山田昌弘の発言 (少子高齢社会に関する調査会)

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○参考人(山田昌弘君) 東京学芸大学の山田昌弘でございます。今日はお呼びいただきまして、どうもありがとうございます。
 私は、袖井先生の、同じく家族社会学というのをやっておりまして、ただ私は経済的な面から家族を見てみたい、つまりお金の面から家族を見てみるとどうなるかというのをずっと考えて調査してきてまいりました。最近、私の本は社会学のコーナーというよりも経済本のコーナーに置かれることが多くなってきたのですが、社会学をベースにしております。
 まず、袖井先生の続きということにもなるんですが、特に若者調査を私はやっておりますので、今の若者の状況というものを皆様に知っていただきたいというのが一つの思いです。
 昔は若者代表として発言していたんですけれども、もう私も四十七歳になったんで、もう若者代表とは、先生、勝ち組の方、逃げ切り勝ち組の方ですよなんて言われる世代なんですけれども、若者はどう感じているかというのをなるべく代弁してやっていきたいと思います。
 まず、レジュメに従って進めさせていただきますが、まず子供を産み育てる経済的条件というのを考えてみますと、袖井先生の図にもありましたけれども、結婚したいとか子供を持ちたいという欲求は決して弱まっていない。これは私が若者調査なりした実感でもありますし、統計的にも、先ほど見たように、未婚者の九割ぐらいは結婚したい、さらに結婚しなくても子供を持ちたいと思っている人は結構、結構というか更にいるということです。だから、ほとんどの人は結婚して子供を持ちたいという欲求は弱まっていないと考えていいと思います。
 よく個人化とか言いますけれども、一人でずっとやっていきたいと思っている人は今の若者でも少なくて、むしろ信頼できる関係性というのは、この個人化している世の中でますます大切になっている。だけれども持てない。私、先日、ペットを家族とみなして生活する人々の調査の本を出したんですけれども、余り売れなかったんですけれども、いや、もう家族よりもペットの方が信頼できますよと、裏切らないしとか、子供や奥さんは帰ってきても、あなたお帰りと言うだけだけれども、ペットの犬の何々は玄関を開けた途端に私のところにばっと抱き付いてきてくれるとか、そういうようなことを言っていますので、子供の代わりにペットがなっちゃまずいんですけれども、実際そういう欲求が強くなっているということは実感できます。
 しかし、お金と相手がいなければ子供は生まれてこないわけです。つまり、子供が欲しくても、将来的に育てる、育てていくお金がなければ産まないし産めないし産みたくないと思っているわけです。つまり、私が受けてきた以上のお金を掛けられる経済的条件を整えなければ、産んだら子供がかわいそうだというふうに言う若者にも何人も出会いました。つまり、子供を愛するから産まない、産めない、こんな経済条件で育てたらかわいそうだから産めないという人も出てきているわけです。
 さらに、相手がいなければ生まれないわけで、先ほど袖井先生が事実婚などが増えればというふうにおっしゃいましたけれども、事実婚したくても相手がいなければ同棲も事実婚もできないわけです。国立社会保障・人口問題研究所の調査では、やはりここ十五年間の間で恋人も異性の友人もいない若者がどんどん増えているんですね。つまり、結婚しなくなったから恋人がいる人が増えたんだろうと考えるのは、実はそうではなかった。実は、配偶者もいなければ、異性の友人も、欲しくてもですよ、欲しくてもできない人が多くなってきているというのがあります。
 結婚・出産の条件というのを考えてみますと、結婚・出産後に期待する生活水準、いや、これぐらいの生活ができれば子供を産んでみたいなという生活水準と、じゃ自分たちでどれだけ稼げるかなと思う将来見通しを比べてみて、ああこれぐらい稼げるから結婚して子供が産めるんだろうというふうに思えれば産むわけです。
 ポイントは、結婚後に期待する生活水準は、未婚者がどれだけの生活水準をしているかに連動しているわけです。つまり、戦前、物が何もない時代は、結婚しても何もなくても全然構わないわけですけれども、今の若者は、後で私がパラサイトシングルと言うように、もう車も持っている、年に何回も海外旅行に行っているというような状態が当たり前になってしまいましたので、結婚して生活水準が下がるというのは、それは耐え難い選択になるわけです。そして、その反面、カップルが稼ぎ出せる将来見通しというものが、今度は若者が将来どれぐらい収入を稼げるかというところに依存するわけです。
