袖井孝子の発言 (少子高齢社会に関する調査会)
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○参考人(袖井孝子君) 袖井でございます。よろしくお願いいたします。
本日は、少子化の要因とその社会経済的なインパクトということですが、私に頼まれましたのは主としてその要因の方というふうに理解しておりまして、特に、なぜ結婚をしない、若者が結婚しないかという辺りのことをお話ししたいと思います。
少子化につきましては、私は幾つか書いたりしゃべったりしているんですが、本当の関心というのはむしろ既婚女性の就業継続と出産行動というところにありまして、未婚者の方は、これは続いてお話しになる山田先生の守備範囲なのでちょっと今遠慮しておりまして、今日お話しするところはちょっと私の思い付き的なところがございまして、ちょっと専門の山田先生に後で訂正していただかなければいけないかなというふうに思っております。
一応レジュメをお配りしてありますので、それに沿ってお話ししたいと思うんですが、この調査会、少子高齢化ということですけれども、やはり今一番問題なのは少子化という出生率の低下だと思います。
既に皆様御存じですけれども、お配りした資料の図の一というのに「日本の出生数の推移」というのがございますが、そのグラフでお分かりのように、第二次大戦後、三回ぐらい出生率の低下ということがあったんですね。
その一つは、第一の低下がベビーブームの直後から五〇年代前半ぐらいまでに起こって、これはもうすごい下がり方で、合計特殊出生率が二分の一になったんですね。でも、このときは日本が経済的に大変で、第二次大戦で本当にダメージを受けまして、そして生活も苦しい、食料もない。食べていかれないということで、夫婦が出産を抑制した。政府としても、保健所を中心にして家族計画を推進したり、あるいは優生保護法を改正して経済条項を入れて中絶をしやすくしたというようなことで物すごい勢いで下がって、一番ピークのときが五〇年代前半なんですけれども、生まれる赤ちゃんと中絶される赤ちゃんとがほぼ同じぐらいというすごいことだったんです。これ、やみ中絶を入れると中絶される赤ちゃんの方が多いんではないかと言われたぐらいだったんですね。ただ、そのころはもう本当に出生率の低下はウエルカムだったんで別に大騒ぎもしなくて、ああ結構ですという感じだったんですね。
その後、ずっと五〇年代半ばから七〇年代半ばまでほぼ合計特殊出生率が二ぐらいで安定していて、非常に安定していたということですね。夫婦に子供二人という、俗に言う標準世帯というのがこの辺で確立したんですけれども、そういういい時代が二十年ぐらい続きまして、七〇年代の後半あるいは末ごろからじりじりと出生率が下がり始めた。このころからちょっと日本経済も低迷期に入ってくるわけなんですが、この七〇年代終わりから八〇年代ぐらいまでは未婚化、晩婚化が原因と言われたんですね。ですから、いずれは結婚するだろうと。この時代は、結婚した夫婦について見ると大体二人産んでいましたので、いずれ結婚するだろうと、今ちょっと遅れているだけだというようなことが言われていて、余りまだ危機感なかったんですね。
ところが、九〇年代に入って、特に騒がれたのが一九八九年の合計特殊出生率が九〇年に発表になって、一・五七と言われて一・五七ショックになったんですが、九〇年代に入って、特に九〇年代後半ぐらいから危機感が高まって、少子高齢化というよりも少子人口減少社会と言われるようになって、このまま行くと日本人口が減ってしまうと言われたんですね。この辺のところの理由は、未婚化、晩婚化ではなくて非婚化という、結婚しない人が増えてきているとか、それから夫婦当たりの出生児数も二を切るようになってきたということで非常に危機感が高まってきて、少子化社会対策基本法なんというのもできたり、それから政府、各省庁挙げて少子化対策に力を入れるということになったわけでございます。
なぜ一番、原因はやはり結婚しない、未婚化、晩婚化あるいは非婚化か分かりませんが、なぜ結婚しないかというのを大きく二つに分けて考えたいと思います。
一つは、主体的あるいは本人側の要因あるいは需要側の要因ということで、一つはやっぱり結婚の必要性とか魅力とかメリットが少なくなってきたということですね。これまでの結婚というのは、男性は身の回りの世話を期待する。いわゆる男性は生活自立ができないということで、お手伝いさん代わり、そういう身の回りのお世話をしてもらわないと生きていかれないということがあったんですけれども、最近では、家庭電化製品もできて、コンビニもあります、二十四時間営業のコンビニもありますし、クリーニングもあるし、家事サービスも普及したということで、身の回りの世話をしてもらわなくても暮らしていけるということになったんですね。
