三木由希子の発言 (内閣委員会)

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○参考人(三木由希子君) 私は、NPO法人情報公開クリアリングハウスで室長を務めております三木でございます。今日は、このように意見を申し述べる機会を与えていただき、大変感謝をしております。
 まず最初に、私どもが何をしているか簡単に紹介をさせていただきます。
 私どもは、主に公的機関の情報公開を推進する活動をしているNPO法人であります。NPO法人としては一九九九年の設立でございますが、その前身は一九八〇年に情報公開法の制定を目指して活動を始めた情報公開法を求める市民運動というものでございます。発足以来、情報公開制度だけではなく、個人情報保護制度にも取り組み、最近では、組織の透明性を向上させる仕組みであり、また市民が危険や不利益を回避するために必要な情報を知る権利を保障する仕組みとして公益通報者保護制度にも関心を持ち、意見表明等を行ってまいりました。こうした立場から、公益通報者保護法案に対して意見を申し述べたいと思います。
 今日は皆様のお手元に、私どもの方で昨年の七月にイギリスで公益開示法の導入に主導的な役割を果たしましたNGOの事務局長をお招きした際のお話の内容をまとめたものをお配りしております。公益開示法につきましては、今般の法案については参照をしたというふうに言われておりますが、公益開示法と今般の法案が似て非なるものであるということはこの資料をお読みいただければよく分かるというふうに思っておりますので、是非後でお読みいただければと思っております。
 まず冒頭に、私たちの事務所にこれまで寄せられた、仕事場で不当、違法な行為が行われていて、それを何とか改善したいという相談をしてきた匿名の電話で繰り返された会話というか、やり取りを紹介したいと思います。これらの人たちは、私たちが報道等で紹介をされるたびに、わらにでもすがる思いで私どもの事務所に相談の電話をしてきていただいた方です。
 まず冒頭に、こうした相談の電話はこういう形で始まります。職場で問題があって何とかしたい、職場で自分が通報したことを知られるのはとても怖いと。もし私が通報した場合どうなるのでしょうかと。何か守ってくれる仕組みはあるのでしょうかということを大抵聞かれます。残念ながら、私はそれに対して、職場で訴えてどうなるかは職場環境次第なので何とも言えませんとお答えするしかありません。また、残念ながら、今のところ、通報したことで不利益を受けても具体的にそれを保護する仕組みというのはありませんということもお答えをします。その上で、公益通報者保護法案というものが今ありますという説明を申し上げます。
 そうすると、大抵、相談をされる方はこういうふうにお聞きになります。その法律ができると私は保護されるのでしょうかと。私はそれに対しても、大変残念なことですが、明確なお答えをすることができません。この法案というのはすべての通報を保護する仕組みではないということをまず説明を申し上げます。法律と政令で定められた、法律に定められた犯罪行為を通報した場合に保護をする仕組みですと。ですから、そちらが通報したい問題がこうした条件に当てはまるかどうかを確認してみないと何とも言えないんですということを申し上げざるを得ません。
 そうすると、大抵、相談をされた方は、そんなに確認しないと保護されるかどうか分からないんですかと。もし犯罪行為に当たるということになると、法律はどのように守ってくれるのですかというふうにお聞きになります。そうすると、私の方では、法案が通報したことで解雇や待遇等に不利益を与えることを禁止しているだけなものですから、もし何かあれば、この制度を根拠に争いやすくなるということにはなりますということをお話しせざるを得ません。
 そうしますと、大抵相談される方は、通報して保護されるかどうかもよく分からないし、具体的に守ってくれるわけではないですねと、法律ができてもとても怖くて通報ができないというふうにおっしゃいます。私は、最終的には、残念ながらやってみないと分からないんですということを申し上げざるを得ないということが何度も繰り返されております。
 こうした電話というのは、自分の利益とは関係なく、また自らの良心の下に事態を何とか改善をしたいということを、その思いで私どもの方に電話をしてくるわけであります。私は、こういう思いにこたえられない社会ということに対しては、非常に情けなくなることがございます。
 それからもう一つ、具体的に、いわゆる内部告発をしたということで不利益を受けたという方からのお話を紹介したいと思います。この方は、裁判で証言をしたために内部告発者として病院で嫌がらせを受け続けている医師であります。この医師は、金沢大学医学部附属病院で患者に無断で卵巣がん治療の比較試験が行われていたことで、ひどい副作用に苦しんだ患者の家族が国を相手取って賠償を求めた裁判で患者側の証人として証言をした方です。今回の参考人で私が意見を申し述べるということをお伝えしたところ、意見を寄せてくださいました。このケースの詳細につきましては、新聞記事をお配りしておりますので、後でごらんいただければと思います。
