでも企業不祥事が発覚した企業に対しては、会員資格の停止や退会勧告、場合によっては除名もあり得るという厳しい対応を取っております。
本来、内部告発は、個々人の正義感と責任の下で行うものであり、制度的に奨励すべきではないと考えております。これまでも内部告発者につきましては、一般法理に基づいて保護されるべきものは保護されてまいりました。
今回の公益通報者保護法案は、一般法理を前提として、公的・私的組織を問わず、公益のために通報する労働者の保護に関するルールをより明確化しようというものであります。そうであれば、企業が自ら進んで不祥事の発生を最小限にとどめるべく、コンプライアンスへの自主的な取組を後押しする観点から、公益通報者保護法案を立法することには一定の意義があるものと考えております。
公益通報者保護法案は、国民生活審議会消費者政策部会が二〇〇三年五月に発表いたしました報告書をベースに制度設計されておりますが、報告書の取りまとめに当たりましては、経済界、消費者団体、弁護士団体、学者など、関係各界が活発な議論を行いました。その結果、各界の意見を十分に配慮して微妙にバランスの取れた制度設計が取りまとめられたわけでございまして、新しく制度をスタートするという意味では合理的な内容であるものと存じます。
この法律の対象にならないものにつきましても、これまでどおり一般法理で保護されるわけでございますから、全体のレベルを下げることにはなりませんし、ルールが明確化される分、前進しております。また、立法による国民、企業へのアナウンスメント効果も大きいと存じます。
先ほど申し上げましたとおり、今回の公益通報者保護法案は、公益のために通報する労働者の保護のルールの明確化と、各企業のコンプライアンスへの自主的な取組の促進が元々の趣旨でございますが、私どもとしましても、この二つの観点から法的な枠組みを作っていくことが実務の混乱を回避する観点からも肝要かと存じます。
まず、ルールの明確化という点についてでございますが、これまでも内部通報者に対する不当な取扱いについては、裁判所で一般法に基づいて是非が判断されており、保護されるべきものは保護されております。
しかしながら、限られた判例等からでは、保護されるための要件や効果が明確でない面がありました。また、企業にとりましても、事実が不確かなものや個人的な恨みなどから誹謗中傷的な情報がいきなり外部へ通報されてしまっては致命的であります。
そこで、今回、公益通報者保護制度を導入して、どのような内容の通報をどこへ行えば解雇等の不利益な取扱いから保護されるかをあらかじめ明確にしておこうということでありますから、いかなる通報が保護の対象となるか予測可能性が高く、また乱用されないルールにすることが重要となってまいります。
その観点からいたしますと、例えば公益通報者保護法案で、公益に貢献するということで保護される通報の範囲につきましては、国民の生命、身体、財産などの保護にかかわる法令違反が生じ、又は生じようとしている場合とし、その範囲を明確化し、予測可能性の高い制度となっていることは評価できるものと存じます。
また、保護される通報者の範囲につきましても、公益通報者保護法案では、現在雇用されている労働者に加えて、派遣労働者や元労働者、取引事業者の事業に従事する労働者を対象にすることになっておりますが、例えば事業者と直接的な雇用関係にない派遣社員の場合には、派遣先の企業の契約上の要求に見合わない派遣社員であった場合、自らが交代させられないようにするために通報することや、元労働者については、不満を持って退職した者が報復を目的に通報する場合も考えられます。このように、不利益処分を受けて当然の者がそれを免れるための悪用や他人への誹謗中傷、あるいは人事処遇への報復等を目的とした制度の乱用が行われないような対策を併せて講ずる必要が出てまいりますが、今回の法案におきましては、公益通報を理由とした解雇等を禁止するとともに、公益通報をする労働者は他人の正当な利益又は公共の利益を害することがないように努めなければならないことを規定することで、ある程度乱用を防止しつつ、法の目指す公益通報が保護されるものと評価しております。
一方、企業は自らの問題について他人に頼らず自助努力で解決していくのが基本でございますので、企業も自ら進んで不祥事の発生を抑える努力を行うことが何よりも重要でございます。日本経団連では、冒頭申し上げましたとおり企業行動憲章を策定し、会員企業に対し社内へのヘルプライン、相談窓口の設置を始めコンプライアンス強化の自主的取組を働き掛けているところであります。一昨年十二月に全会員企業約千三百社を対象に企業倫理行動基準に関するアンケート調査を実施いたしましたところ、ほぼ半数の企業がヘルプラインを設置しており、設置予定のところと合わせると八割を超えていることが判明いたしました。そこで、経済界としてはヘルプラインの設置など、企業の自主的な取組を尊重、奨励する観点からも、内部告発者の保護については、まず社内窓口で対応した者を対象とすべきであると主張してまいりました。