それから、女性について申しますと、これまでは、やはり経済力がなかったので相手に経済力を期待していたんですね。ですから、二十年か三十年ぐらい前ですかね、未婚女性に調査すると、配偶者に何を期待するかというと、やはり経済力とか生活力というのが一番だったんですが、そういうのは、大体経済力が付いてきて、すべてうまくいっているとは言えませんけれども、やはり雇用機会均等法とかいろんなのができまして、経済的自立の可能性が出てきた。ですから、一人でも食べていかれるとか、無理して結婚をする必要もないんではないかということですね。
それから、行動や生き方の自由が失われる。これは国立社会保障・人口問題研究所が五年置きぐらいに行っている独身者の調査で必ず出てくるんですね。これが男女とも一番たくさん占めています。ですから、本当に自由が失われるのか、あるいは自由が失われると思っているのか分かりませんが、これが一番大きな理由として挙げられています。
それから、三番目としては、女性にとっては結婚によって失うものが大きいということで、一つは機会費用ということで、結婚、出産による退職ないし配置転換によって賃金の低下やキャリアの中断が起こってしまうということですね。これは生涯賃金について見ますとかなりの、三千万とか何か、かなり大きな数になってしまうということです。
それから、仕事と家庭の両立が困難で、これはずっと言われていますけれども、なかなか解決しなくて、仕事も家庭もの二重負担になっているということで、仕事と家庭の両立支援ということが厚生労働省、旧厚生省を中心にずっと十年以上も叫ばれてきたけれども、なかなか解決しないです。
それから二番目に、結婚に対する社会的圧力の低下ということで、結婚して家庭を持って一人前ということではなくなって、していなくてもいいんではないかということですね。今、小泉首相ずっとお一人ですけれども、別にだれも変だとは思いませんので、構わないんじゃないのという感じですね。
それから、親や周囲の先輩たちの結婚生活が魅力的ではない。これは若い世代からかなりそういうことが言われております。
それから、親もあえて結婚を勧めないということ。これは自分の結婚がハッピーではないということとか、やっぱり親子の相互依存関係が非常に心地よいということで、山田先生がパラサイトシングルというお言葉を作られましたけれども、親の方も子供にパラサイトしていて非常に心身ともに心地よいという、そういう状態が続いていると思います。
それからもう一つは、これは私が外国なんかへ行ったりして感じたんですが、一人でも困らないのが日本の社会ではないか。欧米はカップル文化なんですね。それで、キリスト教に基づく異性愛を社会的な基礎単位とするというような感じがありまして、どこへ行っても一人だととても居心地が悪いんですよね。例えばレストランとか何か、一人だと非常に悪い席に連れていかれちゃうとか、それから、一人で何か音楽会とかショーなんかに行きにくい。ところが、日本は全然構わない社会で、とても居心地がいいし、むしろ最近のマスメディア、女性誌などは一人でも泊まれる宿とか一人でも困らないバーとか、そういうのを宣伝しているんですね。ですから、こういうのもやはり非婚化を促進しているんじゃないかと思いますが、カップルでなくてもちっとも構わないという、これは日本の特色です。
それから六番目。これは私もちょっと自信がないんですが、性的欲求の低下ないし異常な性欲というふうなことを書きましたけれども、最近の子供、幼児さんの誘拐、殺人というようなそういう事件もありまして、大人の女性と付き合えない男性が増えているのではないかということと、それから、外国の方に日本の少子化現象について話しますと、なぜなのかって聞かれるんですね。若い男性がそういう性的欲求がないのかって聞かれて、さあと言うよりない、しか分からないんですが、非常にこれは不思議だって言われます。多分、その原因として、ストレスとか環境ホルモンとかビデオやゲームの影響とか何か考えられると思いますが、こういうことは本当にちゃんとお金を出して調査研究した方がいいんではないかなと思います。
それから次に、なぜ結婚できないのか、客観的ないし供給側の要因、あるいは環境的な要因ですけれども、生涯未婚を望む人は少ないんですけれども、未婚率は上昇しているということで、これは表の一とか二にありますように、ずっと、いずれ結婚するつもりという人が、減ってはいるけど九割近くあるわけなんで、一生結婚するつもりはないという人は少ないんですよね。それから、表の二辺りに、ある程度の年齢までには結婚するつもりという人がいて、適当な相手が見付かるのを待っているという状態なので、生涯未婚という人は余り、少ないんですね。
