西山淳一の発言 (外交防衛委員会)
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○参考人(西山淳一君) 三菱重工の西山でございます。
現在は三菱重工の本社で営業を主体に活動しておりますけれども、大学で機械工学を専攻しまして、三菱重工に入社して以来ずっとミサイルの設計作業に携わってまいりました。
また、ミサイル防衛に関しましては、一九八八年の十二月から開始されました西太平洋戦域ミサイル防衛構想研究、通称WESTPACスタディーのときから担当しております。
本日は、弾道ミサイル防衛に関する技術的な課題について御説明させていただく機会を与えていただきましたことを誠に光栄に存じます。どうぞよろしくお願いいたします。
お手元に資料を配付してありますが、まず、弾道ミサイルとは何かということからお話ししたいと思います。
世界初の弾道ミサイルは、一九四〇年代にドイツによって開発されたV2号です。このミサイルは、フォン・ブラウン博士らによって開発されまして、全部で五千基生産されたと言われています。実戦で使用されまして、イギリスを恐怖に陥れました。フォン・ブラウン博士の夢は宇宙飛行でありましたが、兵器開発は最先端技術であり、これを行うことにより宇宙飛行の技術を確立しようと考えたと言われております。
一九九一年の中東湾岸戦争におきまして、イラクからスカッドミサイルが発射されたのは記憶に新しいところであります。イラクから発射されたスカッドは、ソ連が開発しましたスカッドBをベースに射程を延伸するよう改良されたものでした。スカッドBの直径はV2型の約半分で、射程は約三百キロメートル、そのペイロードは約一トンということで、これはV2型とほとんど同等であります。お手元の資料の図一にV2型とスカッドの比較を載せてありますので、まあ大きさの感じが分かると思います。
現在、日本への脅威と考えられているスカッドの発展型であるノドン、テポドンなどはスカッドの技術、すなわちV2型の技術をベースに更に改良を加えたものと考えられています。
次に、弾道ミサイルの定義とは何かということを整理してみたいと思っています。
一般的には射程三百キロメートル以上で弾道飛しょうするミサイルと言われています。最小射程の明確な定義はありませんけれども、射程百キロ程度のものも弾道ミサイルの分類に入れている例もあります。
野球のボールを遠くまで飛ばすには投げるスピードを速くすればよいというのは子供でも分かる理屈でありますけれども、弾道ミサイルの速度というのはロケットモーター、ロケットエンジンですが、この燃焼終了時の速度、これをバーンアウト速度と呼んでいますけれども、この速度で規定されています。これが速ければ速いほど遠くまで飛ぶということになります。射程三百キロメートルであれば約一・五キロメートル・パー・セック、一秒間に一・五キロメートルです。それから、射程千三百キロメートルになりますと、約三キロメートル・パー・セックということで、音速の約十倍、マッハ十相当というふうに言われています。
もっと遠くまで届く大陸間弾道ミサイル、ICBMと呼びますけれども、ICBMになりますと、このバーンアウト速度というのは六キロメートルから七キロメートル・パー・セックと、パー・セカンドになります。この速度が更に速くなりまして七・九キロメートル・パー・セカンドになりますと人工衛星になるということで、スピードをどんどん上げていくと最終的には人工衛星になるという形になります。この図二に速度と射程の関係ということを示してあります。
また、ちょっと話が戻りますが、一九五七年にソ連は世界で初めてスプートニク人工衛星を打ち上げました。いわゆるスプートニクショックと言われています。アメリカは、ソ連に大陸間弾道ミサイルができたということで大変なショックを受けたわけです。このときから世界は本格的な宇宙開発競争の時代に入りまして、また、これは同時にICBMが実用化に向け本格的に開発が開始された年だというふうにも認識しております。
図の三に弾道ミサイルと衛星の高度の関係を示しました。
地球の半径は約六千四百キロメートルで、日ごろ日常的にお世話になっているというか、こういう衛星に気象衛星、放送衛星等があります。これは高度三万六千キロメートルの赤道上空で地球を回っております。地球の自転速度と同じ速度で回っているものですから、いつも同じところに見えるということで静止衛星と呼ばれています。実際には一日掛けて地球を一回りしているということでございます。
