生源寺眞一の発言 (農林水産委員会)

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○生源寺参考人 東京大学の生源寺でございます。
 食料・農業・農村基本計画の見直しにつきまして、食料・農業・農村政策審議会企画部会におけるこれまでの議論を踏まえて所感を申し上げたい、こう思います。
 まず、基本計画でございますけれども、二つの役割があろうかと思います。一つは、具体的な施策の推進の指針としての役割でございます。例えば、品目ごとに克服すべき課題を提示しております現行基本計画の食料自給率目標は、この意味での具体的な施策の指針である、こう見ることができるわけであります。数値目標も含めて具体的な指針が定められているわけでございますので、その達成状況についても的確に評価がなされる必要があるわけであります。
 基本計画のもう一つの役割でございますが、これは農政改革の羅針盤としての役割であると言うことができるかと思います。食料・農業・農村基本法が一九九九年に制定されたわけでありますが、その時点で、農政の体系が新しい基本法の理念に沿ったものに完全に切りかえられたわけではございません。このため、新しい基本法の理念に即した新しい政策展開の方向を示すこと、これも基本計画の非常に重要な役割であると考えられるわけであります。
 一月にスタートいたしました企画部会では、今申し上げました基本計画の二つの役割といいますか性格のうち、農政改革の方向に関する議論を先行させ、その後、秋以降につきましては、食料自給率の目標を初めとする具体的な施策のあり方についても検討を進めてまいったわけでございます。
 農政改革をめぐる議論は、昨年八月に、当時の亀井農林水産大臣が談話によって提示された改革の課題、主要三課題などと言われておりますけれども、この課題に沿って行われているわけであります。第一に品目横断的政策への転換、第二に担い手・農地制度の見直し、第三に農業環境、資源保全政策の確立であります。
 もっとも、資源保全施策は少々別とすべきかと思いますけれども、今申し上げました課題は、実は、現行の基本計画においても、表現は多少異なりますけれども、「検討を行う。」こういう形で記述が行われていたわけでございます。したがって、特に目新しい課題である、こういうわけではないと考えられます。内外の情勢、予断を許さない、こういう中で、宿題に改めて取り組む決意を示された、これが昨年八月の大臣の談話の趣旨ではないか、こう理解しております。
 次に、八月の中間論点整理、企画部会で整理いたしました中間論点整理の中で打ち出されました新しい施策の基本方向について若干申し上げたいと思います。
 まず、担い手政策、特に経営安定対策についてであります。九九年の新しい基本法は、「効率的かつ安定的な農業経営を育成し、これらの農業経営が農業生産の相当部分を担う農業構造を確立する」ことを基本課題として掲げております。このような観点から講じられる施策の全体が担い手政策でありますが、今回は、その重要なパーツとして、新たな経営安定対策の必要性を打ち出しているわけでございます。
 経営安定対策は、農産物特有の価格変動でございますとか、あるいは農産物をめぐる国境措置の組みかえの可能性といった不安定要因を念頭に置いて、担い手の農業経営としての収入に着目し、その安定化を図ろうという施策であります。経営安定対策は、この意味で、いわば競争の最前線で奮闘しようとする、こういった農業者をバックアップする政策であり、内外ともに不透明感の高まっている今日、こうした政策を通じて農業経営の先行き不安を取り除くことの意味は非常に大きいかと思います。
 ただ、幾つか留意すべき点があろうかと思います。二つだけ申し上げたいと思います。
 一つは、この施策は対象を担い手としているわけでございますが、担い手とするという方向で今議論がされているわけでございますけれども、その目的はあくまでも望ましい農業構造の確立にあるのであって、担い手農業、既に担い手とみなされる、こういった農業の成長を促すとともに、特に水田農業については、この新しい経営安定対策を契機として、集落営農の組織化を含めて、担い手をつくり育てていくという視点が大切だと考えられる点でございます。これが第一点でございます。
 それからもう一つは、これは今日の農政全般に言えることでございますけれども、国民の負担によって講じられる経営安定対策の効果、これはやはり、高い生産性を発揮し、多様化する消費者のニーズにこたえる農業の確立を通じて、できるだけ早い方がいいわけでございますけれども、いずれは国民全体に還元される必要があるだろう、こう思うわけであります。つまり、納税者の負担と農業の構造改革、そして消費者の利益のよい循環という視点が非常に大切だろう、こう考えているわけでございます。また、このことを国民の前に率直に提示し理解を得るということも非常に大事だ、こう考えております。
 次に、農地制度について申し上げたいと思います。
 このテーマにつきましては、秋に再開されました企画部会に対しまして、農林水産省としての考え方が示されたところであります。中身は多岐にわたっておりますけれども、担い手に対する農地の利用集積の加速化、不在村所有者の農地を含めた耕作放棄地対策、あるいはリース方式による法人参入特区の全国化への前向きの対応など、現行法の大枠の中で可能な改革、改善はおおむね盛り込まれたという印象を持っております。
 ただし、今回の制度改革を実効あるものとするためには、幾つか課題があるように思います。