私が所属する三菱商事においても、二〇〇一年より社内で目安箱と言っているヘルプラインを設置しました。目安箱には社内コンプライアンス部局及び監査部のものがあり、更に社外弁護士のものがあります。現在では年間二、三十件の報告、相談を受けております。これらの報告、相談の九割は根拠を欠くものであったり、見解の相違のたぐいのものでありますが、客観性や蓋然性がないものであってもその中に一割の真実があれば企業としては大変貴重な情報でありますから、会社としてはすべての報告、相談に真摯に対応しているわけでございます。
今回の公益通報者保護制度の立法に当たりましては、英国の公益開示法の考え方がベースになっております。英国では一九九八年に慎重な議論を踏まえて公益開示法が制定されたわけですが、その過程ではメディアなど外部にいきなり通報することに対する警戒感や、内部告発を制度的に奨励するような制度を創設することによって、使用者と労働者の間の信頼関係、忠誠心といった文化、風土の問題が懸念されました。その結果、まず最初に事業者に対して通報がなされることを原則とする制度にすることにより、事件や事故の早期発見のみならず企業内の健全なガバナンス体制や、オープンな組織体質を促す上でも有効であるという認識が広がり、ようやく各界からの支持を得ることができ、法案の成立に至ったという背景があると聞いております。
企業が幾らまじめにコンプライアンスの取組を行っていても、いきなり外部機関へ通報されてしまってはコンプライアンスへ自主的に取り組むインセンティブが阻害されてしまいます。また、事実かどうか分からないのにあたかも事実かのように扱われ、簡単に企業の信用や評判を損ね、その株主や従業員、取引先にも不利益を生じさせ、ひいては失業者を生む可能性も十分にございます。そのため、今回の法案では企業内部への通報を自主的に促し、企業がきちんと対応しない場合や証拠隠滅を図る場合、あるいは急迫性がある場合には外部通報できる制度になっておりますことは合理的であると存じます。このような枠組みであれば、事業者側といたしましても、労働者が安心して通報してきてくれる環境を整えるなど、コンプライアンスへの自主的な取組を積極的に行うことへのインセンティブも働きます。
次に、コンプライアンス経営と内部通報の関係について付言させていただきます。
現在、企業は経営資源を割き、コンプライアンス経営に努めています。経営はシステムでありますので、コンプライアンス施策もシステムとしてとらえる必要があります。お手元のレジュメの二ページに、コンプライアンス施策の七つの段階を記載しています。
すなわち、第一は、コンプライアンスを最優先とする企業理念、経営トップの方針の明確化です。第二は、コンプライアンスについての組織的コミットメントを明らかにするためのコンプライアンスオフィサーの任命、コンプライアンス委員会の設置及びその運営です。第三は、コンプライアンス企業倫理のための包括的な行動規範や個別規定といった規範定立です。第四は、コンプライアンス関連法令や社内規範の周知徹底活動です。第五は、モニタリング、すなわち監視、チェックの活動です。第六は、コンプライアンス違反についての調査と処罰の実施です。第七は、再発防止策を講じることです。
第五のモニタリングには三種類あります。第一が、日常業務において上司が部下の活動を管理したり監督したり、法務部が社内予防法務活動の一環として牽制したりする活動で、これが主体的かつ基本的なモニタリングです。第二は、内部監査部門による事後的かつ第三者的なモニタリングです。監査なきコンプライアンスなしとも言われますが、現在、企業は内部監査部門の強化に努めています。第三のモニタリングが内部通報によるものです。内部通報はあくまで補充的、補助的なものでありますので、これですべての企業不祥事問題を解決できるというわけではございません。
したがいまして、本法につきましては、日本の法制度や判例、企業の自助努力などを含めたシステム全体の中に適切に位置付けることが重要であると存じます。
先生方におかれましても、是非政府案の方向で立法していただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
以上でございます。