中山太郎の発言 (憲法調査会)

⚠️ コピーしたテキストを転載する際は、転載元URL(kokkai-data.com)および原典URL(kokkai.ndl.go.jp)を必ず残してください。発言内容の改変・出典削除は禁止です。 詳細は利用規約をご確認ください。

○中山会長 この際、幹事会での申し合わせに従い、一言ごあいさつを申し上げます。
 本日が今年最後の調査会となります。
 本年は、常会において、従前より実施してきた日本国憲法の前文及び百三カ条の全条章の網羅的な調査を継続して行うために、調査会のもとに四つの小委員会を設置して調査を行いました。参議院の通常選挙後の臨時会では、憲法に関する論点整理あるいは憲法提言を行った政党の所属の委員から発言を聴取した上で議論をいたしました。今国会では、EUの憲法条約等についての海外調査の成果を踏まえた調査等を実施いたしました。
 また、常会において広島県広島市で第九回の地方公聴会を開催し、常会及び今国会において都合五日にわたって中央公聴会を開催いたしました。
 このように、本年におきましても、活発かつ順調に調査を進めることができましたことは、ひとえに委員各位の憲法調査に対する御熱意と御協力のたまものと深く感謝する次第でございます。
 委員各位とともに精力的に進めてまいりました調査でありますが、本年の調査を終えるに当たり、それらの調査を通じて特に印象深く感じた幾つかの点について、私の所見を申し上げたいと思います。
 まず、科学技術の進歩と憲法の関係に関する調査は印象深いものがありました。
 戦後の目覚ましい科学技術の進歩が、憲法を含む国家の法制度に重大な影響を及ぼす可能性のあることが明確になってきたと存じます。クローン技術の開発、遺伝子組み換え技術などが乱用された場合の倫理面や環境面への弊害は予測できないものがあり、これは翻って、日本国憲法の最高価値である個人の尊厳に重大な影響を与えかねない問題であります。生命倫理規定や環境権、環境保全義務に関する憲法規定の要否といった問題に連なってまいります。情報通信技術の急激な進歩も社会に大きな変化を及ぼしております。これに関連して、個人のプライバシーの保護や国民の知る権利などの議論がなされました。科学技術の進歩に対応して基本的な規定を憲法の中に設けるべきではないか、こういう御議論が、諸外国の例を参考にしつつ、さまざまな立場からなされたことは大変有益な議論だったと思います。
 行政に対するチェックの仕組みに関する調査も充実したものがございました。本年の海外調査の主要な目的の一つをスウェーデン及びEUのオンブズマン制度の実情を知ることとしたのも、その重要性を踏まえたものであります。調査を振り返ってみるに、北欧を初めとして、高福祉・高負担の国家においてオンブズマン制度が発達してきたことは偶然ではなく、大きな政府に対する統制の要請が高まったためではないかと思う次第であります。国会による行政監視等の既存の仕組みの活用を含めて、今後、行政に対するさらに効果的なチェックを行う必要があることは委員の間に異論のないところだろうと存じます。
 安全保障及び国際協力に関する調査も掘り下げたものとなったものと思います。
 我が国の国際協力について、人的貢献のあり方及びその国内体制の未整備が厳しく問われたのは、一九九〇年以後の湾岸危機を契機としたものであったと存じます。その後、一九九二年にいわゆるPKO法が成立し、周辺事態法、テロ特措法、イラク特措法といったぐあいに、個別的、具体的な制度設計に当たっては、我が国憲法のもとで実施し得る国際協力の範囲に関して、九条の解釈論が繰り返し議論されてきました。
 このような議論の推移を踏まえ、法治国家として、国際社会において我が国がなし得ることとなし得ないことの基本を、国家の基本法において疑義のないように明確に規定していくべきではないか、そのような議論が活発に行われました。事の是非に関する立場の違いを超えて、この憲法規範に基づく政治という立憲民主主義の要請については、委員各位とも共通の認識を持たれたものと存じます。
 九条の問題に限らず、私学助成と憲法八十九条の公の支配に属しない慈善、教育、博愛の事業に対する公金の支出等の禁止規定の関係、裁判官報酬引き下げと憲法七十九条、八十条の裁判官報酬の減額禁止規定との関係も、憲法規範と事実との乖離が指摘される典型的な例であります。