 そういう観点から戦後の出生率の変化というものを見てみますと、高度成長期は大体ほとんどの人が結婚して、子供の数も二・二人と安定していた。それは、もちろん結婚に期待する生活水準も上昇しましたが、それと同時に男性の収入も増大していたから、その期待する水準以上に生活ができるから子供が産めていたわけです。
 しかし、オイルショック後、出生率が低下します。それは、結婚に期待する生活水準は逆にどんどん上昇するんだけれども、男性の収入の伸びが鈍化している。そのために未婚化、晩婚化で結婚を先送りするという人が増えたので出生率が低下した。そしてさらに、一九九〇年代後半には、結婚に期待する生活水準は変化がなくても、将来の所得見通しというものがどんどん不安定化している。そうすると、ますます出生率の低下は加速するということを私は思っています。つまり、高度成長期というのは、夫は仕事、妻は家事ですね。妻は家事で豊かな生活を築くというのが若者の目標であり、実際にそれは実現していったわけです。それは、結婚前の生活が豊かでなかったというのが一つの条件です。もう一つの条件は、ほとんどすべての若年男性の収入が上がり続けることが期待できたというのが第二の条件です。
 しかし、安定成長期に入ると、結婚の先送り、親に基本的な生活条件を依存してリッチに生活を楽しむ未婚者というものが現れてきました。親も豊かになったので、子供に豊かさを享受させようと思うわけです。そうすると、結婚前の生活、結婚する前の生活というのが相当豊かになっていますので、結婚して豊かになるというような夢を見にくくなったわけです。
 下に一九七三年と九七年の暮らしに対する満足感の年齢別グラフを挙げておきましたけれども、七三年は、若いころは生活に対する満足度が少なくて年を取るに従って満足度が多くなる。こういう状況だと、若者は結婚して子供を産んで豊かになっていこうという期待を持って結婚できるわけです。しかし、九七年は未婚者が多くなりましたので、若い人が一番満足をしていて、子育て期の四十歳、四十代の人が、特に四十代男性、私の世代ですね、私の世代が一番不満が高くなっているというような状況が出てきているわけです。それは、結婚に夢を抱けといっても、結婚して貧乏になるくらいだったらしばらく待ってみようと思う人が増えるのは、それは当然の話でございます、いつかは結婚するにしろということですね。
 第二の条件として、男性の収入の伸びが鈍化してきた、つまり将来豊かな生活ができるという見通しが徐々に鈍ってきたわけです。
 しかし、事態はそれだけでは済まず、やはり一九九〇年代後半からやはり統計的に二つの変化が出てきました。これは後でも述べます、袖井先生も述べましたけれども、一つは、今までは結婚したら二人の子供は産んでいたわけです、九〇年代前半ぐらいまでは。しかし、近年の厚生省の、厚生労働、社会保障・人口問題研究所の分析だと、九〇年後半から一人っ子が増え出してきた。別に戦後一人っ子が増え始めたわけではなくて、一九九〇年代後半から夫婦の間で持つ子供の数が減り始めた。
 第二点は、予定子供数が減り始めた。これも私、実は大きな変化だと思っています。以前は希望子供数と予定子供数、予定子供数、大体結婚したら二・何人産むというのは変わらなかったんですけれども、ここ五年の間に予定子供数が、何人予定するつもりかという子供数が減少傾向にある。これは何かやはり大きな変化があるというふうに私は考えたわけです。つまり、若者が稼ぎ出せる将来の収入の見通しが低下したということが一番大きい。
 それにはフリーター化とかがかかわってくるわけですけれども、これは私が厚生労働省の助成で東京と青森の調査を行った、左側の図はそうなんですけれども、将来日本社会は経済どうなるか。今以上に豊かになるという人は四%しかいないわけです。別に私がそう言ったわけではなくて、若者の四%しかいない。同じような豊かさが三一%、いや今より豊かじゃなくなっているというのが六四・五%いるわけです。じゃ、あなた自身はどうなるかというのがその一番下の図ですけれども、今以上に豊かになるという人も一四・二%いますけれども、今より豊かでなくなっているという人は、若者は四〇%しかいないわけです。こういう状況で安心して子供を経済的に育てていけるかというと、やはりそれは無理なわけです。