 このお医者様から寄せられた意見は次のようなものです。患者に無断で比較試験を行ったとしても犯罪行為ではありませんし、それを規制する法律はありません。私がかかわっている裁判では、臨床試験の際の被験者からのその旨の同意が必要かどうかが争われているものですから、法案では、私が患者さんやその家族に無断で被験者にされているという事実を知らせた途端、その行為は内部告発になってしまう、つまり外部通報になってしまうということであります。その結果、通報者はその組織からのけものにされてしまう。私の場合、私の勤務する科の不祥事について、意を決してまずは直接の上司である臨床試験の責任者の教授へ通報し、次いで他の上層部の方々へ通報したにもかかわらず、医局講座制という大きな壁のせいか、それこそ取り合ってもらえずに黙認されたことからしても、一般には、勤務先によほどの公正な機関が設置されない限り、このような勤務先への通報は、通報者にとっては無駄どころか一層つらいものとなります。組織の一員として雇用された者にとっての内部告発は、それこそ自分の一生を懸けても余りあるような非常の行為なのですということをお寄せいただきました。
 この医師の方は、具体的には、大学の勤務医にはアルバイトが認められているそうでございますが、それをするためには直属の上司の許可が必要だそうで、この許可が下りない、他の勤務医に比べて全く下りないという状況にあるそうでございます。また、学生への教育機会を制限されるというような不利益を具体的に受けているというふうに話を聞いております。
 私は、このようなことに触れるにつけて、問題を知って改善をしなければと思う人々の思いが達成される社会であってほしいというふうに思っておりますし、そうした法制度は社会インフラとして必要だと考えております。公益通報者保護法案は、本来であればそうした社会インフラとして必要な制度のはずだと思っております。しかし、残念ながら、次に述べるような理由から、現在の法案というものはそういう仕組みになっていないと考えております。
 まず一つは、この法案というのは入口が狭くて複雑で、私の目からすると迷路のようだというふうに感じておるからであります。法案は、別表、政令でした法律で定められている犯罪行為を通報対象事実としております。しかし、目の前にある問題行為が法案、政令で指定した法律で規定される犯罪行為に該当するか否かの判断を通報に当たって通報者に求める仕組みが、果たして現実的な制度なのでしょうか。人の生命や身体に直接的に被害を与えるような緊急事態が目の前にあったとしても、まず通報者はそれが指定された犯罪行為に該当するか否かを調べなければこの法案によって保護される通報か否かが分からないような仕組みが、社会が求めるような仕組みなのでしょうかということを思うわけでございます。
 公益通報者保護制度は、通報された事実が改善を要するものであればそれを改善することによって組織の自浄能力を高める、また、未然に問題や被害、損害を予防し、だれの利益でもない社会の利益を守るものであるべきだと考えております。指定された犯罪行為に限定した仕組みを導入することは、保護すべき通報は犯罪行為に関するものでよいという誤った認識を生み出す可能性があります。また、通報すること自体が何か特別であるかのような誤った印象を生み出す原因になりかねないと考えております。
 先ほどからも御紹介がございましたが、多くの企業ではヘルプラインなどが設けられております。このヘルプラインでは、犯罪行為だけではなくて、もっと幅広く問題について通報を受け付けているところが少なくないはずであります。しかし、通報対象を限定した法律ができることで、今後、企業で内部通報した場合、ヘルプラインでは幅広く受け付けている、そうすると、入口では、通報する点においては同じでございますが、出口においては、一方では現在の法案で特別の民事ルールによって保護をされる、別のものについてはそうした特別な保護がないというような形になります。これでは、入口は同じでも出口が異なるという状況を生み出すだけだというふうに考えております。
 したがって、そもそも法案の目的規定自体が法令遵守を目的とするのではなくて、法令の遵守のほか、国民の生命、身体、財産その他の利益の保護のため公益通報者を保護するということで、法令遵守ではなくて公益を保護するということをより明確に打ち出すべきであったというふうに考えております。そして、通報対象として、別表、政令で指定する法律にかかわる犯罪行為に限定をするのではなく、国民の生命、身体、財産その他の利益に関するものなど不正行為全般について広く通報対象とし、通報対象に該当するか否かで不要な混乱を招くような制約は取り除くべきだというふうに考えております。