その原因として、一つは適齢期人口のアンバランスということですが、これはやはり女性が男性より二、三歳年下ということを考えれば、出生率がどんどん下がっていっていますので、どうしても男の方が人口があぶれる、余るということになるんですが、年齢差にこだわらなければこれは問題がないんですよね。スポーツ選手など年上の奥さんをもらっていますんで、この辺のところは余り問題じゃないと思うんです。
それから二番目は、結婚相手に求める条件のミスマッチ、これがかなり大きいと思います。高学歴女性と学歴の低い男性とが結婚難になっていますが、やはり相手に求めるものが与えられない。高学歴女性はやはり自分と同程度の人を求めるし、学歴の低い男性は優しい気のよく付く奥さんを求めるということで、なかなかうまくいかないということになります。
それから三番目として、恋愛結婚が増加してきて、結婚市場において勝ち残れない人、つまり負け犬が増えてきたということで、これは図の二をごらんいただきますと、ちょっと右肩上がりに三角形になって、これが恋愛結婚、右肩下がりの黒い丸が見合い結婚ですが、大体一九六〇年ごろに逆転しておりまして、今は圧倒的に恋愛結婚なんですね。ですから、恋愛結婚というのは結婚市場における自由競争なわけですから、これに勝ち残れない人ができてきてしまう。だから、むしろ見合い結婚が多かった時代の方がだれかが世話してくれるということで結婚するチャンスがあったんですが、いわゆる強い人が勝ち残っていくという形です。
それから、もう一つ興味深いのは、出会いの場が少なくなっているということで、これは同じ図の二のグラフを見ていただけると分かると思うんですが、一つは、日本では学縁婚といいますか、学校で知り合って結婚するということが非常に少ないんです。アメリカなどはハイスクールの同級生と結婚する、ハイスクールとか大学の同級生と結婚するというのがかなり多いんですね。カーターさんとかニクソンさんなんかもそうでした。ところが日本は、高校は受験競争でクラスメートはライバルですし、大学はサークル活動や学生運動が衰退してきたということで意外に知り合うチャンスがない。かつては、学生運動が盛んだったころは、運動の中で知り合って恋に落ちて結ばれるというケースもあったんですが、今は余りそういうチャンスもないんです。
それからもう一つ、職場結婚が減ってきたということで、日本では職場結婚が非常に多いというのが諸外国との違いで、これも外国の人から見ると不思議で、職場というのはお金を稼ぐところなのに何やっているんだとかいって外国の人に言われるんですが、このグラフごらんになりますと、ずっとこの黒いところで、一番多かったのは一九九〇年から九四年で、三六%あるので一番多かったんですが、それがこのところ減ってきている。つまり、これは不況によって仕事が過密化してきて、そんなのんびり恋を語っている暇がないとか、それから、正規職員をどんどん減らしていますので、非正規の人が増えてきてなかなか出会いのチャンスもない。それから、企業内福利厚生制度が縮小して社員旅行とか運動会なんか減らしているということで出会いの場が少なくなるということで、日本の恋愛結婚の場であった職場結婚というのがなくなってきているということがあります。
それから、五番目としては、仲介役が減ってきて、まあ見合いですね、お見合い結婚をする人が減ってきた。かつてはプロの仲人というのもいましたし、それから近所のおばさんとか親戚のおじさんとかが寄ってたかって結婚したくないような人までさせちゃったということで、大体八〇年代ぐらいまでは日本人の大部分が一度は結婚するという社会だったんですけれども、だんだんそれが少なくなってきている。
それからもう一つは、日本的な経営の終えんに伴う職場の上司のあっせんが減ってきたということで、御存じのように日本は経営家族主義と言われて、本当に経営家族主義とか経営一家主義ということで、その中でかなり結婚もその中に組み込まれていたんですね。ですから、上司の方が自分の娘とかあるいは自分のめいとか親戚の娘をできのいい部下にくっ付けると、そういうようなことがありました。
私の学生のころなども大学の先生の中にもかなりそういう方いらっしゃって、恩師の娘を押し付けられてとかいって非常に大変だというふうな方ありまして、そして、その恩師の方が定年になるとその後ポストをいただくという、金日成さんみたいな社会になっていたんですが、それがなくなって、今はやっぱりノーと言う人が増えてきたようですね、見込みのある弟子に声を掛けても。それから、そういうこともしなくなっちゃったということで、ますます結婚できなくなってきたということです。