それから、カーナビに利用されていますGPS衛星というのは高度二万キロメートルで飛行しておりまして、スペースシャトルなどは、そのときのミッションによって違うのですけれども、二百キロメートルから六百キロメートルの間を飛んでいます。
この弾道ミサイルの軌道なんですが、低高度の人工衛星軌道を横切って宇宙空間から落下してくると、こういうような飛しょう経路を通ることになっています。
今度は、兵器としての弾道ミサイルというのは、ペイロードとしまして弾頭を搭載しています。その弾頭の種類には、通常弾頭、これは火薬の入っている弾頭です、それから生物兵器弾頭、化学弾頭、核弾頭など、こういうような種類がございます。特に生物、化学、核弾頭は、ある高度より高い高度でその弾頭が起爆する前に破壊することがその弾頭を無力化するための条件ということになります。そのためには直撃ということで、直撃によって破壊をするということで大きなエネルギーが必要です。
図四には直撃の様相を示しておりますが、この図の左側から弾頭を示してありまして、これをキルビークルと言われる迎撃体が直撃し、破壊する例を示しています。右下の図は、小さな断片を放出するような弾頭では弾道ミサイルの弾頭を破壊することは困難ということで、例を示してあります。それから、同じくこの図には命中直前の赤外線画像を参考としてお示ししてあります。
次に、弾道ミサイル防衛の技術的な課題として問われるということで、まず当たるのか当たらないのかという話があると思います。
一般にはブレット・ツー・ブレット、弾丸を弾丸で撃つという表現で、非常に難しいとの印象を与えています。しかし、ここで思い起こしていただきたいのは、鉄砲あるいは大砲の弾丸というのは無誘導で、ただ真っすぐ飛ぶだけというものであるということです。ピッチャーがボールを投げます。これに対して、バッターはボールを見ながらバットが当たるようにコントロールするわけですが、それと同じことがこの迎撃ミサイルにも行われています。ミサイルに目がありまして、これはシーカーと呼んでいますけれども、この目が弾道ミサイルの像をとらえまして、これに向かって自分自身を制御して直撃に至るということになります。そのシーカーの目で見たのが先ほどお示ししました図四の赤外線画像ということになります。
アメリカにおきまして迎撃実験が何度か行われておりまして、これは一度命中に成功すれば技術的には直撃の可能性を実証したことということになります。つまり、一度成功すればもう一度同じことができるということで、もう既に弾道ミサイルを迎撃することが不可能ということは言えなくなったという状況にあると思います。
これからの課題としましては、運用に堪えるシステムを構築する、つまりシステムとしての信頼性を向上するということが課題となるということになります。表一にはペトリオットPAC3、SM3などの発射試験等の実績をお示ししてあります。
それから次に、全部を落とせないなら高いお金を払っての配備は無用であるという議論もありますが、軍事におきまして攻撃も防御も一〇〇%ということはないというふうに考えております。
これは、攻撃を受けたときにいかに被害を局限できるかとの観点で考える必要があるというふうに思います。そのために掛かるコストはどのぐらい許容できるかということだと思います。配備数、ミサイルの防衛に費やす妥当な費用規模については私が議論すべき内容だと思いませんのでこれ以上お話ししませんけれども、どんなシステムでも一〇〇%ということはないと、その中で現実的な解が求められているというふうに思います。
歴史的視点でもう一度整理してみますと、一九四〇年代に開発された弾道ミサイルV2、その現代版のスカッド、それを落とせるようになったのが一九九〇年代に入ってからです。つまり、弾道ミサイルを撃ち落とすことができるまで五十年掛かりました。防御というのは難しいということを証明していると思います。その難しい防御能力を持つということ、またそれを実証してみせるということは技術力の優位性を示すということだと思っています。
次に、日本の宇宙ロケット技術レベルはどの程度であるかということを見たいと思いますが、宇宙ロケット技術と言いましたけれども、基本的には弾道ミサイルの技術と同等のものだということです。日本は一九五五年にペンシルロケットの発射を行いました。今年でちょうど五十年になります。その後、一九七〇年にラムダロケット、これは固体のロケットですが、これで人工衛星を打ち上げに成功しました。世界で四番目の打ち上げということです。