 一つは、農地制度を運用する組織、これは制度が複雑になっていることに対応していろいろな組織があるわけでございますけれども、これが的確かつ強力に機能するということであります。
 制度の厳格な運用に自信が持てないから制度改革にも及び腰になるという、いわば、従来、やや本末転倒という状況がこの分野についてはあったかと思いますけれども、ここから脱却する必要がある、こう考えております。
 もう一つは、利用優位の農地制度への移行という観点から、借地型農業の不安定要因をできるだけ除去することでございます。
 これは家族経営あるいは法人経営問わずでございますけれども、特に、地域農業にとって新しい顔となる農外からの参入のケースについてはきめ細かな配慮が必要であるように思われます。また、改革のパーツが、部品が出そろったところで、制度の理念と体系をわかりやすく整理する必要があるかと思います。農地制度は、非常に多くの利害関係者の存在する領域の問題でございます。したがって、制度の過度の複雑化はそれ自体として望ましくない現象である、こう考えております。
 農業環境政策と資源保全政策は、時代の流れの中で重要性を増した課題への対処であります。農業環境政策は、一定の基準に基づいて、すぐれた取り組みを応援し、問題のある農業に改善を促す政策でありますし、資源保全政策は、農村コミュニティーの力を引き出す、こういったことを眼目とする政策であります。いずれも私は適切な方向であるというふうに考えております。
 ただ、新しい政策ジャンルであるだけに、制度の具体像をまだ描き切れていない面もあるわけであります。ほかの新しい政策あるいは既存の政策の強化と足並みをそろえて、いわばワンパッケージで実施に移すことができるよう、関係者に早期の、また万全の準備をお願いしたい、こう考えるところでございます。
 最後に、食料自給率の問題につきまして一言申し上げたいと思います。
 この問題は、現在企画部会でも議論の最中でございますので、私個人の考え方という形で述べさせていただきたいと思います。
 自給率の現状につきましては改めて申し上げるまでもないわけでありますけれども、同時に、自給率の問題は、ただその率が高ければそれだけ安心だといった単純な問題でないことも国民の皆さんによく認識していただく必要があるかと思います。食料自給率は、食料と農業の問題を考えるいわば入り口というべき性格のものだろう、こう考えております。
 二つ申し上げたいと思います。
 極端に低下した食料自給率の数字として、供給熱量自給率の四〇%、あるいは穀物自給率の二八%という数字を挙げることができるわけであります。この二つは共通点がありまして、カロリーあるいは基礎的な食料である穀物に着目しているという点で、いわば食料安全保障をにらんだ自給率である、こう言うことができるかと思います。したがって、この目標水準を掲げて、この自給率について引き上げることを重視しているわけであります。
 ただ、食料安全保障という意味では、自給率に注意を払うだけでなく、同時に、絶対的な自給力の動向に絶えず留意しこれを回復する、こういう観点も極めて重要であると考えられます。農地面積の減少と農業者の高齢化が進む中で、カロリーベースでいえば、今、自給率は何とか四〇%という水準を維持しているわけでございますけれども、その背後で、むしろ絶対的な自給力は低下しているのではないかという懸念がございます。これが第一点でございます。
 もう一つの点でございますけれども、金額ベースの総合自給率という、こういう指標もあるわけでございます。これは最新のデータで、たしか六九%かと思います。いわば七割の水準にあるわけであります。カロリーベースの四割と随分違いがあります。また、違いは、この三十年、四十年の長期の動向を見ますと、徐々に開いてきているわけであります。
 この詳細は省きますけれども、この違い、つまり、カロリーベースの自給率と金額ベースの自給率の違いには、ある意味では日本の農業経営の頑張りが映し出されている、こういうことがあるかと思います。つまり、野菜などのようにカロリーに比べて経済価値の高い、こういう品目ですとか、あるいは高品質で付加価値の高い例えば畜産物、こういった分野の頑張りが金額ベースの自給率をそれなりに高い水準に維持している力である、こういうふうに言うこともできるかと思います。
 したがいまして、経済活動としての食料生産の水準を評価するとすれば、金額ベースの自給率にももっと注意を払うべきだ、こういうふうに思うわけであります。こうした農業経営が活力を持続すること、また成長することは、ひいては人と農地、ちゃんとした技術を持った、また優良な農地を確保することにつながるわけでありますし、それが実は食料安全保障の観点に立った絶対的な食料自給力の確保にも結びつくと考えられるわけであります。
 自給率は、いわば市場経済のただ中に我々はいるわけでございますけれども、そんな中にあって、その市場経済が機能不全に陥った状態に備えを考えるという非常に難しい問題であるわけでありまして、まず、自給率の実態について国民の皆さんによく知っていただく、広く知っていただく、その後、やはり自給率の持ついろいろな側面について考えていただくということも大事ではないか、こう思います。
 以上で、私からの意見表明を終わらせていただきます。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)

発言情報

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発言者: 生源寺眞一

speaker_id: 22245

日付: 2004-11-30

院: 衆議院

会議名: 農林水産委員会