 これらを憲法違反でないとするのは、主権者である国民にわかりやすい解釈とは言えないと思います。最高裁判所が憲法判断に消極的で、憲法上の争点については公権的判断が的確に得られていないこともまた、国民にわかりにくい法の解釈、運用を許す原因となっているものと思います。国民にわかりづらい法の解釈、運用は、法治国家、立憲国家の観点から問題であるのみならず、憲法に対する国民の信頼の喪失をもたらしかねない、それこそが最も重要な問題ではないかと考えております。
 海外調査の際、欧州の法律家が、欧州憲法条約の制定理由の一つが市民にもっと密接に向かい合うことにあるとしておられたことは、印象的でございました。安全保障及び国際協力等に関する小委員会にお招きした駐日欧州委員会代表部のベルンハルド・ツェプター大使も、欧州憲法条約に欧州市民の権利を具体的に書き出したのは、そのような条文を書くことによって、市民の側も読みやすい、理解しやすい、自分たちのものだとわかりやすいような内容にしようと思ったからだと述べておられました。これは、私が常に申し上げている、憲法は国民のものということと共通の考え方だと思います。
 欧州連合は、国家主権の一部を移譲して、地域における共同の課題に対処するという仕組みを設けています。常会では、我が国についても、自由貿易協定の締結を含む多角的貿易体制の構築や、地域安全保障の形成等を通じて、アジア等との結びつきがさらに進展するという展望について調査してまいりました。この場合、人の国際的移動の増大等によって、外国人の人権の問題をどう考えるか等、重要な憲法問題が派生してくるものと存じます。
 今回の欧州憲法条約の批准については、十カ国弱の国々において国民投票の実施が見込まれていると承知しております。国民投票制度については、投票に付する案件についての説明のあり方や、当該案件と政権に対する信任、不信任の問題とが混在してしまうことの危険など、課題もありますが、国のあり方について、直接、国民に判断を求めるという仕組みが欧州において作動していることには感銘を受けました。
 一方、我が国では、憲法九十六条の憲法改正規定に基づく手続法が制定されておりません。憲法が予定している法制度が憲法施行後約六十年にわたって整備されていなかったことについて、積極、消極の両方のお立場からの議論が活発にされたことも本年の調査の一つの特徴だったのではないでしょうか。
 広島地方公聴会では、平和への願いを共有しつつも立場を異にするさまざまな意見を聞くことができ、意義深いものでございました。また、中央公聴会では、国際社会で我が国を代表した経験のある方、歴史の証人ともいうべき方、学識経験の深い方のほか、非常に若い方からも意見を承ることができました。国民各層からちょうだいした御意見がその後の調査会の議論を深める契機となりました。今後、さらに国民の間において憲法論議の機運が高まっていくことを期待するものであります。
 なお、本年は、台風二十三号、新潟県中越地震等の自然災害が頻発しましたが、このような事態を踏まえるとともに、ドイツ基本法の災害事態に関する規定等にかんがみるに、自然災害により的確に対処するための制度的枠組みの検討の必要性を感ずるものであります。
 以上、本年の調査会の議論等を通じての若干の所見を申し述べてまいりましたが、言うまでもなく、本調査会は、国権の最高機関に設置された機関として、国の内外の諸問題について、憲法的観点から大所高所の御議論を行うことができる唯一かつ最適の機関であります。国民の代表たる国会議員がさまざまな立場から討論し、意見の相違を尊重しつつも共通認識を醸成していくという作業は、非常に重要な意義を持つものと存じます。
 本調査会は、人権の尊重、主権在民、再び侵略国家とはならないという三つの原則を堅持しつつ、日本国憲法に関する広範かつ総合的な調査を行ってまいりました。おおむね五年程度をめどとするとされている調査期間も、残りわずかとなってきております。この三原則を堅持しつつ、引き続き、最終報告書の作成に向けて努力してまいりたいと存じます。
 最後になりましたが、会長代理を初め、幹事、オブザーバーの方、そして委員各位の御指導と御協力により、公平かつ円滑な運営ができましたことに対し厚く御礼を申し上げるとともに、改めてさらなる御協力をお願い申し上げて、閉会の辞とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)
 本日は、これにて散会いたします。
    午後五時十五分散会

発言情報

speech_id: 116104184X00420041202_081

発言者: 中山太郎

speaker_id: 15557

日付: 2004-12-02

院: 衆議院

会議名: 憲法調査会