最後に、どうしたら良いか。どうしたら良いかというのは、特にその主語を付けなかったんですが、少子化対策としてどうしたらいいかということだと思います。
行政主導による出会いの場の設定というのが、自治体が幾つかやっているんですが、ほとんど効果がないんです。バーベキューパーティーやったり、あご足付きでスキー旅行やったりしても、女性たちが来て、ちゃっかり遊んで、はい、さようならというのが多いんで、これはほとんど効果ない。ですから、基本的には結婚や家族に対する考え方とかあるいは社会全体を変えないと、この今の非婚化現象、解消しないんじゃないかと思います。
一つは、結婚とか家族の在り方をもうちょっとフレキシブルに考えたらいいんじゃないかということで、今は日本では法律婚重視ですけれども、それをもうちょっとフリーに考えて、法律婚であろうと事実婚であろうと同等の権利を保障するということ、あるいは夫婦別姓とか血縁主義のこだわりを捨てるということで、もうちょっとフレキシブルに考えていいんじゃないか。北欧などでは生まれる赤ちゃんの半分強が未婚の母から生まれておりますし、こういうことをもう少しフレキシブルに考えれば、今、十代の中絶かなり多いんですが、中絶しなくて済むんではないかと思います。
日本の場合、江戸末期とか明治時代は離婚も再婚も盛んでしたし、未婚の母や養子も多かったということで、法律婚にこだわって入籍の時期が早まったのは高度経済成長期以降くらいなんですね。これは別に昔の日本人が非常に今の北欧のようにリベラルだったというわけではなくて、そういうことはほとんど関係なかったということなんですね。ですから、未婚であろうと非婚であろうと、生活には余りかかわりがないということとか、それから子供が、乳幼児死亡率が高かったので子供が育つのを見届けてから、子供ですね、出生届を出すなんということだったわけなんですが、もう少しこれを自由に考えれば出生率は少しは上がるのかなと思います。
それから、二と三はほとんど同じですけれども、安心して暮らせる社会あるいは将来に不安のない社会を作るということで、私は日本の若者が結婚しないのは先が見えないからじゃないかと思うんですね。
内閣府などがやっている青少年の国際比較調査見ますと、日本の若者の将来不安、非常に高いんですよね。諸外国に比べて非常に高い。その理由は将来に対して夢が持てないからで、詳しく聞くと、社会保障制度ですね。特に年金の不安感、つまり自分たちが年取ったときにもらえない、年金もらえないんじゃないかというような不安とか、それから、どうせ生きていても将来いいことがないんではないか、それなら今を楽しもうとか、かなりせつな的になっているんですね。それから、今日の新聞などを見ますと、社会保障なんかでもう本当に、若い世代と高齢というか六十以上とでもう愕然とするぐらいの格差がある。こういう現実を突き付けられると、とてももう結婚して子供を産みたいなんて思わないんじゃないかと思うんです。
それからもう一つは、敗者復活を可能にするような社会になったらいいと思うんですね。つまり、日本の場合、いったん失敗するとなかなか戻れない。戻るというか、スタートするときに一段低いところから出なくちゃいけないんですね。ですから、仕事を失っても離婚してもやり直しの利くような社会、あるいは脱落者を差別しないような社会ですね、あるいは性差別、年齢差別のない社会ということを書きましたけれども、特に女性なんかの場合はいったん仕事を辞めると元のキャリアトラックに戻れないということがあって、それが結婚しないというところにもつながっているような気がしますので、もう少しその辺ができる、例えばアメリカなどはかなりそれができるんですね。結構子育て中家庭に入る人が多いんですけれども、でもまた戻れるということがあるので、この辺が変われば結婚も増えるのかなと思うんです。
つまるところ言えば、こういう社会を作っていただくのは政治あるいは政治家の責任ではないかというふうに思っておりますので、皆様方に是非頑張っていただきたい。もちろん国民の責務でもありますけれども、やはりこのシステムを変えていくのは政治の力だと思うんですね。ですから、やはりどういう社会を構築していくかということを明確なビジョンを持っていただいて、それに向かって大胆に、こんなことを言っちゃいけないけど、ちまちまとした構造改革ではなくてベーシックな構造改革を私は心から望んでおります。
以上でございます。