これは、人工衛星を打ち上げたということは、地球上のどこにでも飛ばせる能力を実証したということになります。日本人のその当時の認識と関係なく、世界から日本に弾道ミサイルの技術ができたと見られたというふうに思います。
それから、液体ロケットのエンジンですけれども、一九七五年にアメリカから技術を導入したNⅠロケットというのを開発しまして人工衛星を打ち上げました。これが今のHⅡAロケットにつながっています。
今、弾道ミサイルとロケット技術を同じと言いましたけれども、人工衛星の打ち上げ能力ができたからといって、すぐに弾道ミサイルというものを造れるということではありません。技術的には同種のものですが、兵器としての要求事項はまた違うものであります。
先ほど来、迎撃する技術の方が打ち上げるより難しいということを申し述べましたが、それはより高い技術力を要求されているということだと思います。その弾道ミサイルを撃ち落とす技術能力を示すことが防衛技術の高さを示すということになると思っています。この迎撃実験による実証は技術の優位性を目に見える形で示すということだと思いますし、それは民間企業の技術、製造基盤に裏打ちされた技術の蓄積によってのみ可能というふうに思っております。
ミサイル防衛によって得られる技術は何かということを考えていきますと、目標を遠くで見付けるセンサーの技術とか目標を撃墜する技術、小さな目標に当てる誘導制御の技術、弾頭を無力化する技術などと、こういうのがあると思いますが、このような小さな目標に高速物体をぶつけてやるという精密誘導の技術。これは、この七月四日にアメリカのNASAがすい星に物体を衝突させました。ディープインパクトということでニュースになっていましたけれども、これは更に高度な精密誘導技術の成果だというふうに思っております。
あと、ミサイル防衛の技術としましては、効率よく運用する指揮統制の技術、短時間で意思を決定するための技術、大規模なシステムをまとめるためのシステム・オブ・システムの技術というものがあります。
これが民間に役に立つのかという疑問もあるわけですが、一つの例としましては、最近はタクシーに乗ってもカーナビを付けている車が多くなりましたけれども、軍事衛星であるGPSの利用が生活の一部になっていると。アメリカがこれを無償で世界じゅうで使うことを許しておりまして、いつの間にか軍事技術が生活の中に浸透しているということになっております。
この弾道ミサイルを迎撃する技術を開発するのにアメリカでも五十年掛かっているわけですけれども、これを日本独自でやるのは難しいと思いますので、やはりアメリカとの共同研究を更に拡大していくべきだというふうに思っております。
日本の構想としましては、二〇〇三年の十二月にBMDシステムの導入を政府が決定しましたので、それで導入するのがペトリオットシステムのPAC3、それから海上配備としましてはイージス艦等に搭載するSM3ミサイルということで、こういう地上配備、海上配備のシステムを導入するということで、この図を図五にお示ししてあります。
この装備に関しましては、日本が単独で開発していくのはなかなか困難だと思いますので、アメリカからの導入が現実的な解であるというふうに思っております。ライセンス生産をやることで日本に技術を導入し、防衛生産の基盤を維持することが効率的な運用になるというふうに思います。
あと、一九九九年から日米のBMD共同研究で四つの構成品の研究試作が開始されまして、これは今お手元の図六のところにお示ししてありますが、こういう日米共同研究に日本の技術者が参加することで最先端技術の開発に参加することができると。これは、我が国の防衛技術基盤の強化に貢献することができるというふうに考えております。
まとめますと、弾道ミサイル防衛には最先端技術が適用されており、それは民間技術への波及効果も期待できるということと、それからこの難しい技術開発に取り組むことで日本の技術立国たる技術の優位性を実証することになると思っています。この技術の優位性を示すことにより抑止が期待できまして、日本の安全保障のための大きな柱の一つになると信ずる次第であります。
御清聴ありがとうございました。