 二つ目の問題点として、通報先の要件について意見を申し述べたいと思います。法案では内部、行政機関、外部と三つの通報先が定められております。それぞれに条件が付されております。私は、事業者が独自に取り組んでいる内部通報の受付と、それに対する対応を否定する気は全くございません。むしろ、内部での取組をしっかりしていただくというのは非常に重要だというふうに思っております。しかし、内部の取組が確実かつ実効性のあるものにするためには、内部で適切な対応ができない場合は外部へ通報されるという仕組みが不可欠であるというふうに考えております。法案は、一定の条件の下で外部へ通報することができるとしておりますが、外部へ通報する場合は非常に条件が厳しく、これは内部での通報又は行政機関への通報を適切に対処をするということのインセンティブを与えることにはならないと考えております。
 特に問題だと思う点は、法案の三条三号ニの規定であるというふうに考えております。内部に書面による通報を行ってから二十日を経過しても調査を行う旨の通知がない場合又は正当な理由がなく調査が行われない場合は外部に通報できることとされております。しかし、通報に対しては調査が行われるか否かが重要ではなく、問題が是正されるかどうかが問題であります。ですから、調査をしたか否かをそもそもの要件としていること自体が、私は本末転倒であるというふうに考えております。
 この規定につきましては、別の観点からも問題を指摘したいと思います。行政機関へ通報した場合は二十日以内に調査を行う旨の通知がなくとも、調査を行っていなくとも外部へ通報する道が閉ざされる仕組みになっております。確かに法案の十条で、行政機関は通報に対して法令に基づく措置その他適切な措置を取らなければならないという義務が課されております。しかし、この規定をもって行政機関の対応については何ら担保されていないというふうに考えております。これは、私自身の経験則上申し上げることができる点でございます。
 私どもは、情報公開制度の経験が大変長くございます。情報公開法の例を挙げて説明をしたいと思います。行政機関は情報公開請求を受けてから原則三十日以内に開示、不開示等の決定をしなければならないとなっております。また、三十日の延長、決定期間の延長というものも認められておりますし、それでもできない場合は特例というものの適用も可能でございます。この特例につきましては、期限の限定がございません。行政機関が必要と思えば裁量の範囲で延長ができるということになっております。その結果、二年近くたっても請求から決定までの、請求したものに対する決定が出ないという事態が起こっております。これは、法律で明確に期限が定められた情報公開法又は期限に関する定めがある情報公開法でもこのような事態が起こっております。
 また、情報公開法では、非公開となった場合につきましては行政不服審査法に基づく不服申立てを行うことができるとなっております。不服申立てにつきましては、第三者機関である情報公開審査会に諮問され、審査をされるという仕組みが取られてございます。請求者に対しては、不開示決定を知ってから六十日以内に申立てをしなければならないという時間の制約がございます。しかし、行政機関には、その不服申立てをいつどのように扱うかということについての時間的な制約は一切ございません。その結果、不服申立てを行ってから二年以上、何ら対応しなかったというケースが起こってございます。行政機関には、法律上何ら時間の制約がなく、それを処理する義務だけが課されているというのが行政不服審査法でございます。
 こうしたことを勘案しますと、行政機関に対して、通報に対して適切に対処をするという義務を課したとしましても、時間の制約がない以上は、そこをどのように対応するかについては裁量の範囲になってしまうというふうに考えております。こうした規定は、何ら迅速かつ適切な通報の処理を担保することにならないと考えております。
 ほかにも細かく申し上げれば様々な問題がございます。しかし、以上のことから、総じて法案は通報者にとって分かりにくくかつ使いにくい制度であり、また通報の適切な処理が必ずしも担保をされていないという、このような根本的な問題を抱えたままの法案には反対をせざるを得ないというところでございます。
 私は、公益通報者保護法案は通報者が通報しやすい仕組みであると、つまり通報したことによって初めて問題が是正をされるという仕組みでございますので、通報者の立場に立った御検討を本委員会でしていただければというふうに思っております。
 以上でございます。

発言情報

speech_id: 115914889X01820040610_009

発言者: 三木由希子

speaker_id: 33784

日付: 2004-06-10

院: 参議院

会議名: 内閣委員会