 そうすると、未婚化が更に進展してきます。つまり、酒井順子さんが、「負け犬の遠吠え」というのがありましたけれども、私が、パラサイトシングルの高齢化という現象が起きている。つまり、九〇年ごろまではいつかは結婚するんだけれどもと思っていたのが、未婚男性は、待っていてもおれの収入で嫁さんに来てくれる人がいない、なかなか収入が上がらない。未婚女性の方は、期待どおりの年収を稼ぐ未婚男性が現れない。
 それは現れないわけで、その一番下の図を見てください。これは青森と東京で先ほどの同じ調査なんですけれども、未婚女性はどれぐらいの収入を男性に期待するかというものと、実際に二十五歳から三十四歳までに未婚男性がどれぐらいの収入を稼いでいるかというものの比較の表です。青森では、何と未婚男性の四七・九%が年収二百万以下、二百万から四百万までが四九・六。つまり、逆に四百万以上稼ぐ青森の未婚男性は私の調査ですと二・六%、五十人に一人しかいないわけです。しかし、未婚女性の期待は、こだわらないという人も三〇%くらいいますけれども、四百万以上なきゃ嫌、六百万以上なきゃ嫌という人はそれぞれ三九・八、一三・六。つまり、まあざっくり言いますと、青森だと四百万以上の男性じゃなきゃ結婚をしないという人が二人に一人なのに、それを稼ぐ未婚男性は五十人に一人しかいないということですね。これはもう宝くじを当てるぐらいの確率でしか出会わないわけです。でも、いつかそういう人が現れるのかもしれないと思いながら、待ちながら三十、四十になってしまっているというのが負け犬の実は実情なわけです。
 それは東京でも、東京ではもちろん未婚男性の収入も増えますけれども、それ以上に未婚女性の期待も高まりますので、事態は余り変わっていないということです。
 先ほど袖井先生が、高学歴の女性と学歴が低い男性が特に三十代になると未婚者が多くなってくると言いましたけれども、私、学歴というよりも、やはり収入が安定してない男性が、未婚者は少ない。いや、若者の収入こんな少なくないと思っていらっしゃる先生いると思いますけれども、収入の高い男性はもう既に結婚しちゃっているわけですよ。結婚しちゃっているから、未婚男性の年収は、低い男性が残っているわけなんですね。
 このままだとなかなか、ミスマッチが起きているわけですから、私は、あるところというか専業主夫を増やせばここら辺は解消できるのかな、つまり高学歴の女性がフリーターの男性と結婚するというのを逆に増やさなければ三十代の結婚というのは増えないというのは、これはデータを見れば、事実を見れば明らかでございます。
 次には、結婚している夫婦の産み控えで、先ほど言ったように既婚女性出生率の低下、予定子供数の低下があるわけですが、これはどういう要因かなというのを同じデータを使って検証したんですが、これは今度は既婚者で調べたんですけれども、やっぱり今以上に豊かになると考えている人は今後産もうとする子供の数が青森も東京も増える。しかし、今よりも豊かでなくなっていると思う結婚している人は今後産もうとする子供の数が減るというのは状況があるわけです。
 つまり、今後、ではどういう問題が予想されるかといいますと、まず、少子化と経済停滞のスパイラルが続くのではないか。経済的縮小、若者の雇用が悪化、若者の将来見通しが悪化、結婚、出産先送り、経済的縮小というマイナスのスパイラルが出てくるのは非常に懸念しています。
 第二番目には、パラサイトシングルの不良債権化という問題が起きています。
 私のたまたま「希望格差社会」という本が結構支持をいただいて売れているんですが、なぜ売れているのかというと、自分は取りあえず豊かだけれども、自分の子供がフリーターやニートやパラサイトシングルになってしまったらどうしようと思う中高年男性にどうも売れてるらしいということが言われていました。つまりそれは、中高年の人本人はいいかもしれないけれども、やっぱり自分の子供がどうなってしまうかというのは心配です。
 実際にそういうケースが現れてきまして、いつか結婚できると思って親にパラサイトしている不安定な雇用の女性、親が亡くなったとき年金にパラサイトできなくなると生活手段がなくなるわけです。おととしに長野県で、親が亡くなったんだけれども、亡くなってないことに、届けを出さずに親の年金で生活をしていたという事件が発覚しました。実は、今後こういう問題がどんどん起きてくると思います。
 結婚相手が見付からない不安定雇用の男性というものも出てくると思います。企業社会が悪いといいますけれども、結局企業で安定した雇用の下にいるというのは精神的な安定をもたらしていました。つまり、職場に仲間がいるということがいろいろな問題行動を起こすことを抑制しているわけですけれども、不安定雇用が増えてきますと、職場にも仲間はいない、家族もいないとなると、社会的孤立が生じてしまうわけです。そうしていきますと、ある人はニートになったり引きこもったり、ある人は問題行動を起こしたりするということが増えてくるわけです。
 さらに、これはこの次の松尾先生のところに少しつながることですけれども、日本はいわゆるできちゃった結婚は約十五万組です。もう結婚が今大体七十万組強ぐらいですので、五組に一組は子供ができたという理由で結婚をしているカップルなわけです。そこでは経済的に不安定な層がかなり含まれています、これ。
 私、毎日新聞の人口調査会で実際にできちゃった結婚をした人とそうじゃない人の比較調査をしましたら、やはりできちゃった結婚をした人は夫の収入が低いというようなデータが出てました。そうすると、私、東京都の児童福祉審議会の委員をやって虐待家庭の審議をしているんですけれども、やはり若くしてできちゃった結婚をして夫が失業しちゃってという中で子供の虐待が起きている。これはもちろん印象ですけれども。つまり、もう将来、生活してても生活の見通しがない、子供は邪魔だとかいうふうなことが起きているんだと思います。
 ただもちろん、韓国で今出生率が強力に低下、すごく低下しているのは、韓国ではできちゃった結婚はない、ほとんどないと言われているので、逆に出生率を押し上げているという側面もあるんですけれども、不安定な中で出生率を押し上げるのもまた問題かと思います。
 ちょっと、もう一分ぐらいしかなくなりましたので、何ができるのかということで、昔に戻ることはできない。つまり、男は仕事、女性は家事で豊かな生活を目指すというのはもう無理なんですね。それは、子育てに期待する生活水準が高く、それが男の収入では維持できないということは明白なわけです。
 じゃ、すべての男性に年功序列賃金、終身雇用の復活を図るのはもう今の経済情勢で無理なわけです。もちろん、となると、もう共働きで将来の生活の見通しを立てるという方策は基本的には正しいんですけれども、そもそも女性の雇用も二極化していまして、お金を稼ぐ女性もいればフリーター女性も大量にいるわけです。つまり、キャリア、共働きだとそれは豊かに見通しを持って生活できますが、そうでなければやはり不安定なまま留め置かれるわけです。
 逆に、保育所や育児休業というのは安定雇用の女性のみに当てはまりますが、ここまで雇用が不安定した中で育児休業といったって、それは正社員女性の特権になりつつあるわけです。だから、まず就職をさせた後に育児休業なり保育所の整備というのを両方進めなきゃいけないという状況にあるわけです。
 だから問題は、若者の、特に不安定雇用の若者の将来の生活の見通しを立てられるようにする。准安定化するとか、資金給付、貸与、逆年金、出産一時金、マイナスの所得税といったような、親保険といったようなものが必要になっているというのは、少子化対策のために必要だと同時に、できちゃった結婚等不安定な中で子供を育てざるを得ない人、特に私、最近離婚の研究をやっているんですけれども、最近リストラ離婚が増えているんですね。つまり、男性がリストラされて失業したんで子供を連れて親の実家に帰ってくる。私が調査した中では、引退していた父親が娘と孫のために再雇用されて働き出したという例まであるんですけれども、離婚が増加というのもそういう側面が、まだ男性が収入を支えるという意識がなかなか離れないという側面もあるということはあると思います。
 あとは袖井先生の言っていることと同じ、ベーシックな改革というのがそうだと思います。私がガダルカナルと言っても御存じの方はもう少ないと思いますが、私、戦史オタクなので。つまり、戦力を逐次投入していったんでは、まあ負けてしまうと言ったらいいでしょうかね、別に私、戦争を肯定しているわけではありませんですが、二百三高地とかガダルカナルみたいにちまちまと戦力を投入していったんでは、それは効果はなく吸収されていってしまうと、一気に対策を進めていかなくてはいけないと思っております。
 ちょっと長くなりましたが、ここで失礼さしていただきます。

発言情報

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発言者: 山田昌弘

speaker_id: 27219

日付: 2005-02-16

院: 参議院

会議名: 少子高齢社会に関する調査会